表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
83/169

王女と宰相の思惑



王女の暮らす別宮の一室に、王女と元帥、そして宰相の姿があった。

ここはまだ、リリアーナが聖女と呼ばれていた頃、教会に建てさせたものだ。

大人数が宿泊出来る様な作りには、なっていない。

他の貴族達は一旦、屋敷に帰らせてから、翌日に集まるよう、伝えた。


王女「さあ、明日は何人集まるのかしらね」

宰相「トラディス公爵が裏切った今、離脱者は少なく無いでしょうな」

王女「覚悟の無い連中がいても、足手まといだわ」

宰相「そうですな、情報漏洩に神経を摺り減らすのは、面倒ですからな」


三人は、いわゆる運命共同体に近い。

アルを罠に掛けたのも、聖戦を主張し侵略を開始したのも、ゴブリンの使役を提案

したのも、この三人だ。

そしてメルド商王国連合を解体し、ドラン王国の蹂躙を主導した三人の個人資産は

天文学的数字になっていた。

一個人の持つような金額では無い。


元帥「まあ、聖騎士を集めれば何とかなるだろう」

王女「無理に決まってるでしょ!」

宰相「はぁぁ」

王女「あいつが来たら聖騎士なんて、役になんて立たないわよ」

元帥「じゃあ、何でそんなもん要求したんだよ」

王女「1つは父上や弟の反応を見るため、そしてもう1つは時間稼ぎの肉壁よ」

元帥「にくかべ?」

宰相「宜しいですかモントレイ殿、相手はあの寂寞です、打てる手はどんな物でも

   打ちませんと」

元帥「何でそんなに冷静なんだよ」

王女「私達には四人目がいるのよ」

元帥「何の事だ?」


王女と宰相は、モントレイには隠してある協力者がいる。

絶対に表に出せない、知られてはならない、おまけに対応には一瞬も気を抜けない、

だから彼には秘密にした。


宰相「あのお方に報告する前に、情報は整理しませんと」

王女「そうね、まず中立だった父上とは完全に敵対したと見做していいわね」

宰相「元々、我々革新派の教義には、否定的な方でしたから」

王女「大体、どうやって戻ってきたのよ、あの不細工は」

宰相「実際、戻るのに四年近くかかってますし、よっぽど運がよいのでしょう」

王女「せっかく、罠にはめて殺したと思ってたのに」

宰相「お陰で、貴族どもの逃げ腰が酷い事になってますな」


事実、トラディス公爵以下十数名の貴族達は一度も剣を抜かずに撤退している。

彼らが逃げ出した理由は、間違いなく、あの魔導士だ。

たった一人で戦場や宮廷の力関係に多大な影響を及ぼす存在、権力者にとっては、

厄介極まりない。

だから王女は、せっかく色仕掛けの罠にかけてまで排除したのに、舞い戻って来た

男が憎くて堪らなかった。

殺し損なった男が生きていたから、余計に憎しみが増すなど、殺されかけた側から

すれば、頭の病気を心配するレベルであるのだが、それがこの国の王侯貴族と言う

生き物なのだから仕方が無い。


宰相「奴が方針転換する可能性は有りませんか?」

王女「無いわね、あれだけ馬鹿にしたら、間違いなく殺しにくるわ」

元帥「ど、どうするんだよ」

王女「大丈夫、私に任せておいて、貴方は絶対に余計な事をしないでね」

元帥「あ、ああ、わかったよ」

王女「ふふ、素直な貴方が好きよ」


元帥の地位まで登り詰めても結局、モントレイは王女の愛玩人形でしか無い。

そして、モントレイにしても、王女に依存しきっていたのだから、今まで誰にも

不審に思われなかった。

まあ、宰相は除く。


宰相「どうやら、報告が来たようです」


宰相はそう言うと、部屋から一旦出て報告書を受け取ると、直ぐに戻って来た。

彼の諜報活動は、その殆んどが、職員かメイドを諜報員に仕立て上げる事で、成り

立っている。

時には、賄賂漬けにしたり、家族を人質に脅したりと、ちょっとやそっとでは口を

割らない様に仕上げて使っている。

そうでもしないと、情報の正確性を確保出来ない。


宰相「第一王子の持っている情報が一つだけ判明しましたよ」

王女「相変わらず、早いわね」

宰相「こういう活動に関して、王子の周りはザル以下ですな」


