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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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復讐代行

≪お前、魔王だったのか≫

≪いずれ、そう呼ばれる事になるだろうな。今はアルでいい≫

≪何かするのか?≫

≪ああ、元居た世界でな。俺もお前と同じ復讐者だ≫

≪……そうか≫


ほんと、こいつといい、あの人達といい、余計な事を一切聞いて来ない。

とても居心地がいい。


≪取敢えず、確認だ。あいつらが地獄に落ちるのを直接見たいのか?≫

≪見たい。だが、お前に負担は無いのか?≫

≪まあ、大したことは無いが、お前の方が問題なんだ≫

≪俺か?≫

≪肉体から精神だけ分離するんだ。普通なら散歩程度の負荷だが、今の

 お前だと、致命傷になり兼ねない。≫

≪あいつらの破滅する姿を見れるなら、その場で死んでもいい!≫

≪その一瞬さえ保障は無い。更に分離中に体が移動させられたり、衝撃を

 受けると、強制的に引き戻される。以外と制約が多いんだ≫

≪どうにかならないのか?≫

≪雑魚共は俺が適当に処理して、主犯格は、なるべく一か所に集めてから

 いっきに処分。たぶん、これが一番負担が少ない≫

≪ああ、それでいい、あいつらが地獄に落ちればそれでいい」

≪何とか、やってみるさ≫

≪無理はしないでくれ、復讐の可能性が出た、今の俺には其れだけでも、

過ぎた希望なんだから≫


【そうだ、俺は今にも死にそうな、くたばりぞこないだった。自分では

何も出来ない役立たずが、何を贅沢な…】


≪…ふざけんなよ……≫

≪えっ≫

≪ふざけんな!何が過ぎた希望だ!ふざけんな!ここ迄、何もかも奪われ

 て。散々理不尽な目にあわされて、何言ってやがる、誰にも遠慮なんかす

 るんじゃねえ!≫

≪……アル……」

≪弱気になってんじゃねえぞ!今度は、お前が断罪者なんだよ!≫

≪すまん≫

≪謝ってんじゃねぇよ!見てろよ、今から順に地獄へ叩き落としてやるか

 ら、お前は此処で死なない様にがんばってろ!≫

≪わ、わかった≫



ネットワークの海を移動しながら、この町のあらゆる情報端末から伊沢と言

う警察官を洗い出す。

ああ居た居た。

56歳?巡査長?ああ離婚してるのか。

現在地は…此処か、住所はマンションの8階か、なんだ家に居るじゃないか、

まだ勤務中だろうに。

まあいい、好都合だ。


部屋を伺うと電話で金の無心をしている最中だった。

相手は,新井 翔太の父親のようだ。

競馬で負けたから金の無心ね、なるほどこいつは色々知ってそうだ。

携帯電話片手に競馬新聞を見ている伊沢の後ろから短剣を喉元に突き付けた。


「動くな!騒ぐな!殺すぞ!」

「ひゃい!」

「両手を後ろに回せ」

「ひゃい!」

「今から幾つか質問する。嘘をついたらお前の体から色んな物がなくなるぞ」

「ひゃい!」


こいつ、腰を抜かしてやがる。

本当に警官か?

両手を後ろ手で拘束してから、短剣を喉元から離した。


「あいつの妹の暴行にお前も加わってたのか?」

「…俺は手を出してない」


   シュッ  ポトッ


「ぎゃあぁぁ‼」

「あ~あ、嘘をつくから、右耳が落ちたぞ」

「うっ、嘘じゃ、ない」

「こっちは、殆んど情報を持ってるんだよ、答え合わせをしてるんだ」

「そ、そんな…」

「いいか、此れは質問じゃない。尋問だ。判ったか、このド変態野郎」


此れで心が折れたのか、それからは、素直に答えた。


※ 神社のある土地が工場予定地の真ん中に有った事。

※ 販売に応じない神主の祖父と父親を新井夫婦が溺死させて殺した事

※ 自分と今の署長とで、酔っぱらった事故と無理やり、処理した事

※ 新井の役に立つ警官は定年後、新井の会社に天下りする事

※ 苦情やトラブルは、子会社の本田組が非合法に処理していた事

※ 15年の間に逆らうような住民が誰も居なくなった事

※ 社員の半分以上がよそから来た新興宗教の信者である事

※ 宗教団体を隠れ蓑にして輸出禁止品を隣国に流している事


何だこりゃ、町自体がでっかいシロアリの巣じゃないか、全部駆除だ駆除!


「今から新井に電話しろ。怪しい連中が病院に来たと、もしかすると公安

かもしれない。とな」


新井への電話は、大根役者も甚だしいが、其れが逆に現実味が出たのか

電話の向こうの焦りが良く判る。


「次は本田組だな。こっちは、本庁の連中が嗅ぎまわっているから全員で

隣町の廃ビルに隠れている様に連絡しろ」


こちらは、親方と3人でワンボックスカーに食料を買い込んで隠れると。


「お前、通帳類と犯罪の証拠に繋がる物を持ってるだろう、何処だ?」

「い、いや、それは…」

「お前みたいな小心物が保険を掛けないわけが無いんだよ、出せ‼」


隠してあったのは、座っているソファーの中。隠し場所はポンコツだが

中身は警察庁上層部総辞職級だ。


「最後は署長に連絡しろ、捕まって尋問されてます、助けてって」

「…わか…りました…」

「あっ、署長、助けてください!家に暴漢が侵入してるんです!

