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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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決意と後悔



◇◇◇◇ side 海王国敗走軍 ◇◇◇◇ 


 副官「はあはあ・・・・走れ・・・走れ」

海兵長「はあはあ・・副官・・・みんな・・はあはあ・・・限界・・・です」

 副官「なら・・・少し・・はあ・・休もう」

海兵長「はあはあ・・・全員・・・小休止・・・だ・・・」


もう、とっぷりと日が暮れてしまって、僅かに赤く照らしてくれる月明りだけが、

道を示してくれていた。

戦場から、一も二も無く逃走した彼らは、松明一つ持っていなかったのだ。


 副官「何とか、明日の昼までには戻れそうだが………」

海兵長「逃げきれますかね」

 副官「運が味方してくれたらな」

海兵長「運ですか…自信が無いですね」

 副官「まあ、あの馬鹿の指揮下になった所を見れば、全員運が悪いだろうな」

海兵長「笑えませんね…月も六女様だし」

 副官「贅沢を言うな、七女様だったら、真っ暗だぞ」

海兵長「そうでした、六女メイベル様に感謝を」


海王国では、太陽神ではなく、月神の方が親しまれていた。

潮の満ち引を左右する月神の方が、船乗りの多い海王国では好まれた。

逆に、聖王国では、光神サンラスの対極にある月神は忌み嫌われ、その他の太陽神

信仰の国では、地母神との娘として扱われている。


 副官「それに長女のエレオノーラ様だと、明る過ぎて敵から丸見えだ」

海兵長「もしかすると俺達、悪運を使い切ったのかも………」

 副官「余り期待しない方が良いぞ」

海兵長「そうですよね………はあぁ」


彼らも判っていた、何の関係も無い町や村を襲ったのは自分達である事、例え直接

手を下していないとしても、相手が許してくれるはずも無い、どんな言い訳も意味

が無い事を。

だからこそ、一目散に何もかもかなぐり捨てて、逃げ出してきたのだ。


 副官「全員聞け!もし、もう走れない、限界だと思ったら、少しでも動ける内に

    街道を外れて森に逃げ込め、街道にいたら、確実に死ぬぞ!」

海兵長「何とも救いようの無い未来ですね………」

 副官「未来がまだ有るだけ幸せと思え」


その後再び彼らは街道を、ひたすら南へ走ったが、至る所で脱落者を増産しては、

その数を減らし続けていた。


海兵「………いやだ、置いてかないでくれ………」

海兵「連れてってくれ………残るのは………嫌だ」

海兵「なあ、誰か負ぶってくれよ、もう歩けないんだ………」

海兵「おい、仲間だろ、見捨てるのかよ」

海兵「誰か………助けて………」


もう既に三割近くが、歩く事さえ出来ずその場に座り込んでいた。

彼らは、その場で体力の回復を待ちつつ、このまま街道を行くか、諦めて森の奥へ

逃げ込むか、その選択を迫られていたのだが、殆んどの者が再び本隊を追いかける

道を選んでしまった、残されたく無かったのだ。

この選択の結果は翌日の夕方には決まってしまうが、今は誰にも分らない。


◇◇◇◇ side ビリアの街 ◇◇◇◇


16式の整備には思いの外、時間が掛かっていた。

装甲や兵装に不具合は殆んど無かったが、問題はエネルギー切れだ。

姿形は16式だが、エンジンもバッテリーの電気関係も、全て魔石で代用している

なんちゃってハイテクなのだ。

だから、至る所に魔石が使用されているのだが、その魔石が魔力切れを起こしたり

破損したりしていた。

その数、およそ200か所、だが、幸いこの町の商業ギルドの出張所には、その数倍

の在庫があった。

理由は、ここの所の略奪や政情不安から、王都などとの取引が止まっているからで

冒険者ギルドに納められた魔石が自家消費を大きく上回たからだ。

さらに、もし余っているからと言って、ここで買い取り価格を下げたり、買取数量

を制限したりすれば、せっかく生き残った冒険者達にとどめを刺し兼ねなかった。

そして、その倉庫の肥やしになっていた魔石を、直也達が残らず色を付けて買い取

ったものだから、彼らは歓喜の声を上げた。

あっと言う間に潤沢な資金を調達出来たギルド員達は、一斉に街の復興に向けて、

商業活動を加速させた。


そしてブラン達三体はと言うと、手に入れた魔石の交換に勤しんでいる。


ちなみに、その魔石を買い付けに来た商人のくせに、何も持たずに逃げ出した挙句

