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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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商取引は因果応報



「この値段であれば買い取るぜ、どうする?」

「ふざけるな!先週の半額ではないか!足元をみおって!」

「先に足元を見たのはお前だろ」

「しかし、これでは仕入れ値にも………」

「こっちは別にあんたから塩を買う必要は無いんだ」

「くそっ、いい気になるなよ」

「売る気が無いんなら、さっさと王都にでも帰るんだな」

「………白鳳商会を敵に回して、ただで済むと思わぬ事だ」

「おたくらこそ、このまま、このパレイルに居られると思っているのか?」

「ぐっ………………………」


たった今、公都の老舗、白鳳商会の支店長であるヤムライは小売店の店主から屈辱

的な商談を突き付けられていた。

一昨日までのヤムライの悩みと言えば、如何にして領内の塩の値段を吊り上げるか

それだけだった。

それが、あの領主の妻が帰って来てから全てがおかしくなった。

昨日は終日、もたらされる情報の精査に追われていた。


「いったい、何が本当なんだ」

「わかりません、ただすべての荷馬車が満載で帰って来た事だけは本当の様で」

「くそ、このままじゃ、おれの店が………」


一方、買い付けに来たエイラ王国の二人の兄弟商人も困惑していた。


「売れないとは、どういう事だ!」

「売れないとは申しておりません、その金額では売れないと言っているだけです」

「だが、前回の取引に対して、この金額は高すぎる!慣例違反だろう!」

「可笑しいですねえ、その日の契約単価は、その日限りとしたのはそちらの御兄弟

 様でしょう」


独立以来、取引の度に、値引きを強引に押し付けて来た。

自分たち以外に買い手が居ないのが、わかっていたから、ここぞとばかりに買い叩

いた。

その時、契約単価は契約単価で、取引単価では無いと彼らは暴論を展開したのだ。

シュ・ビとシュ・オの兄弟は自ら天に唾を吐いたのだ。


「だが、無理に在庫を貯め込んで困るのはお前らだろう」

「いいえ、もう既にアダマンタイトは全て買い取って貰える契約を結んでいます」

「そんな馬鹿な事があるか!一体いくらになると思ってるんだ!」

「知らないんですか?カタリナ様が、お隣の国と同盟を結んだのを」

「初耳だぞ、そんな事」

「ああ、あなた方は昨日、到着されたばかりでしたね」

「………あの魔導士の国はそんなに金持ちなのか?」

「ええ、お陰様で、オリハルコや宝石や魔石も買い取って頂ける事になりましてね

 今、鉱山はお祭り騒ぎですよ」

「そんな、馬鹿な…………………………」

「倉庫を見に行かれてはいかがですか、すっからかんですから」


そして、その日の午後、彼らは領主の屋敷に押しかけた。

商人達の動きを、朝早くにユリアたちから聞いていたペトラは、余裕を持って対応

した。


 ペトラ「おや、皆さん、雁首並べて、どうされました?」

ヤムライ「どうもこうも、ゴルドラ金貨が使えないとは、どういう事だ!」

 ペトラ「はあ、やっと情報を聞きつけたんですか?たるんでません?」

ヤムライ「どういう事かと聞いている」

 ペトラ「あなた達も分かっているでしょ、ここ最近のゴルドラ金貨の出来が悪い

     事に」

シュ・ビ「だが、貨幣不足になるぞ、どうするつもりだ?」

 ペトラ「使用出来ないのは、ここ数年の物だけですから問題有りません」

シュ・オ「だが、実際に今持っている分が有るだろう」

 ペトラ「手持ちの金貨は、これに交換していますから」


ペトラは、胸ポケットから、金貨を一枚取り出してテーブルの上に置いた。

三つ首竜の刻印がある、その真新しい金貨の輝きは、高い純度を約束している。


ヤムライ「おお、なんと、見事な………………」

 ペトラ「これは、隣国ドラゴニアで今後、流通する金貨です」

シュ・オ「では、俺達も早速」

 ペトラ「はあ?あんたらの金貨を交換しやる義理は無いわよ、何言ってんの?」

ヤムライ「きさま、ふざけるなよ!」

 ペトラ「ああ?何で散々苦しめられた相手にそんな事するのよ」

ヤムライ「不公平だと言っているんだ」

 ペトラ「不公平?公平な事など一度も無かったくせに、どの口が言っているのさ

     ふざけんなよ」

ヤムライ「むぐぐぐ」

シュ・ビ「いや、俺ら、それだと仕入れも出来ない」

 ペトラ「大方、ボロ金貨ばかり持ち込んだんでしょう」

シュ・オ「だが、しかし………………」

シュ・ビ「そ、そこを、何とかなりませんか」

ヤムライ「こんな事を一方的に宣言されても、困る」


自分たちも、ここ最近の混ぜ物だらけの金貨に気がついていて、早めにこのガルム

領で、商品に変えようとしていた。

シュ兄弟などは、今回、ボロ金貨を一割引きで買い集めていた。

仕入れで儲けて、その上、払いで更に一割儲けようとしたのだ。


ペトラ「嫌なら、取引しなければいい、あんたらが私に吐いた言葉だ」


今までペトラは、何度も彼らに商品の値上げを思いとどまるように、頭を下げて、

