最小存続可能個体数
「デクシスは、沢山の妻を持っても良いと思う」
ユリアの投下した爆弾に全員が固まった。
直也《いったい何を言ってるんだ!》
ユリア「言い方が悪かったわね、デクシスにその権利を意識して欲しいのよ」
「それでも可笑しいだろう」
ユリア「今は状況が違うと思うのよ」
カタリナ「確かにそうですね、今はうちの国でも、問題になりつつあるわ」
直也《問題とは?》
ユリア「多分、価値観の問題なんだけど、古来、この大陸で一夫一婦制を明言し
ているのは、ドワーフの国、グード王国だけなのよ」
カタリナ「近年では一夫一婦制が常識みたいになってるけど、祖父や曾祖父の時代
では、割と沢山いたみたいね」
ユリア「理由は只単に男と女の比率が釣り合ってたからなの」
直也《その比率が変わってしまったと?》
ユリア「そう、聖王国が起こした侵略戦争のせいで、男の数が激減したわ」
カタリナ「それで無くても獣人は、何故か女の子の出産比率が高いのに」
直也《ああ、それは恐らく環境に適応した為だろう、種の保存本能だ》
カタリナ「環境?種の保存?」
直也《一人でも多くの子孫を残すためさ、女が増えれば子供が増える、でも雄
なんて一人いれば事足りる》
「男は種馬って事か」
サナ「アル様?」
微妙にサナからの圧が来るが、気にしたら負けだ、気にしたら飲み込まれる。
ここは、淡々と対処するのが、正解に違いない、きっとそうだ。
「自然の摂理だな」
ユリア「上手く逃げたわね」
「はて、何の事やら」
カタリナ「どういう事ですの?」
直也《例えば、狼人族を一つの集団だとした時、出生比率が同じだと、厳しい
環境下では、個体数が減少し続ける、そして減界を越えると、その種は
滅ぶ、この限界点を最小存続可能個体数と言うんだ》
カタリナ「最小存続可能個体数、それを切ると滅ぶ…………」
直也《ええ、ゆっくりと滅亡に向かいます、何か気になる事でも?》
カタリナ「近年、急速に数が減ったのか、殆んど見かけない種族がいるのよ」
アリシア「もしかして、マリちゃん?」
ユリア「少数族なの?」
カタリナ「ええ、貂人族よ、娘の友人で私は3家族しか知らないわ」
貂人族がここ迄、数を減らしたのは、ひとえにその美しさにある。
そのせいで、昔から、何とか奴隷にしようとする権力者が後を絶たずに、ひたすら
逃げ回っていた歴史がある。
当然のことながら、長く一ヶ所に定住できないのだから、人口は減る一方なのだが
それに加えて、昨今は、中々、子供もできないらしい。
直也《まずいな、それ血が濃くなり過ぎたんだ、早く手を打たないと駄目だ》
「しかし、どうする?打開策はあるのか?」
直也《新しい血を探すしか、方法は無い、しかし幸い獣人族は全て母親の種
が優先される、新しい家族さえ、見つかれば可能性は有る》
カタリナ「どうにかなりませんか?あなたのお力で」
直也《さすがに、無理だが、何で俺?》
カタリナ「神の如きお力をお持ちだと、シュゼムが言っておりました」
直也《いや、誤解だから!そんな力は無いから!》
カタリナ「それは、大変失礼いたしました」
ユリア「戦闘に関しては、そうかもね~」
直也《面倒だからまぜっかえすなよぉ》
モルナ「直也様、ユリア様、話がずれてます」
珍しく、モルナが痺れを切らしたようだ、まあ、そうだよね。
ユリア「そうね、それで、最初に戻るけど、一夫多妻を容認する事にしたいの」
「それは分かったが、一体、デクシスに何をさせたいんだ?」
直也《同感だ、それに俺にとって二人は特別だ、強制などは絶対にさせない》
ユリア「わかってるをよ、そんな事、二人の気持ちが最優先よ」
「でも、何でデクシスなんだ?」
ユリア「違うわよ、ここで考えて欲しいのはモルナよ」
モルナ「ええっ、私ですか?」
