殲滅の序章
その日、ドランのギルドは、怪我人で溢れ返っていた。
一昨日の大規模な衝突の際、密集している所に火魔法を打ち込まれて、戦力の半分
以上が瓦解して敗走した。
死者は二割に届き、怪我人はその倍以上になった。
現在、残っている銀月と高ランク冒険者達が、ゲリラ戦を仕掛けながら、アランタ
の街付近に、奴隷狩り連中の足止めを行っているが、徐々に押されてていると連絡
が来ている。
死人こそ出ていないが、全員が満身創痍では、とても持ちこたえられない。
だが、ここにには、追われて逃げて来た、大勢の避難民が居るのだ。
避難民たちの中には、これ以上動く体力が残っていない者も大勢いる。
逃げる事も負ける事も許されない。
「ギルマス、!もうポーションが有りません!」
グレイ「薬師ギルドは………………間に合わんか…………」
「さっき、届いたばかりです、無理です」
「薬師さん達、殆んど寝てません、限界です……………」
グレイ「くそっ、エルフどもめ………………」
そして、手をこまねいている内にも、また一つ、若い冒険者の命が消えた。
グレイ「こんな爺より、先に逝きおって………………」
何度経験しても、自分の孫のような年の若者が命を落とすのを見るのは辛い。
明日の朝までに、いったい何人の命が消えてしまうのか、何度、頭から追い出して
も、追い出しきれなかった。
握った拳に血が滲んだ事にも気が付かなかった。
それから、半日がたち、窓から差し込む日差しが、やや、赤みをおびだした。
そこに、包帯だらけだが、動けるからと、城壁の上で警戒を買って出てくれていた
冒険者が、ギルドに駆け込んで叫んだ。
「ギルマス!来た!来た!来た!来たんだ!来たんだよ!」
グレイ「一体何がきたんだ!」
「だから来たんだって!」
本人は興奮しているのか、何を伝えたいのか、言葉がでなかったが、微かに聞こえ
始めた、異様なほど特徴的な音に、言葉が詰まった。
急速に近づく、あの日聞いた音を聞き間違えたりしない。
グレイはとうとう、その場にへたり込んでしまったが、それが疲労から来たのか
それとも、安心感からなのか、本人にも分らなかった。
ただ、呆然と、その音がギルドの前で止まるのを、聞いていた。
そして。
銀色の刺繍が施された、濡れ羽色のローブを纏った、若い魔導士の男が扉を開けて
入って来ても、言葉を発する事も出来ずに、ただ見ていた。
今見ている光景が現実なのか、夢なのか、分からなくなっていた。
グレイの常識からすると、あり得ない事だった。
例え救援依頼が着いたとしても、普通は協議を重ね、物資を用意し、派遣する人選
を行ってから、やっと、出発する事になる。
どう早く動いてもあと、半月は掛かる。
そう、思っていた。
では、目の前の光景は一体何だ。
「随分、派手にやられたな」
グレイ「あ、ああ」
何故ここに、彼がいるのだ?
