移民団
デクシス「ただいま~、アル様、お客様連れて来た!」
そう、声を掛けられて、慌てて、玄関に出て見れば、ありったけの荷物を積んだと
思われる、数十台もの大小様々な馬車の列の先頭にデクシスが居た。
「お帰りデクシス、まず説明してくれ、ジューヌのぶら下げているのは何だ?」
紐でぐるぐる巻きにされた挙句、猿ぐつわまでされて、うぞうぞ動いている、その
物体を指差して問いかけた。
俺はこのジューヌがぶら下げた物体の正体に心当たりが有る、と言うよりも知って
いる。
デクシス「いきなり抱きついて来たから、動けなくした、怖かった」
「はあ、事情は分かった、で、何してるんだ?スクナ」
スクナ「もがもがもが」
「はあ、解いてやってくれ、ジューヌ」
ジューヌ《イエス・マスター》
そして、俺は自由になったスクナの前で仁王立ちして、絶賛、お説教中だ。
「なあスクナ、お前の役目は村人達を纏める事か?それとも男を襲う事か?
大切なのはどっちだ?」
スクナ「ええっと、村の人達………です、えへへへへへへ、ごめんちゃい」
「まったく………」
ポリポリ頭を掻いているスクナの後ろには、狐人族の集団と、それに続く種族混成
集団がいた。
三十人程の狐人族たち、これは間違いなくスクナの一族だろう、カラガスの冒険者
ギルドで雇った、飛燕の翼と言う冒険者パーティーが護衛に付いている。
そしてその後ろの混成集団には、自分達から俺に護衛を売り込んで来た大鷲の爪と
氷の細剣と言う二組の冒険者パーティーが付いていた。
「俺達、魔獣なら平気なんですが、人間はちょっと」
「パーティーメンバーには女性もいるんで」
「メンバーの半分は獣人なんで、適役だと思うんですが」
「実は、隠れて活動してたもんで、懐がちょっと………」
などなどの理由と、銀月の連中の推薦も有って、護衛を任せたのだが何処かで合流
したようだ。
恐らくモス大橋辺りだろうが、そのおかげで、旅はより安全な物になっていた。
集団が大きければ大きい程、Dクラスの魔狼や、それ以下の魔獣は寄って来ない。
そうなれば、滅多に出くわさないCクラスの魔獣さえ警戒すればいい。
「「「護衛任務、完了しました!」」」
「ああ、ご苦労さん、今日はゆっくり休んでくれ」
それから彼らは、依頼の達成料を貰いに、新設したばかりの冒険者ギルドに入って
行った。
今なら、銀月の連中も酒場で、たむろしてる筈だから、丁度いいだろう。
ちなみに、竜の巫女たちは、近くの森で植物採集の依頼をこなしている。
直也《長旅だったんだろう、まずは休んでもらおう、話は後だ》
「そうだな、取り敢えず、今日は役所の大広間に泊まって貰おう」
直也《細かい決め事は明日で良いだろう》
ユリア「ねえ、食事はどうするの?」
直也《この人数だ、屋外でビュッフェ&BBQにしよう》
デクシス「BBQ!やったー!」
モルナ「ちゃんと手伝ってよね、デクシス」
デクシス「もちろん,!任せろ!」
ユリア「色気より食い気みたいね、デクシスは」
こうして歓迎会の為の、食事の準備が始まったが、時折、異空庫から食材や調味料
を出す以外、料理と言う分野では全く役に立たないアルとユリアは、移民達の誘導
と健康チェックに回ってもらっている。
ちなみに、リリ達子供組もアルにくっついてお手伝いのまね事をしている。
まあ、子供達の遊び相手としては、十分役に立っているのでアルよりマシだ。
カタリナ「獣人の移民を受け入れているのですか?」
直也《ああ、旧ドラン王国の人達だ》
カタリナ「よく、聖王国の目を搔い潜れましたね」
直也《理由が有るのさ》
カタリナ「差し支えなければ伺ってもよろしいでしょうか」
直也《ああ構わない、アルの奴がドランの旧王都に巣食ってた聖王国の下っ端
簾中を、纏めて叩き潰した》
カタリナ「はあ?」
直也《冒険者ギルド・カラガス支部からも、聖王国の連中を一人残らず叩き出
