鋼鉄のメイドと愚者
「さあ、馬鹿の顔を見に行きましょうか」
ノアールを連れて南門へ向かうと、そこは黒山の人だかりが出来上がっており、何
やら争う声が聞こえて来るが、内容は中学生に因縁をつけるチンピラ以外の何物で
もなかった。
セイド「お前らが海王国の連中なのは分かっている、お引き取り願おう!」
しかしセイドの拒絶も彼らには欠片も耳に入らない。
見下した目線でニヤニヤ品定めする様に門の中を格子ごしに眺めている。
「こ、こ、ここは通せない、帰れよ!」
槍を構えた少年が震える声で拒絶するが、格子門の向う側に居る男達には全く怯む
様子も無ければ、立ち去る気配も無い。
髭面の男達は、背は少年よりも頭一つ高く、体は一回りも二回りも大きい。
つまり、門の向う側に来た男達は自分達なら、たった10人程度でも、この町を制圧
出来ると信じて疑っていないのだ。
「あれれぇ~ぼくちゃん、俺達と喧嘩する気~死んじゃうよ~」
「いいじゃん、いいじゃん、元気なガキは大好きだぜ、男も女も」
「そう言って何人殺したんだよ、お前」
「それよりも見ろよ、奥にいい女がいるぜ」
「いや~最高じゃねえか、絶対処女だぞ」
「あの一番左の奴は俺の物だからな」
「何言ってやがる、くじ引きだ、くじ引き!」
「まだ、ガキじゃねえか、良く抱く気になるな」
「何の為に俺らが先遣隊に志願したと思ってるんだよ」
「けけけ、俺ら大人の女にゃ興味が無いからな」
「お前ら変態のお守を任された俺は、いい迷惑だ・・・」
ハッキリ言って、程度が低すぎて会話が成り立つ気がしないが、門で頑張っている
セイドと、まだ少年に近い年の衛兵見習い君に替わってやらないと、可哀そうだ。
ユリア「馬鹿の相手は私がするわ、道を開けて頂戴」
セイド「ユリア様!」
声をかけると、私の前の人垣が割れて海王国の連中の顔が見えてきた。
汚らしく、醜悪な顔だ。
ユリア「さすが海賊国家と言われるだけあった品性の欠片も無いわね」
海兵「何もんだ、お前?」
ユリア「誰でも良いわ、それより警告よ」
海兵「警告だと?」
ユリア「この町は私達の国の保護下にあるわ、全員投降なさい」
海兵「ふん!弱体したアルギス公国など、どれ程の事も無いわ!」
ユリア「あんな弱小国と一緒にしないでくれる?不愉快だから」
海兵「はあ?ふかしてんじゃねえぞ!」
海兵長「何処の国だ、聖王国か?ドランの残党か?それ以外は無理がある」
ユリア「馬鹿のまとめ役のくせに結構情勢に詳しいじゃない」
どうやら、この男は海王国でも、それなりの地位にあるようだ。
海兵「馬鹿馬鹿うるせえ!ならどこだってんだよ!」
ユリア「竜王国ドラゴニア」
海兵「なんだそりゃ?」
ユリア「魔導士・アルセニオス・ファンビューレンが起こした国よ」
海兵「はあ?聞いた事がある様な、無い様な、お前知ってるか?」
海兵「さあ?」
海兵長「…………………もしかして、寂寞か」
ユリア「そうよ、でも知ってるのは一人だけ?あの子もまだまだね」
海兵長「投降すれば、命の保証をしてくれるのか?」
ユリア「ええ、もちろん。但し正直に私の質問に答えてくれたらね」
海兵長「わかった、投降する」
兵士長は生粋のサイレージ国民ではなく、生まれは旧メルド商王国ドラムの出身
で、商家の護衛をしていたが、雇用主と給金の事で争いになり、冤罪を掛けられ
そうになった為、サイレージに逃げ込んだ過去を持っていた。
だから、事あるごとに残した同僚や友人の事が気になって情報収集に励んでいた
のだが、その事が評価され、若くして今の地位を与えられたのだ。
基本、サイレージ海王国の連中は大陸の情勢には無関心なのだが、近年海賊行為
に勤しみ始めると俄かに情報に詳しい者を厚遇し始めた、彼もその中の一人だ。
海兵「ふざけんなよ!何、勝手に決めてんだよ!」
海兵「まだ、何にもしてねえんだぞ!」
海兵「こんな美味しい餌を前に何で我慢しなきゃならないんだ」
海兵長「死にたきゃよそでやれ、俺を巻き込むな!」
海兵「何びびってんだよ」
海兵長「お前ら、あれが見えないのか?」
そう指さした先にはノワールがいた。
海兵「何だ、ありゃあ」
海兵「でっかい人形だな、誰が持って来たんだ?」
海兵「けけけ、人形遊びのかわい子ちゃんは何処かなぁ~」
