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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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建国の歩み・交渉




今日は、デクシスが戻って来ると、ジューヌから、連絡があった。

おそらくあと、2~3日後には、アルも帰って来るだろう。

ギリギリだった。

今朝、急ピッチで進めていた天領となる城下町の整備が終わった。

こんなに時間が掛かったのは、ゴーレム達を投入し、勢いに任せて作った農地

が思いの外というか、とにかく広げ過ぎた。

開墾という、単純作業に飽きて、ゴーレム達との接続を極限にまで細くした為

地質が変わって、作業効率が急上昇したのに気がつかなかった。

結果、とんでもなく広大な農地が、出来上がっていた。


《やばい、住宅が足りない》


農地の広大さに比して、用意していた住宅の数が少なすぎる。

実際、全ての農作業を機械化してしまえば、人手は殆んど要らない。

しかしそれでは、国とは言えない、それでは実験場だ。

国の運営は、人間の手によって、行われなければならない、農機具は与えても

農業機械を与えるつもりは無い。

いま、俺が増強している軍事力に関しても、いずれは全て封印するつもりだ。


デクシス「ただいま~」

ジューヌ「タダイマ・モドリ・マシタ・マスター」

  直也《おかえり、ご苦労様》


新設した門から、帰って来たデクシス達を迎える。

連なった馬車は全部で八台にもなっていたが、誰も馬車から降りてこない。

どうも、俺と後ろに控えている無数の蜘蛛型ゴーレムを見て固まったようだ。

ゴーレム達は、彼らの荷物を持たせるつもりだったのだが、どうも怖がらせて

しまったらしい。

だがそれも、ゴーレムの間を抜けて、リリ達が飛び出して来ると、彼らの緊張

は、一気に霧散した。


  リリ「おばあちゃん~」

  ルナ「あ、じいじだあ~」

  ミア「ばあばだあ~」

 モルナ「みなさん、お久しぶりです」

クリッカ「お久しぶり」

  サナ「いらっしゃいませ、ようこそ、私達の国へ」


今更ながらに、子供達の笑顔がどれ程、破壊力を持つのか再認識した。

緊張感も何もかも、一瞬で吹き飛ばすのだから。


 直也《取敢えず、あちらの宿泊所で休んでくれ、食事も用意してある》


宿泊所は門を潜って直ぐ、右が公用、左が一般用の宿だ。

どちらも、100人程度は泊まれるが、運用する人間が居ないので、今は宿泊だけ

になっている。


サナとモルナが、老人達と楽しく会話と食事を堪能してるなか、一人の男を隣

の別室に招きいれた。

彼一人が、全く楽しめて無かったからだ。


  直也《交渉を終わらせないと、足が地に着か無い様だから来てもらった》

シュゼム「お心使い、感謝します」

  直也《では早速、始めようか、要は商隊の通行許可が欲しい訳か》

シュゼム「そうです、塩を買い付けたいのが本音です」

  直也《今はどうしてる》

シュゼム「商人に国境は無いので、それなりに、ですが近頃、ちょっと」

  直也《足元を見られ始めたか、まあ、そうなるだろうな》

シュゼム「だから、専属の商隊を通して欲しいんです」


通商許可位は幾らでも出して構わない。

だが、恐らくそれだけでは無いだろうが、それは別に構わない。


  直也《通商許可は構わないが、条件が幾つか有る》

シュゼム「お聞きします」

  直也《まず、兵士の入国は、外交儀礼の場合の五人以外は許可しない》

シュゼム「それだと商隊の護衛ができないっす!あっ」


どうやら、国同士の交渉だと、無理をして、訛りを使わないでいたらしい。

付け焼き刃は10分も持たなかったようだ、まあ、そんな物が能力に比例する訳

でも無いので一向に構わない。


  直也《はは、地がでたな、別にそれでいいよ》

シュゼム「面目ないっす」

  直也《護衛は冒険者を雇えばいい》

シュゼム「しかし、それだと大規模な盗賊団に対応できないっす」

  直也《そんな、ふざけた連中の存在を俺とアルが許すとでも?》


一瞬で部屋の温度が下がった気がした。

シュゼムは生唾を飲み込んだ。

彼の脳裏には、粉々になって殲滅される盗賊達の姿がありありと浮かんだ。

とても、誇張して言ってるようには見えない。


シュゼム「しかし………」

  直也《もう、国の北半分のは駆除済みだ》

シュゼム「あはは、盗賊は害虫ですか」

  直也《当たり前だろ、それと聖王国、公国、旧商王国は敵対認定国家だ》

シュゼム「ええと、つまり?」

  直也《もし、政府関係者が混ざっていたら問答無用で叩き出す》

シュゼム「気を付けるっすが、それと商王国もですか?」

  直也《ああ、連中を国家とは認めん》

シュゼム「理由を伺っても?」

