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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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血と過去と絶望



翌日の遅い朝を迎えた頃、敵の一斉攻撃が唐突に始まった。

一切の事前戦闘も準備も口上も無く、いきなり戦闘が始まったのだ。

南門に陣取るユリアの前には敵兵の姿はないが、大木や岩の影から無視できない数

の矢が飛んで来る。

たかが、数十本のただの矢で傷など負わないが、こちらからの攻撃も、ほぼ無効化

してしまい、良いとこ数名の怪我人が出た程度、完全な膠着状態だった。


ユリア「やられた………」


こちらは只の抑えだ、主力はたった今、俄かに騒々しくなった西と東門だろう。

ノワールが東門から動けていないらしく、ここから見える東西大通りを移動する姿

が見られない。

西門に走って行く弓を持った男達の数が増えていた。

恐らくドルムはノワールに東門を任せる選択をしたのだろう、その分、西に人手を

回した。

見事な判断だが、如何せん戦力差が酷い。

このままでは、ノワールが東門の兵達を全滅させるより、西門が落ちてしまう方が

早くなる可能性がある。


そしてノワールの方も、非効率的な戦いを強いられていた。

海王国軍は、とにかくノワールと距離を取った戦い方を徹底した。

遠距離から弓を使って攻撃を仕掛け、門からノワールが移動しようとすると、一転

して、急襲する姿勢をみせた。

結果、ノワールが門から動けなくなった。

それでも、何とか西門が持ちこたえていた時、その凶報が飛び込んできた。


   「北門が突破された!」



◇◇◇◇ side 昨晩の海王国軍 ◇◇◇◇ 


兵士「副長、怪しい奴らを、八人程、とっ捕まえたんですけど」

副官「怪しい奴?いったい何処にいた?」

兵士「いや、それが、東の街道なんですが、どうも魔狼から逃げて来たみたいで」

副官「なんだ、えらく歯切れが悪いな、そんなに大きな群れだったのか?」 

兵士「いえ、まだ若い魔狼一匹だけでして」

副官「つまり間諜の可能性あり、と?」

兵士「それが、どうも本気っぽくて………」

副官「………とりあえず、連れて来い」


連れて来られたのは、昨日この町から逃げ出したワッツ達だった。


 副官「さて、お前達はどこの国の人間で何者だ?」

ワッツ「お、お、俺達はただの公国の商人で………」

 副官「ほおお、じゃあ荷馬車はどこだ?商品ははどうした?」

ワッツ「それは、魔狼に襲われた時に、置き忘れて………」

 副官「冒険者も雇わないでこんな所に居る商人が何処に居る!」

ワッツ「ひいっ」

 副官「正直に言えば、命だけは助けてやるが、どうする?」

ワッツ「喋ります!なんでも喋ります、だあから命だけは」


それからはワッツ達は命欲しさに全て洗いざらい、何もかも喋った。

それこそ町の状況やユリア達の事まで何もかもだ。


 副官「つまり、北門に居るのは黒の魔導士で、あれは魔獣では無く馬車だと?」

ワッツ「はい、ユリアって言ってました」

 副官「ふう、第八席か、だがそんな女がどうしてこんな辺鄙な町にいる」

ワッツ「どうも、建国の布告に来たらしくて………」

 副官「建国?一体誰だ?誰が国王だ?」

ワッツ「たしか、魔導士でアルセニオスとか、何とか………」

 副官「寂寞せきばくじゃねえか!冗談じゃねえぞ!」

ワッツ「ああ、何かそんな事言ってました」

 副官「おい、誰か海兵長達を全員呼んできてくれ、但し静かにな」


それからしばらくして六人の海兵長達が集まってきたが、集められた理由を聞いた

途端に頭を抱えた。


 副官「早急に町を落として、奴隷を確保したらすぐに出航だ」

海兵長「そう上手く行きますかねえ」

 副官「なら、お前はゆっくり構えて、あの寂寞せきばくと正面衝突するんだな」

海兵長「………勘弁してください」

 副官「わかるだろ、もう後が無いんだよ、俺達は」


もし逃げかえれば、本国で一族郎党、罪に問われ、戦いが長引けば世界最強魔導士

が出張ってくる。

つまり一刻も早く街を落としてトンズラする必要が有るのだ。


海兵長「しかし、わざわざ本当に来るのか?あの寂寞せきばくが」

 副官「こいつらより、ほんの少し前に北に向けて伝令が走ったそうだ」

海兵長「参ったな、正直、どれぐらい余裕があるかな」

 副官「本拠地はナール山脈の近くらしいから、普通は十日以上掛かるんだが」

