大蔵省と造幣局
「おせーよ」
直也《いや~、色々あったんだよ、仕方ないじゃないか》
「で、その理由が、後ろの女の子か?」
直也《正~解~》
ユリア「名前はエマ、中々の人材よ」
エマ「初めまして、国王様」
「………国王はやめてくれ、そうだ、冒険者ギルドはどうだ?」
ユリア「事務仕事ね、良いんじゃない?エマはどう?」
エマ「はい!よろしくお願いします」
その後、エマをサーシャさんに丸投げした。
素人が口出ししない、専門家に任せる、これ大事な事だと思う。
立場が上位の者は、指示や発言に注意するべきだとユリアに言われて、国王に
なんぞに、なりたくねえ、と、ぼやいていたら、呆れられた。
「で、サイレージ海王国の船を取り逃がしたと?」
直也《ああ、火力不足ってのも有るが、やっぱり相性だな》
ユリア「それでも、三隻は沈めたわよ」
今、三人は大きな円卓が置かれている一室にいた。
ここは、直也が作り上げた王宮もどきで、見た目も中身も、どこぞの市役所
と、ほぼ、同じにだ。
実際に機能美を求めれば、こうなってしまうし、後宮としての機能なら山脈
要塞がある。
建設途中で直也に面倒だからと要塞の利用を提案したが、激しく拒絶された。
直也《ここに、今以上、住人を増やすつもりは絶対に無い》
俺としては、別に拘りもないので、反対する気も無いし、そもそも作り上げた
本人の要望だ。
それに、執務なんかからの逃げ場が有るのは、この先、役に立つはずだ。
だから、国に関する事は全て、この役所で行う事になった。
それに伴い、町の名前を考えたが、どれもしっくりこないので保留中だ。
直也《とゆう訳で、港を町ごと買ったから》
「どんな訳だよ、それに住民はどうするんだ?」
ユリア「町が疲弊しすぎて、もう自力で建て直す力も気力もないのよ、隣町に
移住したわ」
直也《元々、貧しい暮らしだった所を襲われ、心が折れたみたいだ》
ユリア「エマもその中の一人よ」
「そうか、両親はもう………」
ユリア「いいえ、ビリアの街で元気で働いて貰ってるわ、妹もね」
「なら、どうしてここに?」
ユリア「あの子、美人でしょ………」
「………………………そうか、そうゆう事か、クソどもめ」
直也《俺もユリアも、奴らを野放しにするつもりは無いぞ》
「だろうな、で、どこまでやるつもりだ?」
直也《制海権は渡してもらうつもりだ、軍港にする》
ユリア「そのために町ごと買ったんだから」
「ちなみにいくらで買った?」
ユリア「金貨2000枚(約二十億円)よ」
「安すぎないか?俺は盗賊の首一つに金貨1枚(約100万円)出したぞ」
ユリア「何て金額出してんのよ!この、常識知らずのお馬鹿!」
通常の賞金首は頭目クラスでだいたい、小金貨3枚(約30万円)その他で金貨
1枚(約10万円)あれば十分高額依頼だ。
これが、ユリアを激怒させた理由だ。
「いや、そんなもんかなあ~って思ったんだよ、アハハハ」
ユリア「この世にはねえ、相場ってもんが有るの!常識ってもんが有るの!」
「い、嫌だなあ、わかってるよお」
ユリア「わかってない!絶対にわかってない!世の中、あんたみたいに金持ち
ばかりじゃ無いのよ!」
直也《ユリア、落ち着け》
ユリア「貧しい村が、なけなしの金を集めて魔獣退治の依頼をする事も有るの
に、安いからって、誰も受け無くなったらどうするの!」
「ごめん、考えた事も無かった………………」
自分の金だから、好きにしていいと持ってた、高い金額を払えば直ぐに盗賊が
処分出来ると思ってた、冒険者達も儲かって、ギルドも金が回って幸せ。
そう信じて疑わなかった。
ユリア「冒険者達に無理をしろって事じゃ無いの!村人に有り金はたけって事