 耳もきられました。あの死にぞこないの仲間です!一人です!」

「ちょっと脚色してるけどまあいい」

「ふ、ふふぇ、すぐ、に助けに来る。あ、あやまる、ならいまだぞ」

「今から死ぬやつが何言ってんだ、このゴミムシが」

「えっ」

「お前、俺の事なんだと思ってたんだ?まさか一般人とでも思ったか?」

「う、うっ、浮いてる…化け…物…」

「後がつかえてるんだ、すぐ地獄に送ってやる。感謝しろ」


今、俺は男の首根っこを掴んだまま、ベランダの外に差し出した。

さっきから必死に命乞いする声が聞こえるが無駄なことだ。


「下のゴミ置き場を見てみろ、誰が捨てたんだろうな、あんなもの」


そこには、粗大ごみに紛れて突っ立ってる2m程の鉄筋が数本、

何か魔王を自称する男がせっせと用意してたらしい。

なんて親切な人だ。

それに引き換えこの男は、泣くわ、喚くわ、漏らすわ、本当に迷惑だ。


「さあ、今までお前がばら撒いた罪を回収しようか、苦しんで死ね」


30mの高さから落下した男は口から鉄筋の棒を生やして絶命した。

モズの早贄、変態屑人間バージョンの汚いモニュメントが完成した。

残念ながら、即死の様だが仕方が無い。

取敢えずシートでも掛けておくか、後がつかえている。

次は署長の家だ。


書斎で証拠の通帳を確保したが、この男、何で署長に成れたのか判らない。

あの伊沢の通帳は毎月60万円の振り込みが有るのに、こっちは3万円。

さらに、全く引き落とした形跡も無いし、他に証拠らしき物も無い。


たった今、帰って来たとたん、妻や孫を探し回って無事を確認している。

こいつは面倒事には目も耳も閉ざし、自己保身に腐心する驚く程の小物だ。

直接手を下す程でも無い。


それから一旦病院によったが直也の病室はは何やら薬だ注射だと酷く慌て

た医師がいた。腎臓だとか多臓器だとかの言葉が時折、飛び交っている。


見ただけで判る。こいつの命の火が消えかかっている事が。


≪おい、聞こえるか?おい!≫

≪……ぃ………う…………≫

≪くそっ、もう意識が、どうする、何か無いのか、何でもいい、何か≫


こんな投薬と生命維持装置だらけの状態で回復魔法など掛けたら拒否反応

を起こして即死だ。


世界最高水準を誇る国の医療が、あちらの世界で最強の座をほしいままに

した若き魔導士が、揃って敗北しかかっていた。


絶望的な状況、それでも、この男の死を容認する事が出来なかった。

何か無いのか?偉そうに魔王などと称したじゃないか、ここで、この命を

取りこぼしたら、俺は神にも劣る。


そして、唐突に頭に浮かんだのがポーション。

何処にでもあるごく普通の薬草から作られる、治癒魔法の遥か下位互換。

あちらでの価格はわずか、小銀貨3枚、ちょっと贅沢な夕食程度で珍しく

も無い。

効果の低さから、見落としていたが、ポーションは液体で効果は弱い。

しかし、あの点滴の中身より効果を期待できるのでは?。

賭けになるが、やってみる価値は有る。

とにかくもう後がない、隙をみてポーションを輸液にまぜこんだ。


「先生!バイタルが安定しはじめました!」

「計器はこのまま今の状態を確保して!」

「心拍数30、血圧55、共に上昇中です!」

「よし!よし!もう大丈夫だろう、みんな、お疲れさん」

「「「よかった~」」」


どうやら賭けには、勝ったみたいだし、もう、他の連中を始末をつけに

行っても、しばらくは心配無いだろう。

なにせ此処には、こんなにも心を寄せてくれる人たちがいるのだから。


暖かくなった心を携えて廃ビルに来たが、気分は一気に急降下だ。

一体何をしているんだこいつらは。

3人の内、一番若い男の彼女?が付いて来た?本田ともう1人(本田の息子)

が無理やり関係を持った?やるだけやったんだから金払え?昨日入ったば

かりの下っ端の女に払う金は無い?ブチ切れた下っ端と女が車を盗んで、

今出ていく所?二人ともまだ未成年だろうに。

   

    なんじゃこりゃ


この本田という男、只、本能だけで生きてる頭の悪い家畜だ。

与えられれば喰らう、疲れれば眠る、目の前に女が居れば犯す。

金という餌を貪る、粗暴で法律も倫理観も理解できない肥え太った豚だ。

こいつらから逃げ出した二人は、まだ死ぬ時期では無いのかも知れない。


車が廃ビルを出たとたん、轟音と地響きを立てて一瞬で建物が崩れ落ちた。

やり方は至って単純。

一階部分を一気に魔法で砂に変えただけ。

時間に余裕があるわけでは無いので、とっとと終わらせるに限る。

2階に居た二人は、まあ形が残っていれば、幸運だろう。


そして、図らずも命びろいした二人が、この巡り合わせの奇跡を糧にす

るか、ドブに捨ててしまうのかは、彼らの自由だ。


集まって来る赤色灯を後に向かった先は新井の工場、その中にある3階

建ての事務所とその社長室。

もうすでに夜9時、人気は無い。

上手に隠したつもりの金庫の裏帳簿。

中身は…会社なくなるんじゃね?

高度技術汎用品の密輸出、脱税、贈賄、不法就労、密入国…どんだけ

出て来るんだこれ。


とりあえず、この分は公安警察さんへ、伊沢達の分は警察庁さんへ

ダイレクトパスだ。

一々郵便とか宅配便とかやってられるか。

何処から現れたのか大騒ぎしているが、俺は知らん。

今まで気が付かなかった怠慢のつけだ。しっかり悩め!



「さあ、最後の仕上げ。新井の家族たちは地獄の舞踏会に強制参加だ」


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