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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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領都事変・琥珀伯爵



ユリア達が領主館に帰り着いた頃には、夜の支配は終わりつつあった。

実際、大きな騒動にはならずに、暗殺者達の排除に成功した事になるが、それで全

てが終わった訳では無い。

暗殺を依頼した人間が存在しているのだ、今はただ実行犯を排除したに過ぎない。


カタリナ「お疲れ様、全員無事辿り着いて、今は休んでもらっているわ」

  直也《すまない、この子の親は間に合わなかった》


直也の腕の中には泣きつかれて眠っている羊人族の子供がいた。

もっとも、途中で目が覚めない様に、ユリアが軽い催眠魔法を掛けてある。

幼いこの子には、過酷すぎる光景を見る事になったのだ、少しでも時間が必要だ。

呼ばれてきた、まだ若い侍女が、直也から子供を引き取った。


カタリナ「謝って貰う事じゃ無いわ、不甲斐ない私達の責任だもの」

 ユリア「で、どうする?実行部隊は潰したけれど、依頼者は残ってるわよ」

カタリナ「相手を特定して貰っただけで十分よ、後は主人が片をつけるわ」

 ユリア「それは構わないけど、証拠は無いのよ」

カタリナ「あははは、あの人にそんな物要らないわ」


意味を計りかねていると、兵士がカタリナに、ある伯爵家の伝聞を携えた使者の

来訪を告げに来た。


  兵士「バイカラー伯爵の使者が面会を求めています」

カタリナ「そう、で、主人の帰領はどうなっているの?」

  兵士「クロトンの街の休戦協定は後二日ほどで締結だと連絡が」

カタリナ「仕方ないわね、少し考える時間が要るわ、待たせておきなさい」

  兵士「よろしいのですか?」

 ユリア「バイカラー伯爵って暗殺の依頼者でしょ、大丈夫なの?」

カタリナ「構わないわ、どうせ命乞いでしょうからね」

  兵士「わかりました」

カタリナ「はあ、情けない、かつての鉄壁はどこへ行ったのかしら…………」

 ユリア「鉄壁?」

カタリナ「ええ、建国当時、猛攻の狼、鉄壁の獅子と呼ばれ、共に戦場を駆けては

     武功を競い合ったのよ、それが今じゃ………………」


ただの公爵だったアルギス家が建国をする際に、襲って来た他の貴族を尽く退けて

初代公王の前に、ただの一兵も通さなかったその武勇をもって、伯爵の地位と鉄壁

の名を賜ったのが、バイカラー伯爵家だ。

だが、下賜されたカラ、ロロ、シュフの三つの街は、人口こそ少ない物の、非常に

良質な琥珀を大量に産出した。

魔鉱石には及ばないものの、魔力を人為的に蓄積できる琥珀の希少性は金剛石にも

勝る。

そして経済的に潤ったバイカラー家は代を重ねる毎に脆弱になった。

今はもう、城門で立ち塞がり敵の返り血で真っ赤に染まった勇猛な獅子の姿は何処

にも無い。

何をするにしても、陰謀や策謀、脅迫と金銭ばかりに頼りきっていた。

今回の暗殺騒動にしても、戦力が著しく乏しい伯爵が、このままでは、伯爵領を奪

われると、疑心暗鬼に襲われて、引き起こした物だ。


  使者「お目通り、感謝いたします」

カタリナ「簡潔に行きましょう、伝言の内容は?」

  使者「伯爵は暗殺の非を認め、蟄居を決めました。後を継ぐ嫡男のエルバ様は

     ガルム様に忠誠を誓う事を誓うそうです」

カタリナ「それで?」

  使者「書面での恭順を表す為に、ガルム様との会談を希望しております」

カタリナ「馬鹿々々しい、我らが答える必要は無いわ」

  使者「それならば、仕方がありません、そう報告するだけです」

カタリナ「ふん、おって連絡するわ」

  使者「よしなに……」


事実問題、いくら領主の地位を狙われたとしても、伯爵がモデムドール側に付く

のは回避したい。

伯爵家にしても、獣人の少ないモデムドール領よりも、ガルム領の方が居心地が

良いのは、間違いない。

しかし、家族を暗殺されかけたガルム達にとって、未遂に終わったと言って、はい

そうですか、ともならない。

わざわざカタリナに付いて来た直也達が暗殺者達を壊滅させただけで、もしそれが

無ければ、未だに暗殺の脅威にさらされていたはずだ。

簡単に許す事は出来ないのだ。


カタリナ「何を企んでいるのやら…………」

 ユリア「まあ、単純に考えれば毒殺かな」

  直也《後は数によるごり押しか、罠でも仕掛けるか》

カタリナ「力押しはまず無理ね、主人には通用しないわ、罠もね」

  直也《そうなると、やはり毒殺か?》

 ユリア「毒も含めて薬を使う確率が高いわね」

  直也《………………薬?………何か忘れてないか》


途端に、部屋の扉がノックされ、ルージュに連れられた少女が入室してきた。

少女の目には今にも零れ落ちる程、涙が溜まっている。

忘れていた、527番ちゃんだ。


ルージュ《マスター・アンマリカ・ト》

  直也《すまん!》

 ユリア「ご、ごめんね~、ちょっと、ちょ~っとだけ、記憶喪失だったみたい」

527番「ひどいです………………」

カタリナ「あの、この子は?」

  直也《あ~、暗殺者のメンバーの一人》

カタリナ「はあぁ?」

 ユリア「そりゃ、驚くか、あはははは……」


それからは、一通りカタリナに説明したが、きっちり苦情を申し立てられた。

そりゃそうだろう、仮にも暗殺者の一人を何の説明も無く、ここに連れて来た挙句

に、忘れていたのだから、弁明のしようも無い。


カタリナ「罰として、この子は私が貰います、宜しいですね!」

  直也《お、おう》

 ユリア「仕方ないわね、任せるわ」

カタリナ「………………まずは名前ね、さすがに番号は酷いわ」

 

