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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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閑話・リリカ・グリムドール子爵令嬢



子供の頃の私の世界に、聖教は最初から存在していた。

教徒である私も、私の両親も選ばれた特別な存在だと思って居た。

光の神、サンラス様にお祈りすれば、死んだら神の国,、クルエンツムに行けると。

ある時、町へ出かける馬車の窓から、薄暗い路地の片隅にボロ布を纏って寝ている

浮浪者を見て、母が言った。


「見なさいリリカ、あれが信仰の足りなかった人間の末路よ、覚えておきなさい」


そう言った母の優越感に浸り切った顔を、私は美しいと思った。

その足で服飾店の扉をくぐった私の心は、幸せで溢れていた。

綺麗な服に身を包む私は、神に愛されていると。


私の誕生日に、レストランの階段をのぼる私達の視界の隅に映った、ゴミ箱を漁る

獣人の子供を見て、父が言った。


「よく見ておけリリカ、あれが神に見放された下等な生き物、獣人だ」


前を歩く父の背中の、何と、大きく力強い事か、その逞しさに、心が躍った。

その日の食事で、私の口の中は幸福感に満ちていた。

いつも空腹とは無縁の私は、神に愛されていると。


成人を過ぎて十六歳になった私は、聖騎士隊に両親の勧めで入隊した。

この時も私は、特別だった。


入隊して、まだひと月も経たないのに、私はこの美しい容姿を認められ、序列3位

の枢機卿、オルセム・ダーチェス公爵の御見回りとして、昇位し、その日の内に

寝所を、共にしていただいた。


神への信仰が厚い私には、それに見合った美貌が与えられたのだ。

逆に信仰が薄かったのだろう、同じ時期に入隊した三人は、ごく普通か、それ以下

の容姿ししか与えられず、大部屋付となり、大勢の聖騎士の相手をしている。

一方、私のお相手は公爵様一人だけ、私は彼女らよりも上位者である。

その思いは、私に得も言われぬ快感をもたらしてくれた。

この時、父は男爵から子爵に爵位があがった。


父からは「お前のおかげで子爵に成れた」と感謝されたが、意味は分からない。


それから三年後、その日、私は朝から公爵に呼ばれてた。

近頃はめっきり私室に呼ばれる事の無くなった私は、心を躍らせながら、その扉を

くぐったが、それは私が期待していた物では無かった。


ベッドから半身だけ起こした公爵は私に、今度のアルギス公国討伐軍に父親と共に

従軍する様に伝えて来た。

この遠征が終われば、父は伯爵に叙され領地も下賜されるのだと言う。

そうなれば、私は伯爵令嬢、公爵様の愛妾の地位だって、夢ではない。

希望が湧いて来た。


私は、公爵様の横に居る裸の若い少女に、蔑みの目を向けた後、必ず成果を挙げて

みせます、と、笑顔で答えて私室を出た。

閉められた扉の向うで 「馬鹿は扱い易くて助かる」 と公爵に呟かれたが、私に

は聞こえなかった。


それから私は若い聖騎士十名を連れて、父と共にルーク・トラディス公爵の東征軍

に参加した。

驚いた事に、聖王国軍は物凄い数のゴブリンを使役していた。

聞いた所によると、聖王様の聖句は魔獣であるゴブリンさえも従わせるそうだ。

光の聖神サンラスの、何と偉大な事か。


我が子爵家は最先鋒としてロデリック・ストレチア伯爵の部隊と共にアルギス公国

の村や町を落として行ったが、父の武功を聞くたびに、誇らしくてならなかった。

これで伯爵家への道が、どんどん近づいて来たが、ここに来て、同行した聖騎士達

が不満を漏らし始めた。


性のはけ口が無いと。


本陣の守備隊の一部である我々は、基本、公爵の護衛として陣の近くで、警邏の任

に就かなければならないため、そもそも占領民が居ない、だから女もいない。

仕方がないので、私は公爵様に周辺占領地の布教活動を申し入れたが、呆れ顔で、

今頃か、他の聖騎士達はとうの昔に始めていると言われ、一つの村を宛がわれた。


本陣から南に有るその小さな村には、ほとんど老人と女子供しかいなかった。

そして、到着した途端に彼らは村の女たちを襲ったが、聖騎士達の溜まりに溜まっ

た性欲は、何人かの精神を破壊し、一番若い少女は自ら命を絶った。

この時ばかりは、私も苦言を呈した。

数に限りがあるのだ、死なせないように、管理しろ、と。


既に反抗的な男達は、殺されて排除されていたため、村人は非常に従順だったが

この時は、何故か怒りを露わににした老人達が私を見て糾弾して来た。

だが私には、彼らの言ってる事が全く理解できない。


「あなたも、女性なら何でこんな酷い事が出来るのか」

「我々が一体何の罪を犯したとゆうのか」

「人でなし、人間の心が無いのか」

「お前の血は本当に赤いのか?」

        ・

        ・

「何を言ってる?お前らの信仰が足りないのだから、当たり前の事だろう?」


そう、彼らに言っても全く理解してくれなかった。        

彼らは、自業自得という言葉を知らないのだろうか。

両親とも熱心な信者で私自身も信仰を切らした事など無い。

だから今私は此処にこうして居るのだ。


そしてある日、私に凶報がもたらされた。

父が死んだ。

それも部隊ごと、ただの一人も、ただの一匹も残さず全滅したと言う。


公爵の前で頭を下げながら、そう、告げられた。

このままでは、グリムドール子爵家は、責任を取って断絶だと言う。

だが、絶望する私に公爵は、ならば仇を打てばよいと、教えてくれた。


信心深い私なら、きっと光神サンラスが奇跡を齎してくれる事だろう、そう信じて

疑わなかった。

父を亡くした悲劇の私には、神が勝利を授けてくれる事が当たり前だと思った。

だから、我が子爵家に陣を譲ってくれると言う、公爵閣下に感謝した。


陣替えを済ませ、後は敵の魔導士を待つばかりになった、その夜、聖騎士達は私の

寝所を訪れ、このままでは恐ろしくて戦えない、神の加護を分け与えて欲しいと、

私の体を要求してきたが、それで彼らの不安が無くなるならと、喜んで受け入れた。


一晩中、十人もの成人男性に攻められ続けて、やや、冷静な判断力が欠けた状態で

魔導士と相対する事になったがそれは、ある意味幸せな事で、そして全く何の意味

も無い事だった。


自分の父を盗賊呼ばわりされたが、理論的な反論が出来ずに、ただ、罵倒する事し

か出来なかったが、それさえも、無意味だった。


私の目の前にいるのは、明確な、死、そのものだ。

怖いとか、恐ろしい、とかではない、ただ、死、それが、そこに、ある、と言う、

事実だけが、認識できた。


私はこの時、生まれて初めての後悔して、そして自分の死を目の前にして、道端の

石ころひとつの価値も無い、全く無駄な助命を請うた。


そして、私の存在はこの世から、消え失せた。


これだけ、恵まれた環境にありながら、教義をただ盲信するだけで、自らは、なに

も考えなかった私の人生は、何か価値が有ったのだろうか………。





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