全権大使
キャラキャラキャラキャラキャラキャラ―――――
遠くから馬の嘶きと馬車の車輪の音が聞こえる。
道の先が見通せないが、間違いなくこちらに向かって来ている。
その特殊な車輪の音が、間違いなく難民の物ではない事を物語っていた。
一気に緊張が走るが、今更惜しむ命も無い。
緊急の木板を叩き鳴らすと、門を閉め、槍を手に取った。
あの日、ジリエの街からの避難民を受け入れてから、もう一月以上、全く訪問者
が来ないので、今、この国がどうなっているのか分からない。
老人A 「あの方に追われた聖王国の連中かもしれん」
老人B「こんな軽快な車輪の音は初めて聞く、ただもんじゃ無い」
老人C「ああ、要注意じゃ」
槍を握る手に力が入る。
音が近ずくにつれ、背中を汗が流れるのを感じる。
いざとなれば、たとえ肉壁になってでも、皆の避難する時間をかせぐ。
その決意を一人の女の子が、ものの見事に蹴っ飛ばした。
リンティ「お~い!」
ラモン「な、何をしてるんじゃ!おんしは!」
ヨセフ「はよ、避難せんか!」
レグ「木板の音が聞こえたじゃろ!」
見れば弓使いのリンティが、門の上から上半身を乗り出して、馬車に向かって、
手を振っていた。
リンティ「え~、だってあれ、魔導士様が連れてた狼人の男の子だよ」
老人,s「「「はあぁぁぁ?」」」
そして、暫くすると見た事も無い馬車に乗った狼人族の少年が見えて来た。
確かにあの少年だ、あの特徴のある黒髪、間違いない。
嬉しそうに御者席で、手を振っている。
だが、何で横にメイドが乗っているんだ?
デクシス「じいちゃん達、ひさしぶり!」
レグ「お、おう、ひさしぶりじゃな…」
ヨセフ「と、とりあえず、中にはいろうか………」
デクシス「うん!」
屈託なく笑う少年と馬車を広場まで招き入れた。
もう既にリンティが皆を呼びに走っていったから、程なく皆、集まるだろうが、
もう、色々聞く事が多過ぎて、何から聞いたらいいのやら………。
レグ「のう、確かデクシスじゃったかの」
デクシス「うん!」
ヨセフ「今日は一人か?外の子達はどうしたんじゃ?」
デクシス「俺はアル様から言われて来たんだ、みんなはお留守番さ」
ラモン「そ、そうか」
そうこうしている内に皆が集まって来た。
まあ実際、食料の調達程度しか、する事が無いんで、あっと言う間だった。
サーシャ「お久しぶりね、今日はアルセニオス様はいらっしゃらないの?」
デクシス「アル様は別な用事があるんだ、だからここには俺が、ぜ、ぜん、け」
ジューヌ《全権大使デス・ボッチャマ》
デクシス「ああ、それそれ、全権大使として来たんだ」
サーシャ「そ、そう、ええと、こちらの方は?」
デクシス「ああ、これはジューヌ、メイドロイドって言うんだって」
レグ「まさかと思うが、ゴーレムなのか」
デクシス「?さあ?違うらしいけど………」
ジューヌ《カワリニ・オコタエシマス・ワタシハ・カラクリニンギョウ・デス》
全員があっけにとられた。
人形が自分で歩いて言葉を話して、おまけにどう考えても自分で判断している。
頭がおかしくなりそうだ。
レグ「いや、人形ですと言われてものう………」
ヨセフ「本当は中に人がはいってるんじゃろ?」
エミリア「からくり人形って、自分で動くんですか?」
サーシャ「そんな話、聞いた事ないわ」
デクシス「本当だよ、魔獣だって倒すんだ、特に弓が凄いんだよ」
リンティ「えっ弓?何処に有るの、見てみたい!」
ジューヌ《ドウゾ・ゴラン・クダサイ》
そう言うとジューヌは少しだけ居住まいを正して、左手の長弓を展開した。
銀色に輝くそれは、見ただけでもその破壊力が想像できた。
だが、間違いなく機械仕掛けだ。
リンティ「す、すごっ」
ラモン「金属製の弓など初めて見たわい」
レグ「それよりも、まさか全身金属なのか?」
デクシス「当たり前だよ、ジューヌは直也様が作ったんだから」
ヨセフ「作った?これを人が作ったと言うのか、神の手ずからでなく!」
サーシャ「何者なの、その直也様って方は」
デクシス「直也様はアル様の親友だよ」
ラモン「つ、強いのか?その御仁は」
デクシス「うん、軍隊の一つや二つ、簡単に全滅させるよ、この前見たもん」
サーシャ「ぐ、軍隊って、何人ぐらい居たの?アルセニオス様は?」
軍隊と言っても、子供の言う事だ、もしかして10人程度の兵士を勘違いしている
可能性もあるし、アルセニオス様も一緒だった可能性もある。
どう考えても何かの思い違いだとしか思えない。
デクシス「あの時、敵の矢を受けて、アル様が大ケガしたんだ」
レグ「あのお方が怪我?あり得るのか、そんな事」
ラモン「とても信じられん………」
ヨセフ「何かの間違いじゃないのか」
デクシス「ううん、その中にガットを殺した奴がいて、それを聞いた直也様が
怒ったんだ、敵は3000人ぐらい居たけど全滅したよ」
勘違いしたのは此方のほうだった。
