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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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大戦の序章



【 カラガス・アランタ中間地点 】


レゴス「くそっ!やっぱり待ち伏せてやがった」

バルガ「戦斧の連中はどうした!」

ファラ「奴らなら大丈夫!俺達の右前にいる、でも、白狼がまともに喰らった」

バルガ「ちいっ、次の魔法が来る前に回収して、街道まで逃げるぞ」

シャラ「了解!」


バルガ達の陣容は、銀月が四人、鉄の戦斧が五人、白狼が三人の十二人。

対する奴隷狩り達の人数は優に三百を超えている。

戦力差がここ迄開くと、取れる戦法はゲリラ戦しかないのだが、いまの状況は全て

バルガ達には不利だった。

奴隷狩りの天幕は街道横の、やや、すり鉢状になった草原の真ん中に設営された。

普通の戦なら、圧倒的に不利な布陣だが、少人数が相手だと話は逆だ。

斜面は、接近する時には発見されやすく、逆に逃げ出す足には不利だ。

おまけに相手には、長射程の魔法が撃てるエルフがいる。

どう考えても、相手が有利なのは間違いなく、罠の可能性すら、少なく無い。


バルガ「明日の未明、天幕が認識出来るようになったら、奇襲をかけよう」


勿論、全員が罠の可能性も十分認識していたし、危険性も承知していた。

ここ数日は闇月で、夜は灯りが無ければ、自分の指先さえ見えない真の闇になる。

おまけに、一昨日は、野営の篝火を頼りに奇襲したため、昨日から、宿営地では

松明さえ灯さなくなった。

こうなると、相手も動け無いが、バルガ達も夜、まったく身動きが出来ない。

自分がどの辺りに居るのかさえ、判らなくなる。

だが、当然、朝方の奇襲になどなれば、成功する可能性は激減する。

それでも、ここを抜けられれば、カラガスまでは一日も掛らない。

一か八かの奇襲しか選択肢が無かったのだ。

そして、そんな事は相手も十分承知していて、きっちり罠を張っていた。

そして慎重に草に隠れて、近づこうとしたバルガ達は、野営地の遥か手前で見事に

設置された鳴子に引っかかった。

風も無い、朝の静寂の中で鳴り響いた音は、異常な程、鮮明に聞こえる。

そして、その音に向かって火魔法が飛んできた。


バルガ「ラック!大丈夫か!」

ラック「………………ゲールとボルトの意識が無え」

レゴス「大きな傷は無いが、火傷が酷い、早めに治療しないと命に関わるぞ」

シャラ「もう、ポーションは残ってないよ……」


全員が包帯だらけの満身創痍なのは、もう、とうの昔にポーションどころか、傷薬

さえも、底をついていたからだ。

回復手段など残っていない。


バルガ「とにかく逃げるぞ!レゴス!」

レゴス「ボルトは俺が担ぐ、ゲールはファラが担げ!」

ファラ「わかった!」

シャラ「急いで!あいつら野営地から出て来た!」


もう魔法では効果が薄いと判断したのか、大勢の武装した男達がこちらに向かって

来るのが見える。

まだ距離は有るが、グズグズしていれば、直ぐに追い付かれてしまう。

とにかく、街道まで辿り着けば此処よりは走り易い。


バルガ「おい!ギル!何をちんたらしてやがる!」

シャラ「あんたら足が遅いのに何してんですか!」

 ギル「………………………………なにか………………来る………………」

 ダグ「地面が泣いておる………………………………」


