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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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建国の歩み・オセの町



 直也《二隻、逃がしたな、残念》

ユリア「仕方ないわよ、もう、弾切れなんだもの」

 直也《ああ、色々、考えさせられた戦いだった、反省だ》

ユリア「それ、他の人に言っちゃ駄目よ、みんな、落ち込むから」

 直也《そうなのか?》

ユリア「そうなのよ!」

 直也《しかし、あれの処理が面倒だな、迷惑な連中だ》


視線の先には、徐々に、その姿を海底に引きずり込まれる、バラバラにされた舟と

その残骸にしがみ付いたり、必死に岸に向かって泳ぐ、海兵の生き残りがいた。


ユリア「ああ、あれは誰も助からないから、気にしなくていいわ」

 直也《助からない?どういう意味かな》

ユリア「あれだけ血が流れたのよ、見てて、そろそろ来るわ」


言われて見ていると、泳いでいた兵士の姿が一瞬で消えた。

文字どうり一瞬に、波間からその姿を消したのだ。


 直也《あれは、もしかして魔獣かい?》

ユリア「ええ、姿が見えなかったでしょ、恐らくアサシンタートルね」

 直也《今、なんて言った?》

ユリア「なに?アサシンタートルの事?」

 直也《そう、そのアサシンタートルって、当然、亀だよね》

ユリア「そうよ、それがどうかしたの?」

 直也《こっちの亀は人間を喰うのか?》

ユリア「当たり前でしょ、亀なんだから、集団だとクラーケンでも襲うわよ」

 直也《マジかよ、こっちの亀って獰猛なんだ………》

ユリア「そうよ、牙は鋭いし、甲羅は固いし、水を吐き出して直ぐ移動するし」

 直也《ガメラじゃねえか、火を吐くなんて言うなよ》

ユリア「あら、知ってるじゃない、アルに聞いたの?」

 直也《あはは………何てこった》


ちなみに火炎を吹くのでは無く、噛みついた敵を倒す為に、口の中に炎を発生させ

てダメージを与えるのだとか。

確かに海生生物だと、致命傷に成り兼ねないが、とんでもない亀だ。


結局、海兵達は誰ひとり、岸に辿り着く事無く、魔獣の胃の中に消えた。

ここは、大丈夫かと聞いたが、こういう大型の魔獣は常に海底の深い所に生息して

おり、浅い湾内には入って来ないらしい。

そのかわり、一度外洋に出れば、落ちた時点で魔獣の餌になる。

特に今回の様に、血の匂いがまき散らされてしまうと、海面下には物凄い数の魔獣

が、集まってきているらしい。


ユリア「だから、普通の漁師は湾内か、砂浜でしか、漁をしないの」

 直也《それで、町は広いのに人口が少ないのか》

ユリア「ええ、偶に取れるジュエルクラムやドラッグコーラルが唯一の現金収入と

    思っていいわね」

 直也《う~ん、やはりどこの町も村も、余り裕福ではないね》

ユリア「だから、みんなで力を合わせて必死に生きてるのに、偶に出て来ては力で

    何もかも奪おうとする、ああいう馬鹿が許せないの」

 直也《同感だ、それも含めて何か考えてみるよ》

ユリア「期待してるわ」


それから、捕虜から解放された人達の今後の身の振り方を話し合った。

当たり前だが、やはり此処でも、多くの犠牲者を出していた。

概算だが、人口は半分を切っているらしく、このまま町を維持するのは、無理だと

いう結論になった。

特に、成人男性の死亡者が多過ぎた。


ユリア「ここでは、もう暮らしていけないと思うの、だからビリアの街に移住して

    貰います、逃げ出した人もそこにいるわ」

 直也《おそらく明日には移動の馬車が到着する、それまでに準備をして欲しい》

ユリア「馬車は五台だけだから、余り大きなものは諦めて頂戴」


ここで、一人の男が質問を投げかけて来た。

この町の長で網元と呼ばれる存在らしい、要は漁師の親方みたいな物で、当然貴族

でも、その関係者でも無い只の漁師だと言っていた、名前はワイスと言うらしい。


ワイス「向うの街に、仕事は有るんだろうか、俺達は蓄えも無いし、今回の事で、

    亭主や両親を失った者も多い、税を払えるかどうか………」

ユリア「向うも被害が出て、少しでも人手が欲しいの、それに税金なんて、数年は

    徴収する事は無いわ」

ワイス「有難い話だが、そんな事を勝手に決めていいのか?」

ユリア「大丈夫、そこに影の国王が居るもの、ねえ、ナオ」


俺を指さして、そんな事を言ってるユリアに、そこに居た全員が、愕然と俺を見た