海兵長「相手は魔導士だからな、半分ぐらいを予定した方が良いだろう」

 副官「そうだな、あと五日後には寂寞せきばくがここに居ると仮定しよう」

海兵長「奴隷の移送に二日、出航に二日、手を出せない沖にでるまで半日………」

 副官「つまり明日中に街を落とさないと、どんどん不味くなるって事だ」

海兵長「しかし、実際問題、どうやって落とす?」

 副官「それがな、こいつらが耳よりな情報をくれたんだ」


そう言うと全員がワッツ達を見た。

彼らは、聞かれても無いのにビリアの街の内部情報を有益な物ほど優先的に喋りま

くった。

おかげで街の防御の実態と弱点を知る事が出来たが、ヘラヘラ笑う彼らが手に入れ

たのは、敵兵からの侮蔑と奴隷の地位だけだった。


海兵長「つまり、大人数で守っている北門は、ど素人の塊って事かよ」

 副官「そういう事だ」

海兵長「騙された………」

 副官「だが、今度はこっちが騙す番だ」

海兵長「どうやる?」

 副官「南と西と東に注意を向けさせてから、北門に残りの全兵力を投入する」

海兵長「わかった、編制を組み直そう」


そして翌朝、弱点を見抜かれた北門にはいっきに四百人以上の敵兵が殺到した。

いきなり襲われた北門の守備隊は、僅か五十人程、それも大半が戦いなどとは無縁

な人達だ、あっと言う間に侵入を許してしまった。

それでも、彼らは撤退の準備と伝令が走る、そのわずかな時間を稼ぐ為にその体と

命で敵兵の前に立ち塞がった。

その貴重な時間のおかげで、西門と東門にいた弓隊や伝令たちが中央の役場に避難

する事が出来た。


ユリア「悪い予想ほど、よく当たるわね、まったく」


今、16式を低速で後退させながら、勝ちを焦って門をくぐって来た敵兵を、周囲

の建物ごと機銃の掃射で粉々にした。

そしてそのまま役場の正面玄関に陣取った。


 ユリア「ノワール、私の死角は任せたわよ」

ノワール「イエス・レディ」

 ユリア「さあ、簡単に通れると思わないでちょうだいね」


それからの攻防は苛烈を極めた。

無数に飛んで来る矢と投槍で、ノワールでさえ無数の傷が付いたが、まだ行動不能

に迄は追い込まれていないのが救いだ。

それでなければ、接近戦を挑んで来た海王国兵を捌ききれなかったに違いない。

そしてユリアの方はと言えば、こちらは弓矢の集中を浴びていた。

もし、着ているのが直也の作ったバトルドレスで無く、魔導士のローブだったら、

今頃は、防御魔法陣が枯渇してハチの巣になっていただろう。

バトルドレスは弓矢程度では傷一つ付かず、頭部は浮遊する透明なシールドが攻撃

を跳ね返し、鉄壁の要塞と化していた。

しかし、攻撃の手段は急速に失われつつあった。

既に、16式の砲弾も機銃の弾も僅かしか残っていないため、安易に使えない。

もう、攻撃魔法ぐらしか攻撃手段が残っていないのだ。


しかし、その分、海王国軍も到底、無傷とはいかなかった。

もう半数以上の兵を失って、矢も槍も残りが少なくなっていた。

士気と体力も既に限界に達しつつある。

普通の軍隊なら、全滅判定で撤退要件だ。


お互いに泥沼の消耗戦に突入していた。

しかも海王国軍は無理に近づけば、ユリアの魔法か、ノワールの槍の一閃が襲って

来るため、攻撃がかなり散発的になり始めた。

いくら、上が命令しても、なまじ勝戦の影が見え隠れし始めた今、だれも積極的に

戦いたく無いのだ。

生き残って、戦いの分け前を受け取りたいのだ。

そして、その間隙を縫って、ユリアは魔力を回復する事がっ出来た。

結果、戦闘が長期化すると言う、海王国軍の副官達にとって望まない物になった。


そして、既に夕刻になりかかっていた時に、それは起こった。

今の今まで、忘れられていた男が建物の影から戦場に割り込んで来た。


「お前ら、これが見えないのか、大人しくしろ!」


しゃしゃり出て来たのはサイレージ海王国軍第三海将イシュ・ライガンその人だ。

しかし、問題はそこでは無い、その後ろで剣を突き付けられている三人の伝令役の

少年達だった。


ライガン「ほらほら、大人しくしないと、ガキ共を殺しちゃうよ~」

 ユリア「ゲスが……」

ライガン「あれあれ~反抗的だなあ~こいつみたいになりたいのかな~?」


そう言って足元に横たわる血だらけの塊を踏みつけた。

恐らくこと切れているだろう、その塊には見覚えがあった。


 ユリア「………ドルム?………いったいどうして………」

ライガン「あ~こいつ?そこのガキを捕まえる邪魔をしたんだよ、豚のくせに」

 ユリア「エルク………」

ライガン「必死にそいつを逃がそうとしてたぜ、無駄な努力だったがな」

