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そしてしばらく五人で過ごした後、彼女ら三人は帰宅することになった。
「私たちはこれからバレンシア伯爵邸にお邪魔するの。なんと!初のお泊り女子会が開催されます!」
そんなミクの宣言に、メルとモモは拍手をしながら頷いた。
聞けば、どうせ今日は遅くなるのでそれならばといっそ翌日も休みにして女子会をしようと三人で企て準備も万端だそうである。
到着したタクシーに乗り込む三人を店の前で見送り、俺とリュートは店の中へと戻った。
「何がここからは二人っきりでごゆっくりだよ‥‥‥」
三人からそう言われてちょっと不貞腐れたように呟いたリュートに、「まあお前はミクと二人っきりの方がよかったよな?」と返すと思い切り変な顔をされ、「お前がそんなことを言うようになるなんて‥‥」となぜか少し残念そうにしているのが解せなかった。
「なんか知らんがなぜそんなに残念がられているんだ俺は?」
だからそう尋ねたのに、「何でもないからいつも通り気にすんな」とだけ返され、結局訳がわからぬまま別の話題へと移っていった。
「そんなことより!今日はお前のためにいいものを持ってきたぞ!」
そう言ってリュートは鞄から何かを取り出しテーブルの上に置いた。
「これは最近発売された俺たちの写真集だ。あとこっちはライブ映像。シオンのことだから、たとえ親友の俺でもまったく興味のないテレビやネット動画は見ないだろう?だからこうやってわざわざ持ってきたんだ。実は今日はそれらを見てもらって率直なシオンの意見とか感想を聞きたいと思って」
リュートは話しながらも手際よく作業を行い、いつでも見られるようにパソコンをセットした。そしてまずは写真集を見て欲しいと俺の目の前にそれをスライドさせた。だから俺は素直にそれを手に取り丁寧にページを捲った。
最初のページは七人全員がまとまってそれぞれポーズをとっており、カメラの方を見ている状態で撮られているものだった。
「⁉‥‥これは雑誌とかでよく見られる写真だな。でもまさかその中にリュートがいるとなると妙な感じがする‥‥」
「ん?妙って?それは変だってこと?」
「いや、そうじゃない。リュートは俺にとっては家族でもあり、大事な友人で特別な存在。それは言い換えれば身近であるということで、こういう俺がまったく興味のない世界に映るリュートというのが不思議で仕方がないってことだ」
「なるほど?‥‥」
「それからなんか違和感がすごいな‥‥これはあくまで俺の感覚だが、取っ散らかってるというか、あまりにも馴染まなさ過ぎてちょっと気持ちが‥‥‥」
「悪い!だろう?」
俺が皆まで言うことはなかった言葉をリュートが引き継いだ。
しかもなぜだかとても嬉しそうで満足気な表情をしている。
「実はさ、俺もず~っと同じことを思っていたんだ。だけど不思議なことに、俺らの業界ではこういうのがおしゃれとかかっこいいってことになっているんだ。信じられないことにもはや常識レベル。マジで狂ってる‥‥」
「それは俺とリュートの感覚が他の人たちとは違うというだけの話だろう?と、言いたいところだが、リュートの話だとリュート以外の皆が右に倣え状態になっているようだからそれは違うな。まあ単によくある戦略ってやつだろう」
リュートが身を置く業界では誰かの意図により流行りが捏造されているようだ。個人の感性や感覚は別にして、決して逆らえない、抗えない他人の都合の良いように与えられる情報に操作されているのだろう。それは情弱故の思い込みで自ら乗っかっているものと、そういう世界でうまくやっていくために完全にビジネスと個を分け、ビジネスとして演じているだけのものがいるのではないかと、直感でそう思った。
「シオン!次はこの映像を見てくれ!」
彼はそう言い準備してあったものを操作して画面上に映像を流し始めた。
それはリュートらではない別の知らない男性グループがライブで歌い踊る映像だった。だが、よく見てみれば、そこに映る七人全員の顔が同じ、というかよく似ていてまったく判別できなかった。髪色や身に着けているもので唯一判別できそうではあるものの、先ほどの写真を見た時同様の俺には馴染まなさすぎる感覚のために長く視聴することは避けたかった。
「え~っと‥‥‥彼らのことはぜんぜん知らないが、興味もないしこれ以上は見たくない。でもなんでリュートたちのライブ映像じゃないんだ?」
「シオン、彼らは隣国のスターとされるボーイズグループで、この国を筆頭に世界で大人気と言われている。彼らを見て気づかなかったか?さっきの俺らの写真とよく似ているだろう?あの俺らにはまったく馴染まない異様な化粧と服のセンス。あれが隣国風という形容詞がつけられおしゃれでかっこいいっていうことにされているんだ」
「そうか‥‥でもそれをそう思い込まされているにしても結局は本人がそうしていることだからどうでもいいんじゃないか?俺は他人のことはどうでもいいし、リュートも嫌ならはっきり拒否して自分の好きなようにすればいい。だが今のリュートを見ていれば、それが難しいのだということもわかる。正直に言ってしまえば、リュートのいる業界はすべてではないにしろ、ほぼその中の権力者たちの意図で動かざるを得ない状態になっている檻のイメージがある。だからもしもそれをどうにかできるなにかいいアドバイスができるのならしたいとも思うが、自分の心を他人が変えられないようにその業界の状態を変えることは不可能に近い。リュート自身もとっくに理解していると思うが、もう染まるか耐えるか、その檻から逃げ出す以外の選択肢はないだろう。ただこれだけは言っておく。リュートが決めたことはなんであれ、俺はずっといつまでも応援し続ける。だからお前自身を信じて決して頑張ることなくただ楽しめ!」
「出た!シオンの激励頑張るな!まあそうだな、結局はすべて俺次第か‥‥俺は今の業界に失望しながらもどこかで期待していたのかもしれない‥‥確かに他人への期待は無駄だったな。すっかり忘れていた。でもこれでようやく決心がついた。自分なりに区切りをつけて檻からの脱出を目指すことにする!」
それから程なく晴れ晴れとした表情のリュートと二人、オーナー以外はもう誰もいなくなっていた店を後にした。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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