長年、王国の中、それなりの諜報組織を持つ物だが、ハッキリ言って聖王国の諜報

は、二流か三流だ。

それは、今まで信者達がどんな時でも、神の名一つで、進んで情報を提供してくれ

たから、たいして発達しないままだった。

そして、そんな三流から、更に下に見られた王子は、かなりの素人だといえる。


宰相「………………どうも、あちらの情報はイマイチ、信用できません」

王女「報告書にはなんと?」

宰相「あの魔導士と同等以上の存在が公国兵を三千人程、倒したそうです」

王女「シャレにならないんだけど」

宰相「多分、ガセでしょう」

王女「理由は?」

宰相「日付の記載が三日前ですよ、早すぎます、普通なら半月ほど掛かります」

王女「では弟たちはこれを信じた?」

宰相「可能性は高いでしょうが、どの道、あの男との戦いは避けられません」

王女「そうね………」


物凄く不安そうな顔をしているモントレイを他所に王女と宰相は淡々と、今後の

宮廷内での立ち廻り方だとか、取り込むべき貴族は誰だとか、そんな話ばかりを

して、少しもあの魔導士の対処方法を離さない。

元帥などと言う立場に祭り上げられているが実力は平均以下で精神力に至っては

婦女子並。

我慢の限界は直ぐに訪れた。


元帥「なんでそんな事ばかり話してるんだよ!奴が来るんだぞ!」

王女「はあ、貴方ねぇ」

宰相「お待ちください、よく考えれば彼の不安も、最もでしょう」

王女「でも………」

宰相「もう立場を曖昧にする必要も無いでしょう、彼に飼育場を見せてはいかがで

   すか?」

王女「ちょっと、宰相!」

宰相「今更です、今更ですよ、リリアーナ様」

王女「…………そうね、じゃあ付いて来て、モントレイ」

元帥「お、おう」

宰相「留守はお任せを」


それからリリアーナとモントレイは地下通路を降りていった。

行く手を遮る扉を幾つも潜り抜けた先には石床の小さな空洞があった。


元帥「なあ、ここは?」

王女「ただの転移部屋よ」


そこには、石床に魔方陣が二つ描かれていた。

勿論、特別でも無い、一般的な転移陣だが、そもそも個人で所有する様なものでは

決して無い。

通常は、友好国間か王族の緊急脱出路ぐらいでしか、拝めない特殊なものだ。

では、何故それ程までに珍しいのか?

それは、魔法陣を作成できるのが黒の魔導士ぐらいしか居ない上に、制作には一年

は、かかる。

おまけに十年もすれば、動かなくなる。

そんな物がなぜここに有るのか、モントレイには理解できなかった。


元帥「なあ、一体何処に繋がってるんだ?」

王女「右はメルド商王国連合の施設に、左は聞かない方がいいわ」

元帥「ああ、わ、わかった」

王女「じゃあ、こっちに来て、一緒に飛ぶわよ」

元帥「お、おう」


王女が備え付けの魔石に魔力を流すと、すぐに右の魔方陣が輝き始めた。

そして起動時間が速いのは、この転移陣が、新しい事を示している。

魔素が通った回数が少ないので、魔法陣に歪みがないのだ。


王女「着いたわよ」

元帥「ああ」


一瞬の浮遊感を経て着いた先は窓の無い石造りの小部屋だった。

あるのは、扉が一つと灯り用の魔石だけ、外には何も無い。


王女「こっちよ」


導かれるまま、扉をくぐり、通路をすすんで行くが、やはり窓が無い。

ここが地下だと言う証拠だろう。

少しづつ降り始めた通路の先には、異常に重厚な扉があった。


王女「いい事、モントレイ、この扉の向こうに私達の切り札が有るわ」

元帥「切り札って何だ?」

王女「見ればわかるわ、でも決して大声を出さないで、余計な刺激を与えたく無い

   から」

元帥「し、刺激?わ、わ、わかった」

王女「自信が無いなら、布で口に当てておけば良いわ」

元帥「そうするよ」


そして、鍵を開けた扉の向こう側に広がる光景にモントレイは絶句して、絞り出す

様に呟いた。

その異様な光景に目が釘付けになって、悲鳴すら上げる事が出来なかった。



「…………………なんなんだ、ここは………まるで…魔界じゃないか……………」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