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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
93/169

領都の惨劇

コロナってました(涙)


   

《マスター・ニワノレンチュウ・ウゴキ・ガアリマス》


屋根の上に陣取っていたルージュから声が掛かった。


ルージュ《テッタイ・ヲ・マヨッテマス》

  直也《殲滅しろ》


ルージュの弓から放たれた金属の矢は暗殺者発ちを次々に屠って行ったが、その内

の一人が死ぬ間際に抱えていた箱のふたを開いた。

飛び出したのは、黒い小さなきな蝙蝠が三匹、それが夜空を舞った。

ジューヌが慌てて射落とそうとしたが、蝙蝠はことごとく、矢を躱した。


ユリア「蝙蝠に何の意味があるの?」

 直也《恐らく伝書鳩の蝙蝠版だろう》

ユリア「確かに夜なら蝙蝠だわ、でも文なんてもてるの?」

 直也《いいや、多分、蝙蝠が戻ったら作戦が失敗って事になっているんだろう》

ユリア「…………少し甘く見てたかしら」

 直也《ああそうだ、とにかく急がないと犠牲者が出てしまう》


直也はユリアを抱えたまま追従するルージュと共に、夜の通りを駆け抜けた。

目指すは一番近いアジトだ。

ちなみにあの、暗殺者の少女は、館の小部屋で大人しく待つ様に言いつけた。

もし、この程度の言いつけを守れないなら、保護する価値も無いのだが、恐らく、

そんな事にはならないだろう。


直也《最初は、ここだ》


そこは、ごく普通の二階建ての家だ。


  直也《ルージュは二階の部屋を、ユリアは正面の扉から、俺は裏口から入る》

ルージュ《リョウカイ》 

 ユリア「私は囮ね、任せて頂戴》

  直也《ユリアの侵入に合わせて、俺達は動く》


ユリアに釣られた上位暗殺者の意識が正面に向いた。

勿論、彼らは周囲を十分警戒していたが、ユリアが発する殺気の籠った魔力の奔流

が、否が応でも注視せざるを得なかった。

二階で子供達を見張っていた男は窓から飛び込んで来たルージュに心臓を抜き手で

貫かれて、あっと言う間に絶命した。

そして、その物音に驚いて振り返った先には、階段脇で拘束されていた夫婦の前に

立ちふさがる直也の姿が有った。


ルージュ《コドモ・ノホゴ・カンリョウシマシタ》

  直也《ご苦労、そのまま待機》

ルージュ《イエス・マスター》

 暗殺者「…………死ね」

  直也《声を出すな、二流が》


三人の暗殺者が、それぞれの得物で全く同じタイミングで直也に襲い掛かった。

ある者は短剣で、ある者は長針で、そして細剣で。

一人目が死んでも二人目が、二人目が避けられても三人目がトドメを刺す。

普通なら、必殺の陣なのだろうが、直也相手には何の意味も無かった。

機械の体が繰り出す剣速は、人間の動体視力では到底捉えきれない。

その場から一歩も動かずに腰の刀を振り抜いた途端、そこには首無し死体が三体、

出来上がっていた。

拘束されていた夫婦は、自分達の身に一体何が起きたのか、扉を壊して入って来た

ユリアを見て初めて、自分達が解放された事に気が付いた。


ユリア「領主館に逃げ込みなさい、話はついてるから」


二階から降りて来た息子を抱き寄せた狐人族の夫婦は何度もお礼を言って、夜の街

を領主館に向かって走った。


直也《さあ、次だ》


二番目のアジトでも同じ様に 人族の親子を救出したが、暗殺者の数が足りない。

先程のアジトに居た暗殺者は四人、だがここには二人しかいない、子供も二人いる

それに、ここには、あの正体不明の責任者が居たはずだが、死んだ二人とは違う気

がしてならない。

もしかすると逃げたのかもしれない、だが確証もない。


