落城と末路
「何だお前は、つっ立って無いで頭を下げろ、この背信者が!天罰が下るぞ!」
そう喚きながら、出て来た男は何故か随分高揚しているようだが、見物している
人々は、まるで哀れな道化師を見るように、冷たい目を向けた。
「なあ、あいつ何であんなに得意げなんだ?」
「まさか、自分達が今から誰を相手にするのか、忘れてないか?」
「あいつら自分達の為に、これだけの人間が集まったと思ってるのかもしれん」
「なんか見ていられない程、痛々しいんだが」
「どんだけ、頭が悪いんだよ」
「俺の飼ってる馬の方が空気を読むぞ」
「動物以下かよ」
「馬鹿かな?」
「馬鹿だろ」
「馬鹿だな」
「馬鹿です」
観衆からは、ただ、ひたすら呆れられたが、相対しているこっちは、たまった物
じゃ無かった。
とにかく、こいつらが、口を開く度に、節度とか分別と言った物が、ゴリゴリと
削られて、精神的に疲れて仕方がない。
兎にも角にも、気持ち悪くて、早めに切り上げたくて仕方がない。
「あ――――取りあえずお前達の要望は全部却下、今なら逃げても追いか
けないで、見逃してやるが、どうする?」
グレイ「奴らが逃げるとも思えんが………」
「単なる様式美ってやつだ、意味はねえよ」
グレイ「なんじゃ、そりゃ」
スクナ「ねえ、奴らなんか、プルプルし始めたよ」
グレイ「ああ、ありゃ思考が行き詰ったんだろう、ほら、剣を抜いたぞ」
スクナ「うええ、気持ち悪い………」
「そうかそうか、剣を抜くか、じゃあ一発かまそうか、ファラ!砲塔旋回」
今まで横づけになっていた16式の砲塔が、静かな作動音と共に王城正面を向いた。
王城の周囲は高い金属格子になっているから。開け放たれた正門を頼らなくても、
中の様子は十分に見える。
ここから王城の玄関まで100マト(約100m)少しだから、主砲の最低射撃距離は
何とか、取れるだろう。
但し水平射撃の射線上に居る連中がどうなるか、など、俺の知った事では無い。
バルガ「榴弾装填ヨシ、砲撃用意完了、照準ヨシ」
「よし、お~い、みんな耳を塞げ~どうなっても知らんぞ~」
グレイ「耳を塞ぐ?何で?」
スクナ「わかんないけど、アイラなんか目まで瞑ってるよ」
グレイ「とにかく従った方が良さそうだ」
スクナ「あたいも、そうする」
近くに居た連中(それでも10m以上離れていた)が粗方、耳を塞いだのを見て、
バルガに許可を出した。
バルガ「了解!て――――――――――っ」
ドガ――――――――――――――――――――ッン‼
落雷の様な音を残して、105㎜の榴弾が王城の玄関上部に直撃した。
石作りの外壁は轟音と共に崩れ去り近くに居た、聖王国の兵達を吹き飛ばした。
射線上にいた連中は、ほぼ全員が気絶し残りの連中も腰を抜かしてへたり込んだ
砲撃によって引きおこされた衝撃波は、周辺の見物人にまで届いたが、耳を塞い
だ事で、殆んどが何とかたっていた。
若干、耳を抑えて、ゴロゴロ転がっている奴が居るが、見ていない事にした。
ここでは、聖王国を撃滅する手段は全てこの16式で行う予定だ。
そうすれば、数に任せて、俺一人を排除しようとしても、全く別の強大な戦力が
存在する事を、周辺国に認知させる事ができる。
わざわざ告知しなくても、この民衆の中に山程潜り込んでいる間諜どもが、自国
へ報告してくれる。
魔導士の倒し方は、この前、俺がやられた事で恐らく国の上層部には、知られて
いると思った方が間違い無いだろう。
だが、これで俺だけを狙っても、戦に勝てない事が認識されるだろう。
俺だけに大軍を差し向けても、まだ、別の戦力が存在するし、下手をすれば両方
から挟撃を受けて、一方的に摺り潰される可能性もある。
おれの安全にも繋がるのだ。
何せ、あの時、直也から、傲慢にも程がある、反省しろと、散々怒られたからな。
それに、あんな事で子供達を泣かせる訳にはいかない。
だから徹底的にやる事にした。
「バルガ!玄関周辺より機銃掃射、弾倉を使いきってもいいぞ」
バルガ「了解、よっしゃー!」
砲撃に呆然としていた兵士も、自分達が攻撃されているのが判ると、剣を掲げて
襲って来たが、十歩も進まぬ内に銃弾に倒れた。
普通なら、これだけ一方的に打ち倒されれば、直ぐにでも逃げ出すのだが彼らは
まるで、灯りに群れる虫の様に、自ら死へ飛び込んできた。