仮にも一国の国王だろう、それに、とにかく早すぎるだろう。
連絡が着いてすぐに出発したとしても、これ程早くは到着しない。
目の前の存在が、現実なのか、幻なのか、わからなかった。
だが、目の前の存在は、異空庫から大量のポーションを取り出して配り始めた。
次から次へと、まるで、泉が溢れるように出て来る。
そして、その効果は凄まじく、ほぼ諦めかけていた重傷者までが持ち直した。
職員「な、何ですか!これ!」
職員「凄い、助かるよ~、みんな助かるよ~、うえぇぇぇぇぇん」
グレイ「おお、おおお」
「爺さん、じゃなかったギルマス、遅くなって悪かったな」
グレイ「………………すまない、心から礼を言いたい、ありがとう、ありがとう」
「何言ってやがる、これから奴らを叩き潰すんだ、呆けてる暇はないぞ」
グレイ「あ、ああ、そうだ、そうだな、ああ、そうだ」
「まずは、状況を説明してくれ、誰か地図を」
長いテーブルの真ん中に置いた地図を、ギルマスと向かい合う形で見ている。
周りは、回復した冒険者達で鈴なりになっていたが、敢えてそのままにした。
グレイ「今は、このカラガスより北側の街六つは、ほぼ、喰われた」
「つまり、こことアランタの街の間が主戦場なんだな」
グレイ「そうだ、今は白狼、鉄の戦斧、銀月の高ランクパーティーが踏ん張っては
いるが、さすがに限界だろう」
「なら、明日の朝一番に乱入してやろう、どうせあいつら、夜は動かない」
エルフの連中は基本、気位が高く、夜間にまで働くのは貧乏で下級な者だと思って
いるため、例え闘いの場であっても、夜は絶対に働かない。
殆んどのエルフは魔法が使えるのだが、ただそれだけで、他種族を見下したのだ。
今回も恐らく夜警は、奴隷か傭兵に任せてテントで熟睡しているだろう。
だからこそ、銀月達が少人数で抵抗出来ているのだ。
グレイ「助かる、恐らく、あいつらも限界だろうから」
「任せて貰おう」
グレイ「あと、その後で構わないから、ウラル海に回って貰えないだろうか」
「海王国の連中か?」
グレイ「ああ、お前さんが来てくれたおかげで、ここを留守に出来るからな、動け
る連中を連れて向かうつもりだ」
「それ、もう大丈夫だから」
グレイ「はあ?」
「そっちは、俺の相棒が向かったから、ほっといて構わない」
グレイ「いや、いくら何でも」
聞けば、海王国の連中は、ウラル海沿岸の街を、十数隻の軍船で襲っているらしい
が、こちらは奴隷狩りより、まず、目先の略奪に夢中になった。
いきなり襲われ、碌な抵抗も出来なかった、メルクス、ロコ、オム、ドラセナの町
を略奪し尽くして、次のロストラタの町に襲い掛かった所で、漁師達の猛烈な反撃
に会い現在は、一進一退の状態に陥っている。
反撃に出た理由は、襲われた四つの町の人達の殆んどが、ダクレスの町に逃げ込ん
だため、一時的に人口が膨れ上がり、元来の荒っぽい気性も相まっての事らしい。
つまりは、サイレージ海王国の船が20隻になろうが、30隻になろうが、誤差の範囲
でしか無い直也が、更に有利になったと言う事だ。
「どうせ、三、四日もあれば、海王国の船は一隻残らず海の藻屑だ」
グレイ「いや、さすがに、あり得ないだろう」
「心配しなくても、あいつは俺より強い」
グレイ「そんな馬鹿な、お前さんより強いだなんて」
「俺が乗って来た16式の制作者で、ついでに後ろの二体の制作者でもある」
横に居る狼人族の少年もだが、後ろに控えている二体の金属製メイドがここに居る
全員の理解の外側にいた。
だが、とんでもない存在だと言う事だけは理解した。
生命体を作り出すなど、神か悪魔の所業でしか無いのだから、当然だ。
だから、怖くて今まで誰一人、話題にさえ乗せなかったのだ。
グレイ「もしかして、銀月のバルガが、一発でのされたって言う御仁か?」
「そうだ、そしてこいつの剣の師匠でもある」
そう言って、横に居るデクシスの頭に、手をおいた。
今のデクシスは直也の作った、バトルスーツを着ている。