 直也《どうにも、嫌な感じがする》

ユリア「取敢えず、最後のアジトに急ぎましょう」

 直也《ああ、碌でも無い予感は外れて欲しい》




「……や……くそ………くが………ちが……う………」

「無駄だ、そこを退け」

「………いや………だ…」


全身血だらけの羊人族の男は、地下室への扉を自らの体で塞いでいた。

足元には既に事切れている、男の妻が横たわっていた。


「ふざ…け…る………な…………よ………………」


奴らに、家庭を乗っ取られてから、もう二年以上になる。

夜中に押し入られ、抵抗する事も出来ないまま、子供を人質に取られた。

何も詮索せず、普通に口を閉ざして生活すれば、危害は加えないと言われ、俺と妻

は、それを受け入れた。

確かにこの不気味な男達は、その後は一切、暴力を振るう事は無かったし、金銭的

な補助さえし始めた。

彼らが何者で何をしているのかは、全くわからなかったが、どう考えても非合法な

組織なのには違いないだろう。


「ねえ、私達、犯罪者に手を貸してるんじゃあ………」

「ああ、多分そうだ、だが罪は俺が全て持って行く、お前はあの子を頼む」

「あなた……」


それからと言う物、妻と私は生活を切り詰めるだけ切り詰める生活を送った。

食事を切り詰め、日用品は何一つ買わなかった。

仕事のついでに、家の中に有る物は少しづつ、それでも息子の物以外は、残らず売

り飛ばした。

少しでも多くの金を残してやるつもりだった。

まだ幼い我が子には、何としても生きていて欲しかったが、多分その未来に、私の

姿は無いだろう。


息子の寝顔を見ながら、いつも思っていた。

この子の初恋の相手はどんな子だろう、明るい子かな、優しい子かな。

この子と酒を酌み交わすのは何時になるのだろう。

この子はどんな仕事に就くのかな、商人かな、まさか冒険者とかかな。

この子の嫁は同じ羊人かな、兎人かな、虎人だったら尻に敷かれるのかな。

孫は何人生まれるのかな、男かな、女かな、双子かな、三つ子かな。

一緒に住んでくれるかな、じいじと呼んでくれるかな。

でも、私は何一つこの目で見る事は出来ないだろう。


「でも、でもな、それでも、お前と一緒に居たい……」


だが、この日、いきなり約束は一方的に破棄された。

夜中にいきなりの来訪者があり、狭い居間の片隅にいた私達も目が覚めた。

入って来たのは仲間らしい黒ずくめの男が四人。

その男達の中の一人がどうも上司らしく、小声で何かを指示しながら、急いで袋に

食料を詰め込んでいた。

だが、この時、何かに激怒して、声を荒げはじめた上司に堪らず、名前を呼んだ。


「無い物は、無いんです、イーゴリ様」


その、何故か通る声を聴いた私達親子を、全員が無言のまま見つめると、彼らは、

その懐から短剣を取り出すと、殺気を全身に纏わり付かせて向かって来た。

間違いなく無く殺す気だ。

私は咄嗟に、後ろの地下室の扉を開けると息子を放り込んだ。


「お前も早く、地下室に!」


そう言って掴もうとした妻の手を、私は取れなかった。

ゆっくりと、私の足元に倒れた妻の首を短剣が貫いていた。


「あぁっ」


妻の目には、もう光は無かった、声を交わす事さえ出来ない。

衝撃で、妻の亡骸が地下室の扉を、塞ぐように倒れた。

まるで、ここからは通さないと、言う意思表示の様だ、なら、私だって。

私は左手で壁の、右手で扉の閂の金具を掴んだ。

こうすれば、私を殺しても簡単には地下室には行けないだろう。

あっと言う間に、奴らが殺到して来て短剣で体を切り刻んだが、もう痛みも無い。


(何も感じない、なんだ、私はもう死ぬのか、だが、この手だけは離さない)

(ハンナ、君を守れなかった、情けない男ですまない)

(そして、一人にしてゴメンよ、カナト)



