退陣強要・問答無用
「と、止まれ、貴様ら何者だ、ここから即刻立ち去れ!去れ!去れ!去れ!」
王都にある四つの大門の一つ、南大門は、過去、最も人と荷物の往来が激しい
門だった。
かつて、王都の南は、豊かな森が広がり、多種多様な実りを求めて多くの獣人
達が暮らしており、無数の小さな村が存在していた。
そして、その実りは、こぞって王都の市場へと持ち込まれていた。
特に朝の一時など、よく荷車が渋滞していた程だ。
だが、聖王国に占拠された今は、最も寂れた門に成り下がっていた。
大きな門は閉ざされたまま、脇の通用門のみが唯一解放されていた。
ここを、通るのは殆んどが盗賊や欲に目の眩んだ冒険者か、獲物となった獣人
だけである。
そのせいで、この門から冒険者ギルドまでの治安が異様に悪化してしまった為
今や宿屋どころか、食堂や露店、果ては孤児たち迄いなくなってしまった。
僅か、銅貨1枚(約100円)の為に、他人を殺す様な連中と、誰が同じ空間と思
うだろうか、そんな狂人は居ない。
「がたがた五月蠅い!止められるものなら止めてみろ!」
レゴス「奴ら、がたがた震えてるだけで、動けないみたいですよ」
ファラ「そりゃ、これ見ればびびるだろう」
そう言って、ファラは16式の車体をぺしぺし叩いている。
そしてバルガが何をしているかと言うと、機銃に取り付いて、じっと俺の合図を
待っている。
何かがバルガの琴線に触れたようで、どうしてもと頼まれた。
バルガ「照準終わりました、、何時でも打てます!」
レゴス「兄貴のやつ、何か凄くテンションが高いな」
「どうも、昨日の試し撃ちが癖になったみたいだな」
レゴス「すいません………」
シャラ「兄貴がごめんなさい」
「………まあいいか、バルガ、撃って良いぞ」
バルガ「了解です、おりゃあああああ」
――――ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――――
12.7mm重機関銃から、放たれた銃弾の集中射撃は、大門をバラバラに分解し
ただの瓦礫の山に変えてしまった。
いくら大きいとはいえ、たかが木製の門が耐えられる様な物では無かった。
「バルガの奴、1箱(100発)全部撃ちやがった……」
レゴス「す、すいません……」
シャラ「あ、奴ら逃げて行きますよ」
「どうせ上に報告に行ったんだろう、ほっとけ、ほっとけ」
レゴス「良いんですか?」
「向うから集まって来るなら手間がはぶけて好都合だ、それよりもまず
冒険者ギルドだ、ファラ出してくれ」
ファラ「わっかりました~出発進行~」
「ああ、ここにも、沼にはまった奴が居たんだったな」
レゴス「すいません……」
シャラ「申し訳ないです」
「まあ、役に立ってるからいいけどな」
奴らが逃げて行った方角には、遠く王城が見えるが、あんな重装備で走れるのか
どうか、そもそも辿り着くのかどうか、怪しいもんだ。
そして、ここから冒険者ギルドまではそう掛からないそうだが、聞いていた通り
酷い有様だった。
人っ子一人いない上に、荒れ放題の家屋、野良犬さえいない。
「呆れたもんだな、聖王国の連中は何のために侵攻して来たんだか…」
バルガ「これがドランの未来ですかね………」
レゴス「考えたくないな」
「そう言えば、ドランの王族はどうなった?」
バルガ「詳しい事は俺ら程度じゃ」
レゴス「ただ生き残りが何処かに匿われている噂だけが、時々出ますけど」
「まあ、しょうがないさ」
遠くに古臭いが重厚で大きなギルドの建物が見えて来た。
さすがにここ迄来るとギルドの周りに、冒険者達や、彼らの相手をする露店等
が、ちらほら見える。
バルガ「アルセニオス様、ここで俺らを先にギルドに行かせて貰えませんか?」
「構わないが、どうしてだ?」
バルガ「友人や気のいい馬鹿がギルドにいるんで、ちょっと注意喚起に」
レゴス「大人しくさせときます」
「構わないけど、クズだったら容赦しないぞ」
バルガ「絶対に大丈夫です」
「わかった、ファラ、一旦とまれ」
ファラ「むぅ、了解です」
バルガとレゴスは16式を降りると、短剣だけ持ってギルドへ駆けていった。
やはり、日頃から鍛えているのか、あっと言う間にギルドまで辿り着いたのが、
ここからでもみえた。
「とんでもなく、足が速いな、やはり冒険者だな」
ファラ「いいえ、逃げ回りまくった結果です」
シャラ「勝手に身に付いただけっしょ」
「素直に褒められとけよ………」
再び16式に乗り、ギルドの正面玄関に横づけすると、あっと言う間に人だかり
が出来たが、誰も近寄ろうとはしない。
まあ、こんな得体の知れない物に近づこうとする奴は居ないだろう。
16式の砲塔上部ハッチから降りると、周囲の野次馬たちを一人一人ゆっくりと
見回し、顔を見て笑ってやった。
反応は様々だが、良くも悪くもギルドで騒ぎが起これば、嫌でも俺の顔を思い
出す事になるだろう。
その結果、
彼らは、考えねば気が済まなくなる、黒の魔導士が何をしに来たのか?
彼らは、知らねば気が済まなくなる、黒の魔導士が何をしたのか?
彼らは、見なければ気が済まなくなる、黒の魔導士が何を仕出かしたのか?
彼らは、確認しなければ気が済まなくなる、黒の魔導士が何を変えたのか?