懇願して来た。

それを、まともに取り合わなかったのは、彼らだ。


ヤムライ「図に乗るなよ、獣人風情が………………」

 ペトラ「へえ、自分の店が消し飛ぶ寸前なのに、威勢のいい事で」

ヤムライ「なんだと………………」

 ペトラ「公都の紅玉商会も公爵領のドノバン商会も朝一で私に商品を叩き売って

     本店に戻って行ったわよ」

ヤムライ「あいつら………………」

 ペトラ「商人としての格が違うのよ、貴方とでは」


紅玉商会は、公国で最も大きな商会で、王室御用達の看板を持って紅玉の名を頂い

ている。

新参者の白鳳商会とは違い、手堅い商売で今まで生き残ってきた。

老舗の凄みと言うべきか、支店長のガランサスと言う老人は、今回の騒動を聞いた

途端にすぐさま、撤退を決めた。


「何が有っても関わりを持ってはならん、ガルム店は捨てる」

「支店長、何もそこまでしなくても」

「馬鹿者!黒の魔導士が来た時点で、どんなとばっちりを喰らうか解らん」

「そんな、おれ、何もしてませんよ」

「相手の事を何も知らないで、そんな事を言ってる時点で話にならん」


支店長のガランサスは今回、黒の魔導士の第六席が使節団として来ていると聞いて

即座に、このパレイルからの撤退を選んだ。

公国と獣人達の諍いも知っていたが、行っているのは商業活動であって、武力行使

でも、破壊活動でも無い。

慎重に行動すれば、良いだけの話だ。

だが、魔導士が絡むとなると、話は別だ。

公国と寂寞せきばくの戦いを、詳しく聞いた後、その内容の凄まじさに心の底から、

恐怖を覚えた。

個人が倒せる兵士の数では無い、常軌を逸している。

魔導士を人間に分類しては駄目だと、全く別の存在だと思う事にしたのだ。


「ドラゴンがくしゃみをすれば、人間は山の向うまで吹き飛ばされる」


そう言って、ガランサスは部下達の荷造りを急がせた。

実際、ユリアの傍には、その寂寞せきばくより厄介な存在がくっついているのだ。

指示は見事に的を得ていた。

そして、もう一つのドノバン商会のカルロスは、最も商人らしい理由で撤退した。


「一刻も早く在庫を処分するんだ、最悪、元値でも構わん」


聞こえて来た金貨や条例の話をきいて、カルロスはこの国での商業活動を諦めた。

さらに呆れた事には、ある種の在庫を、白鳳商会に格安で売りつけていた。

それは、薪や炭、安価な家具や建築資材など、輸送に多額の金がかかる物だ。

そして、高価な商品だけを持って公爵領に引き上げた。


 ペトラ「言っておきますけど、もう買い取りませんよ、倉庫一杯なんで」

ヤムライ「あいつらだけ不公平だろ!うちの在庫も……」

 ペトラ「へ~、獣人風情に頼むんだ~、恥かしく無いんだ~」

ヤムライ「お、おのれ………………」

 ペトラ「どうぞ、お引き取り下さい」


しつこく騒いぐ奴らが煩いので、とっとと退出するように促した。

我が国を、ただの餌場にしか見てなかった奴らに、情けなど掛けない。


シュ・ビ「ふざけるなよ!クソ兎!」

シュ・オ「このまま引き下がれるか!」

ヤムライ「ただじゃ、ただじゃ済まさんぞ………」

 ペトラ「ヒッ、」


このままだと、大損する未来しか見えない彼らは、何を血迷ったのか、椅子から

立ち上がると、ペトラに詰め寄ろうとした。

幾ら相手が商人だとしても、小柄なペトラにとっては、十分脅威だ。

とっさに、逃げ出そうとして、椅子から腰が浮いた途端に、横の扉が開いた。


カタリナ「うちの大事な財務官に、何するつもりだい?ああ!」

ヤムライ「ひいっ」

シュ・ビ「げえ」

シュ・オ「領主……婦人……」

カタリナ「死にたいんだな?死にたいんだろ?死なせてやるよ?さあ死ね!」


もと近衛兵だったカタリナは、180近い高身長と未だに鍛え続けている肉体を持つ

一児の母で、そこいらの兵士など、歯牙にもかけない武力を誇る領主婦人だ。

そのカタリナに凄まれては、生きた心地はしないだろう。

なのに、さらに追い打ちを掛ける存在が入室して来た。


ユリア「駄目よ、斬り殺したら、血で汚れるじゃない、私が焼いてあげるわ」


片や剣を片手に、片や頭上に魔法陣を展開させている女を見て三人共、転がる様に

部屋から逃げ出した。


 ペトラ「助かりましたけど、何でここに?」

カタリナ「いや、お茶してたら、怒鳴り声が聞こえたから」

 ユリア「そうそう、いい加減、暇だったんだもん」

カタリナ「もう少し、粘ってくれれば良かったんだけどね」

 ユリア「だよね~、脅しただけで終わっちゃった」

カタリナ「やっぱり、魔獣を狩りに行った方が良かったかな?」

 ユリア「う~ん、でも遠いから日帰りは無理でしょ」

 ペトラ「………………いつから、そんなに仲良くなったんですか?」

カタリナ「そりゃあ、お互い姑になるかも知れない訳だし」

 ユリア「仲良くしとかないとね~」


この時点で商人達は全てケリが付いた。

残るは、この町に潜伏している暗殺者の処理だけだ。



「黒蛇の毒などと、ふざけた名前をらしいわよ暗殺組織、笑えるでしょ」


そう告げられたカタリナは、暗殺者を芸人ぐらいにしか感じていないユリアに呆れ

るしか無かった。



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