それは、そうだろう、やっと俺という存在を、到底理解など出来ないながらも、何

とか、実在しているのだから仕方がないと、納得したした途端にこれだ。

もう、彼らが気の毒に思えてきた。


 直也《まったく誰が影の国王だ、まあ街の復興が優先だし、問題ない》

ワイス「ええと、あの、本当でしょうか、こ、こ、国王様」

 直也《ほら、誤解しちゃったじゃないか、でも税の事は本当だ、信用してくれ》

ワイス「有難い、いや、ありがとうございます」

 直也《それと、提案が有るんだが、町ごと俺に売らないか?》

               ・               ・

               ・

               ・

  「「「「「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」」」」」


きっかり60秒ほど固まっていた人達が、悲鳴のような声を上げた。

まあ、町ごと買うと言われれば、そうなるのは仕方がないのだが、どうにも納得と

いうか、スッキリしない物が有る。

それが、これだ。


ユリア「金貨で2000枚(約二十億円)ぐらいあれば十分だと思うけど、いかが?」

ワイス「は、はひ、はい」

ユリア「交渉成立ね、どうする?今、払いましょうか?」

ワイス「い、い、いえ、ビ、ビリアの街で」

ユリア「わかったわ」

 直也《………何で驚かないのかな?君は………」

ユリア「なれちゃった、てへ☆」

 直也《はあ、さいですか》


その後は、特に何もなく各々が翌日の準備を終え、日も暮れて就寝を待つばかりの

ころ、ユリアはエマと名乗る一人の少女の訪問を受けていた。

ドブ攫いでも、何でもするから連れて行って欲しいと懇願して来たのだ。


ユリア「それで、どうして私達と同行したいの?」

 エマ「……………………わたし、あいつの慰み者にされてたんです」

ユリア「あの馬鹿ね、でも貴方はまだ両親が居るでしょ、まさか拒絶されたの」

 エマ「いいえ、それどころか、いつも以上に気遣ってくれて、愛してくれてて、

    他のみんなも優しくしてくれて、でも、だから辛いんです」

ユリア「………そう」

 エマ「こんな私を、汚れた私を、きっと何も言わずに受け入れてくれる、嫌な顔

    一つせずに、何てことないって言ってくれる、それが、苦しいんです」

ユリア「………そうね」

 エマ「でも私、男が怖いんです恐ろしいんです、だから役立たずの私は、きっと

    足手まといになる」

ユリア「あなたの家族は誰も見捨てたりしない、と、思うけど」

 エマ「ええ判ってます、絶対にそんな事にはならない、父さんも母さんも、幼い

    妹だっているのに、絶対に嫌な顔一つせず支えてくれるって確信してます

    だからこそ、その優しさに耐えられ無いんです、私はみんなの負担になり

    たく無い………」

    

目の前でポロポロ涙を流す少女はまだ、15歳だと言う。

この年で、これだけ親や周りに気を配れて、なお且つ、自分の感情と向き合う事が

出来るなど、その聡明さは稀有な物だ。

私達と共に歩いて行けるだろう。


ユリア「一つ聞きたいのだけど、あなた、男が怖いのにナオは怖くないの?」

 エマ「そうなんです、何ででしょう?なぜか、温かくて」


私には、その理由がなんとなく判った。


ユリア「条件が有るわ、今からする話を誰にも話さない事、守れる?」

 エマ「誓います、絶対に喋りません!」

ユリア「わかったわ、なら、まず一つ目、私は子供が産めないの、私のここは、

    子供のころ、散々嬲られて、傷だらけなの、顔をしかめる様な傷」


そう言って、そっと下腹部に両手を添えた。


 エマ「酷い………」

ユリア「それともう一つ、ナオは生身の体を持ってた時、祖父母も両親も、そして

    最愛の妹の命までも奪われたの、なんの責も無いのに」

 エマ「そ、そんな………」

ユリア「だから誓って頂戴、絶対にあの人の前で自分を卑下しないで、もしいつか

    あなたが家庭を、伴侶を、愛する人を得る機会があったら、絶対に躊躇し

    ないで欲しいの、幸せを放棄しないで欲しいの」

 エマ「はい、はい、私、誓います」


彼女は目に涙をためながら、そう頷いた。


ユリア「それとナオが怖く無いと言ってたでしょ、あれは、ナオがあなたに妹さん

    を重ねて見ていたからよ」


    エマの涙腺は再び崩壊した。



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