10
今日はモモと約束している土曜だ。
朝食は抜いてその分ギリギリまで寝ようと考えていたのであるが、目覚ましのアラーム音に気が付かず、爆睡状態であったらしい。その鳴り止まないアラームを解除したのはリュートで、思いっきり掛布団を引きはがされ体をガンガン揺すられようやく目覚めたのである。
「シオン!お前デートの日くらいバシッと起きろよ!」
「‥‥‥‥‥」
「とにかく!さっさと着替えて待ち合わせの場所に向かえ!」
俺はリュートに尻を叩かれながら出かける準備を進め、なんとか待ち合わせの時間に間に合うように寮を出ることができた。
「シオン!待って!」
もうすぐ待ち合わせの場所に到着するというところで後方から声がした。
振り向くと手を振りながらモモが駆け寄ってきた。
「少し前の方を歩いているのがシオンだって気づいて、追いつこうと思って大股でがんばったのに、なかなか距離が縮まなくて結局叫んで呼び止めちゃった」
息を切らせながら照れ笑いをしている彼女の頭の上にポンと手をのせ「あんま無理すんな」と、その行動を咎めた。実は以前同じようなシチュエーションで彼女が盛大に転んでしまい、手足に怪我を負ってしまうという出来事があったからだ。
彼女もそれを理解したのか「ごめん。あの時は随分迷惑かけたもんね‥」と、表情を曇らせてしまった。だから「モモに迷惑を掛けられたことなんて一度もない」と返し、ポケットから飴を取り出して彼女の手のひらの上にのせた。
「あ!これあの時もくれた飴だね。ありがとう!」
そういってうれしそうに包みを開き、ピンク色の飴を口の中に放り込んだ。
それからモモがよく行くという店に向かい、中に入るとそこはきれいな色で溢れていた。洋服だけではなく、小物や雑誌などもディスプレイされていた。
「今日はね、王城に登城するための服を買いに来たの。実は私の母が王妃様のお友達で以前は兄がよく母と一緒に呼ばれていたんだけど、なぜか今回私に声がかかってしまって」
「王城‥‥なら、私服よりもかえって制服の方がいいんじゃないか?」
「私もそう思ったんだけど、王妃様が制服ではなく私服で来てねって‥‥」
彼女は困り顔でそう告げた。
聞くところによると、母親と一緒にお茶をするだけだからカジュアルな服装で来て欲しいと言われているらしい。だがさすがにこの店にあるような服ではあまりよい印象を持たれないかもしれないと、なぜかそう思った。そして制服という選択肢を外されているとなると、やはりスーツであろうか?そんなことを考えていた時、「シオン?」と、横から俺の顔を覗くようにして見ていた誰かから声が発せられた。
俺は驚いて「なんでお前がここに?」と思わず口から出てしまったが、ミクも「それはこっちのセリフ」と返してきたことで、そういえばここは女の子が好むものが売られている店だったことを思い出した。だからモモの付添だと説明しようとしたその瞬間、今度は反対側から「もしかしてそちらの女の子とのデート中?」と、尋ねる声が聞こえてきたのだ。ミクだけではなく、メルも一緒だったのだ。王都の街中といえどもそんなにせまいわけもなく、店だって相当の数が展開されている。まさかこんなに絵にかいたようなばったりを経験するとは思ってもみなかった。
「今日俺はモモの付添でこの店に来た」そう言ってモモの肩に手を置きながら「彼女がモモで同じ学園のクラスメイトだ。それからモモ、ミクのことはもう知っているよな?ミクの横にいるのがメルだ」と全員の紹介をした。
「実は私はモモさんのことを知っていました。でも同じクラスになったことはないのでモモさんは私のことは知らないと思います。それで3年に進級してミクと一緒になってついこの前シオンを紹介してもらったばかりなの」
「そうそう。私はモモちゃんとはもう知り合ってはいたけれど、クラスが違ったからなかなか話す機会はなかったんだよね?そっか、今日はモモちゃんのお洋服を買う付添でシオンはここにいたんだ?」
「そうなんです。ミクちゃんとは学園のカフェで見かければ挨拶はできるんだけど、お互いクラスメイトと一緒にいるからなかなかお話はできないんだよね?あと、メルさんがミクちゃんのお友達だっていうのは私もつい最近聞いたの。だから今日は会えてよかった」
その後俺はモモにちょっと提案があるからコーヒーでも飲みに行こうと誘って店を出た。その時ミクが自分たちも一緒に行くと言ってついて来ようとしたのを俺は断った。
「シオン、私は別にミクちゃんたちも一緒でよかったんだよ?でもシオンが気を遣ってそうしてくれたっていうこともわかっているから。本当にありがとうね、シオン」
「いや。さすがにあの場で自分たちも一緒にと言い出すのは違うだろう。俺たちはまだそんな関係ではないからな。まあもしこちらから申し出たとすればついてこられたとしても仕方がないかもしれないが」
そして近くにあったカフェに入ると俺はさっそく本題に入った。
「俺の勘なんだけど、決してあの店の洋服の良し悪しではなく、単なる場所的な問題でできればスーツがいいんじゃないかって思ったんだ」
「⁉そういえば母も登城する時はスーツだったような気がする」
彼女も俺に言われて確かに制服がダメならスーツしかないじゃないと、やや自分に呆れたようにすぐ納得してしまった。更には俺の実家のことを持ち出し、女性のスーツも仕立てられるのかと聞いてきた。俺がそれは当然できると答えると、今から実家に行ってオーダーしたいと言い出したのである。
まあまだ時間も早いので行こうと思えば行けるし、ギリギリ寮の門限までには帰ってこられるかもしれない。だが見たいと言ってた映画はどうするのかと問えば、そんなのは別の日に行けばいいとすっかり実家に向かう気満々になってしまったのである。
結局彼女に押し切られる形で気づけば二人で俺の実家の門前に立っていた。
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