銀色の縁取りが付いた漆黒のアダマント製でユリアが、これでもかと、呆れかえる
ほど、防御魔法陣を組み込んである。
過保護と言われようが何だろうが、譲るつもりは無い。
グレイ「ほう、良く鍛えられておるな、まだ幼いのに大したもんだ」
「今度の戦い、こいつも参加させる」
途端に、周りの冒険者たちから、不安の声が上がり出す。
いくら何でも、成人前の子供を戦場にだなんて、と、まあ、これが普通の反応だ。
グレイ「ふむ、まあ、問題無かろう」
冒険者「いや、いくらなんでも、子供には危険すぎるだろう」
冒険者「無理に戦わなくても………」
冒険者「子供が戦場に出るのはどうも…………」
冒険者「それに、相手はあのクソエルフどもですよ」
「安心しろ、奴らが、ちんたら撃つ魔法なんぞ、デクシスには当たらねよ」
冒険者「しかし………………」
グレイ「お前らは、この子の強さが分らんから、6級に上がれんのだ」
冒険者「あたしは分かるよ、獣人の女だし」
声を上げたのは、虎人族の若い女だった。
彼女の言うには、デクシスは途轍もなく魅力的なんだそうだ。
あと、五歳、若ければって残念がっている。
「たぶん、悪くても銀月のバルガ程度は、強いから気にすんな」
グレイ「だろうな、それにしても、凄い装備だな」
デクシス「うん、直也様が作ってくれたんだ、総アダマンタイト製だって」 「「「「「アダマンタイト~?」」」」」」
グレイ「また、とんでもない物を、一体、いくらになるのやら」
全員が呆れるのも当然だろう、アダマンタイトだと、恐らく材料費だけでも、金貨
60枚~70枚(約6000万円~7000万円)は掛かるからだ。
「ガルムの所から買ってるからな、沢山あるんだ」
グレイ「どれだけ金持ってるんだ、あんたの国は」
「さあ?数えても無駄だしな、勝手に増えるから」
この辺りで、グレイの精神と体力が尽きた。
ギルマスを、仮眠室の一番奥に放り込んで、異空庫から更にポーションを補充して
から、デクシスと共に、そこで仮眠を取った。
どうせ、明日、出発する時は、叩き起こして、その日の指示を出すつもりなので、
手間を省いたのだ。
「まだ、暗いうちから起こして、悪いな」
グレイ「いや、久し振りに熟睡出来た、助かった」
事実、あのままだったら、早晩、倒れてしまっていただろう。
職員や薬師達も同じで、今頃は全員が久しぶりの睡眠を謳歌している頃だ。
「これから、出発するが、回復した冒険者達で、北門を警備させてくれ」
グレイ「わかった、もし取り逃がしが逃げて来たら、とっ捕まえてやる」
「それと、高ランク達を戻すから、治療して、動けなくしてくれ」
グレイ「………………邪魔をさせるな、と言う事かな」
「正解!ちょろちょろされると、巻き込んじまう」
グレイ「任せてくれ、どうせ問題はバルガだけだ、簀巻きにでもするさ」
「よろしく頼む」
そして、まだ夜も明けきらない内に出発した。
俺の16式には、ルージュと修羅が一体。
もう一台の16式は、デクシスとブラン、それと修羅が五体乗っている。
デクシスには、まず、会敵しても、すぐ戦うなと、言ってある。
理由は、捕えられた人間の有無だ。
巻き添えにする訳にはいかない。
「会敵したら、直ぐに16式を止めて、すぐ砲撃準備をしろ」
デクシス「砲撃が、先なの?」
「ああ、敵はとにかく、数が多いからな、行ける所は16式を使う」
デクシス「うん、わかった」
「それと、停まったら、直ぐに修羅を展開させるんだ」
デクシス「修羅を?」
「ああ、もし、捕まった者がいれば、修羅を使う」
修羅は直也が作った戦闘専用の機械体で、ブラン達の様な複雑な動きや命令は出来
ないが速度だけなら、全く引けを取らない。
相手が、まともに認識出来ない程の速度で動くのだから、捕虜救出には適任だ。
「さあ、もうそろそろ、見えて来るぞ」
そして、日が昇ったばかりの街道の横の平原で、火魔法の爆発が、上がった。
「居やがったぞ、デクシス、用意はいいか」
「はい」