 ユリア「無茶をして………あなた、剣さえ持ってないでしょう」


逃げ遅れた伝令の三人組は、近くの建物に逃げ込んで戦いをやり過ごしていたが、

そこに、空家で略奪に勤しんでいたライガンが三人を見つけてしまった。

今まで、軍の指揮を取り上げられ、鬱屈していたライガンの頭に人質の二文字が、

浮かんだ。

この三人を盾にして再び俺が軍の指揮を執って、輝かしい勝利を手に凱旋する自分

を妄想してしまうと、もう介入する事しか考えられなかった。

そして、ライガンが三人を建物から連れ出そうとした所を、役所の窓から見ていた

ドルムが、役所からとびだして逃がそうとしたのだ。


ライガン「さあ、もう俺の勝ちだ、全員俺の指示に従え!」


勝利を確信したライガンが一人、声を上げるが、数名の取り巻き以外の海王国軍は

さしたる反応を取れずにいた。

いきなり命令系統が二つになったのだから、当たり前だ。

それに、確かに人質は有効な手段かもしれないが、相手がその命に目を瞑ってしま

えば、何の意味も成さない。

それどころか、そんな苦渋の決断をさせた相手に向ける憎悪は、想像したくない。

だが、ライガンにそんな事を考察する能力はない。

際限なく暴走し始めた。


ライガン「おい、女、まずその鎧を脱いで貰おうか」

 ユリア「………バトルドレスよ」

ライガン「どっちでも、良いんだよ、そんな事は、早く脱ぎやがれ」

 ユリア「……………」

ライガン「ガキは三匹もいるんだ、一匹殺してみるか?」

 ユリア「………わかったわ」


自分でも甘いと思ったが、どうしてもエルク達三人を見捨てる気にはならなかった

あのドルムが守ろうとした命を、無碍になどできない。

鼻水を垂らして、泣きじゃくっている少年達に優しく微笑みかけながら、ドレスを

脱ぎ捨てた。

だが、まだ私には魔法がある。

必ず何処かで隙が出来るはず、それを物にするしかない。


ライガン「おいおい、まだ鎧下が残ってるじゃないか、それも脱げよ」

 ユリア「なっ………」


下種な顔を誇らしげに晒しながら、ライガンはそう命令して来た。

この鎧下と言うか、ワンピースインナーを取れば、後は裸だ。

今更、胸の一つや二つ見せてもどうでもいい、そんな小娘でも無い。

だが、私には誰にも見せた事の無い秘密が、下腹部に刻まれているのだ。

あの忌々しい過去は、未だに私の体に傷跡として纏わりついて離れない。


ゆっくりと下ろされるインナーに豊満な胸が露わになった。

真っ白できめ細かな肌に、ライガンだけで無く兵士達の目も釘付けになった。

一斉に生唾を飲み込む音が聞こえるが、それもユリアの下腹部が露わになると落胆

のため息に変わった。


ライガン「何だ、変態の玩具だったのかよ、ガラクタじゃねえか」

 ユリア「うう………」


そんな事は分かり切っていたはず、この傷を復讐心に変えたはず、もう傷つく様な

感情は捨て去ってしまっていたはずなのに、なんで今、こんなに辛いのか。

こんな下らない奴の事など、笑い飛ばしてやるはずだったのに、涙がとめどなく溢

れてきて、何も見えない。

聞こえる音は遠く、寒さも暑さも感じない。

自分が立っているのか、座っているのか、それさえ分からず、抱いた自分の腕が、

私の過去きずを隠している事だけが感じられ、そして私はその場に座り込んだ。


ライガン「ガラクタが一丁前に傷ついてやがる、おい、誰か抱く奴はいなか?」


そんな、くだらない冗談に、どう反応していいか、戸惑っている兵士達。

だが、泣きじゃくっていた子供達が下を向いていた事だけが救いだ。


ライガン「何だ何だ、ノリの悪い奴らだなあ」

  副官「ライガン様、そろそろ、街の制圧に掛かりたいのですが………」

ライガン「俺様が負けそうなお前らを救ってやったんだぞ、口出しするな!」

  副官「しかしですな」

ライガン「俺から指揮権を奪った奴が偉そうに、そうだ、お前、こいつを抱け」

  副官「な、何を言って」

ライガン「うるせえ、命令だ、頑張ってナニを、おっ立てろ」

  副官「そんな事をしている暇は無いんです、手遅れになる前に」

ライガン「うるせえって言ってんだろ!何が手遅れだ!だいたい」


言いかけた時、目の前を、瞬きするより速く、三つの大きな影が通り過ぎた。

切り取られた隙間に流れ込んだ空気が、風となってライガンの頬を打つ。

驚いて振り返ろうとしたその耳に、まるで聞いた事の無い怒声が響いた。



   《俺の女に何してくれてんだ!ぶち殺すぞ手前ら!》


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