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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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愚者の一策



「ぐだぐだ抜かしてないで、とっととかかって来な、この馬鹿」


怒鳴られた、軽薄さを殊更ことさら振りまいた男は慌てて自陣に駆け戻って行った。

奴らは、あの有様の伝令から、いったい何と報告を受けたのだろう。



ああ、不快だ、とにかく不快だ、何でこいつらは、縁もゆかりもない他人の人生

を、まるで自分の所有物の様に、扱おうとするのだろうか?


他人より、ほんの少しだけ力が強いから、ほんの少しだけ暴力に長けているから

そんな馬鹿が沢山集まっているから、何をしても許されると思っているのか?


馬鹿な国の馬鹿の指導者が許可をだしたから、馬鹿な指揮官が都合のいい命令を

出してくれたから、だから馬鹿な自分にはなんの責任もないのか?


相手が弱いから、相手が武器を持っていないから、相手が女だから、相手が子供

だから、相手が無力だから、相手から反撃などは無いと思っているのか?


まあ、そう思っているからここまで来たんだろう、そう思っているから町を襲った

のだろう、そう信じて疑わなかったからこそ侵略戦争を起こしたのか?


なぜ、父を殺した?母を殺した?子供を殺した?恋人を殺した?友人を殺した?

隣人を殺した?どうして何の罪も無い人間を殺した?


そしてお前達は、きっと自分たちが処刑台に乗せられた途端に、恥も外聞もなく、

無様に許しを請う為の汚い涙をながすのだろう。

そんなお前達の汚れた魂に価値など認めない。

それでも、優しい私は、彼らに慈悲を与えてやることにした。

痛みを感じる事も出来ない程、一瞬で地獄に送ってやる。


砲塔の仰角を下げると、100m先の地面に向かって榴弾を撃ち放った。

砲弾は、車体には激しい振動と、周囲には耳をつんざく程の衝撃音を残し、目標に

到達して、爆発した。


    ドガッン‼


直撃した場所には、人の姿は無く、血まみれになって倒れている兵士が、中心地に

居た人間が肉片になって消滅した事を語っていた。

今の一撃で三十人近くが、死亡か負傷して戦闘不能に追い込まれていた。


ユリア「人間に使ったのは初めてだけど、何度見ても凄い威力ね」


直也に聞いたが、彼の故郷の国は、この手の物を優に百台以上、保有しているが、

それでも、他国と比べれば少ないんだそうだ。

呆れて、物も言えなかった。


ユリア「やはり散ったわね」


砲撃を受けた海王国の連中は、本能的に道の両脇の森に飛び込んだ。

普段から、戦闘に身を置いているだけあって、恐らく頭よりも体が先に反応したの

だろう、ここに居たら死ぬ、と。

彼らは無自覚の内に、その時点で最良の行動をしていたのだが、それはあくまでも

その時点で助かっただけであって、その後も安全になった訳では無い。


ユリア「森の中だからって安全じゃ無いのよ」


ユリアは間を置かずに両脇の森に機銃掃射を叩き込んだ。

それぞれ50発づつ程度だが、周りの樹木ごと、仲間が吹き飛ばされる様に、海王国

の兵士達は一斉に逃げ始めた。

中には、足を引きずっている者や、仲間に担がれている者もいるが、全部合わせて

も、おそらく二十名程だろう。


小一時間も経たない内に海王国側は80名近くの兵士を失ったが、ユリア達にしても

敵の全兵力から、一割にも満たない数を削ったに過ぎない。

お互いに戦いは、まだ始まったばかりだ。


ユリア「これで次は、数押しで攻めてくれればいいのだけれど」


集団になればなるほど、こちらに有利な戦闘が、出来る。

直也が言っていた武器と兵器の違いを説明されたのを、思いだす。

私はこのバトルドレスを、持たされた時に、16式で移動するから、必要無い、

魔導士のローブだけで十分だと言ったら、珍しく直也が怒った。


 直也《過信しては駄目だ、16式は兵器であって、武器では無い》

ユリア「どういう意味?これが有れば一万の軍があいてでも、負けないわ」

 直也《そうだ、でも相手が一人でも勝てるのか?》

ユリア「当然でしょ」

 直也《どうやって?》

ユリア「砲撃すればいいじゃない」

 直也《もし、敵がどこに居るかも判らない状態だったら?》

ユリア「………あっ」


兵器の武装は万能ではない、兵器はあくまでも戦術、戦略の方法に過ぎない。

もし戦場で隠れた敵の一人と対峙した時、16式とナイフ一本、果たしてどちらが

有利なのか、断言出来る人間はいないだろう。


機動力の発揮できない森や林、沼地や岩石地帯など、山ほど存在する。

砲弾も銃弾も、燃料となる魔石も無限ではない。

水も食糧も補充する必要がある。

そして、16式から離れた時点で負けが確定する。

つまり、状況次第では16式の方が、圧倒的に不利になる。


まあ、実際はユリア自身の武力もあるので、そう、極端な事にはならないだろうが

魔導士が絶対勝者でない事は、アルもユリアも痛い程、身に染みていた。

二人共、直也がいなければ、間違いなく殺されていた。


 直也《二人共、結構、ギリギリだったんだよ》

ユリア「忘れてた………」

 直也《俺は元の世界で、誰一人救えなかった、ここでは既にガットを失った》

ユリア「ああ、ごめんなさい………」


直也がこの世界に来た理由も、その思いも知っていたのに。

彼が過剰なまでに防衛装備を開発する理由も知っていたのに。

私は彼の思いを、まだ軽く見ていた。


直也《それに、もし無駄になっても良いじゃないか、荷物が少し増えるだけさ》


笑ってそう言うと、バトルドレスと護衛にノワールを与えられた。

今の状況になると、それがどれ程有り難い事かわかる。

もしかして、私の思い人は、未来視でも持っているのではないか、そう思わずには

いられなかった。

今は取敢えず、明日にでも、再び襲撃して来るであろう海王国に備えて休息を取る

事にした。



◇◇◇◇◇◇◇◇  オセの街 占領軍本部 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「誰だ、うるせえな!」

