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「よし!これでいいだろう」
ようやく自身がデザインしたワンピースが出来上がり、サイトに掲載し終えたところである。今回は部屋着のイメージで男女ともにストンと上から被って着用するタイプのものを作った。肌触りのよい生地を選び、ゆったりとした着心地になるようデザインされている。襟と色に関してはTシャツの時と同様で、もちろん紫の音符の刺繍も入っている。
ここしばらくはこの仕事に集中するため買い物付添の受付けはしていなかった。
そのせいか昨日受付を再開させたばかりだというのにすでに予約が埋まり始めていた。こういうのをうれしい悲鳴と言うのだろうか?そんなことを思いながら腹が減ったのでキッチンへと足を向けた。
昨夜の残りものを全部皿に盛り合わせ、レンジの中へ。
と、同時に玄関のドアを叩く音が聞こえてきた。
「は~い!今行きます!」
俺はレンチンの前に玄関へと向かい土間に下りてドアをゆっくりスライドさせた。すると目の前には日に焼けた懐かしい顔があり、次の瞬間にはこちらに飛びかかってきた。
「シオン!久しぶり~!お前本当に王都にいたんだな⁉」
そう叫んだのは紛れもなく三年ぶりに会う従兄弟であった。
「サントス!なんでここに?」
俺は驚きのあまりその思いが素直に口から出ていた。
「そりゃ~久々に帰国してお前に会いにいったらおばさんに王都で暮らしているって聞いたから来たに決まってるだろう?」
どうやら海外から一時帰国している従兄弟が毎度のごとく俺に土産を届けてくれようとしていたらしい。
「もしかしてわざわざここにお土産を持ってきてくれたのか?」
「そうだ。で、ちょっと聞きたいことがある。お前の部屋の隣が俺からの土産置き場になっていたがあれは一体どういうことなんだ?」
まずい‥‥この従兄弟は仕事柄、ほぼ海外にいてあまり帰ってこないのであるが、たまに一時帰国する際には必ず俺に土産を買ってくる。ただ俺自身がそれらを使うことがないためまとめて隣の部屋に置いてある状態なのだ。
「え~っと、それは生ものではないし、腐りはしないので大事にとってあるんだ。王都には持ってきていないが決して忘れたわけじゃない‥‥」
そう告げた俺に「大事にとっておいてくれてありがとな!」と言いわしゃわしゃと頭を撫でまわした。
「そうだな、それじゃあそろそろ品数も揃った頃だろうし、ここで全部売ってお前の稼ぎにするっているのはどうだ?」
そして続けてそんなことを言い出した。
「は⁉頂きものを売るってそんなことできるわけが‥‥‥」
「ある!転売は悪ではないぞ?未使用品のリサイクルショップってことだ」
俺の言葉を遮った彼は実のところ土産を買うという行為自体が楽しく、趣味のようなものだから毎回買ってくるだけなので、俺が従兄弟に対して罪悪感を抱くことは見当違いなのだと説得されてしまった。そして元々誰かに譲られる前提であったことも明かし、自分のセンスは悪くないはずなので絶対に売れるだろうと胸を張った。
まあ確かに海外のキッチン用品や装飾品など多種多様な品が揃っている。
俺があまりそういうものに興味がないだけで売れば欲しいと思う人はたくさんいるような気もした。それに本人がそうしろと言ってくれているのだからこれは検討すべきであろう。
「うん‥‥確かによいものばかりだし、あんな場所でただ置いておかれる子たちがずっと不憫だったしそれがいいかも?」
「ふふふ‥‥お前にとっては人も動物も植物も物も皆同じ。あの子とかこの子とかそういう扱いをするのは昔から変わっていない。だからこそ、彼らもあそこにじっとしてただその時を待っていたんだと思うぞ」
彼はそう言って俺が本気で転売屋をオープンさせるのなら力添えをすると約束した。俺は少し考えてから返事をすると答え、今から何か食いに出ようと誘ってきた彼を連れてラーメン屋へと向かった。
「もしかして噂の彼女のラーメン屋か?」
歩いている途中で彼はそんなことを口にした。
「もしかしなくても彼女はラーメン屋ではない」
「‥‥お前、そんなことはわかってるんだ。今日はバイトとしてラーメン屋にいるのか?って話に決まってるだろう?」
「残念ながら今日は入っていない。だが夕方過ぎに家に来てくれる可能性はある」
従兄弟は相変わらずの俺との会話を年月が経つとマジな突っ込みを入れたくなるものだなと面白がっていた。さらには実家の母からいろいろと俺の最新情報は仕入れてきているらしく、何を話しても特に驚きはしなかった。
俺たちは運よくあまり混雑していなかった店内でそれほど待たずにラーメンを堪能することができた。帰国してすぐにラーメンは食べたというラーメン好きな彼もここのラーメンなら毎日でも食べたいと大絶賛のうまさであった。そして何を思ったのか、俺の顔をじっと見つめながら「まさかこのラーメンを毎日食べられる距離を条件に家探ししたわけじゃないよな?」と尋ねてきた。
「そんなわけは多少あるが、とにかく家の外観に一目ぼれして内覧で土間を見て絶対にここに住むって決めた」
「なんだ?やっぱりラーメンも少なからず理由になっていたのか?まあ確かに今では田舎でもあんな昔の面影が残る家はそう残っていないのに、王都でいまだ健在とは驚くより感心してしまうな」
俺は割と昔から本気で願えば何でも叶うものだと信じていたが、この家を見つけ、貸し物件だと知った時にはドリームズカムトゥルーと密かに呟いたことを思い出した。
「あの家に住めると決まった時は本当にうれしくて思わずやあ!トビー!これからよろしくな!って呼びかけてしまったんだがなんか嫌がられているような気がしてそれ以来名前は呼んでいない」
普通ならこんなことを言うやつは頭がおかしいと大体馬鹿にされるだろう。
だが恵まれている俺の周囲にそういうやつはいない。この従兄弟からももちろん馬鹿にされたことは一度もない。
「そうか。トビーだと男の名前だから女の子の名前で呼んでみたらどうだ?例えばトリー?なんてどうだろうか?」
俺の従兄弟は天才ではないだろうか?
トリー!なんて良い響き!
俺は急いで彼を連れて家に戻ると「トリー!ただいま!」と呼びかけてみた。
お⁉嫌がるような感じはしない。むしろ喜んでいる気さえする。
しかもなぜか従兄弟までが満足気である。
今日からこの家はトリーになった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
続きは来週投稿予定です。




