防衛戦開始
「それで、あなた達海王国の目的は何?」
私達は、ノワールにびくつく男に向かって尋問を開始した。
まるで勝った様に大騒ぎしている若い連中が、うるさくて堪らないので、セイドに
頼んで黙らせた。
たかだか、下っ端海兵を数人始末した位で、安全などと思って貰っては困るのだ。
海兵長「オセの街を橋頭保として、この国の住民を奴隷として確保する事です」
ユリア「オセの街にいる戦力は?」
海兵長「大型船が2隻、兵員400名です」
ユリア「初めて聞く船ね、新型?能力は?」
海兵長「ここ2~3年で新しく進水した船です、船体は大型で側面には馬車の車輪が
付いてます、なんで動いているのか分かりません」
何故今まで海上貿易と海棲魔獣の素材取引だけをしていた海王国が、いくら聖王国
にそそのかされたと言っても、急に大陸に色気を出して侵攻して来たか分かった。
風任せの帆船と違い、自らの動力を持つ船なら、大陸周辺を南から北へ流れて行く
高速の海流帯を横断する事が出来る。
今までは、時折、逆風で北に流されは、4~5日、酷い時には、10日以上もかかって
元の場所まで戻る事になっていた。
単独行動ならいざ知らず、漂流時の為に大量の食糧を積み、少人数しか乗船する事
しか出来ない従来型の帆船では、軍事行動など、夢のまた夢だった。
それが、この新型艦の登場で一気に解決した訳だ。
ユリア「ふん、外輪船ね、なら機動力は知れてるわね、何人乗り?」
海兵長「最大乗員も200人です、それよりも新型船を知っているんですか?」
ユリア「原理を知ってるだけ、そんなポンコツ船に興味など無いわ」
海兵長「最新艦が、ポ、ポンコツ?」
ユリア「当たり前でしょ、遅い上に魔石を馬鹿喰いする、あんな効率悪い船」
海兵長「まさか…………全部知ってる………」
ユリア「そんな事はどうでもいいわ、今何人捕まってるの?」
海兵長「35人です」
ユリア「すぐに国に送られるの?」
海兵長「いいえ、100人以上集めないと効率が悪いんで………」
略奪行為は彼らの欲求を満たしたが、国王が欲しいのは食料と農耕奴隷だ。
開墾できる土地は山ほど有るが、歴史の浅い海王国に、開かれた農耕地は少なく、
食料自給率は低い。
だから、奴隷を使いつぶす勢いで畑を広げにかかった。
しかし、グラム聖王国が引き起こした聖戦と仮称する侵略戦争が停滞し始めると、
俄かに、得られる捕虜や食料が少なくなった。
とても、国家レベルで論じられる様な量では無いし、おまけに最初の年ならいざ
知らず、少しすれば、どの町や村も防衛策を取るものだ。
だから、海王国は軍事行動に出た。
ユリア「………………増援はいつ、何隻来るの?」
海兵長「………………さあ、私は何も………」
ユリア「話さないなら構わない、今ここで殺してあげる、ノワール!」
ノワール《イエス・マム》
海兵長「おい!何でだ!知らないって言ってるだろ!」
ユリア「これだけ尻尾を出しといて、まだ誤魔化せるとでも思っているの?」
海兵長「いや、俺は嘘など………」
ユリア「理路整然とし過ぎなのよ、いずれ援軍が来て助かると思って躊躇なさすぎ
なのよ、わざとらしい」
海兵長「………………」
ユリア「それに、満員で来た船に、どうやって100人の捕虜を連れ帰るつもり?」
海兵長「………………」
ユリア「物資も不足するし、後続艦が来るはずよ、規模は?」
海兵長「………………」
ユリア「ノワール、右手小指を斬り落として」
シュン――――ピッ
海兵長「ぎひいぃぃぃぃ………さっ、3隻だ」
ユリア「ノワール、右耳」
シュン――――ピッ
海兵長「ぎやあぁぁ………5隻です!すいません!」
ユリア「ノワール、右手親指」
海兵長「本当です!すいません!すいません!すいません!信じてください!」
ユリア「ノワール、左手小指」
海兵長「正直に喋ったじゃないか!」
ユリア「自業自得」
同じ事を何度も繰り返し、指の数が半分になった頃には、心が完全に折れたようで
従順に質問に答え始めた。
もう引き出した情報に違いはないだろう。
だが、引き出した答えに頭を抱えた。
後続兵力は、600名、最新艦が2隻、旧型が3隻、到着予定は明日後日。
侵略ルートはオセからこのビリアを占領、次に海沿いにエドレア、スパタと襲撃
して、もし、逃げ出した連中がいても、逃走路上に有るこのビリアで残らず捕ま
