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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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病室の男

≪ 復讐を‼あの鬼畜共に復讐を‼全てを奪ったあいつらを地獄に‼ ≫


これが、あの男との最初の接触だった。

無視をするのは無理だった。何故か、どうしても気になって仕方が無い。

興味をそそられた俺は、暫く此の男を観察する事にした。


まずこの男は何者だ?

あの叫びは何だ?

どうして魔素に干渉できた?


そもそも良く生きているな、この男。全身包帯だらけ、右足は膝から下が

無いし左足も踵から先が見当たらない。

両手は有るが指が一本も無いし、耳も鼻も無いんじゃないか?

包帯に凹凸が見られない。

どう考えても事故じゃあ無い。


間違いなく拷問か何かだろう。


やはり、こいつは怒りと憤怒の感情だけで魔素に干渉したのだ。

「嘘だろ、何て精神力してやがる」

暫く見ていると病室に医者と看護師が入って来て、色々な器具の数値らし

き物を確認していた。


「追い返しいてよろしかったんですか?先生」

「ああ、あの警官か、あんな馬鹿にかまっている暇なんてないんだよ、

緊急外来は忙しくて、猫の手も借りたいってのに」

「毎日2度も3度も来ますもんね」

「こっちは命を繋ぎ留めるので、精一杯だってのに、何か喋りましたか?

だと。たった3日で治ってたまるか、殴ろうかと思ったよ」

「お医者様が殴っちゃダメでしょw」

「次、我慢出来るか自信がない」

「わかります、あの警官、すっごく失礼なクソ野郎なんですから」

「失礼?」

「帰り際にボソっと、まだ生きてるのか…って。患者さんに失礼です!」

「はぁ?そんなに捜査がめんどくさけりゃ警官なんぞやめればいいのに」


その後、医者は看護師に色々指示を出すと先に病室を後にした。

看護師も残って色々な処理をしたのち、医師を追うように病室を出た。

そして、閉じられた扉に向かって小さく辛そうにつぶやいた。


「意識がもし戻って家族の事を聞かれたら、私どう答えればいいの?あの

 火事で生き残ったのは、〝あなた一人ですよ”って…言えないよぉ」


色々聞いてる内に、どうしてもこの男と話をしたくなった。

そしてこの時、俺は頭の中で自分の心と葛藤していた。

そんな事やってる暇が有るのか?所詮他人事だろ?。


判っている。


おまけに厄介事の匂いがプンプンする。

判ってはいるんだ。

何でもかんでも首を突っ込んでいたら体が幾つあっても足りないだろう?

言われなくとも判っている

全部救えるつもりか?お前は神か?

そんな事、自分が一番判っている。

だが、どうしても此処を去る気にならない。

この貴重な時間を無駄にして、いったいどんな見返りが有るのか?

そんなもの有りはしないだろう。


…………ああ、そうだ、そうだとも。見返りなど無い。


無ければ関わっては駄目なのか?

手を差し伸べては駄目なのか?

寄り添ってやっては駄目なのか?