やっと街道に辿り着いたものの、先に着いた鉄の戦斧の五人が、斧を構えて、道の

遥か先を警戒するようにゆっくり歩いている。

鉄の戦斧の五人は、多かれ少なかれ全員がドワーフの血を引いている非常に珍しい

パーティーで、最近までは主にタス皇国やアニア新王国辺りで、商隊護衛を主体に

活動していたが、今回の奴隷狩りに反発して、ドランに流れて来た変わり者だ。

そして、その種族特性として、異常な程に頑丈だが、絶望的に足が遅い。

ハーフやクオーターの彼らは幾分マシだが、それでも鈍足だ。

その彼らが、後方の敵よりも、前方の脅威らしき物に対処しようとしていた。


バルガ「魔獣か?」

 ギル「わからん、じゃが、多分でかくて、重い」

 ドグ「そして速い!物凄い勢いで振動が近づいてくるぞ!」

 ガウ「おい、何か聞こえないか?」

バルガ「………………………………………………やった!このまま走れ!」


いきなり走り出したバルガに続いて銀月と白狼のラックが、一目散に前に向かって

走り出したため、ギル達も釣られる様に走り出した。

余りにも躊躇しないその姿に引きずられたのだ。


 ギル「お、おい!」

ラック「バルガ、これ、あの音で間違いないよな!」 

バルガ「そうだ!あの時、散々聞いたんだ、間違いねえ!」

レゴス「助かった………」

ファラ「ひゃっほ――――――――っ」

 ダグ「なんだ、可笑しくなったのか………………」


先程迄の悲壮感も何処へやら、敗残兵の様な男達が、満面の笑みを浮かべて走る姿

は、異様を通り越して、恐怖でしかない。

ギル達が発狂したのではないかと、疑っても当然だった。

だが、その疑問が解けないまま、更なる混乱が彼らの目に飛び込んできた。


ギル「何じゃ!あれは!」

ダグ「化け物………………」

ドグ「魔獣だ………………」

ジド「挟まれた………………」

ガウ「…………もう………………だめだ」


そんなギル達を他所に、それは急に速度を落とした。

この時点になって、やっと人間が乗っている事に気が付いたと同時に、その搭乗者

が、バルガたちの知己だと理解出来たが、それで全てが納得できる訳が無い。


 ギル「おいバルガ!そいつは一体誰じゃ!味方なのか!」

バルガ「ああ、間違いなく味方だ!」

レゴス「お久しぶりです!アルセニオス様!」

   「おお、無事だったか………………と、迄は行かないか、ボロボロだな」

ファラ「ええ、もう駄目かと思いました」

   「取敢えず、その担いでいる奴をどうにかしてやれ」


貰ったポーションを無理矢理飲ませる事で、見る見るうちに傷は治ったが、流石に

意識は失ったままだ。


シャラ「あれ、今回はデクシスも参戦ですか?」

   「ああ、まあ、修行の一環だな」


もう一台の16式の上では、近頃、幼い顔立ちながらも、一端の戦士の佇まいを纏い

始めたデクシスが笑いながら手を振っている。


   「で、戦況は?」

バルガ「はい、まあ見ての通り、逃げてる最中で、味方は此処に居るだけです」

   「敵は?」

バルガ「今、あそこに見えている硬直した連中が下っ端で、手強い連中は、エルフ

    と共に、あの、遠くに見える天幕にいます」

   「ふん!下っ端が200人程度か」

バルガ「ええ、俺らが倒したのは下っ端の連中ばかりで、結局、エルフが30人と、

    80人程の厄介な連中、ほぼ無傷です、すいません」

   「仕方ないさ、それよりも、捕まった人はいるのか?」

ファラ「はっきりした人数は分かりませんが、多分20人程が天幕に」

   「奴隷狩りの犠牲者か………………」

ファラ「………はい」

   