自ら思考する事を放棄し、ただ盲目的に教義に従うだけの哀れな生き物。
何の意味も無い、何ら残す物も無い、誰の記憶にも残らない、ただ無為に自ら
命を無駄にしている狂信者達には、もう何の救いも得られないだろう。
1箱(100発)全部撃ち尽くした頃には、立っている者は誰も居なかった。
今、聖王国の兵で生きているのは、最初の砲撃で気絶した32名だけで、後は
全員、物言わぬ骸になっていた。
「さて、ギルマス、正気に戻ったかな?」
グレイ「ああ、何とかな」
「以外に繊細なんだなあ」
グレイ「ふ・ざ・け・る・な、後ろを見て見ろ」
「えっ」
振り向いたそこには、ひっくり返ったり、蹲ったり、小刻みに震えたりしながら
呆然とした表情を顔に貼り付けた市民の塊がいた。
まあ、初めての経験だし、致し方ないだろう。
「いずれ、心に残る程の、甘酸っぱい思い出になるさ」
グレイ「トラウマだろうが………」
「そうとも言うな」
グレイ「みろ、こいつなんか酷い有様だぞ」
「ああ、クイナか、何だか鼻水が凄い事になってる事はわかった」
グレイ「若い女の子がしていい顔じゃない、どう責任を取るつもりだ?」
「手遅れだろう、もういっそ、ひと思いに………」
クイナ「ムガ――――勝手に殺すな!」
「ほら、復活したろ」
グレイ「………ひでえ………」
「大丈夫さ、それより相談がある」
それは、今、気絶している狂信者どもの扱いだ。
いま、銀月の連中が縄で拘束しているが、さすがに、30人近くになると、些か
時間が掛かるだろう。
「まず、拘束を手伝ってやってくれ」
グレイ「ああ、わかった、おい!」
やはり長年、ギルドマスターとして勤めていた、貫禄なのか、言葉一つで冒険者
達に指示を聞かせてしまった。
「悪いな、要はあの狂信者共の扱いについてなんだが、町に渡そうと思う」
グレイ「どういう意味だ?」
「俺が保護している子供達も、この国の出身らしくてな、全員聖王国の兵
に親が殺されたらしい」
グレイ「ああ、そういう事か」
「きっと殺したい程、恨んでいる者も居るのだろ、叶えてやる事にした」
グレイ「有難く頂こう」
「どうせ、他に使い道はないさ」
グレイ「違いない」
今の話を集まった人達にしたが、みんなから、歓声を持って受け入れられた。
ここでも、あの連中が行った蛮行は、殆んど変わらなかったようで、どうやれば
長い間、殺さないで痛みを与えられるのか、一番苦しい死に方は何なのか、その
問題で議論の真最中だ。
「ほぼ、全員じゃないか、きちんと行き渡るのか、これ」
グレイ「無理だろう、くじ引きでもするさ」
「血を余り流さずにやれば、かなり持つぞ、それと爪と歯は激痛らしい」
グレイ「そうか!なら、なんとかなるな」
「簡単に死なせないさ、そうだ、これをやるよ」
グレイ「まさか、ポーションか」
「ああ、従来の奴でもう使わないからな」
グレイ「従来?」
「ああ、俺達は新しい上級ポーションを使うからな」
グレイ「上級?効果はどの程度だ?」
「従来の約十倍ほど、シャラで実証済みだ」
グレイ「卸してくれ!」
「量産のめどが立ったらな」
グレイ「分かった、早くギルドを開設してくれ」
「はは、頑張るよ」
暫くすると、縄で縛られた連中が目を始めたが、当初の勢いは何処へやら、妄言
にも切れが無い。
「随分、大人しいじゃないか、さっきの勇ましさはどこ行った?」
狂信者「わ、我々は、神に選ばれし………」
「くく、恐ろしいんだろ、怖くて堪らないんだろう」
狂信者「私は、す、す、救われ、て、だから」
「救われないさ、お前は今から、全員の恨みをその身で受けるんだ」
狂信者「い、いやだ、助けて下さい………」
「俺に頼むな、お前の神とやらにお願いしろよ、無駄だけどな」
狂信者「そ、そんな………」
「気が狂うまでに神様が来てくれるといいな」
狂信者「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ」
狂信者達は、人だかりで見えなくなったが、今は全員が、ありとあらゆる痛み
を受けている事だろう。
自分達がどれ程多くの人々から人生を奪い取ったのか、その恨みが自分に帰って
来た事に絶望しながら、苦痛の海でのたうち回ればいい。
俺たちはその後、王都中に鳴り響く、苦痛に泣き叫ぶ声を聞きながら、獣人達の
隠れ里に向けて出発した。




