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 俺たちは踵を返し、再び目的の店へと足を向けた。

 そして数軒の店を見た後、外に出てみるとすでに日が落ちかけていた。


 「そろそろ時間だね?今日は一日お付き合いいただきましてありがとうございました!」


 彼女はそう言って頭を下げた。


 「いえ、こちらこそありがとうございました。次回からはプライベートのアドレスへのご連絡をお待ちしております」

  

 俺も頭を下げながらそう返すと、「モモが嫌な気持ちになったら私が悲しいのでそれは遠慮させてもらいます」とはっきり断られてしまった。


 「で、これからなんだけどさ、どうしても食べてみたいものがあって、最後それだけ付き合ってもらえないかな?」


 そう言い目の前でお願いポーズをしているのはたった今プライベートでの付き合いを断った張本人である。俺はもしかしてこの時間外の飲食についてはまだビジネス扱いになるのだろうか?などと悩みながらもまあよいだろうと流されるまま彼女の後をついていった。


 そしてしばらく歩いて行った先に見えてきたのは大衆居酒屋だった。

 何度見返しても間違いなく、これといって代わり映えのしないどこにでもあるような大衆居酒屋である。俺が横目で彼女を見ると、いたずらな表情でまあいいからいいからと、おれの背を押しながら店の中へと入っていった。


 すると居酒屋特有の酒と飯が混ざったような匂いが俺たちを包囲した。

 店員に声をかけられたメルは「予約しているフェンダルトンです」と告げた。

 それは彼女の家名である。そしてそれを聞いた店員はすぐさま先導して店の奥へと案内し始めた。


 「メル、お前予約までして、これは完全に計画のうちではないのか?」


 だから俺は案内されながらもそう問いかけたのだ。

 だが返事を聞く前に個室の前に到着し、彼女は振り返って意味ありげな表情を見せたかと思うと口元を緩ませながら扉に手をかけゆっくりと開いた。するとまだ中の様子はよく見えないものの、人の気配を感じた。


 次の瞬間、「メル~!久しぶり~!」という叫び声がして、目の前のメルに誰かが抱き着いた。聞いたような声がしたと思っていたら、そのコアラこそ俺のよく知るミクだった。そして目の前で繰り広げられる友情劇場を眺めていると、「シオン!」という愛しい声とともにモモがその後方から顔を覗かせた。


 俺はいまだこのよくわからない状況に戸惑っていたが、モモに腕を取られ中へと入っていくと、八人が座れるようになっているテーブル席に五人分の会食のセッティングがされていることに気が付いた。


 「「「サプラ~イズ!!!」」」


 小さく「せ~の」という掛け声の後、メル、ミク、モモによる三重奏サプライズが奏でられた。続けて一番会いたいであろうリュートは遅れてくることになっていると少し申し訳なさそうに説明された。どうやらメルが中心となり、皆と相談しながら今日の計画を立て実行したようである。


 「そうか‥‥俺だけが知らされていなかったんだな‥‥でも実はリュートとは王都への引っ越しの直前に会っている。だから今日は卒業以来ではないが、また会えるのはうれしい。それに皆で集まるのは卒業以来だしうれしいサプライズだ」


 そしてこのサプライズは俺の王都への引っ越し祝いでもあると知らされ感激していたが、皆それぞれ忙しく、全員で祝うことは難しいと考えたメルが、最初は個人的に今日の予定の中でランチでもおごり、祝うつもりでいたと話した。だがそれを知ったミクとモモが夕刻から合流できるように半日休暇を取り、さらにはリュートが王都ならだいぶ遅くなるとは思うが這ってでも合流してみせると鼻息を荒くし、その彼の紹介で翌朝まで営業しているというこの店の予約をとったとのことだった。


 十八になり飲めるようになったうまい酒とうまいつまみを堪能しながらそれぞれの現在(いま)について語り、以前と同じようにボケたり突っ込んだりしながら声を上げて笑い楽しい時間を過ごしていた。そして何杯目かもわからない酒を飲み干し、いつもなら布団の中に入っている時間もとっくに過ぎた頃、皆が待ちかねていたリュートがついに姿を現した。


 するとあんなに眠そうな目をして必死に耐えているように見えていた女三人衆が覚醒した。


 「キャ~ッ!ドリームセブンのリュートよ!」


 わざとらしくそう叫び、抱き着いたミクはいつものように慣れた手つきであしらわれ、最後には軽く頭をはたかれていた。


 「遅くなった!皆、悪い!」


 そう言い気まずそうな顔をしたリュートの肩を抱き、「よく来た!お前に会えてうれしい!」と俺が伝えると、彼は体勢を整えて正面からがばっと抱き着いてきた。そして今回もまたのけ反ってしまったが、どうにか倒れずに済み、これはきっとコソ筋トレの成果だと思い感動した。


 リュートは男から見てもかっこいいと思う顔立ちと体格をしているが、芸能界というそういう類の人種がウヨウヨしていると思われる世界で埋もれてしまうことがないよう日々努力を重ねているのだろう。思わず黄色い声で叫んでしまいたくなるような特別なオーラを俺も確かに感じていた。


 それから覚醒した俺たちと少し疲れが見えるリュートとの楽しい時間は続き、その中でわかったのはこの店のオーナーはドリームセブンメンバーの知り合いだということだった。五人のメンバーはデビュー前まではここで長くバイトをしていたそうで、彼らのデビュー後も気兼ねなく店に来られるようにとわざわざ個室まで作り、営業時間も朝までに延長したのだという。そういったことでリュートもメンバーに連れられここへはよく来ていると話していた。

 

ここまでお読みいただきありがとうございました。

続きは明日、21日に投稿予定です。

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