聞けば、その全てが、足の遅い老人らしく、エルフたちが、ずっと連れ回している

そうだ。


ファラ「人間を盾にしているのでしょうか」

   「いいや、どちらかと言えば、逃亡する時の足枷にするつもりなのさ」

バルガ「禄でもないことばかり、考えやがる」

   「だが、砲撃は使えないな、まあ仕方ないか」

レゴス「俺らも、手伝いを」

   「全身包帯だらけで、何言ってやがる、此処で大人しくしていろ」


そして、異空庫からポーションと食料を手渡してやってから、そのまま街道を逸れ

て草原に乗り入れた。

その時にはもう、恐怖に駆られた下っ端の男達は天幕の傍にまで下がっていた。

間違いなくエルフの防御魔法を当てにしているのだろう。

まず、相手の素性も攻撃手段も何も解らないのだから、過度に慎重になってもおか

しくは無い。

だが、それは鉄の戦斧の五人も同じで、アル達が離れた途端に詰め寄ってきた。


 ギル「おいバルガ!あの男はいったい何者じゃ!」

 ダグ「どう見ても普通じゃ無いだろう!」

 ドグ「敵に回したら絶対駄目な連中だろ!」

 ジド「信用して大丈夫なんだろうな!」

 ガウ「儂はあの狼人族の少年にさえ、勝てそうにないんじゃが………………」

バルガ「ああもう!一度に質問して来るな!答えられないだろうが!」

 ギル「す、すまん、じゃが仕方ないじゃろう」


ギル達は、ついこの間まで、仕事でタス皇国に居たのだから知らないのも当然だし

あんな物(16式機動戦車)を見せられては、不安に駆られるのも、当然だろう。


バルガ「あの人は、隣のドラゴニアの国王で、黒の魔導士の第一席だ」

 ギル「げえっ」

 ドグ「嘘だろ………………」

 ガウ「………………アルセニオス・ファンビューレン?」

 ジド「まさか、寂寞せきばく?、冗談だろう………………」

 ギル「噂でしか知らんぞ、そんな化け物」

 ドグ「何でこんな所に居るんだよ、絶対おかしいだろ………………」

ラック「お前ら、助かったのに失礼な奴らだな」

 ギル「お前もしっていたのか?」

ラック「ああ、あの乗り物でドランの王城の玄関を吹き飛ばしたのを見たからな」

 ドグ「吹き………………飛ばした?」

ラック「ああ、一発で、綺麗さっぱり崩れ落ちたぞ、あれは凄かった」

 ジド「ドランの?確か凄くデカかったよな」

 ギル「本物の怪物………………」

レゴス「心配しなくても、あの人は優しいから大丈夫だ」

バルガ「連れのナオヤ様はおっかないけどな、死にかけたし」

ファラ「あれは、無理強いしたお前が悪い」

シャラ「ぶっ飛ばされたのは、自業自得じゃん」

バルガ「むぅ~」

 ギル「………………物騒な話ばかりせんだくれ、不安が募る………………」

バルガ「あ~そうだな………すまん………」


だが、安心できたのも間違いない。

あの黒の魔導士の一団を、いくら相手にエルフが居るとは言え、到底、突破出来る

とは思え無い。

つまり此処に居る限り、安全だと言う事だ。

そう、腹を括ってしまえば後は見物するしか選択肢がない。

それを知っているバルガ達は貰ったポーションで怪我の治療をしつつ目の前の食料

を、口に運んでいた。

ギル達も早速、それに倣う事にした。

一方、アル達は野営地の少し前で、16式を止めた。


    「まずは捕まっている人の救出だ、修羅を出して圧力を掛ける、ブランと

     ルージュは16式で追従しろ」

 ブラン《イエス・マスター》

ルージュ《オマカセ・クダサイ》

デクシス「俺も修練の成果を試してみる」

    「ああ、それと、お前の装備には大量の防御魔法が組み込まれているが、

     数に限界は有るからな、なるべく攻撃は避けろよ」

デクシス「うん、ユリアさんから説明してもらった」

    「敵も同じと思え、斬撃が止められても、それで一つ防御魔法を消せる」

デクシス「了解、ではアル様も手数を増やすの?」

    「いいや、まあ見ていろ」


そう言ってお構いなしに野営地に向かって、ほぼ横一列で進み始めた。

すると、その異様な圧力に耐えかねたのか、一斉に野営地から火炎弾が飛んで来た

が、無数の水球に全て迎撃されて、届く事は無かった。

同じ様に水魔法の氷弾は火魔法で、土魔法の石槍は岩の壁に阻まれた挙句に、今は

防御魔法陣が無数に浮かんでいる。

この時点で、エルフ達はその異常に気が付いた。


「何で、全属性の攻撃魔法が使えちゃうの、おかしいよ………………」

「そもそも、あれって何?、何者なの?誰かしってる?」

「まさかな、いや、あり得ないだろう、仮にも国王だぞ、でもそうとしか………」

「ねえ!知っているの!教えてよ!」

「……多分…………寂寞せきばくだ………………」

「はぁ?何言ってんの、お前………………」

「間違いない、アルセニオス・ファンビューレンだよ、あれ」

「嘘だろ………………冗談じゃないぞ」

「黒いローブを纏った化け物なんて、他に居るかよ!」

「でもどうする?戦うのか?」

「本気で言ってるのか?勝てると思う?」

「まさか!俺達には絶対に無理だって」

「そうだ、占拠地まで下がって、指揮職だとほざいてる高等貴族の坊っちゃん達に

 擦り付けちまおうぜ」

「如何にも俺達が弱いです、情けないですって顔をしてさ、逃げ出すんだ」

「情報なんか一切与えずに、助けて下さい、俺達、弱いんですってか」

「いいねえ、それで行こう、あと、あいつらどうする?」

「ああ、人種の連中か、それなら時間稼ぎ使えばいいさ」

「下種な連中だし、丁度いい」


そう決まった後に、魔法の一斉攻撃が始まったが、圧倒的多数の優位性を信じて、

同調する様に奴隷狩り達が攻勢に出た途端に、三十人余りのエルフ達は脇目も振ら

ずに逃走を始めた。


    「せいぜい、時間を稼いでくれよ、下等生物ども」




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