【 アルよ、あの老夫婦が、いつお前に見返りを求めた‼ 】

           ・

           ・

           ・          

≪よお、悪魔の親戚なんだが、注文はこちらで間違い無いか?≫

≪……幻覚…いや…幻聴か…もう…ダメ…か≫

≪失礼なやつだなあ、お前が頼んだんだろうが、復讐を≫

≪…本物……いや…そんな馬鹿な…≫

≪そんな馬鹿な事もあるんだよ、今の世界じゃ≫

≪…会話までしてるのか…ここまで狂ったのか…俺…≫

≪めんどくせ~!ちょっとまってろ!≫


異空庫から魔石を取り出すと、それを燃料として魔方陣を展開、男の精神

のみを半物質化、病室の真ん中に顕現させた。


≪これでいいだろう。下に見えるのが、お前だ。理解したか≫

≪こんな事が、でも、確かに、おれが…≫

≪なあ、俺の名はアルセニオス・ファンビューレンて言うんだが、聞いた

事が有るか?≫

≪い、いや、無い≫

≪じゃあ、お前は何で聞いた事も無いやつと会話が出来てるんだ?≫


≪…そうか、現実か、そうか、そうか、そうか、なあ頼む‼≫


≪落ち着け、まずは詳しく事情を聞こうか≫

≪そんな暇ないんだ!あいつらきっと国外に逃げちまう、時間が無いん

だ!頼む、魂でも何でも差し出すから!≫

≪だから落ち着けって。いいか、半思念体の俺の姿をよく見ろ、俺に距

離は関係ない。国境など何の意味も持たん。どこへ逃げても無駄だ≫


≪ほ、本当に?≫


≪なめるなよ、俺は悪魔の親戚だぞ。嘘などつかん。ついでにいったら

魂など要らん。そんな物寄越されても迷惑だ≫

≪でも、差し出せるものなど、もう何もないんだ≫


≪いいんだよ!今回は初回限定プレミア復讐チケットに当選しました。

今ならあなただけに100人殺戮券をプレゼント。今すぐ登録して、死体

の山をあなたに!だから、とっとと事情を話せ!≫


≪どこの詐欺メールだよ…≫

≪ただのおせっかいだ≫

≪…死んだ妹の遺書を見つけたんだ≫


男から聞いたのは、予想の斜め上を行くゴミ共の話だった。

何故、そんな害虫が、こんな平和そうな普通の町に巣くってやがる。

だが今後見かける事は無くなる。

何故?俺が残らず駆除するから。


    夜10時になっても妹が帰ってこない。


町中を探し回った。友人、知人、心当たりがある場所、でも見つからない

高校を卒業して、翌週には、入社式のため、東京へ行く予定だった。

希望に目を輝かせていた妹が失踪など絶体するはずが無いと警察にも届け

たが全く相手にもされなかった。


そして2日後の朝、まだ辺りが暗い頃に、妹は帰って来た。


裸にぼろぼろのコート1枚だけ身に着けて。

何が有ったのかは、凡そ見当はついたが、暫く放っておいてと部屋に鍵を

掛けられ、何もできなかった。

泣き崩れる母と祖母を慰めながら、今後の事を話合った。

この家で男は、俺だけだから、俺がしっかりしないと、そう思っていた。


      その夜遅く、妹が首をつった。


今後の事など、どうでもよかったんだ、なぜ寄り添わなかった、

なぜ一人にした、なぜ、なぜ、なぜ、どうしたら良かったのか、いくら考

えても答えが出なかった。

愚かだった。


気が付けば葬式が終わっていた。

何も考えられず、只、誰かに言われたから、指示されたから、ただ従っている

内に、いつのまにか、母と祖母と3人だけで、小さな箱になってしまった妹の前

に座っていた。


この時、葬式を手伝ってくれたのが、死んだ祖父の遠い親戚で普段は全く

付き合いがないが、抜け殻の様な俺たちを見かねて手をかしたらしい。


それから何日経ったろう。


祖母は体調を壊して寝込みがちになり、母は祖母の看病以外はずっと妹の

写真の前に座って動かなかった。

おれは、遺品の整理を理由にしてその場から逃げた。

みんな壊れかけていた。


     そして見つけた。妹の遺書を。


机の奥にそのノートはあった。

そこにあの日の事が書いてあった。

美容室を出たあと、浮かれて、色んな店を見てまわった事。

いきなり車に引きずり込まれた事。

攫われて隣町の廃ビルに連れて行かれ、そこで犯された事。


主犯は同級生だった、新井 麻友の兄達だった事。


とてもここには書けない写真や映像を撮られて脅された事。

後から伊沢と名のる警官が合流した事。

此の男が本物の変態で、人間の尊厳も許さぬ程、さんざん弄ばれた事。

その後、家の近くで車から降ろされ、再度、脅された事。


その後は、家族への謝罪が延々と書き連ねてあった。


頭の血が沸騰した。

一人残らず処断してやる、必ず後悔させてやる。

あの時は其れしか考えられなかった。

だから馬鹿正直に、あいつの家に突っ込んだ。

もしその場に居れば、家族にも罪を暴露してやる。

この時は本気で、そう思っていた。


本当に、まぬけだった、阿呆だった。


その時は頭に無かった、こいつらが、正真正銘の屑だって事を。

良心の呵責など、かけらも持ち合わせてない本物のゴミだって事を。


やたらでかい屋敷の開け放たれた門をくぐった瞬間、両脇の植え込みに潜

んでいた2人の男に、鉄パイプで意識を刈り取るまで殴打された。

そう、やつらは、しっかりと待ち伏せていたんだ。まんまと罠に掛かった

俺は、とんでもない、間抜けだった。


後で知ったが、俺の家はずっと、あの伊沢と言う警官に監視されていた。