したから、今あの地域の勢力図は急速に変化している》
カタリナ「め、滅茶苦茶ですね」
直也《遠くない内に、旧ドラン王国から、あの連中を残らず叩き出す》
カタリナ「壮大な計画ですね」
直也《そうでも無い、聖王国の王都だけなら、俺とアルとユリアで落とせる》
カタリナ「なぜ、そうなさらないのですか?」
直也《害虫や病原菌は、取りこぼすと、別の場所で繁殖するからだ》
実際、三人で王城を急襲すれば、落とせるるかも知れないが、怪しい暫定政府やら
正統政府やらが、そこら中に乱立して、余計に手間が掛かる事になる。
この、アルギス公国から分捕った、この地域も聖王国の連中が散々略奪した挙句に
滅茶苦茶にして逃げ出したため、完全な無政府状態になっていた。
だから、こんなに簡単に掌握できたが、これからは違う。
直也《出来れば、旧ドラン王国の王族が生きていたら良いのですが》
カタリナ「わざわざ、聖王国を追い出した上に国を譲るのですか?」
直也《ええ、面倒なんで、出来れば丸投げしたいですね》
カタリナ「無欲というか、何と言うか………」
直也《アルもユリアも同じですよ、基本、怠け者だから》
カタリナ「面倒だからって、一国を放り出すんですか?」
直也《ええ、間違いなく》
カタリナ「私の常識が………………………」
直也《早めに、破棄された方が良いでしょう》
そんなやり取りをよそに、食事の準備は着々と進んでいった。
特に、マレーナやジリエの御婦人方の手際の良さは格別なものが有り、作り置きが
出来る物から、どんどん大皿に盛られてゆき、小麦から、ナンもどきも作った。
そして、やはりメインは肉だろう。
ユリアの異空庫からラッシュブルを丸々三頭、外にもグランドリザード等を片っ端
に捌いてゆく。
もちろん、香辛料も用意してある。
急遽作った大型の四角いグリルを幾つも作って、大きな肉の塊から焼き始めた。
途端に、漂い始めた食欲を刺激する匂いが、広場中に広がった。
こうなると、冒険者ギルドや冒険者たち、大広間で休息している移民達も、頭の中
は食事だけになってしまった。
もう会話もくそも無く、食事の合図を待ち続けて、きもそぞろになっている。
門番の老人達も、竜の巫女たちのパーティーが戻ると、早々に門を閉めてしまった
そして、やや西の空が赤くなり始める頃には、全員が一人残らず広場に出ていた。
「みんな、まずは飯にしよう、好きな物からくってくれ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「ごちになります!」
「いただきます!」
「わあああ、肉だああ」
移民たちは少しだけ、逡巡したが、子供達と冒険者達が遠慮なく料理に飛び付いた
様子を見て、安心して肉を手に取った。
「う、うめえぇぇぇぇぇぇ」
「こんな美味い肉、初めて食った」
「お肉が、じゅって、じゅって、ああ、もうどうしましょう」
「うまあぁぁぁぁぁぁぁい」
まあ、今まで料理に香辛料を使うなど、思いもしなかっただろう。
だから、この暴力的な肉の香りと味に、誰も彼も翻弄された。
いつも、上質な食事を取っている筈のカタリナ達まで、夢中になっていた。
ユリア「何とも締まらない挨拶だったけど、みんな満足そうなので合格かな」
直也《アルならこんなもんだろう、十分さ》
「おまえら、もう少し優しくしてくれても良いだろう」
ユリア「甘えたら駄目よ」
直也《甘えたら駄目だ》
「お前ら………………」
暫くして、夕闇と篝火が美しい対比を見せ始めた頃、困った男の子の声がした。
デクシス「仲良くしようよぉ………」
モルナ「この雄は私の物なの、気安く触らないで!」
スクナ「ひとり占めはずるいぞ!」
アリシア「胸ですか?大きいからですか?大きければ独占して良いんですか?」
何やら可愛くて、それでいて非常に厄介そうな会話が聞こえて来た。




