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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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閑話・怒りと悲しみと



【 ナミディア*ガルム男爵の義妹 】


今日、王宮の近衛保安部の訪問を受けたが、私はこの人達には今まで余り好感が持

てずにいた。

行方知れずの娘を探しまわっていた時に、町の警務隊は勿論、軍の憲兵隊にまで、

何でもいい、手掛かりになりそうな事を知らないかと聞いて回った。


話を聞いた警務隊の方達は、スラム街を重点的に回ってくれたし、町の掲示板に、

尋ね人の張り紙を許可してくれた。


軍の憲兵隊も、今捕えてある盗賊や野盗の尋問調書を閲覧させてくれたばかりか、

今後も盗賊を捕えたら誘拐の件を厳しく尋問すると、約束してくれた。


だが、近衛保安部だけは、私が貴族の末端であり、姉が近衛出身者だった事もあり

一応、執務室で話だけは、聞いてくれたが、ここではお力にはなれませんと、慇懃

無礼に返されただけだった。


その連中が何の用事が有ると言うのか。

この頃王宮で、大きな騒ぎが有った事は、貴族街の端の端に住んでる私でも知って

いるし、王宮に雷が落ちた時の音も聞こえた。

でも、それだけだ。


王宮の落雷になど、髪の毛一つ分も関与していない。

一体何しに来たのか知らないが、礼を欠く訳にもいかず、夫婦で、出迎えた。


若い二人の近衛騎士は、私達夫婦の向かいに座ると、ローテーブルの上に、銀貨を

3枚だけ並べた。


 ラーズ「この銀貨は一体何の金です?」

近衛騎士「公王様からの見舞金だ、有難く受け取れ」

 ラーズ「はあ?」


主人の問いかけに対する彼らの主張が私には理解できない。

なぜ王室から見舞金を、押し付けられねばならない。

そして、それからの事を私は良く覚えていない。


近衛騎士「娘は返す。以後は、如何なる抗議も受け付けない」


彼らはそう告げると、脇に抱えていた木箱を置いて足早に立ち去ったが、そんな事

は、どうでもいい、彼らは何と言った?。


        娘を?


      リディを返す?


    返されたのは小さな木箱よ?


彼らが出て行く足音も、窓の外で聞こえていた町の喧噪も、庭の生垣でさえずって

いた鳥の声も、その全てが遠くなった。


まるで大きな湖の底に一人で沈んでいるような、そんな幻想が私を包む。


色の無くなった部屋に、自分の呼吸する音だけが聞こえる。


ああ、心臓の鼓動がうるさくて仕方がない、まるで夏の蝉のようだわ。


時間はその役目を放棄してしまい、空間は蜂蜜のように纏わり付いてきた。


声が出ない、腕が上がらない、指が開かない、そして目が箱から離れてくれない、

主人の震える手がゆっくりと箱に伸びる、ああ、開けては駄目だ、開けたらきっと

絶望が待っている、開けて中を調べなければ、蓋を取らないで、ああ、蓋を取って

中を確認しなければ、ああ、嫌だ、確認したくない、見ちゃだめ、目を逸らしたい

誰か私の目を切り裂いて、見るのは嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。


 ―――――――――― ごろん ――――――――――


蓋が角に引っ掛かり、横倒しになった箱から、中身が転がり出た。


ねえ、リディ、今まで、どこに居たの?


ねえ、リディ、首から下はどこへ忘れて来たの?


ねえ、リディ、なんでそんなに苦しそうな顔をしているの?


ねえ、リディ、どうして何も答えてくれないの?


ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえどうして、


ねえ、どうして、……………………………………


いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”

あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”。


私は………………壊れた。



【 カタリナ・ファンブッシュ男爵婦人 】


王都の町屋敷に妹の家の若い見習い侍女が血相を変えて飛び込んで来た。

このままでは、二人が死んでしまうと、もうどうしていいか分からないと。

意味の分からないまま、慌てて駆け付けた私は、その場で立ち尽くした。


一体これは何だ?


狂ったように泣き叫ぶ妹夫婦の声は、既にかすれ切っていて、もはや呼吸音でしか

無く、裂けた喉から漏れ出した血が胸を真っ赤に染めている。


二人が縋りついているあれは何だ?


あの特徴のある銀色混じりの黒髪は、間違いなく姪のリディの物だが、どうして首

だけになって、ここにある?

なぜ、あんな苦悶の表情をしている?

そもそも、どこのどいつが、これを持ってきた?


怒りで我を忘れそうになったが、とにかく二人をこのままにはしておけない。

だから、私は二人の後ろから、その意識を刈り取った。

この時、下の弟と妹が、まだ2歳にも届かない幼子だった事だけが救いだった。


その後、詳しく侍女達に聞いたところ、この惨状をもたらした原因は、直前に訪問

して来た近衛騎士だとわかった。

とにかく、事態の説明を求めて、私は近衛騎士団庁舎の事務方の部屋を訪れた。

 

カタリナ「つまり、姪達をさらって、殺したのはリオンのクズだって事か?」

事務員A「きっ、貴様!公子に対して、不敬だぞ!」

カタリナ「やかましい!」

事務員A「むぐぐ」

カタリナ「で、そのクズは去勢はされたが、まだのうのうと生きていると?」

事務員B「はっ、はい、ペーセット伯爵家預りになりました」

カタリナ「それと、あの銀貨には、どんな意味がある?」

事務員A「意味も何も、公王様からの見舞金だ、ありがたく受け取れ」

カタリナ「銀貨3枚が、あの子達の命の値段だと、公王様が言ったのかい?」

事務員A「そうだ。獣人など、それで十分だろう、何の文句がある」

カタリナ「そうかい、ブライトがそんなに馬鹿だとは知らなかったよ」

事務員A「貴様!公王様を呼び捨てになど」

カタリナ「だまれ!」

事務員A「ひっ」

カタリナ「宰相と公王に言っときな、死ぬほど後悔してもらう、お前らもだ」

事務員B「は、はい、」

事務員A「何で、俺達が………」


私はその足でファンブッシュ家の町屋敷を何も残さずて処分して、一族郎党を全て

連れて、男爵領の領都パレイルに向かった。


「このまま、只で済むと思うなよ、ブライト・F・アルギス」

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