「私は先に出るが、後始末は任せる、子供も必ず殺せ」

「はっ」


イーゴリと呼ばれた男は数人だけ連れて、足早に、家から出て行った。

残された六人の暗殺者達は、地下室の扉の前に陣取って死んだ父親の排除を行って

いたが、彼らの持つ短剣では、腕一本切り落とすのに、とんでも無く時間が掛かる


「くそっ!」

「斧か何か………………」

「面倒な所で……………」

「とにかく、子供を早く始末しろ!」

「………………一々五月蠅い」

「何だと!」

「………………少し冷静に………………………誰だ」


いきなり、部屋の中に気配を感じて声を上げた。

常に感情を抑え、最小限の言葉しか使わない様に訓練している暗殺者達だったが、

予期せぬ素人の、命を賭した抵抗に遭って、平常心を失くし、周囲を警戒する事を

すっかり失念していた。

そのせいで、いとも容易く直也達の侵入を許した。

つまり、その程度の連中だと言う事だ、一流とは程遠い。


 直也《遅かったか……………》

ユリア「酷い血の匂い………」

 直也《………………子供はどこだ?………………そこか》


暗殺者たちの視線が死して尚、我が子を守ろうとした亡骸に注がれる。

それだけで、全て理解出来た。


  直也《ルージュ、二階を確認して来い》

ルージュ《イエス・マスター》

  直也《こいつらは、直ぐ始末するんで、子供を頼みます》

 ユリア「任せて」

 

2m近い身長の人間の様な、何か違う物、そう認識したのが、彼らの最後だった。

幾多の罪の無い命を奪って来た暗殺者達はここで、積もりに積もった債権を容赦無

く、取り立てられた。

無理矢理にしろ、自発的にしろ、他者から奪う事でしか生きて来なかった者達は、

何一つ残す事無く、この世界から消え去った。


光として生まれたのに、いつの間にか穢れに染まり、闇に落ち、毒を撒き散らして

世界を蝕み、そして今、海のあぶくの様に、何の価値も無く消えてゆく。

彼らは、一体何のために死んでゆくのか。

生まれる事に、生きる事に意味など必要は無い、ただ命ある、それだけでいい。


だが、死は、死だけは違う。

死・だけがその生の意味を結ぶ物なのだ。

誰にも惜しまれず、悲しみもされず、その命が尽きる事だけを望まれる。

侮蔑だけが手向けなど、これ程、哀れな死が他に有るだろうか。


そして、その対極の存在がここにある。


ユリア「息絶えても尚、子供を守ろうとしたのね…………」

 直也《ああ、だから俺達が間に合った》

ユリア「これ以上、傷一つ付けたく無いわ」

 直也《わかった、任せろ》


掴んで硬直したままの手を痛めぬように金具を扉から強引に引き抜いた。

剣でさえ、片手でへし折る握力に木製の扉は耐えられず、音を立てて穴があいた。

そして、支えを失った父親はゆっくりと、直也に向かって倒れこんだ。


直也《立派な父親だよ、尊敬する》


ユリアによって助け出された幼い男の子が、横たえられた両親に縋って泣いた。

たった今迄一緒にいた両親の変わり果てた姿が受け入れられないのだろう。

あの連中を野放しにすれば、こういう光景が、そこかしこに出来あがるのは目に見

えている。

いずれ、壊滅させるにしても、今は準備が足りない、何もかも足りない。

そもそも、奴らの本拠地も構成員も判らない、先ずはそこからだ。

そして、もしこの子が望むのなら復讐の機会を与えてやりたい。

流した涙を刃に変えるなら、その望みを叶えてやりたい。

その取っ掛かりをルージュが持ってきた。


ルージュ《マスター・コレヲ》


差し出されたのは、商業ギルドの通行証だ。


直也《そうか、こいつらはエイラ王国から来たのか、そうか》


発行元はエイラ王国商業ギルド、ここからだと隣の公爵領を経由する必要がある。

残りの逃げた連中も、恐らくそこだろう。

やはり、準備と調査が必要だ。

だが、被害者は俺達じゃ無い。

復讐の権利を持っているのは、この子であり、この町の人であり、この国だ。


ユリア「ここから先は、カタリナの判断に任せましょう」




   長い領都の夜は未だ明ける事は無かった。



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