じゃ無いの、互いの折り合いを付ける、その為の相場なの!」
「おれ、傲慢だったんだな」
ユリア「貴方は強者、絶対的強者なの、だから、足元の弱者を見落とすの」
「違う!断じて違う!俺はそんなつもりは無い!俺は!俺は!」
直也《落ち着け、アル、別にユリアは攻めてる訳じゃ無いと思うよ》
ユリア「貴方は国を、世界を、時代を動かすの、そんな人間が、すべての弱者
に思いを向けるなんて、出来る訳が無いの、不可能なの」
「なら!どうすればいいんだ!俺は、俺は、何のために………」
ユリア「ほんと馬鹿ねこの子は、昔っから一人で暴走して、勝手に自爆して」
「馬鹿って………」
ユリア「馬鹿でしょ!何で私を頼らないの!何でナオに依存しないの!」
直也《忘れてくれるな、俺はお前の半身であり、目であり耳なんだぞ》
「っ………………………すまん」
忘れていた、思い込んで、いつも一人で突っ走って、失敗して、落ち込んで、
そして、誰かに救って貰う、確かにかなり情けない………。
ユリア「だから、あんたは今後、お金を使う時は必ずサナを通しなさい」
「えっ、何でサナを?」
ユリア「古今東西、旦那の財布は妻が管理するものなの、わかった?」
「でも、サナはまだ14歳で」
ユリア「あんたより、数十倍マシよ」
「………わかったよ」
ユリア「ほんとに?なんか怪しいわね」
直也《ああ、怪しい、どうにも信用できない》
「お、おまえら」
ユリア「きちんと、釘を刺す必要が有るわね」
「釘って………」
そこでユリアは大きく、息を吸い込むと、部屋の外に届けと声を上げた。
ユリア「アル!あなた、お店でと兎人族の女の子と遊んでたって本当!」
「あんた、何言ってんだ!」
直也《ぶはははは、来た、来た》
だだだだだっだだっだだだだだだだっだ―――――とん―――――ガラッ
サナ「アル様!浮気ですか?浮気ですか?浮気ですか?浮気ですか?」
恐らく二階か、三階に居たはずのサナがあっと言う間に部屋に駆け込んできた
が、どうして聞こえるんだと、直也が大笑いしている。
しかし、そんな事はどうでもいい。
とにかく、無実を証明しなければ、しかし、どう証明すればいいんだ!
「違う、違う、誤解だ、してない、断じてしてない」
サナ「私、まだキスだけ、キスだけなのに、キスだけなのに、よその女と」
「まてまてまてまてまて、何、口走ってんだ!サナ」
ユリア「あははは、大丈夫よ、サナちゃん、誤解だから」
サナ「ほ、本当ですか?」
ユリア「もちろんよ、でね、さっき、お金は金銭感覚のおかしいアルよりサナ
ちゃんが管理した方がいいんじゃないかって話になってね」
サナ「でも、私、異空庫なんて使えません」
ユリア「だれも、財布を持ってろなんて言わないわよ」
そもそもアルもユリアも、動く銀行みたいな物で、異空庫には、とんでもない
量の金貨が入っている。
直也は直也で、現在進行形で鉱山ではゴーレム達が金を採掘中で、産出量は当
に国家予算を越えている。
今ここにいる三人の財力は、凡そ、個人が持つ物ではない。
それを、管理しろと言われても、困惑するだけだ。
サナ「では、私は何をすれば」
ユリア「なるべくアルの傍にいなさい、誰かと会う時には特にね」
直也《そして、おかしな金額を払いそうになったら止めてくれ》
サナ「なるほど、串焼きに金貨を出したら、止めれば良いんですね」
ユリア「正解よ」
「そんなに酷く無いぞ、それに直也だってきっと同じだ」
直也《残念、俺は払いをユリアに任せているからな》
「え、そうなの?」
直也《当たり前だろ、この世界の相場なんて知らねえよ》
ユリア「だから、サナちゃん任せたわよ」
サナ「はい、わかりました、頑張ります」
「まあ、いいけどな」