ユリア「そう、いい、これからは、どんどん女がデクシスに寄って来るわ」
カタリナ「確かに私も、話だけで娘を連れて来ましたから」
モルナ「はい、覚悟はしてます」
ユリア「問題は、二人が常に一緒に居ない事なの」
デクシスは剣に生きる事を決めている。
このまま行けば、恐らくこの国の国防を担う事になるだろう、一方、モルナの夢は
果樹園を作り、亡き父母の生き方を受け継ぐ事で、もう既に動き始めている。
直也《ああ、そういう事か、なるほどな》
「一人で納得するなよ、説明しろ」
直也《つまり、寄って来る女除けに、モルナが気に入った女の子をお妾さん
にしてはどうかと言う事なんだ》
ユリア「そういう事、でも、あくまでモルナの考え次第よ」
モルナ「私の考え…………」
ユリア「何も、急いで答えを出す必要は無いの、ゆっくり考えればいいわ」
「ああ、五年でも十年でも構わんさ、モルナの好きにすればいい」
直也《勿論、断っても全く構わない》
その後、この話は一旦棚上げにする事になった。
あくまで、モルナの考え次第だから。
でも、誰もデクシスの意見を確認しようと、しないのはどうしてだろう。
まあ、まだやらなければ、ならない事が残っているので、無視でいいだろう。
ユリア「お待たせして申し訳無いわね、取引を始めましょうか」
直也《待ってました!》
「はあ、何がそんなに嬉しいんだか………………」
ユリア「まず、支払い条件なんだけど、ゴルドラ金貨か我が国の金貨、あと金塊
かのいずれかを選んで欲しいの」
カタリナ「この国の金貨とは?」
ユリア「これよ」
テーブルの上には、ユリアの出した金貨が数百枚積まれた。
「「おおおおおおおおおおおおおおお」」
チェスとクーパの二人が感嘆の声を上げた。
直也《いかがかな、中々の出来だと思うんだが》
「どうぞ、手に取って下さい」
直也《純度は100%、混じりけなしの純金製だ》
カタリナ達三人は、それぞれ手に取って懐から出した旧金貨と比べては、隅々まで
確認している。
カタリナ「見事としか、言いようが無い程、素晴らしい金貨だわ」
チェス「まるで美術品ですな、これは」
カタリナ「これを、量産すると言う事ですか?」
直也《ええ、取り敢えず2,000枚程は制作済みです、後は順次制作ですね》
カタリナ(どうする、この金貨は間違いなく純金だ、今までの物より間違いなく
上質だが、果たして一般に受け入れられるのか、国によっては、拒否
されるのではないか・・・いや、利に聡い商人なら、この金貨の価値
を正確に見積もるだろう、恐らく近年、品質の低下が著しい旧金貨は
流通しなくなるかもしれない、それに今、この国には力がある。まず
間違いなくこの国では、新金貨が流通する、ならその勢力圏に我が国
ごと入れば、何の問題も無い)
カタリナ「新金貨での取引を、お願いしたい」
ユリア「確かな目をお持ちの様で嬉しいわ」
チェス「さすがカタリナ様!御英断です!」
直也《では、オリハルコンはどれ位持って来て頂けたんでしょうか?》
カタリナ「馬車3台分、約1500㎏、希望価格は金貨300枚(約三億円)で」
直也《ユリア?どう?》
ユリア「相場からすると、少し安すぎね、追加で後、五十枚払うわ」
カタリナ「ですが、我が国では、不良在庫でして………」
「カタリナさん、同盟も5分です、取引も5分にしましょう」
カタリナ「あ、ありがとうございます」
以降は順調に取引は進んで、荷馬車の積荷は全て空になった。明日は街道を南下
して、クムの街からテリブルの街まで足を延ばすらしい。
夕方近くになって、皆が、そろそろ夕飯の準備に掛かろうかとした頃、デクシス
とジューヌが、街道巡回から帰って来た。
「ただいま~、アル様、お客様連れて来た!」
今日と言う1日は、まだまだ終わりそうに無かった。