えるつもりらしい。
ユリア「あなた達が先行部隊なの?」
海兵長「いいえ、今日、100名程の部隊が出発予定です」
ユリア「なら、あなた達は一体何?」
海兵長「斥候と称する問題児共のガス抜きです」
ユリア「はあ、最後の質問よ、今回最高責任者は部下に慕われているの?」
海兵長「第三海将のイシュ・ライガンほど、嫌われている者はいない………」
ユリア「もういいわ、誰かこいつを、牢に放り込んできて」
セイド「はい、おい誰か」
ユリア「面倒な事になったわ、悪いけど、なるたけ多くの責任者を集めて頂戴」
明日には100名もの兵士がこの町にやって来る。
住民全てが、避難する時間は無い。
そして、海王国の最高責任者は嫌われ者、つまり自分の欲に忠実で、他人の痛みを
感じない人間だと言う事だ。
普通は全軍の三割も死ねば撤退するが、そのライガンと言う司令官なら部下の兵士
の士気が下がろうが、どれほど犠牲が出ようが、全く気にせず、襲撃を強要する事
だろう。
厄介この上ない。
十数分後・・・・・・・・・
町役場で最も広い部屋には小さなテーブルが置かれ、一番奥に私とノワールが陣取
ると、その前にセイド達3人が、その後ろに肩が触れ合う程に人が密集していた。
もう、会議ではなく、どう考えても私の指示を一方的に待っているだけの状況では
無いだろうかと思う。
数十人の瞳が、不安と期待を混ぜこぜに、こちらを見ていて、頭が痛い。
今から私が話す状況と対処方法を聞いて、正気で居られるのか甚だ疑問だ。
ユリア「今、この町が置かれている状況を説明するわ、冷静に聞いて頂戴」
ゴクリと喉の鳴る音だけが、痛い程静まり返った部屋に響いた。
ユリア「海王国の連中は明日にでも、100人以上で押しかけて来るわ」
ドルム「ユリア様が守って下さるんでしょ!」
セイド「おい、ドルム!いきなり失礼だろ!」
ドルム「で、でも………」
部屋の中は、嘆く者や慌てる者、嘆願する者達で収拾がつかない状態だ。
冷静を欠いた彼らを相手に話し合いなどと、非効率的な事をやっていたら、とても
間に合わない。
ユリア「悠長に議論などしている時間は無いのよ、今から方針を示すから、異議の
ある人は手を挙げて」
セイド「わかりました、皆も良いな」
全員が静かになるのを待って話を始める。
ユリア「まずシエナ、今どれ位、病人や怪我人や老人が居るの?大体で良いわ」
シエナ「300人は居るかと、勿論、ポーションで回復した者は含んでいいません」
ユリア「ここで海王国を迎え撃つけど、皆にも防衛に参加してもらうわ」
「ざわざわ………」
ユリア「とても、全員で逃げ出す時間も無いし、動けない人や足の遅い人達を見捨
て逃げるつもりも無い」
「ざわざわ………ざわざわ………」
ユリア「最初の100人を退けても、その後、恐らく数百人の襲撃を受ける事になる
生半可な覚悟じや、とても足らないわ」
「ざわざわ………ざわざわ………ざわざわ」
ユリア「それに全滅の可能性だってある、逃げ出したい人がいれば、私は止めたり
しないわ」
みんなが、それこそ女や老人までもが覚悟を決めた顔を始めた中、一人の男が声を
あげた。
ワッツと呼ばれた若い男がヒステリックに騒ぎだし、数名の取り巻きが追随した。
みんな若い、たぶん二十歳近いだろう。
ワッツ「お、俺は出て行くぞ、道連れなんてまっぴらだ!」
セイド「又逃げるのか、ワッツ」
ワッツ「うるせぇ!」
聞けばこの男、元々は公国の王都にある大店の息子で、たまたまこの町まで商隊を
率いて来たが、戦火に巻き込まれて、ここで立ち往生しているらしい。
最も、初の外商に優柔不断が露呈して、散々迷った挙句に逃げ出したのはいいが、
途中で聖王国の撤退部隊に遭遇して、ここに逃げ帰ってきたそうだ。
ユリア「どうぞ、ご自由に。今から町の補強を始めるから、早く出て行ってね」
ワッツ「何を言ってる!お前が護衛するんだ!」
ユリア「はあ?」
ワッツ「俺の母の実家は男爵家なんだぞ!当然だろう!」
ユリア「ああ、もう寝言は良いから、出てって」
ワッツ「貴様!年増女のくせに不敬だぞ!」
ユリア「やかましい!黙れクソ餓鬼が!ぶち殺すぞ!」
こんな馬鹿に掛ける時間が勿体ない、いっそ殺した方が世の中の為だ。
私は怒りに任せて、頭上に炎弾の魔法陣を展開した。
ワッツ「ひ――――っ」
