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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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別館襲撃



ユリア「来たみたいね」

 直也《こうも、ひねりの無い襲撃だと、つい、裏の意図を勘ぐってしまう》

ユリア「そうね、向うを無視して、全員が、ここを襲って来るなんてね」


直也達は、故意にカタリナが、暗殺されそうだと、欺瞞情報を流した。

そして、領主館に潜り込んでいた、調理場の下働きとのメイドを拘束して、兵士の

詰所で尋問を行った。

この場合、口を割らないのは想定内で、そんな事はどうでも良いのだ。

暗殺者を領主が捕縛して情報を得ようとしている、その事実だけが必要なのだ。

案の定、彼らはガチガチに防御を固めた領主館の襲撃を早々に諦めて、迎賓館用の

この別館に狙いを定めた。


 直也《ここに来てるのは捨て駒の下っ端だけだ、まあ当然だけどな》

ユリア「さすがに、上の連中は引っ掛からないか」

 直也《ああ、だが問題は無理矢理に協力させられている人達だ」


この領都にある、黒蛇のアジトは三つ。

いずれも、幼い子供のいる若い夫婦が狙われた。

まだ4~5才の子供を人質に取られ、服従を強いられたのだが、暗殺者たちの要求

は、夫婦が普通に生活した上で、存在を口外しない,詮索しない事だった。

無茶な要求はして来ない、偶に金銭の補助もある、大人しく要求を聞いて居れば

子供達は安全だ。


ユリア「良く考えられているわね」

 直也《ああ、特にあの責任者らしき男は別格だ、未だに名前も出て来ない》

ユリア「ここまで徹底的に身を隠してるなんて、普通じゃ無いわ」

 直也《何を隠し持っていても、おかしくない》

ユリア「子供を危険に晒せないわ、慎重に行きましょう」

 直也《勿論だ》


暫くして、町の灯りが殆んど消えた頃、塀を越えて来る複数の影を確認できた。

全部で16人、半数が建物の周りに分散し、残りが建物の中に侵入して来た。

一階にある機械だらけの部屋を抜け、二階へ上って来た。

そして、寝室のある部屋に、音もたてずに潜り込んで来た暗殺者達は、腰の短剣を

引き抜くと、揃って、部屋の真ん中の気配に向かおうとした。


直也《はい、いらしゃい、暗殺者諸君》


扉が閉められ、天井の灯りが点くと、部屋の中の異常な情景が、暗殺者達にも理解

出来た。

窓は全て灯りがもれぬ様に閉じられ、ベッドや家具の類が何一つ無い。

そして、彼らが戦慄した存在が二つ。


ユリア「あらあら、女性の部屋を訪問するのに、花束の一つも無いの?」


広い部屋の真ん中に、魔導士のローブを着たユリアが椅子に座っている。

ゆったりと背もたれに体を預け、脚を組んで、さあ隙だらけよ、と態度で挑発しな

がら、暗殺者たちを挑発した。


直也《全員武器を捨てて、覆面を取ってひざまずけ》


暗殺者にとっては、椅子に座る魔導士の女も脅威だが、それよりも部屋の扉を閉め

た存在が問題だった。

普通じゃない、人でもない、自分達では到底理解出来ない。

呼吸もしていない、つまり生物じゃない、だから気付かなかった。


(こんな事態は想定していない……)

(こいつは、どうすれば倒せる)

(殺す?壊す?無理だ)

(短剣は無理、毒も無理、どうする……)

(まだ、魔導士のほうが……)


一瞬、躊躇したが、二人が直也と正対すると、残りの六人は一斉にユリアを襲った

が、全て防御魔法陣によって防がれた。


ユリア「馬鹿ね~私の方が痛いのに、バレット!」

     

