建国の歩み・ビリアと南部沿岸地域
翌日、五台の馬車と16式の長い車列が、ビリアの街の北門を潜ったが、どうも、
様々な視線が、砲塔の上部に注がれているようだ。
無理もない、そこには、ニコニコ笑う少女がユリアと一緒に座っていたからだ。
彼女は今後、ユリアが補佐として使う事になった、と、今朝告げられた。
直也《俺は構わないが、親御さんの許可は取ったのかい?》
ユリア「実は、今からなのよ、昨夜、遅くに決めたから」
直也《………事情が有るのか?》
ユリア「ええ、私は彼女の選択を尊重したいの、協力してね」
直也《それは構わないが、どうも話合いは、終わりそうだぞ》
エマ「ほんとうに、いいの?ありがとう」
父親「意志は変わらないんだろ、仕方ないさ」
エマ「ごめんなさい」
父親「ただ、これだけは覚えておいてくれ、妻も私も、お前を負担に思う事など、
今までも、これからも、一度として有りはしないって事を」
エマ「あ、あ、なんで知って」
父親「自分の娘の事だぞ、判らないはずが無いだろう」
エマ「おとう………さん………」
父親「お前を守れなかった、不甲斐ない父親で、すまない………」
エマ「うっ、うぅぅぅぅ」
ユリアはそれを眩しそうに見ていた。
娘の思いも纏めて包み込む父親の大きさ、何も言わずに優しく娘を抱きしめる母親
の優しさ、どちらもユリアが渇望して止まなかった物だ。
ユリア「あの家族あっての、あの娘って事ね………いいなあぁ」
直也《羨ましいのかい?》
ユリア「ええ、同じ親で、何でこんなに差が有るのかってね、今更なのに………」
ユリアの時間は、両親に売られたあの日から、止まったままだ。
両親からの愛情、求めても、求めても、決して手に入れられないそれ、なのに自分
は、与える側にさえ、なる事が出来ない物。
だから、ユリアの時間は、あの日からとまったまま。
その後の人生も経験も記憶もある、笑いもした、泣きもした、怒った事もある。
だが、魂の記憶はあの日から、一歩も動けないでいた、動いたら壊れてしまうから
ずっとそこで、うずくまったまま泣いている。
直也《お互い、本当に欲しい物は、俺達の道の先には無いからな》
ユリア「でもね、何で私は愛されなかったのかなって、私にはその資格が無いのか
なって、いつか、サナやモルナ達も、母になって行くのかなって………」
直也《そうか、でも俺はずっと、ユリアの傍にいるよ、歳をとって、お婆ちゃん
になって、そして天に昇るその日まで、ずっと傍にいる》
ユリア「グスッ、約束よ、約束したからね、絶対だからね」
直也《ああ、約束だ》
ユリア「へへ、ありがと」
みんな、いずれは家族を持って、自分よりも大切な存在をその手に抱くのだろうか
もしくは、違う道に価値を見つけて歩いて行くのだろうか、なら、俺はその全てを
ずっと、見守って行こう。
街は、まだまだ復興とは、程遠い状態だった。
街の至る所には、破壊の跡が、特に北門が酷かった。
修復は急ぎたいが、とにかく人間が人手が足りなかった。
だが、今回の移住によって向うから人手がやって来た、そして当然ながら取り合い
になった。
仕事の心配をしていたワイスは、あちこちから手伝いを頼まれて、とうとう午前と
午後に分けて仕事を請け負う羽目になっていた。
そして、更に混迷していたのが、商業ギルドだ。
ユリア達のお陰で、資金は十分すぎる程、潤沢だが、とにかく運営する人間が足り
ないのが、致命的だ。
今でこそ、何とか賃金の支払い遅れを免れているが、遅かれ早かれ破綻する事は、
目に見えていた。
そんな、野戦病院みたいな職場に、ユリアはノアの両親を紹介した。
ユリア「頭は切れるし、性格は温和で思慮深い、絶対にお薦めだから」
セイド「本当ですか!助かります!もう老人なのに、こき使われて………………」
ユリア「あははは、はぁ」
だが、この夫婦は、呆れるほど、有能だった。
特に母親が、数字に強い事、強い事、積み上げた帳簿の山が、みるみる内に減って
いく。
父親は方は、指示書の正確さにセイドが唸っている。
聞けば、二人とも元は公国で小さな店を構えていたそうだが、奥さんが禄でもない
貴族に目を付けられたらしく、夜逃げ同然に店をたたんで、オセの町に隠れ住んだ
が、その貴族は、いつまでもしつこく、行方を嗅ぎまわったらしい。
そうこうしてる内に、エマが生まれてしまい、町に腰を据えたらしい。
母親「これでも昔は下町の百合なんて言われてたのよ、今はおばちゃんだけど」
ユリア「あははは、そうですか」
よく見れば、確かに美人だった面影が見て取れる。
そして、そんな不幸な身の上を気にもせず、カラカラと笑う姿に、母親という存在
のしたたかさを見た気がした。
直也《さあ、そろそろ出発しようか》
ユリア「ええ、もう、任せても大丈夫でしょう、行くわよエマ」
エマ「は~い」
俺達はこのまま、南部沿岸地域にある街や村を掌握する為に出発した。
エドレアと言う、オセの東に位置する、大きな港街を経由してバセ大河の河口付近
を回った後に、そのまま河をクーロン大橋まで北上してから街道沿いに帰る予定を
立てた。
ユリア「なら、すべてを受け入れて、傘下にはいるのね」
街長「こんな条件を蹴る馬鹿は居ません」
ユリア「貴族連中だったら、絶対に拒否する条件だけどね」
街長「あいつらが、逃げ出していて、本当に良かった」
予想に反して、どの町も、交渉はあっけない程簡単に進んだ。
理由はクーロン大橋での戦闘がいち早く伝わって来た事と、聖王国の被害が異常に
少なかったからだ。
公国との戦局が長引いたせいで、回せる兵力を消費した挙句に、逆に兵を回収した
聖王国の上層部のとばっちりを受けた分隊は、まともに略奪もできないまま、アル
に散々痛い目に会わされた公爵と一緒に逃げ帰った。
結果、この地域の被害はごく僅かに収まった。
公国の支配は無くなったが、このままでは街や村が、それぞれ自治をするようにな
ってしまう。
この街の規模なら、あと、数年は持つだろうが、小さな村では盗賊団一つで、地図
から消えてしまう。
かと言って、討伐隊を組織してまで手助けする程、人も金も余裕はない。
そこに、暫らくは無料で守ってくれるとやって来たのだ、、断る馬鹿は居ない。
これで全ての街や村がアルの傘下にはいった。
《国土の掌握は終了した、残るは内政と外交》
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《それと、戦争だ》




