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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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混迷と迷走のアルギス



   「反乱を起こしたのは、ガルム・ファンブッシュ男爵だ!」


スレイからもたらされた報告は凶報中の凶報だった。

ガルムの抱える部隊は少数ながら、公国最強の名を欲しいままにしている。

4倍の戦力を用意して平原の騎馬戦にでも持ち込まない限り勝てる気がしない。

そんな集団だ。


ベック「リオンの馬鹿が未だに祟る、宰相の策が足を引っ張る、堪らんな」

ガッツ「後始末の呪いにでも掛かっているんですかね、私ら」

ベック「やめてくれ、本気で疑いたくなる」

ガッツ「しかし、まずいですね」

ベック「ああ、これでモデムドールを攻める駒が無くなった、建国は止められん」

スレイ「兄さん、ガルム男爵はどうして反乱を起こしたんです?」

ガッツ「あの犬人の子供が殺され事だけでは、いささか反応が過剰すぎますな」

ベック「わからん。とにかく、一度使者を送ろう」

ガッツ「こっちで、把握している以外の事があるか、調査してみましょう」

ベック「詳しく調べてくれ、それとスレイは兵を再編してオントールの守りを固め

    てくれ、ここを落とされると、公都が危ない」

スレイ「了解。兄さんも、あまり無理するなよ、頬がこけてるぜ」

ベック「わかった、気を付けるよ」

        ・

        ・

        ・

   ガシャ――――――――――ン


ベック「あんのクソ馬鹿が――――――――――ッ」


その日の夕方ある報告書の発見を聞いたベックの蹴り飛ばした椅子が、窓枠を破壊

して飛び去った。

何事にも最初の段階では、必ず冷静に対応する。

そう決めて、実際に実行してきたベックが、我を忘れて激昂した。


ガッツ「落ち着けって言っても無理だな、こりゃ」


報告書の中身を事前に知っているガッツは、気の済むまでベックが執務室を、破壊

するに任せた。

それ程、その内容は酷かった。


ベック「はぁはぁはぁはぁ――――――――――はぁ」

ガッツ「やっと落ち着いたかい、公王様」

ベック「すまない、何とか落ち着いたよ、それと、公王はやめてくれ」

ガッツ「分かった、それにしても酷い内容だな」

ベック「本当に奴は人間なのか?悪魔か悪霊の類じゃないのか?」

ガッツ「悪魔の方がまだ、マシだろう」

ベック「どちらにしろ、ガルム男爵との和解は不可能だ」


魔導士に山ほど受けた恩を仇で返した事も、その仲間の子供を死なせた事も、救援

の要請をはぐらかした事も、知っていた。

その全てが、霞むほどの事が記載されていたのだ。


あの騒動の時、報告書に上がったのは、その犠牲者になった子供の数だけ。

事の重大さと、その後の大騒動のせいで、身元の調査は後回しに、割かれた人員も

減らされたため、身元の詳細が分かったのはずっと後だった。


最初にその事に気が付いた調査員は困惑した。

かなりの数の死体に、頭がないのだ。

当然、身元調査に顔が判らないのは、とんでもなく手間がかかる。

髪や瞳の色が無数にあるこの世界ではそれだけで、かなり身元が判別できるのだ。

この時に巧妙に隠された扉を発見した。


あの、リオン公子の地下室には、拷問部屋の他にもう一部屋、執拗な隠蔽を施され

たコレクション部屋が存在していた。


そこには、苦悶の表情を魔法により保存加工された、夥しい数の獣人の子供の頭が

尻尾と共に棚に飾られていた。

あれ程リオンがサナ達に執着したのは、此処に並べるためだったのだ。


獣人の子供の首、其れだけでもガルム男爵が怒るに十分なのに、有ろう事か、その

中に公都の舞踏会から帰る途中で行方不明になったガルムの妻の妹の子、つまり姪

の首が、有ったのだ。

自分の娘が、手や足を、切断され、犯され、腹を裂かれ、苦悶の内に殺された挙句

に、首を恥辱にまみれたまま晒されたのだ。

首を受け取った母親の絶望感は如何ほどだったのだろう、想像さえ出来ない。


この有様で、関係改善の機会など、砂の一粒程も有りはしない。


挙句に、忙しさにかまけた宰相も、現実を見たく無かった公王も幾ばくかの見舞金

を送り付けただけで、その報告書を読みもせずに放置した。

無意識に獣人たちを一段下に見ているのが、この対応で露見した。

そして、その影響は今頃、目に見える形で表れた。


    「公都から、獣人達が消えました」


その報告を聞いたベックは、黙って執務室を出ると、一日中食事も取らずに、王宮

の真っ赤な屋根を覆い隠す様に空に伸びる、公国の歴史を見続けた、中庭に生えた