   「グゲッ」

   「ギヒッ」

   「ギャアッ」

「ゲギャァ――――――――――ッ」


青白い魔法陣から放たれた、小さな芥子粒程の礫は青い輝きを放ちながら、暗殺者

達の体を打ち抜いた。

体を穿った小さな穴は、周囲の肉を、骨を、内臓を焼き焦がしながら、反対側の体

に、大輪の薔薇の様な穴を開けた。

頭を、胸を、腹を打ち抜かれて、あっと言う間に絶命した。

一人、右足が太腿から消し飛んで、のたうち廻っているが、大量の出血量から見て

そう時間もかからずに絶命する事だろう。


 直也《おお、超高温圧縮に成功したのか、凄いじゃないか!》

ユリア「えへへへ、この旅の前にやっと完成したのよ」

 直也《これなら、コカトリスぐらい、余裕じゃないか?》

ユリア「もう少しかな、まだ狙いが甘いのよ、精度が足りない」

 直也《時間の問題だろう、さて、この二匹はどうする》


残っている二人の暗殺者は、ここで小柄な一人を直也に向かって突き飛ばした。


「へぶっ」


突き飛ばされた方は、何をされたか分らぬまま、直也に避けられて、部屋の壁に

間抜けな悲鳴と共に、顔面からぶつかった。

そしてその後ろを、影の様についてきたもう一人は、直也に向かって、短剣を振り

下ろしたが、そんな物には何の意味も無かった。


直也《つまらん攻撃だな》


避ける気も起きなかった直也は、微動だにせず、そのまま胸で受けたが、かすり傷

一つ付かなかった。

恐怖で狂った様に短剣を振り回す暗殺者は、あっと言う間に首を直也に切り落とさ

れたが、痛みを感じる暇も無かったろう。

生首は、悲鳴さえ上げる事も無く、壁にぶつかったもう一人の目の前に転がって行

った。

見開かれた目が、恨めしそうにもう一人の生者を見つめる。

そして、耐えられ無くなったのか、暗殺者としてはあり得ない事に、盛大に股間を

濡らして泣き始めた。


   「いや、いやだ、いやだ、死にたくない、死にたくないよぉ………………」

 直也《はあ?な、なんだ?》

ユリア「どういう事?」


直也もユリアも、その声を聴いて、初めてこの暗殺者が女の子だと判った。


直也《短剣を捨てて、覆面を取りなさい》

  「あ”ぃ…」


泣きながら、覆面をだけでなく、黒装束まで脱ぎ捨てた。

そこには、ぼろ布一枚だけ身に纏った十三、四歳ぐらいの女の子がいた。


ユリア「まだ、子供じゃない!」

 直也《子供を暗殺者に仕立てたのか、何てことしやがる》

ユリア「ああ、もう、参ったわね」

 直也《しかし、何で気が付かなかったんだ…………》

ユリア「この服のせいよ、無駄に大きく見える様に作ってあるわ」

 直也《くだらん事に技術を使いやがって………………》


とにかく、このままじゃ、話も出来ない。

ユリアがこの女の子に目線を合わせる様に、片膝を付いた。


ユリア「正直に答えて、名前と歳は?」

   「名前は527番、歳はたぶん、十三」

 直也《………名前が番号だと?………………》

ユリア「ナオ、落ち着いて、ねえ、あなた、両親は?」

   「いない、教主様が居るだけ」

ユリア「教主?暗殺教団てこと?」

 直也《恐らくな、教義に依存した連中は疑問を持たない、暗殺者向きさ》

ユリア「捕まったら、自害を選ぶとか?」

 直也《そう、どんなに、非道で無慈悲な事でも、平気で実行するんだ」

ユリア「ねえ、あなたは、どうして降伏したの?」

   「あたい、頭が悪いから、いくら言われても、なぜ死ななきゃいけないのか

    なぜ殺さなきゃいけないのか、分らなかった」

ユリア「良く無事だったわね……」

   「いっぱい殴られて、煙の部屋に放り込まれたけど、あたい頑丈だから」


ユリアがこっちを見て頷いている。

煙とは、恐らく麻薬の類だろうが、全く影響がある様にはみえない。

頑丈の一言で済む話ではない。

恐らくこの子は薬物耐性か状態異常耐性を持っている。

つまり、毒などで誰もが動けない状況下でも、この子だけが動ける。

恐らく睡眠薬も効かないだろう。

荒事の多い冒険者パーティーや護衛が仕事の近衛騎士など、喉から手が出るほど、

欲しい人材だ。


 直也《君はどうして、ここに来たんだい?》

   「怪我人が出たら担いで帰れって言われた、あたい、力だけは有るから」

ユリア「担いで帰る?」

 直也《それは口実だ、恐らく最初から肉壁にするつもりだったのだろう》

ユリア「最初から、殺すつもりだったのね」


恐らくこの子は、処分対象なのだろう。

死ぬ事を、殺す事を嫌がる暗殺者など、落ちこぼれもいいとこだ。

しかし、教団も状態異常耐性には気が付いていたのだろう。

ここまで、殺されずに生き延びているのは、何かの仕事に使えるかもと考えていた

からだ。

だが、成長するに従って、教義に従わない彼女が邪魔になって来たのだ。

だから、この機会に、と、考えたのだろう。


ユリア「ナオ、どうする?」

 直也《保護するしか、無いだろう》

ユリア「そうね、手も汚れていないし、心根も真っ直ぐだしね」

 直也《それと、色々情報も聞きたいしな》


直也にとって、子供とは、全てが保護対象なのだ。

そこには、種族の壁は存在しない。

今回も、彼女が生きて行けるようになるまで、手助けするつもりだ。


ユリア「あなたに聞きたい事が有るの、答えてくれる?」

 直也《安全は保障するよ》

   「あたいの知ってる事なら……」


それから色んな質問をしたが、やはり肝心の教団の場所や規模などは、知らされて

無かった。

それでも、色んな情報を幾つも重ねて行けば、おぼろげながら、暗殺組織の正体が

見えて来る。

もう少し物的情報でも有ればと、思っていると屋根の上のルージュから、連絡が来

た。



      《マスター・ニワノレンチュウ・ウゴキ・ガアリマス》




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