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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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出陣と出航



ある日、冒険者ギルドのギルドマスターの会見の打診を受けた俺達は、本会議室に

集合していた。

この時期、俺達3人は国内の大まかな法整備と改革を終え、それぞれが自分の責務

(趣味とも言う)に奔走していた。


まず、殆んど誰の目にも触れないのが直也だ。

今回手に入れた、アダマンタイトやオリハルコンに、狂喜乱舞いたのは間違いなく

あちこちで、色んな物を作り始めた。

特に力を入れたのが、町ごと買い取ったオセの港町で、周囲を柵で囲い、立ち入り

禁止にした。

まあ、例え、見られたとしても、造船ドッグなど、理解出来る筈もないし、作って

いる物を見られてもどうせ理解できないのだが、直也が様式美に拘ったのだ。


そして、俺といえば、魔法省を作ろうと、人材発掘に躍起になっている。

何せ、建物自体は直也のゴーレム達が勝手に作ってくれたので、残るは中身の人材

だけなのだが、そこで、物の見事に躓いた。

魔法に適性があり、それでいて、人格に問題の無い者など、そうポンポン見つかる

筈など無く、地道な努力を強いられているのだ。


逆に順調そのものなのが、ユリアの医療省だ。

作ったのは、小さな病院と巨大な製薬工場でその規模は既に百人を優に超えた。

現在は直也が作った専用の保冷馬車に、工場で作ったポーションと薬を乗せ、街や

村を巡回しながら配って回った。

おまけに、もし代金が無ければ、その地で取れる薬草を、代わりとして受け取って

金銭的負担を減らし、尚且つ材料の回収を行うと言った循環を作り上げていた。

これによって、ドラゴニア王国の死亡率は激減し、移民も相まって人口が爆発的に

増え始めた。

更に過剰になった薬やポーションは、既に少量ながら、ガルムの独立国に輸出し始

めていた。

余談だが、この保冷馬車が多数運用される事で、護衛の冒険者達が人手不足に成り

かけたのだが、増え始めた女性冒険者がその穴を埋めた。

理由は以下の通り。

アルと直也の二人が、徹底的に駆除したせいで、この国に盗賊は一人も居ない。

つまり、気を付けるのは、魔獣のみで、苦労と言えば夜警ぐらい。

それも、対処出来ないような狂暴な魔獣は、修羅をはじめとする直也のゴーレム達

が殆んど狩り尽くしてしまい、出て来るのはもっぱら、フォレストウルフか、それ

以下ばかりだ。

なのに、依頼は国が発注する物も多く仕事にあぶれる事も少ない。

これを、情報に敏感な女性冒険者が見逃す筈も無く、どんどん集まり始めたのだ。

更に言えば、粗暴で横暴だったり、脛に傷を持っている冒険者達は、アルを恐れて

入国さえしないのだ。

まさに、女性冒険者にとって、理想のギルドなのだ。


そのギルドから、会見の申し込みがあったのだ。


サーシャ「お忙しい所、申し訳ございません」

    「いや、ぜんぜん構わない」

 ユリア「かしこまらなくて良いわよ、二人共、どうせ碌な事してないから」

  直也《う~ん、反論出来ない》

    「何でおれまで………………」

サーシャ「あははは、相変わらずですね」

 ユリア「ええ、それで、用事って何?」

サーシャ「カラガスの冒険者ギルドから、救援依頼です」

    「どういう事かな」


やや、緩かった空気が一瞬で緊張した。

確か、あの国の聖王国兵は、散々痛い目に会って引き上げた筈だ。

後は、自浄作用によって、少しずつ自治が回復するだろうと、思っていた。


サーシャ「実は、事の起こりは我が国らしいのです」

 ユリア「どういう事なの?」

サーシャ「移民です」

    「はあ?」


そもそも移民達は、元々どの国でも、抑圧されたり、虐げられたりしていた貧民や

農民たちが殆んどだ。

つまり、彼らが居なくなった事で、搾取する相手が居なくなってしまったのだ。


  直也《なら、最初から彼らの生活をもっとマシな物にすれば良かっただろ》

 ユリア「一方的に富を吸い上げておいて、今更、何を言っているのかしら」

    「生活をきちんと保障していれば、誰が危険な移民などするか!」


国を捨てるなど一大決心だ。

家族ごとの長距離移動ともなれば、それなりの資金も必要だし、魔獣や盗賊の襲撃

も目白押しだ。

旅路の困難さと危険を考えれば、とても簡単に決断できる類のものではない。

それを考慮しても移住を選択するなど、どれだけ厳しい生活だったのか、想像すら

困難だ。


    「で、いったい何をやらかしたんだ、奴らは?」

サーシャ「奴隷狩りです」

    「………………何だと」

サーシャ「奴ら、労働力を確保しようと、ドランで奴隷狩りを始めました」

  直也《ふざけた奴らだな………………》

 