ノワール《オチツイ・テ・クダサイ・マイ・レディ》
ユリア「止めないで!こいつら自身が死たいと言ってるのよ!」
ノワール《マワリニ・ヒガイ・ガ・デマス・ナオヤサマ・カナシミ・マス》
ユリア「うぅぅぅぅぅぅ~、はあぁ~、はぁ、ありがとう、落ち着いたわ」
ノワール《タスカリ・マシタ・ミナサンガ》
ユリア「ワッツとか言ったわね、あと三十分で出て行きな、それ以降はコロス」
ワッツ「わかりました――――っ」
脱兎のごとく走り出す男達を横目で見ながら新たな策を立てていった。
まず、なるべく若い者に馬を与え、ある物を持ってそれぞれ北へ走らせた。
どうせ馬など籠城戦には不要だし、飼葉が必要な分、足手纏いだ。
ユリア「南門は、私が陣取る、西と東は今から封鎖して、残りの戦力は北門よ」
セイド「なら、北門の指揮は私が取りましょう」
ユリア「辛い事になるかも知れないけど、何としても死守して頂戴」
セイド「わかりました」
ユリア「戦えない人は明日の朝まで、この建物に移動して」
シエナ「私が責任をもって集めます」
ユリア「ドルムはこの建物の最上階で監視しながら皆に敵の動向を報告する連絡網
を、女性や子供達を使っていいから作り上げて頂戴」
ドルム「任されました」
ドルムは元宿屋の親父で、とにかく顔が広かった。
下手をすると、路地裏の孤児までが知合いで、連絡網を構築するには最適の人材だ
ユリア「いい、この防衛戦の中心は、あなた達の監視と連絡なの、頼んだわよ」
ドルム「ええ、任せて下さい、やって見せますとも」
ユリア「お、お願いね」
最初に会った時にあれ程うろたえていた人間が、自分の能力に見合った責務を与え
られれば、こうも豹変する物なのかと考えさせられた。
ユリア「ノワールを遊撃として街の壁を乗り越えようとする連中を処理させるわ」
ノワールなら、街を西から東へと移動したとしても三十秒ぐらいしか掛らない。
更に斬りあいになれば、不安要素は皆無、安心して大丈夫だ。
ユリア「もし、街の中に入り込まれたら、その時点でこの建物まで撤退して」
セイド「はは、そうなれば、もう負け戦ですな、何としても、門を守りますよ」
ユリア「申し訳ないけど、頼むわね」
それからは、町中の不要物の全てを使って門の封鎖やバリケードの設置を行いつつ
街の外側の草むらや木の枝など、いたる所に皿や壺を見えない様に隠して回った。
夜中にもし、踏んだり引っかけたりすれば、さぞ大きな音がする事だろう。
子供達が喜々としてばら撒いてまわったが、これも立派な防犯装置だ。
色んな準備を整えていると、すぐに日が落ち始めた。
今日は早々に寝てしまう様にみんなに知らせて回った。
明日からは、まともな休息が取れる保証など、全くないのだから。
翌朝、私は開け放たれた南門の真ん中に16式機動戦闘車を移動させると、その上
に座った。
いまの私の恰好は、魔導士の黒ローブ姿ではなく、直也が作ったバトルドレス姿だ
色の基調は紫で、直也に言わせれば、この色は私の色だそうだ。
ドレスの裾から伸びたケーブルを16式のコントロールパネルに次々に接続する。
これで、ここから動かずに兵器の全てを使用できる一人要塞の完成だ。
「ユリア様、凄く綺麗です!」
「かっこいい!」
ユリア「良いでしょ、私の為だけに、あの人が作ってくれたバトルドレスなの」
「ほえ~」
「でっけ~」
「なんか、強くて凄そう」
ユリア「強いわよ、この16式は、地竜ぐらいなら瞬殺よ」
「「「「おおお~」」」」
私の傍には連絡役の少年達が興味深々で集まって来ていた。
大人達と違って、どうしても好奇心が抑えられない様だ。
そして、しばらくすると遠くに兵士の集団が見えて来た。
間違いなくサイレージ海王国の連中だろう。
ユリア「来たわね、あなた達は下がってなさい」
「「「「「はい」」」」」
集団はそこで止まると、中から一人男が小走りで向かって来た。
恐らく、口上役の伝令か何かだろう。
近付くにつれ、その馬鹿にした様な表情が見て取れて、非常に不快だ。
伝令兵「あ~、え~と、全員降伏しろ?だとよ」
伝言一つ、口上一つ満足に伝えられないなど、どんな馬鹿だ。
こんな奴を送り出す連中も、似たり寄ったりなのだろう。
言葉を交わす価値など微塵も感じない、時間の無駄だ。
「ぐだぐだ抜かしてないで、とっととかかって来な、この馬鹿」