楠の大木をじっと座って眺めていた。


     「もう、どうにもならないな」


この時、いずれアルギスの名が地図上から消えるだろう事を覚悟した。




ガルムはクノッソス砦から自領の有るリネの町までの公国北部一帯を勢力下に置き

その勢いで南にあるヴァトナの町に来ていたが、街長はガルムの支配を躊躇なく受

け入れた。


もともと、この町とその周辺の村々の領主はめったに公都から来る事は無く、運営

は街長や村長に丸投げして、利益だけを吸い上げて来た。

そんな領主が、街長達と信頼関係など築けるわけがなかった。


問題は集まってきた獣人達が、どんどん増える事だった。

ヴァトナの町は、公都から来る獣人達の対応に追われていたのだ。


ガルム「参ったな、どうすっかな」

 兵士「ほんと、戦う事以外は、ポンコツっすね」

ガルム「やかましい」

 兵士「さっき、カタリナさんが町に到着したって、報告があったっす」

ガルム「それを、先に言え」

 兵士「これで安心っす」


借上げた街長の館では、一人の女性が連れて来た女や若い官吏に指示を矢継ぎ早に

出していた。

スラリとした長身、後ろで束ねられた綺麗な白い髪、頭の上のふたつの尖った耳、

ゆっくり振られるふさふさの尻尾。

だが、何より周りを引き付けて止まないのは、まるでルビーのように、赤く輝く瞳

だった。

さらに真っ赤な軍装に身を包んだ彼女は、その赤い瞳も相まって、其れだけでその

場を支配した。


 ガルム「すまない、よく来てくれた、カタリナ」

カタリナ「貴方の事だからどうせ事態の対処に困ってると思ってね、アリシアは、

     お義母様に預けて来たわ」

 ガルム「公都からの移住者が予想以上に多過ぎて、対策が思い付かん」

カタリナ「獣人なら、あんな王家の傍なんて、誰が居たがるもんですか」

 ガルム「………ナミディアちゃんは、どうしてる?」

カタリナ「必死に立ち直ろうとしてるわ、妹には、まだ小さい子供達が居るもの」


替り果てた娘の亡骸を抱いて、妹夫婦は声が枯れるまで狂ったように泣き続けた。

喉が裂け、血を吐き始めた二人を、このままでは命にかかわるからと、私が強制的

に意識を刈り取った。

睡眠薬など、到底効くとはおもえなかった。

だから、力づくだ。

二人には、まだ幼い姪と甥が居るのだ、ここで立ち直ってもらう必要があった。


姪っ子が行方不明になってから、どれくらい経っただろう、最初は無事に帰って来

てほしいと願っていた妹も、全く足取りが掴めないまま、時間だけがたった近頃は

せめて命だけでもと、祈っていた。


それを、そのささやかな望みを、あの王家のクズ公子が踏みにじったのだ。


今まで私の夫に、散々理不尽で不当な扱いをしておきながら、夫がどれ程、国の盾

になろうと、尽くそうと、大して報いもしなかった癖に、更なる仕打がこれか。


だから私は夫に反乱を、謀反を、建国を提案(強制と強要の事)した。


私の夫は、時々、馬鹿な事をしでかすが、武に於いては公国で右に出る者は居ない

し、その直属の部隊は精強だ。

今の公国あいてなら、十分対抗できる。

何よりあいつらと、同じ旗の元に居るなど耐えられない。


カタリナ「このまま南下してガルドラの町と、隣のアグラバール公爵家を攻めま

     しょう、支配地域が増えれば受け入れられる人数も増えるわ」

 ガルム「分かった。死にかけのアグラバールなど、瞬殺してやる」

カタリナ「無理して、怪我人を出さないでね、まだクロトンが、残ってる」


ガルドラとアグラバールの領都コクランを落とせば、公国の北西地域を全て傘下に

加えた事になる。

これは国土の三割近くになり、内需だけでも国が成り立つ。


 ガルム「何でクロトンなんだ?支配地域からは離れているだろう」

カタリナ「それは、クロトンが物流の中心だからよ」


クロトンの町はガルドラの真南に位置し、公国のオントームの町や公都ゴナムと、

街道がつながっており、モデムドール公爵家の支配する町、フオルやアロニアとも

つながっている。

国の中でも、指折りの大きな町と多数、つながっている。


カタリナ「ここを、抑えれば一気に優位に立てるわ」


だが、当然、他の2勢力も同じ考えに辿り着く。



モデムドール公爵家主席家宰 コム・ハライ

「そろそろ、領内も目処が立ちそうじゃ、クロトンの町を取りに行こうかのう」


アルギス公国九代目公王 ベック・F・アルギス

「スレイ、北進してクロトンの町を確保してくれ、失えば国が落ちる」



分裂した三つの勢力が、偶然と言う名の必然にすいよせられて、クロトンの町で



  ―――――――――― 衝突した ――――――――――



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