サーシャは部屋の温度が急激に下がったような錯覚を感じた。

それ程、二人から漏れ出した殺気は濃密だった。


 ユリア「それで、どの国が関わっているの」

サーシャ「北方四ヶ国全てです」

    「まさか、タス皇国もか?」

サーシャ「はい、おかげで、随分被害が出ているそうです」


グラム聖王国、アニア新王国(旧メルド商王国連合)、サイレージ海王国、そして

タス皇国を指して、北方四ヶ国とよばれている。

今回、最も問題のタス皇国とは、人口の七割がエルフであり、王族もエルフだ。

そして残る三割が肉体労働専門の他種族の集まりだ。

つまり、この三割が逃げ出し始めたと言う事だろう。


サーシャ「それに、サイレージ海王国とグラム聖王国が加わりました」

  直也《あれだけ痛い目に合ったのに、海王国の連中は学習しないのか?》

    「たぶん、ドランまでは干渉しないと思ったんだろ」

 ユリア「それに、あそこの王子達って、全員、粗暴で無能だからね」

    「不思議なのは聖王国だ、良く回せる兵士が確保出来たな」

サーシャ「その事なんですが………………」


今回、聖王国は兵士を出していないが、アニア新王国と共に巨額の資金を投入して

奴隷を高額で買い取っている。

そして困った事に、それはとても効果的だった。

傭兵や冒険者、盗賊にごろつきまで、欲にまみれた連中がまだ、しっかりした国の

体制の出来ていない、ドランに群がったのだ。

当然ながら、ドランの冒険者ギルドは両国に対して抗議したが、無視されている。

奴らにしてみれば、あくまで、商業活動の一環で、自分達は戦闘行為をしていない

と主張するつもりのようだ。


ユリア「姑息な真似を………………」

 直也《確かに理屈は通っているが………………なあアル》

   「そんな理屈、俺の知った事じゃねえよ」

 直也《くくく、言うと思った》


そして、当然だが、ドランの冒険者達と、奴隷狩りの連中は衝突した。

当初はドランの冒険者達の方が、やや優勢だったのだが、いきなりドラン側に被害

が続出し始めた。

タス皇国の兵士が実際に出て来たのが、この頃である。

彼らは、自分達で奴隷を狩らないと、数が確保出来無い事に気が付いたのだ。


サーシャ「死人と怪我人だらけで、奴隷狩りの被害が拡大しはじめたそうで」

    「あいつら、攻撃魔法を使う奴もいるからな」

 ユリア「普通の冒険者だと、ちょっと対抗できないわね」

サーシャ「挙句に、海岸の街にサイレージ海王国の軍船が出没し始めて」


ほぼ、内海と言っても差し支えないウラル海を抱えるドランは、海峡での迎撃能力

を失くした今、海王国にとって襲いやすい獲物と化した。    

今や、ドランの北部は、奴らの狩場になりつつあるそうだ。


サーシャ「これがドランのギルドマスターからの書簡です」

    「あの、頑固な爺さんが、ここまで直接的な表現するのか、まずいな」

  直也《もう殆んど戦争だ、とにかく急がないと、取り返しがつかなくなるぞ》

 ユリア「商王国が絡むなら、私も参加するわよ!」

    「いや、ちょっと待とうか、全員留守はまずい」


旧メルド商王国が絡んでいると知って、ユリアが平静で居られる訳が無かったが、

その事は、ユリア本人と、直也しか知らない。


 直也《今回の戦いでは、直接アニア新王国と剣を交わす事は無いだろう》

ユリア「でも、でも…」

 直也《俺が必ずあの国を戦場に引きずり出して見せるから》

ユリア「むう~、わかったわよ、留守番してる、でも絶対よ」

 直也《ああ、まかせとけ》


大した兵力を持たない商王国の武器は、その圧倒的な経済力と商取引に付随する、

各種の利権だ。

だが、基本的に貨幣経済、特に紙幣では無く硬貨自体が価値を持つ商業圏に於いて

その国家が持つ、金の保有量は如実に国力の優劣に結び付く。

現在ドラゴニア王国の金保有量は、アニア新王国、グラム聖王国に次ぐ世界第三位

であり、他国と違って今現在も鉱山から金が供給され続けている。

経済的にアニア新王国を、追い詰めることも十分可能なのだ。

さらに直也は、この世界の商取引の常識と規約は、全て不要と判断した。


直也《呆れるほど、権力者に都合良く出来た商法で、まるで詐欺だ》


元の世界の、非情な資本主義を知っている直也からみても、残す価値など全くない