そして、彼らはその話を国中に話して回らないと気が済まなくなるのだ。
良くも悪くも、たった今から淀んだ時間が動く、と。
波に乗り新しい世界を見るのも、波を避け安寧を探すのも、個人の自由だ。
ただ、巨大な波が起こる事を知ってくれればいい。
そしてそれはたった今始まった。
ファラに16式と親子の警備と保護を任せ、シャラを連れてギルドの扉を潜った
が、反応は予想外の物だった。
そこには、バルガが数人の盗賊らしき男達と対峙しており、その足元には縄に
巻かれた、狐人族と思われる女性が、床に倒れていた。
レゴスは、他の冒険者たちの抑え役か………。
「また、分かりやすい構図だな、バルガ」
バルガ「すいません、俺じゃあ女性が危険なんで」
「良い判断だ、おい、そこの馬鹿!お前がその女性を捕まえたのか?」
盗賊「やっと捕まえたんだ、横取りする気か、てめえ」
「良く、隠形に長けた狐人族を見つけたな」
狐人族「こいつら、村の有る森に火を付けたのよ、本物のクズよ」
「なるほど、で、お前さんは、囮になったって訳か、男顔負けだな」
狐人族「あたいが一番足が速いからさ、残りは年よりか子供だけだし」
「その様子だと、囮は成功か、なら、こいつらは始末していいか?」
狐人族「えっ?なっ?はっ?ええと、はい?」
盗賊「てめえら、名に勝手にしゃべってやがる!」
「お前達の寿命が今から尽きるって、お・は・な・し」
盗賊「「「「「えっ、」」」」」
「《《《氷の理::剣爆》》》」
盗賊達を襲った無数の氷の長剣は、奴らの首から上を斬り飛ばすと、後ろの壁
ごと破壊した。
一切の言い訳も弁明も聞くつもりは無い。
奴らに慈悲など掛けるつもりは無い。
他人の人生を奪おうとするなら、自らの人生を奪われても文句は無いだろう。
バルガが、倒れている狐人族の女性の縄を解いていると、二階から何やら喚き
ながら、神経質そうな痩せぎすの男が降りてきた。
むだに思えるほど、着飾った姿は自分を偉く見せたい様が見え隠れしていて、
見ているのがどうにも痛々しい。
ギルマス「何の騒ぎだ、私のギルドで騒いでいる馬鹿は何処だ!」
「俺だ俺、お前がギルドマスターか?」
ギルマス「口の利き方に気を付けろ若造が、この壁もお前か!」
「ああ、そうだが、それがどうした?」
ギルマス「貴様、除名だ、ギルドカード没収だ!」
「魔導士がそんなもん持ってる訳無いだろう、馬鹿なのか」
ギルマス「何だと!きさ………ま…?……ま………どう…し…?……え…なぜ」
「見て分からないのか?お前の目はふしあなか?」
ギルマス「いや…あの…その」
「まあいい、レゴス2~3人連れて二階の連中を全員連れて来てくれ」
レゴス「はい、了解です」
「あと椅子とテーブルだな、親父さんちょっと貸してくれ」
そう酒場の親父に了解を取ると、そこに居た冒険者達が寄ってたかって用意を
整えてくれた。
「悪いな、手間をかけさせて」
バルガ「大丈夫です、皆、アルセニオス様の手伝いをしたいんですよ」
シャラ「黒魔導士を手伝う機会など、二度と来ないかも知れないですからね」
「そんなに大層な者でも無いし、ほっといてくれても良いんだが……」
シャラ「さすがに無理っしょ」
バルガ「無理だな」
暫くすると、全員が席に着いたが彼らが目にしたのは、偉そうにふんぞり返って
いる一人の男だ。
だが、徐々にその正体に気が付いて、困惑する者、疑問に思う者、うな垂れる者
青くなる者等、様々だが、黒依の魔導士をよく知らない半数近くにのぼる若者が
怒りの目を向けて来たが構わないだろう。
「全員席に着いたか、改めて名乗ろう、アルセニオス・ファンビューレンだ」
周りの冒険者たちからどよめきが起こり、席に着いていた者達の半数が、顔に
絶望を貼り付け、残りの半数は状況が飲み込めずに居た。
「お前ら以外に聖王国の人間は居るか?」
ギルマス「いません、ここにいるだけです」
「そうか、なら話は速い、全員辞表を出してギルドから出て行け」
ギルマス「横暴だ、そんな事は受け入れられない!」
職員「運営はどうするつもりだ!ふざけるな!」
ギルマス「そもそもあなたにそんな権限は無い!」
「俺は、お前達の意見を聞きに来たんじゃない」
ギルマス「なんですと!」
「俺は命令しているんだ、出て行けと、それとも死にたいのか?」
ギルマス「私は聖王国の…」
「何も知らされてない下っ端貴族だろ、多分王城の連中もな、公国に
進軍した連中は当の昔に全滅したぞ」
ギルマス「なっ!」
「ここで死ぬか、王城にご注進するか、国に帰るか選べ、今すぐに!」
ギルマス「ひいいい!」
端から、能力も無い貴族が押し付けられて喜んでいただけで、使命感や義務感
など、欠片も持たない者達が抵抗する訳が無い。
全員が私物も持たずに逃げ出して、聖王国に向かったが、若い数名が王城に向
かったらしい。
まあ死にたいのなら自由にすればいい。
どうせ目端の利く高位貴族の連中は、知りに帆かけて逃げた後だろう。
あとは、例え代理でもギルドの責任者を据えるだけだが。
「ちょっと聞きたいんだが、前任のギルドマスターの居所を知らないか?」
聞いた途端、そこに居た全員が酒場の親父を指さした。