その後、幾つもの候補が三人から上がったが、最終的にはリンに落ち着いたのだが

途中、候補の中にリディアの名がでると、カタリナが異常な拒否反応を見せたのが

気になった。

後日、財務官の女性から、その理由を聞いて後悔した。

とても正気で聞ける様な代物では無かったからだ。

公国の公子がもたらした闇の負債は、未だに回収されてはいなかった。


それから、さらに三日後、ガルムが部隊を率いて帰領してきた。


ガルム「お初にお目にかかる、国王のガルム・ファンブッシュだ」

ユリア「黒の魔導士、その第六席・ユリア・ラインゴールドよ」

 直也《ドラゴニアの、まあ宰相みたいな役目をしている、直也だ》

ガルム「おお、では、あの珍しい刀という剣の制作者殿か」

 直也《デクシスのを見たのか、確かにそうだが》

ガルム「ぜひ、ぜひ、儂にも一振り作っては貰えないだろうか!」


ガルムのお願い圧が凄い。

このままでは、帰りに付いて来そうだったので、渋々ながら、了承する事にした。


 直也《次か、その次の交易の時にでも渡せる様にしておこう》

ガルム「いやあ~、宜しく頼む、で、代金は幾らになるのかな」

 直也《その事なんだが代金は要らない、代わりに暗殺組織を調べてくれ》

ガルム「………………わかった、判明次第、残らず全て報告しよう」

 直也《交渉成立だ》


変な約束をしたが、直也達はガルムと国交の調印を済ませると、その日の内に帰路

についた。

これで今回の用事は全て済んだ事になる。

領都の門を潜る馬車を領主夫妻は、館の窓から見ていた。


カタリナ「手合わせを頼まなかったの?珍しいわね」

 ガルム「冗談じゃない、今も頭の中には警報が鳴り響いてるよ」

カタリナ「それ程なの?」

 ガルム「ああ、平静を保つので精一杯だ、どうこう出来る存在じゃあない」

カタリナ「3000人を相手にしたって、本当だったのね」

 ガルム「それについて一つ抜けている情報があるぞ」

カタリナ「なに?」

 ガルム「相手したんじゃない、全滅したんだ、それも、二刻と掛かっていない」

カタリナ「………まだまだ、余裕ってこと?」

 ガルム「そうだ、胸を借りる気に等ならん、敵じゃ無い事に感謝するだけだ」

カタリナ「もしかして、同盟を結んだ私達、物凄く幸運なんじゃないかしら……」

 ガルム「ああ、おかげでクロトンの停戦があっと言う間に決まった」

カタリナ「それで、こんなに早かったのね」


アルギス公国もモデムドール公爵家もグラム達が、ドラゴニアと同盟を結んだ情報

を掴んだ途端に停戦を受け入れた。

両国とも、まかり間違っても介入して欲しくは無かった。

とにかく、戦闘力が一国に匹敵する個人が、あちこち移動するのだからた、堪った

物では無いのだ。

停戦ぐらい安い物である。


 ガルム「そうだ、それとあの国の二人が兵士から、なんて呼ばれているか知って

     るかい?」

カタリナ「いいえ」

 ガルム「アルセニオス様が魔王、あの直也と言う方が冥王だとさ」

カタリナ「魔王と冥王、何故か物凄くしっくりくるわね」

 ガルム「そのまんまだからだと思うぞ」

カタリナ「ええそうね、でも子供や平民には激甘だけどもね」

 ガルム「違いない」


そして翌日、バイカラー伯爵の屋敷で会談が開かれた。

テーブルを挟んで、伯爵の嫡男であるエルバと家宰らしき男が一人だけ。

エルバは獅子の獣人であるにも関わらず、非常に線の細い男だった。

対するこちらは、ガルムとカタリナ、護衛の兵士が二人、そして何故かリンの名前

を貰った元暗殺者の少女がひとりだ。


 エルバ「今日は貴重な時間を割いて頂き感謝します」

 ガルム「挨拶はいい、それより当の伯爵本人が同席しないのはどういう事だ」

 エルバ「父は引退して、私が伯爵の地位をつぎましたので」

カタリナ「未だ何の届け出も受け取っていないのだけれど」

 エルバ「ですから、今申し上げました」

