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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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銀月



シャラ「駄目だ、まだついてくるよ、兄貴!」

バルガ「なんてしつこい連中だ!」

レゴス「どうする?もう一度迎え撃つか?」

ファラ「犬除けの匂い袋も、これが最後だ!」

バルガ「………まずいな、もう矢が切れたし、どうする………」


獣人狩りの盗賊から、捕まってた家族を、助け出した迄は良かったが、予想以上

に大規模な集団だったらしく、散々、追いまくられていた。

特に近頃、連中が使い始めた猟犬が、厄介極まりなかった。

森や渓谷に隠れていた獣人達を探し出すだけでなく、こうして逃げた獣人の追跡

にも、効果を発揮した。


バルガ「このまま逃げてもじり貧だ、ここで迎え撃つ」

シャラ「でも、奴らが………」

バルガ「だから、追いつかれる前に犬どもを、処分するんだ!」

レゴス「幸い、左側は、崖だから三方から襲われる事は避けられるしな」


今逃げ込んでいるのは大きな森の一画だが、奴らの乗る馬を避けるには、森の中

に逃げ込むしか方法が無かった。

今まで、そうやって、森や廃屋だらけの村などを使って逃げていたのだが、猟犬

の投入で、事態は一変してしまった。

追手を撒く事が出来なくなったのだ。

実際に今、追い回されて、自分達が一体どこに向かっているのかさえ、分からな

くなっている。


バルガ「来たぞ!シャラとファラは親子についてろ!」

シャラ「了解」

ファラ「任せて」

レゴス「さあ、かかって来い、ワンコロ共!」


しかし、レゴスが襲い掛かって来た猟犬の首を、一太刀で切り捨てると、直ぐに

他の猟犬たちは、レゴスを危険と判断して近寄って来なくなり、遠巻きに吠える

だけになった。

だが、とにかくこれが一番厄介だった。

何時まで経っても、猟犬どもを全て始末する事できないからだ。


レゴス「くそっ、まただ、また、近づいて来なくなりやがった!」

バルガ「レゴス!二人でもう一度、飛び込むぞ!」

レゴス「おう!」


だが、二人が飛び込もうと、持っていた剣を握り直した時、異変が起きた。

猟犬たちが、一斉に吠えるのを止めて、尻込みを始めた。

遠くから追手の声が聞こえているので、飼い主の指示では無い事は確かだ。


レゴス「………………………何かいやがる」

バルガ「ああ、嫌な気配だ」

ファラ「兄貴!右だ!」


そこに居たのは、森から、のっそりと出て来た半透明の体を持つ巨大なカマキリ

の、つがい、だった。


レゴス「クリスタルマンティスだ、でかいな」

シャラ「血の匂いに惹かれたんだよ」

バルガ「…………レゴス、そのままゆっくり下がれ、マンティスの注意は引くなよ」

レゴス「わかった」

バルガ「ファラ、匂い袋を犬どもの鼻先にぶつけてやれ」

ファラ「了解、それっ」


匂い袋をぶつけられた猟犬は、その刺激臭に耐えかねて、草むらに隠れるのも忘

れて、匂い袋から飛びのいた。

そして、その動きは、マンティスの注意を十分引き付けた。

とたんに、猟犬とクリスタルマンティスの乱闘が、始まった。


バルガ「よし、押し付け成功だ、今の内ににげるぞ」

レゴス「マンティス様様だな」

ファラ「同感!」


獣人の親子を連れてそのまま森を抜け、一直線に東へと草原を横切った先には、

滔々《とうとう》と流れる大河が横たわっていた。


シャラ「兄貴!川に出ちまったよ!」

バルガ「モス大河………か」

レゴス「……多分な、それ以外考えられん」

ファラ「まいったな………」


猟犬たちとの追いかけっこで、予定の逃走経路から外れた事は、自覚していたが

まさかここまで方向がずれていたとは、思わなかった。

それほど追い込まれていたと言う事だろう。

だが、問題はこれからどちを目指すか、と言う問題だ。


目指す隠れ里は北のナール山脈にある。

たた、上流を目指せばいいだけの話なのだが、問題はこちら岸に広がるこの平原

を、幼い子供を連れた母親と共に抜けなければならない事だ。


膝丈程しか無い草原は、グラスウルフにとっては恰好の狩場であり、馬に乗った

追跡者は容易く対象を追跡出来るだろう。

そんな平原を三日もかけて横切るのに、何も起きないはずが無い。


だからもう一つの道を辿る事にした。