血相を変えて家を出る俺の姿はしっかり見られて報告されていた。

血まみれで車庫に引きずられて行くと、そこには、やつの父親がいた。

今にも途切れそうな意識の中、信じられない会話を耳にした。


「終わったか?」

「ああ、親父か、ちょろいもんだったぜ」

「はぁ、いつも面倒事ばかり起こしおって」

「なんだよ、いいじゃねえか、いつもみたいに、こう、ちょちょっと」

「そう簡単にいくか。こいつの父親も爺も無理やり不審死扱いで処理させ

たのに、その子供まで、となると、目につくからな」

「なら、どうすりゃあいいんだよ!」

「癇癪起すぐらいなら、最初からおとなしくしていろ」

「だってよぉ、麻友のやつが、メチャクチャにしてくれって頼むから」

「妹の言いなりになる奴があるか。で、理由はなんだと?」


「地味で根暗のブスが、えらく綺麗になっててムカついたんだと」


「それだけか?」

「それだけらしい」

「いいか!こいつから何処まで知っているか必ず聞きだせ、そしてもし証

拠か何かが有るなら処分せねばならん。必ず報告しろ」

「わかった。直ぐにでも口を割らせてやる、まかせとけ」

「終わったら、暫く国外に身を隠せ、わしのマンションが有る。そこの2

人もだ。親方には、わしから話をつけておく」

「親父の浮気用マンションだな、オッケーw」

「「わかりました」」

「まったく…此処の署はいいが、もし本庁に疑問でも持たれたらまずい」


こいつらも、この親も、妹も、警察も、皆、同じ穴の貉だった。


そのまま車であの廃ビルに連れこまれて拷問を受けた。

右目も耳も鼻もその時に失った。だが俺は口を割らなかった。

両手の指をハンマーで粉々に潰されても喋らなかった。

祖父も父もこいつらが、殺した。母や祖母の元に行けば、無事に済むとは

思えない。

だからここで死のうと決めた。


それから俺の右足を潰し終わったころ、状況が一変した。


「おい、そいつを車に乗せろ」

「えっ、まだ、こいつ何も喋って無いですよ」

「飽きたし、腹減ったし、酒が切れた」

「良いんですか?確か社長は口を割らせろと」

「めんどくさいんだよ、何時間掛かったと思ってるんだよ」

「まだ、4時間程ですが」

「まだ、じゃねえ、もう、だ。 いい加減うんざりする」

「…わかりました」

「騒がないようにしとけよ。あとは毛布でも掛けとけ」


その後、食事の終わったあいつらは俺の家の近くの空き地にいた。

途轍もなく嫌な予感がしたが、それは最悪の形で現れた。


あいつら、家の灯りが消えるのを、珍しくじっと待っていた。

そして寝静まったのを確認して家の周りにガソリンを撒いた。

俺の家の周りは畑だけだったため、異臭をだれも気づかなかった。


「よ~し、あと、そいつ放り込んで火ぃ点けるぞ」

「流石に、まずくないですか?翔太さん」

「俺が良いっつったら、良いんだよ、俺が王様なんだよ!」

「社長に怒られませんかねえ」

「ああ見えて、親父は俺のやることに文句なんて言わねえよ」

「いいですけど…俺ら止めましたからね」

「グダグダ五月蠅い!いいから やれ!」


そして、俺を玄関に放り込むと、そのまま本当に火をつけた。

古い木造家屋に炎はあっという間に広がり、無駄に広い土間に転ががされ

た俺は無理矢理、上半身を起こして、2階の母と祖母に必死に呼び掛けたが

潰された喉は全く役に立たなかった。

真っ赤な炎が2階への階段を飲み込んでいく様を感じながら呪ったよ。


運命を、あいつらを、そして神さえも呪った。


どうして俺の家族にばかり、こうも不幸が押し寄せて来るのか。

炎はもう見える限りのすべてを塗りつぶしながら俺にのしかかって来た。

生きたまま焼かれながら、これで苦痛から解放される、とも思ったが、

次の瞬間、玄関を突き破って水と消火剤の波が俺の上に、これでもかと、

降って来た。


トンネルの多重事故火災との通報が、全くの誤報だったと引き返す途中で

俺の家の火事を見つけ、隣家の通報と同時に現場に到着、あげくに、炎に

照らされたおかげで、俺が倒れているのを見つけて救助したらしい。


そんな都合のいい偶然が幾重にも俺に降りかかった。


あの炎の中に危険も顧みず、飛び込んで来た消防士の方の煤まみれになっ

た顔を見る事も出来ない。

病院に着くまでずっと意識を保とうとするように、声を掛け続けてくれた

救急救命士の方に返す言葉を紡げない。

夜中に担ぎ込まれた俺みたいな患者を嫌な顔一つせず、朝まで治療をして

くれた救急病院の方に合わせる顔がない。


あんなに必死になって救おうとしてくれた命が、こんなに価値の無い命だ

なんて、いったいどうやって謝罪すればいいのか。

神などと称するクソったれな存在は、どれだけ俺を弄べば気がすむのか。

ベッドに貼り付いたまま、そう思っていた所に誰かさんが来たのさ。


≪神なんて物は、全ての思考を停止させる行動誘導装置で、経典や教義

は原価の掛からない高性能集金装置なんだよ!そんな物に頼るな≫

≪頼っては無いが、何処にも救いが無いな≫

≪救いは有る。か弱き物達に寄り添い、その手にささやかな幸せを届け

る、生きとし生けるもの全ての希望、愛の伝道師、役立たずの神にリバ

ーブローを叩き込む、それが悪魔の親戚たる魔王(俺様)だ≫

     ・

     ・

≪お前、魔王だったのか≫


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