 ガルム「恭順の意を示したいそうだが、その態度で信じろと?」

カタリナ「そもそも暗殺者を送り込んでおいて、ただで済むと思うの?」

 エルバ「まさか、こちらとしてはそれ相応の物を用意しております」


彼が合図をすると小姓のような少年が一抱えもあるような箱を持って入室して来た

が、入って来た途端に、その箱からは死臭がし始めた。

そしてその箱をガルム達の前のテーブルに箱をおくと、少年はゆっくりと蓋を開け

て下がった。

部屋中に匂い消しの香が漂う。


 ガルム「これは………………」

 エルバ「我が父、ジョレスの首です、お改めください」

カタリナ「自ら父親の首を取ったの?」

 ガルム「愚かな、こんな事になる位なら、正面切って挑めばよい物を…………」

カタリナ「そんな事だから、暗殺組織などを使う事になるのよ」

 エルバ「そうです、父は弱者でした、かくいう私も弱者です」

 ガルム「………………」

 エルバ「弱者だと言ってまともに取り合わなかったのは誰だ!」

カタリナ「………………」

 エルバ「弱者に価値は無いのか!強者はいつも正しいのか!」

 ガルム「………………」

 エルバ「なら、弱者は罪か!弱き者は強者に殺されれば良いのか!」

 ガルム「………………」

 エルバ「父は弱かった!だから強者を求めた!暗殺者を雇って何が悪い!」

 ガルム「………………」

 エルバ「我ら親子にとって、暗殺者は剣だ!剣を買って何処が悪い!」


エルバは狂った様にまくしたてた。


 ガルム「だが、失敗すれば当然、死ぬ、甘えるな」

カタリナ「子供を狙ったクズに、同情などしないわ」

 エルバ「あははははははは、強者の余裕ですか、そうですか、傲慢ですね」

カタリナ「何が言いた………あれ?………」

 ガルム「むうっ」

  護衛「き、きさま、何を」


気が付けば、ガルム達の両手は痺れ、護衛は持っていた剣を取り落とした。

エルバ自身も徐々に体を支えきれなくなり、執事は目の前で倒れた。

死臭を誤魔化すお香と思っていたのは、間違いなく薬物だった。


 エルバ「あはは、どうです、教団の麻痺毒は、後半刻もせず指一本動かなくなり

     心臓も止まる、貴方は負けたんです!私と言う弱者に!」

 ガルム「捨て身の反撃か、悪くは無かったが、今回は運が無かったな」

 エルバ「………………何をいってるんだ?」


エルバがガルムの言葉を理解出来ないでいると、一人の少女がガルムの口に液体の

入った小瓶を宛がった。


  リン「とうさま、解毒薬です」

 ガルム「ああ、すまん、カタリナ達にも頼む」

  リン「はい、とうさま………………かあさま、薬です」

 エルバ「なぜだ!なぜお前は動ける!なぜだ!」

カタリナ「残念だったわね、この子には状態異常耐性があるのよ」 

 エルバ「そんな、そんな馬鹿な、認められない、こんな事………………」

  リン「あたいに薬はきかないよ」

 エルバ「ふざけるなよ、俺は親父を手に掛けたんだぞ、それがこんな小娘に」

カタリナ「この子は、数日前には暗殺組織の一員だったのを助け出したのよ」

 エルバ「そんな、そんな、なら俺は、俺達は………何のために………」

 ガルム「初代の教えを何一つ守れなかった者の末路だろうよ」

カタリナ「最後に言っておくわ、領地持ち貴族にとって弱い事は罪よ」

 ガルム「暗殺で領民が守れるか、愚か者が」

 エルバ「くそおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


それが、エルバの最後の言葉となった。

そしてこの時、唯一の貴族家だったバイカラー伯爵家も終わりを迎えた。

今日がガルム領にとっての本当の統一なのかもしれなかった。





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