ここから下流に少し下れば、ローグ大橋が架かっているはずである。

それを渡って、アルギス公国側にはいってから、河沿いに北上する方法が、一番

生存率が高そうだからだ。


問題は公国側にいるはずの、聖王国軍の動向だと、彼らは思っていた。

めったに情報も入らず、隠れて獣人の救出ばかりしていた彼らは、橋の向う側が

とっくの昔にアルの勢力下になっている事など、全く知らなかった。

まさか、二ヶ月も経たない内に、聖王国が、一人残らず居なくなっているなど、

誰が想像出来ただろう。


彼らは、知らない内に、最善の選択をしていたが、それで、全ての危機が去った

訳では無い。


その危機は、直ぐに彼らの前に現れて、醜悪な笑い声をあげた。


バルガ「くそったれが、もう、追いつてきやがった」

レゴス「恐らく犬どもを見捨てて、森を迂回してきやがったんだ」

ファラ「頭の回るクズがいるんだろ」

シャラ「ちくしょう、橋の上じゃ隠れる物もないじゃないか」


俺たちが橋を渡り始めてから、すぐに盗賊たちが馬に乗って現れた。

それは、バルガの予想よりも遥かに速かった。

おまけにタイミングは最悪だ。


盗賊「ばかが、逃げられっこねえんだよ」

  「さあ、大人しく、その獣人の女を寄こしな」

  「言う事聞けば、苦しまずに殺してやるよ、ガキも全部な」

  「抵抗すんなよ、楽に死にたいだろ?」

  「ぎゃははははははははは」


橋の上には馬から降りた連中が十人ほど、そして橋のたもとには馬に乗った盗賊

が、こちらも十人程が待機する様に占有している。

戦力差が酷いが、ここでこの親子を見捨てて逃げるくらいなら、最初からこんな

事はしていない。

俺たちは、ここまでだと、腹を括る事にした。


バルガ「悪いが、ここからは、守ってやることは出来そうもない」

レゴス「俺らがこいつらを、ここで食い止めるから、自力で橋を渡ってくれ」

ファラ「渡り切ったらすぐにどこかに隠れるんだ」

シャラ「一緒に居てやれなくて、ごめんよ」


母親と、赤ん坊が一人、二歳の双子、この足の遅い親子を、無事に逃がす事が、

殆んど不可能な事は、分かっている。

それでも、彼女たちは猫の獣人、走る事は苦手でも、隠れる事なら得意な種族

だ。

そこに、一縷の望みをかける。


戦闘は、苛烈を極めた物になったが、実際は盗賊側に目立った犠牲者は居ない。

倒す事など、全く考えていない、要は時間さえ稼げればいい、そう言う戦闘を

行っていたのだから当然だが、こちらは、全身血だらけで、もう傷の場所さえ

良く判らない有様だ。


だが、母娘が橋をもう少しで渡り切れる頃になって、流石に盗賊達は焦り始め

圧力が急に高まった。

今までの嬲る様な態度は一変、がむしゃらに剣を振り始めた。

そして遂に、その防御の一画が崩れててしまった。


バルガ「シャラ!」


とうとうシャラが、崩れ落ちた。

元々、斥候は得意だが、ガチの戦闘は苦手だったシャラは、それでも良く踏ん張

ったが、流した血の量が多過ぎた。

倒れたシャラの横を、盗賊が通り過ぎようとしているが、止める力は俺達にも残

っていない、この、救いの無い運命を呪いかけた。


   ドガ――――――――――――――――――――ッン‼


それは、俺達の頭の上を通り過ぎると、轟音と共に全員を吹き飛ばした。

直ぐ傍で、落雷があったと思ったが、転がった盗賊達には誰も怪我を

全く見受けられない。

俺らも盗賊も全員が、衝撃で思考能力と聴力が麻痺したため暫く動けないでいた。


そして、それは唐突に起こった。

気が付けば俺達の傍に、二つの人では無い、人にしか見えない銅像らしい何かが

いつの間にか、立っていた。


そう、銅像だ。

どこから見ても銅像だ。

まるで人間にそっくりに作られた銅像だ。

銅像だったら、どれ程良かったか………。


動きやがったんだよ、振り向いて、手を挙げやがったんだよ、銅像じゃねえよ、

何か違う得体の知れない何かだよ。

そして、更に驚きだよ、橋の向うから、猫獣人の親子を連れて、ニコニコと笑い

ながら、あの人が歩いて来たんだよ、おまけに手まで振って。


この人は、なにか?俺達を驚かせないと死ぬ病気にでも、罹っているのか?

助かったのは確かなので心から感謝してるのだが、何故か納得できない。

出待ちした様な黒魔導士様の登場に、俺らは呆れて声を出せなかった。


「よう、銀月の諸君、久しぶりだな、なんだ、随分苦労してるじゃないか」




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