海王国軍に捕まったワッツ達は、戦闘のとばっちりを受けて全員死亡していた。


そして、街中の片付けが行われている中、墓地に埋葬する為にドルムの遺体が荷車

に乗せられた。


ユリア「あなた、なんでこんな馬鹿な事をしたのよ………………」

 直也《この人は?》

ユリア「この町の責任者の一人よ」


ユリアは今、最後の別れにと、ドルムの亡骸の傍に立っていた。

彼が何故、無謀な行動に出てしまったのか、どうしても理解出来なかった。

そもそも、万に一つも敵う訳が無いのだ、その挙句に剣さえ持たずに一体何が彼を

突き動かしたのか、不思議で堪らなかったが、原因はすぐに泣きながらやって来た


エルク「ごめんなさい、僕のせいで、ごめんなさい、ごめんなさい」

ユリア「なぜ貴方のせいなの?エルク」

エルク「ぼ、僕が、ドルムさんを責めたんだ、父さんを殺したのはお前だって」

ユリア「なぜそんな事を!」

 直也《ユリア、落ち着いて、まず彼の話を聞こう》

ユリア「え、ええ」

 直也《エルク君だったかな、彼が君の父親を殺したのかい?》

エルク「ちが、違うんだ、僕の八つ当たりなんだ」


昨日の防衛戦で彼の父親は東門の攻防で敵の矢で命を落とした。

オセの街から逃げて来た時、エルクは、海王国に母親を殺され、父親も酷い傷を負

って絶望しかけたが、この町で治療を受けて、戦えるまでに回復した。

その姿を見て、喜んだのも束の間、戦いに参加したその日に、敵の矢に倒れた。


エルクは父親の死を、誰かの責任にしなければ、運命だと受け入れる事が出来ず、

指揮を執っていたドルムに感情の全てを押し付けた。

お前のせいで父さんが死んだ、と。


だが、戦いを生業にしている者ならいざ知らず、元が宿屋の主人だったドルムには

この言葉は、受け止めるには重すぎた。

ドルムは自分を責めた,責め続けてしまった。

終わりも、答えも無い袋小路に迷い込んだ思考は、自己否定と自己嫌悪を両輪に、

まるで自殺同然の行動をドルムに取らせてしまった。

絶対にエルクを救わねばならないと、後先考えずに飛び出して、ライガンの剣で命

を落としたのだ。

恐らく、もう、精神の均衡が取れずに、おかしくなっていたのだろう。


 直也《そうか、そう言う事か》

エルク「ドルムさんは、僕が責めたから………」

 直也《違う、お前の父親も母親も、そしてドルムも、殺したのは海王国だ》

エルク「でも、僕が」

 直也《エルク、敵を間違えてはいけない》

ユリア「あなた男でしょ、男なら仇も責任も自分の手で取りなさい」

 直也《みんなに守って貰ったんだろ、今度はお前がみんなを守る番だ》

エルク「………………………うん、わかった」

ユリア「さあ、みんなの所に行きなさい」

エルク「…はい」


一瞬だけ躊躇したが、エルクは皆が待つ方に走って行った。


 直也《こうやって、両親を亡くした子供達が増えてゆくんだな………》

ユリア「ええ、そうね」

 直也《ここには、今、どれくらいの孤児がいるんだ?》

ユリア「ナオ、考えてる事は分かるけど、ここは、この町は大丈夫よ」

 直也《しかし俺は………》

ユリア「この世界の人間は、あなたが考えるより、ずっと強いの、必ず乗り越えて

    くれるわ」

 直也《…………そうか、凄いな》

ユリア「そう、彼らが求めるのは、いつも命の保証だけ、それだけよ」

 直也《なら、期待には応えないとな》


それからは、恐る恐る近づいてきた、セイドとシエナに自己紹介したのだが、

どうも、今回の戦いぶりと、ユリアがあれこれ説明してた事も相まって、何やら

どこぞの、魔神か何かの様な扱いを受けた。

別に取って食ったりしないのだが、誰も俺に話しかけて来ない。

仕方なくただ、修理を待つ事にした、そして。

戦場となった街の復旧が夜通し行われる中、16式の修理は明け方になってから

やっと終わった。


 直也《砲弾はどれだけ残ってる?》

ユリア「榴弾は2発、徹甲弾は丸々10発残ってる、機銃はカートリッジが3つよ」

 直也《なら、弾は節約しよう、替りに三体とも連れて行く、ユリアはここで》

ユリア「絶対、一緒にいくわよ、反論は無しで」

 直也《だよな~、わかった》

ユリア「それに、オセの街には、まだ捕まっている人達がいるの」

 直也《では、すぐに出よう》

 

夜が明けきらぬ内に、救出したオセの人達を乗せる為の馬車を後ろに連ね、16式

は南に向かって軽快に走り出した。



      《さあ、追撃を始めようか》


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