海兵長「そんなだからお前らは、いつ迄たっても、役を貰えない平兵士なんだよ」
海兵「なんだと!偉そうに!」
海兵「ちょっと目端が利くだけで出世しやがって!」
海兵「剣の腕だって俺らと、どっこいどっこいのくせに」
海兵長「あれは自分で歩いて来た、寂寞の関係者なんだよ、勝てる訳ねえだろ」
海兵「だいたい何だよ、さっきから寂寞寂寞って」
海兵「そんなの知らねえよ、鬱陶しい」
海兵長「ああ、そうかい!海魔三千匹を一人で擂り潰す人間と敵対したけりゃ勝手
にしろ!俺は降伏する!」
※アル君のウィキペディア(Wikipedia)
【 海魔 】
体長が3mにもなるウミウシ型の軟体魔物で体表は粘液にまみれている。
体色は紫、麻痺毒の有る長い触手で獲物をからめとり捕食する。
普段は海底に生息していて、滅多に人目に付く事は無いが、ひとたび海岸に現れる
と多くの被害がでる厄介な魔物である。
体表の粘液のせいで刃物が通らず、よっぽどの高温か多量の炎でないと魔法も効果
が薄い上、二、三日なら陸上でも行動できる。
触手の動きは非常に高速で接近するのに苦労するが、その麻痺毒は高値で取引され
るため討伐推奨対象でもある。
普段は単独行動で集団になる事は無い。
過去の大集団は産卵の時期に何らかの外的要因が起こした物と考えられている。
討伐ランクはD+。
海兵「海魔を?三千匹?何言ってやがる、そんな奴、いる訳あるか」
海兵「話を盛るにしても、限度が有るだろうが」
海兵「びびって逃げる理由にしたいんだろう」
海兵「大体、要るのは、でっかい人形と若作りのオバサンだけじゃねえか」
ユリア「………………………………………………あ”あ”?」
海兵長「あの馬鹿!俺は投降します!横に逃げます!後は好きにして下さい!」
どす黒い瘴気を纏い始めたユリアをみて、約一名がその場を離れた。
彼に逃げたのでは無かった。
ただ、避難したのだ。
しかし、残った者達は、とうとう剣を抜いてしまった。
海兵「ああ、もうめんどくせえ!」
海兵「早い者勝ちだ!」
海兵「どけ!俺が一番乗りだ!」
海兵「うおおおおおおおお!」
海兵達は、叫びながら策をわれ先に壊して、町に侵入しようとした。
ユリア「はい、あなたの長槍よ、降伏したあいつ以外は処分して良いわ」
ノワール《リョウカイ・デス》
ユリアが異空庫から取り出した長槍は当然直也が特別に作った物で、長さは3mを
越え、その刃は1m近くある両刃で総ミスリル製だ。
この異様な槍に特別な付与はしていない、ただ頑丈に作られている。
海兵「おい、あの人形、動きだしたぞ、大丈夫なのか?」
海兵「近づかなけりゃ、いいんだよ」
海兵「それより見ろよあの槍、ミスリルじゃねえか?」
海兵「あれ、下手すりゃ、金貨50枚(5千万円)はするぞ」
海兵「マジかよ、なら、俺がいち」
フオン――――トン――――シュッ――――コロッ
一瞬で8mの距離を詰めたノワールが男の首を刈った。
その字のごとく刈ったのだ、まるで麦の穂が落ちるように、首が落ちていった。
全員を制圧するまで、掛かった時間は僅か十分ほど。
たいした抵抗も出来ず、逃げ回るだけ逃げ回って彼らは、その最後を迎えた。
海兵長「言わんこっちゃない、魔導士と喧嘩する馬鹿が何処にいる」
男は首無し死体となった海兵達を見てそう、つぶやいた。
同時に恐ろしくて、反抗する気力など、微塵も残っていないのに気が付いた。
もう、どんな機密でも、それこそ極秘として来た海流の法則も隠し港の場所も何も
かも喋る気になっていた。
抵抗出来ない一方的な死をもたらす存在が、メイドの姿で立っている。
だが、男には恐怖でも、街の人々にとっては希望の光でしかない。
ユリア「また、随分と情けない兵士ね、一合ぐらい打ち合えばいいのに」
ノワール《マッタク・ケイケン・二・ナリマ・センデシタ》
ユリア「まあ、仕方ないでしょ、では、そこのあなた」
海兵長「は、はい!」
ユリア「色々喋って貰うわよ」
海兵長「何なりとお聞きください!全て話します!」
ユリア「………………刺激が強すぎたかしら」
ノワール《ヘタレ・ナ・ダケデハ・ナイデ・ショウカ》
ユリア「まあ、尋問が簡単そうで助かるわ」
その後、男はノワールの監視の元、何もかも喋らされる事になった。