30人どころか、3000人?その直也様とは人か?本当はドラゴンか何かの化身じゃ
無いのか、とか、そうとしか思えない。
個人の武力としは大き過ぎる、まるで神か魔神だ。
だが、もう一つどうしても聞き流せない事がある。
レグ「今、何と言うた、殺された?ガットとは、あの犬人族の子か?」
ラモン「何があったんじゃ!」
ヨセフ「どこのどいつじゃ、あの子を殺したんは!」
デクシス「ガットは俺達を助けようとして、公国の公子に殺された」
サーシャ「何てことを…………」
カタリナ「ひどい………」
だが、あれほど溺愛していた子供を殺されて、あの方が何もしない訳が無い。
たとえ相手が国王だろうが公王だろうが、躊躇するとは思えない。
アルセニオス様が怪我をしたのも、それが関係しているのだろう。
だが、問題は別にある。
アルギス公国との関係だ。
サーシャ「では、公国とは今、どうなってるの」
デクシス「あの国は敵だ!俺達の敵だ!」
ジューヌ《ソノコトニ・ツイテ・テイアン・ヲ・アズカッテ・イマ・ス》
呆れた事に公国はアルセニオス様に聖王国を、撃退してもらったくせに、公国を
挙げて、殺しに来たらしい。
そして、そのきっかけが、第三公子による、子供達への暴行と強姦未遂で、その
時、公子達によってガットは殺されたそうだ。
この国は、一体いつからこんな腐った国になってしまったのだろう、そう思うと
段々、怒りが湧いて来た。
そもそも、私達がこんな状況になっているのも、主人が死んだのもあの街長の裏
切りのせいだ。
ジューヌ《ココハ・ゲンザイ・アルセニオスサマノ・カンリカ・二・アリマス》
サーシャ「あの方がここの支配者?」
レグ「この町なら、好きにしてもらっても構わんが………」
ヨセフ「どうせ、あの方に救ってもらった町じゃ」
ラモン「まあ、若い娘たちは、自由にさせてやってくれればええ」
エミリア「私達、どこにも行く気は無いです!」
デクシス「じいちゃん達、何か勘違いしてない?俺、一緒に暮らそうって言いに
来たんだけど」
サーシャ「もしかして、公国が攻めてくるの?」
ジューヌ《イイエ・コウコクハ・クーロンオオハシ・ヲ・コエラレマセン》
それは、とんでもない話だった。
公国の王族や貴族に激怒したアルセニオス様は自分の国を作る事にしたそうだ。
また、公国だけでなく、周辺諸国の支配者層の堕落ぶりにぼ嫌悪したそうだ。
だから、貴族の類は作らないそうだ。
そして国土は、バゼ大河からモス大河の間の土地全て。
これは、アルギス公国の約4割弱にも当たる。
アルギス公国やグラム聖王国からの侵攻は無いのかと聞いたが、アルセニオス様
と、直也様とやらが居る限り、両国の人口が減るだけだそうだ。
おまけに、今は末席ではあるものの、女性の黒魔導士もいるらしい。
だから、建国を手伝って欲しいそうだ。
だが、そうなると、一層、その直也様という人物の事が気になる。
特にナオヤと言う名前は、はじめて聞く発音だし、その能力も人とは思えない。
サーシャ「ねえ、その直也様は何者なのか、聞いていい?」
デクシス「ええと、直也様は、大水晶を依り代として顕現した精神体?で、よそ
の世界からアル様に誘われて来たって言ってた」
レグ「大精霊様ではないか!」
ヨセフ「強くて当たり前じゃ!」
ラモン「おぬしら、恐ろしく無いのか?」
デクシス「直也様は大精霊じゃ無いよ、すっごく優しいお兄さんで、しょっちゅう
リリにせがまれて、お馬さんをやってる」
エミリア「大精霊様が、お馬さん?マジで?」
カタリナ「お馬さんって、あれよね、背中に子供を乗っけるやつ」
デクシス「あのね、直也様、大精霊と間違われると泣いちゃうんでやめてね」
リンティ「泣いちゃうって………」
サーシャ「話が凄すぎて、理解する時間が必要なの、少し考える時間を頂戴」
とにかく、話が突飛すぎて、脳みそが、ゆであがってしまった。
今は何より冷却時間が欲しい。
ラモン「そうじゃな、とにかく、一旦、休息にせんか?」
ヨセフ「それに、もう少しすれば夕方じゃ」
リンティ「あたしお腹すいた!」
レグ「相変わらず物怖じせん子だのう」
デクシス「ご飯にするの?丁度いいや、アル様からのお土産があるんだ」
その日の夜、私達は広場に幾つもの焚火を作って、デクシスが途中で狩ってきた
グランドリザードの肉を焼きながら、夕食を取っていた。
持にお土産のクッキーと言うお菓子は絶品だった。
ちなみに、爺さん達には酒だ。
そうして談笑しながら、デクシスが、命を助けた婦人にあれこれ世話を焼かれる
様を見ていた時、突然それは起こった。
デクシスの傍に控えていたジューヌが、いきなり立ち上がると門の前の暗闇に向
かって弓を構えた。
右足の側面が開かれ、何本もの金属の矢が、あらわになっている。
例え、このつがえた矢が外れても、二の矢、三の矢がすぐにでも射られるだろう。
ジューヌ《ソンザイ・ハ・ミエテイマス・ブキ・ヲ・ステテ・デテキナサイ》