そもそも、アルには金銭的な欲が異常に少ない。
特に、日本に転移させられてから、その傾向が酷くなった。
なにせ、アルにとって、金など、日本の食材に比べたら塵芥に過ぎない。
おかげで、支払額など気にせずに、金貨をばら撒くのだ。
直也《しかし、この状況は、国の運営面からも、経済面からも不健全だ》
ユリア「そうね、いつまでも、個人に頼っているのは、おかしいわ」
直也《まず、新しい行政機関として財政専門の大蔵省を置く》
ユリア「なんか、威厳のありそうな名前ね」
直也《元の国の旧い名称さ、腑抜けてしまう前のね》
ユリア「二ホン?でしたっけ」
「確かに、今は不祥事ばかり報じられてたな」
直也《昔の人は名を惜しんだ、今の金と地位にしがみつく連中とは違うさ》
ユリア「こちらの世界も似たり寄ったりよ」
「どちらも、情けないもんだ」
時々、直也は、向うにアクセスしては情報を得ていた。
あれは、懐かしさと言うより、単純に興味本位だ。
直也《それと、貨幣を作ろうと思うが、意見を聞きたい》
ユリア「う~ん、どうだろう、まあいいんじゃない、価値が同じなら」
今の貨幣は昔滅んだ ゴルドラ帝国の硬貨をそのまま使っているが、その帝国の
旧首都領たるメルド商王国が、貨幣製造を行ってきたが、その生産量は、ごく
僅かであり、所によっては、貨幣不足を引き起こしていた。
おまけに、近年では、金や銀の含有量に疑惑が持たれ始めていて、製造の若い
硬貨を拒否する商人も出始めていた。
直也《つまり、規格と純度さえ守れば可能だと言う事か?》
ユリア「ええ、そうよ、むしろ喜ばれるんじゃ無いかしら」
「まあ、何か有っても困るのは奴らだけだ」
ユリア「いっそ、こちらの質を少し上げてやりましょう、構やしないわ」
直也《わかった、あと、図柄を変えて良いか?》
「いいね!図柄はかっこよくしよう、今のは爺の横顔ばかりだし」
直也《良かった、実はもう準備が出来ていて、製造するのを待ってるんだ》
ユリア「呆れた、駄目だったら、どうするつもりだったの?」
直也《作る物を変えるだけで、問題ない》
「さよか………」
全員を呆れさせた直也は、その日の内に試作品を作り上げて意見を聞いて来た
が、その作りは見事な物だった。
ユリア「凄く細かいわね、これ、どうやってるの」
サナ「とっても綺麗です!」
「いや、問題無いんだが、この図柄はどうなんだ?おかしくないか?」
ユリア「どうして?恰好良いじゃない」
サナ「素敵だと思います」
「まあ、そうなんだが、そうなんだけれども」
直也《国王たるアルの象徴だぞ、何が気に入らない》
「お前、遊んでるだろ、何でキングギドラなんだよ!」
直也《金貨が三つ首で小金貨が一つ首だから分かり易くなってる」
ユリア「銀貨や銅貨はどうするの?」
「いや、だから、こいつが遊んで………」
直也《銀貨は地竜で、銅貨は魔狼を予定している》
ユリア「うん、良いんじゃない、素敵な硬貨が出来そうね」
「ねえ、ちょっと、聞いて、ねえ」
直也《任せてくれ、まず金貨の量産からだな》
ユリア「楽しみだわ」
「…………………サナぁ」
サナ「出来れば、私、アル様の横顔がいいかなって………」
「………………この金貨の図柄が好きです」
直也《お前なら、そう言ってくれると思ったよ》
サナ「ええ~」
直也《サナには今度、アルの特大メダルを作ってあげよう》
サナ「ほんとうですか!ありがとうございます!家宝にします」
ユリア「アハハハハハハハハ―――――ああ、おかしい」
サナ「?????????」
「………………………………も、好きにしてくれ」
そして、それかあら数日後、希望とトラブル満載の商隊がやって来た。