「しつれいします、先遣部隊が戻ってきました、ライガン様」

「もう帰って来た?まあいい、で、女は何人捕まえて来たんだ?」

「それが、失敗したらしく………一人も………」

「役立たずが!、今何処にいる!」

「はい、隣の仮設宿舎に………」

「直ぐ行く!まったく、女が壊れたのに、しばらくは替え無しかよ」


そう言ってサイレージ海王国軍第三海将のイシュ・ライガンは、脱ぎ散らかした服

を、無造作に身に着けると、情事の後だと言わんばかりの恰好で宿舎に向かった。

実際、ベットの上には虚ろな瞳で天井を見ている若い女が放置されていた。

まぶしい朝日が差し込むその部屋は、窓の外の清浄さとは全く違う、まるで陰鬱な

牢獄のようだった。


「お前も可哀想に、うちの海将に目を付けられるとは、とんだ災難だったな」


副官らしい男は、そう女を一瞥いちべつすると部屋を出て行った。

しかし、彼女には、反応するだけの気力はもう残っていなかった。

逃げ遅れた彼女の家族は、捕まって直ぐにライガンに目を付けられた。

その日の内に彼女は、親から引きはがされて、その海将と呼ばれていた男の寝室に

放り込まれた。

後は、お決まりの通り散々、もてあそばれた挙句に、たった今放り捨てられた。

彼女の精神は、外界からの反応を全て無視する事で辛うじて崩壊を免れる事に成功

したが、逆に体の方は、必要以上に痛めつけられた。

この事で、彼女は近い将来この国の歴史書の片隅に名を残す、とある決断をする事

になる。


ライガン「何だ、そのざまは、残りの奴らはどうした?」

  海兵「全員、殺されました、助かったの、俺らだけです」

ライガン「で、誰にやられた?」

  海兵「…………あの……………女です」

ライガン「女ぁ?」

  海兵「……………はい」

ライガン「で、何人居た?千人か?二千人か?一万人か?舐めてんのか、ああ?」

  海兵「………あの………一人です………」

ライガン「たった一人の女に負けて、おめおめ帰って来たのか、てめえら」

  海兵「すいません!すいません!」

ライガン「謝りゃ済むって訳じゃねえぞ、こら!」

  海兵「ヒいいぃぃぃ」

  副官「ライガン様、まずは再襲撃の準備をしませんと」

ライガン「仕方ねえ、お前ら、女にどうやってやられたんんだ?弓か?魔法か?」

  海兵「いえ、なんか魔獣みたいなのに攻撃されて」

ライガン「何匹だ?」

  海兵「ええと、一匹でした」

ライガン「はあぁ、もういい、この無能が!しばらく便所掃除でもしてろ!」


ライガンはそう吐き捨てると、足早に宿舎を後にしたが、頭の中は怒りでいっぱい

だった。

予定通りなら、今日の夕方には、新しい捕虜の中から好みの女を選び、己の歪んだ

性欲を吐き出すはずだった。


ライガン「何の為に、俺がこんな面倒臭い任務に立候補したと思ってるんだ」

  副官「海都だと奥様の目が有りますからな」

ライガン「マルガレーテ相手にあんな事、出来ねえからな」

  副官「第一王女様なんだから、当たり前でしょう、勘弁してください」

ライガン「うるせぇなぁ、だから自重してるだろうが」


第三海将イシュ・ライガンの本妻は海王国の第一王女のマルガレーテで、王太子

であるアラン・シーゴーストの双子の姉になる。

つまり外戚だが、王族の一員なのだ。

非常に精悍な面構えをしているだけが取り柄の彼が、若くして海将の地位に居る

のも、その恩恵だ。

本来の彼は、海将となる、実績も能力も全く無く、同期の評価と言えば筋肉馬鹿

で、性格の悪さは軍内随一、それに、この男は頭を使う事が最も苦手なのだ。

そして、何度も言うが、とにかく見た目だけは申し分ないのだ、見た目だけは。

それだけの男なのだ。


  副官「ばれても知りませんよ、それよりもこれからどうします?」

ライガン「決まってるだろ、ここの守備は100でいい、揃い次第に出撃だ」

  副官「今からですか?増援の船はさっき着いたばかりと言いましたよね?」

ライガン「俺は・一刻も早く・女が・抱きたいんだ!」

  副官「駄々っ子ですか、無茶言わんでください、それと装備はどうします?」

ライガン「たかだか魔獣使い一人だぞ、魔獣も多くて3匹程度だろ、弓を増やせば

     十分だ」

  副官「わかりました、兵、800人、準備が整い次第報告します」


海の魔獣は、概ね陸の魔獣より、大型で狂暴だ。

常にその魔獣に対処している彼らは、とにかく陸上の魔獣や兵士を下に見る傾向が

著しいし、実際に単純な武力は彼らの方が遥かに高い。

だから、今回も見下して、ユリアと16式を魔獣使いと魔獣、つまりテイマーだと

一方的に決めつけた。

これで、一手だけユリア達に勝利の駒が動いたが、戦力差は依然開いたままだ。


呆れた事にその日の真夜中には、海王国軍800人がビリアの街に向けて進軍を開始、

灯された松明の長い列を、夜空に輝く銀色の巨大な月が見降ろしていた。


未だ勝敗の天秤は、この一の月、エレオノーラに委ねられたままだ


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