  直也《あれは、聖王国の属国だ、いずれ近い内に聖王国とも片をつける」

シュゼム「了解っす」

  直也《場合によっては、国交断絶だ、注意してくれ》


今は足元を固める事と国力を充実させる事にしている。

ただ、相手の王城に侵入して、王族を打ち取るだけなら、今からでも出来る。

俺とアルが特攻をかければ済む事だ、だが、残った軍部はどうする、残された

民衆はどうなる。

混沌とした戦場は地獄に変わり、罪の無い民衆は、塗炭の苦しみに苛まれる。

そんな事は望んでいない。


  直也《最後に一つ、我が国には奴隷制度は無いからな》

シュゼム「へっ、噓でしょ」

  直也《他国の方針に口を出すつもりは無いが、この国で制度を行使したら

     悲惨な未来が待っていると、思ってくれ》

シュゼム「禁止する理由は?」

  直也《俺が嫌いだからだ、文句は言わせないよ》

シュゼム「言わないっす、そんな恐ろしい事」

  直也《以上が交易の条件だが、どうする?》

シュゼム「勿論全ての条件を飲むっす!あと、関税の比率は………」

  直也《関税?いらん、いらん、そんな物、金には困って無い》


シュゼムはガルムの妻のカタリナから、余程無茶な物でない限り、何としても

通商許可をもぎ取って来いと、厳命されていた。

事実、ガルム独立国では、塩の流通が、減り始めていた。

これは、物資不足では無く、塩高騰の気配を感じ取った商人達が、売り渋りを

始めたのだ。

価格の暴沸はもう、時間の問題なのだ。

だが、この交渉が纏まれば、その情報だけでも塩の高騰に歯止めがかかる。

シュゼム、はここに来るまでに、あれやこれやと、要求されそうな事を考えて

いた。

人質を求められたら?保証金を求められたら?領地を担保にと言われたら?

通行料を要求されたら?高い関税をかけられたら?

それどころか、若い女を差し出せと言われたらどうしよう、などと、取り留め

の無い思考の海に沈んだ事も数えきれなかった。


シュゼム「いざとなったら、自分の首を差し出しても」


等と、間抜けな事を考えるまで、思い悩んでいたが、いざ、蓋を開けてみれば

多少の条件は付いたものの、願っても無い結果だった。

本当に思い悩んだ自分が馬鹿らしくて仕方がない。

だが、感謝に打ち震えている俺に、質問が飛んできた。


  直也《ところで、取れる鉱石はどんな物が有るんだ?》

シュゼム「鉱石っすか?」

  直也《うちは、鉄と金は大量にとれるし、ミスリルもそこそこだが》

シュゼム「その他がイマイチと?」

  直也《そのとおり、で、何が取れる?》


ここで、情報をさらけ出して良いのか、一瞬悩んだが、ここで少しでも信頼を

得られれば、そちらの方が重要だ。

つまらない欲をかいて、信頼を手放すのは、馬鹿のする事だ。


シュゼム「珍しいものだと、オリハルコンとかアダマンタイト、あと宝石類が

     幾つかですが、ルビー?かな、名前を良く憶えて無いっす」

  直也《おお、オリハルコンにアダマンタイト!ロマンス金属じゃないか》

シュゼム「えっ、ロマンス?なに?」

  直也《ぜひ、売れるだけ売ってくれ!宝石も買うから!》


正直、こんなに都合よく事が運んで良いのだろうかと、耳を疑った。

こんな情勢だ、宝石など、採掘した瞬間に在庫が決定するし、オリハルコンに

しても、魔道具に使用される金属だから、工房の無いガルム領では不良在庫に

なりつつある。

アダマンタイトだけは、エイラ王国の商人が偶に買い付けに来るが、隣の公爵

領を通るため、買い付ける量も金額も減るばかりだ。

これを、渡りに船とでも言うのだろうか、一気に資金不足まで解決しそうだ。

そう言えば、金が大量に取れると言っていた。

つまり、超の付くお得意様の獲得だ!


シュゼム「勿論です!こちらからも、是非ともお願いするっす!」

  直也《私も、有意義な交渉が出来て、嬉しいよ》

シュゼム「こちらこそ、幾ら感謝しても足りないっす」

  直也《いや~、交易が待ち遠しいなあ~》

シュゼム「帰ったら、直ぐに商隊の準備をするっす」

  直也《よろしく頼むよ、そうだ、一つお土産をあげよう》

シュゼム「お土産っすか?」

  直也《ああ、こちらは、五分の同盟を結ぶ意志がある》

シュゼム「へっ?」

  直也《国へ帰ったら協議してみてくれ》

シュゼム「はっ、はいいいいいいいいいいいいいいいいい」


その後、シュゼムはそのまま、夕暮れの街道に飛び出した。

一分一秒でも早く、この報告を国に届けたかった。

どうせ、興奮して一睡も出来はしない、なら、夜通し走ろう、そう決めた。

お陰で、呆れた直也から馬を借りる事も出来たから結果オーライだ。


    「すぐに、ガルム様に、カタリナ様に、ご報告を」



    彼の心は、もう、とうに国への道を走り出していた。



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