ほど、この世界の商取引は歪んでいる。

何をするにしても、権力者が有利になる様に誘導する決まり事だらけだ。

だいたい、商業ギルド理事会の賛同があれば、その時点であらゆる規約を変更又は

無効にできるなど、まともな法律じゃない。

挙句に、この理事に就けるのは、貴族か議会の会員連中だけで、人員制限も無い。

つまり、地位と金が無い一般人は、黙って搾取されろ、と言っているのだ。

もう無法地帯と変わらない。

おまけに、国の一部を聖王国に売り飛ばしたヨハン・イングラムが国王になった国

など、存続させるだけ害悪だ。

直也は、本格的にアニア新王国を消滅させるべく計画を考え始めた。


直也《国王だか何だか知らないが、ユリアの前に丸腰で引きずり出してやる》


一方、デクシスはアルから戦いへの同行を打診されていた。


    「どうする?無理強いするつもりは無いが」

デクシス「行きます!連れて行ってください!」


即答したデクシスに、モルナが途端に難色を示したのは、当然だろう。

やっと数日前に11歳になったばかりで、デクシスは、成人前なのだ。


 モルナ「ねえ、危ないんだよ?戦争なんだよ?何でそんな所に行くの?」

デクシス「おれ、もっと強くなりたいんだ」

 モルナ「今でも十分強いじゃない」

デクシス「まだ全然足りないんだ!こんなんじゃ、みんなを守れない!」

 モルナ「………………デクシス」

デクシス「この程度じゃ…………駄目なんだ」


みんな、直ぐに気が付いた。

デクシスはまだ、ガットの事を引きずっているのだと。

そして、あの時、ガットが死んだのは、自分が弱いからだと思っていたが、近頃、

自分の成長が思う様に上がらない事に苛立っていた。

そこに、この話がでて、一も二も無く同行を決めたのだ。


 モルナ「はあ、もう仕方ないわね、アル様と離れないでね」

デクシス「ごめん、でも、ありがとう」

 モルナ「怪我なんかしたら許さないからね」

デクシス「わかった」


二人とも、お互いが、替えの効かない存在になっている事は認識していた。

どちらかの不幸は、二人の不幸なのだ。

片翼では、空を飛ぶことは出来ないことを、二人はちゃんと理解しているのだ。


  「サナ、留守は任せたからね」

サナ「はい、いってらっしゃいませ、御武運を」

  「………ごぶ、また直也だな」

サナ「はい、武士もののふの奥方の作法だと聞きました」

  「…………………そのうち、三つ指でもつきそうだな」

サナ「はい、でも畳?が出来るまでやっちゃ駄目だって言われました」

  「………………しなくていいから………………」


近頃サナが、ユリアや老婦人達に正しい妻の在り方なる物を学んでいる事は知って

いたが、時々直也の武家作法などが混ざっている。

直也自身は遊んでいるつもりだろうが、日本の知識など、俺と直也しか、やり過ぎ

だと気が付かないので、色んな物がどんどん定着し始めた。

特別、害にはならないから、黙認しているが、違和感が凄い。

割烹着を着た獣人の女の子が包丁を持って、料理をしてたりするのだ。

一緒に歩いている時、サナが三歩下がって付いて来たのは、さすがに止めたが。


二日後、二組に分かれて出発した。


一組はアルとデクシス、随行はブランとルージュと修羅が6体。

戦闘車両は16式機動戦車が2台、アルとデクシスが運転している。

目的地は旧の王都カラガス。


そして、もう一組の直也が、とにかく酷かった。

随行はノワールと修羅が2体だけだが、問題は武装だ。

呆れた事に、直也は買い取ったオセの港で海上自衛隊の護衛艦もどきを作っていた

モデルはイージス護衛艦あたご。

武装はミサイルはまだ開発出来ずに、未実装だが、主砲や機銃は装備してある。

イージスシステムは只の飾りだが、余った空間は全て倉庫になっている。

そして搭載しているのは、機銃を備えた改良型ドローンが80機。

船体とエンジン、武装と通信能力だけの、ハリボテなんちゃって護衛艦だが、この

世界で行使されるであろう、破壊力は途轍もない物になる。

目的地はドラン王国の中央にある、巨大な内海であるウラル海。


直也《海王国の連中、今度こそ、1隻残らず海の藻屑にしてやる》




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