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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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公爵家の鼓動



アレクシス「お前、何言ってんだ!」

  ルッツ「求婚だ」

アレクシス「そんなもん、見ればわかるわ!この!あほ――――――――――!」

  ルッツ「なら何が知りたいんだ、一体」

アレクシス「何を考えてるんだって、聞いてんだ!ど阿呆!」

  ルッツ「物憂げで儚げな姿の中に光る、知性と理性を湛えた、その琥珀色の瞳

      飾りが無くても価値を失わない細く、しなやかな亜麻色の髪、どちら

      も、ただ、美しい、そして何より、その手に現れるほど、苦労が絶え

      なかったであろうに、その凛とした立ち姿に驚嘆したと同時に、愛お

      しくて堪らない、ああ、俺の一目惚れだ」

アレクシス「誰がお前の心象風景を語れといった!大体どこで覚えた、その歯が浮

      くどころか、全て抜け落ちそうな台詞は!」

  ルッツ「サンティケールの詩集からだ、ちなみに21巻全て持っている」


※アル君のウィキペディア(Wikipedia)

【 サンティケール 】

ひと昔前に、公国中で最も有名だった恋愛詩人。その詩集の持つ最多発行数の記録

は、今でも破られていない。恋とは、甘く、華麗で、優雅なものがだ、と言うのが

彼の持論で、作風は、それを見事に反映させた物だった。当時、若い女性の圧倒的

支持を受けていた彼だが、逆に乱れた私生活は、万人の共感は得られなかった。

そして、痴情のもつれにより、全身を刃物により切りつけられ、女性宅にて死亡。

享年33歳。

没後、20年たった今でも人気は衰えず、女性、特に貴族女性は詩集を神聖視する者

が、多数存在する。


アレクシス「何でそんなもんを持ってんだ、似合わない処じゃないだろう!」

  ルッツ「成人までに全部読めと、乳母が辞める時に置いて行った」

アレクシス「これじゃあ、まるで女たらしの吟遊詩人じゃないか!」

  ルッツ「失礼だな、女と付き合った事など無いぞ、」

アレクシス「胸張って言う事か!」

   コム「もう、ええかのぉ」

アレクシス「爺さんからも何とか言ってやってくれ」

   コム「よいではないか、家格にしても申し分無しじゃ」

アレクシス「ああ?立場を利用して、婚姻を迫るのが、男のする事か!」

  

アレクシスは身分や財力をかさに着た横暴が、心底嫌いだった。

傭兵になる人間など、禄でもない過去を持つ者ばかり、そしてその中には、結構

な数、横暴な貴族や商家、役人の犠牲者が、居るのだ。

アレクシスも、その中の一人だ。


彼の父親は死ぬ思いで開墾した土地に、あり得ないほど高額の税を不当に掛けられ

全て領主に奪われた。

原因は領主の思惑と違って、その畑が肥えていたからだ。

もちろん、違法な税だと役人に訴えたが、話さえ聞いてもらえなかった。

家族は仕方なく町にでたが、飢えと暴力で生き残ったのはアレクシスだけだった。

だから、この手の話には、どうしても過剰に反応してしまう。


アレクシス「今の立場じゃ、嫌な相手でも断れないだろうが!」

   コム「確かに、お前の言う事は、至極当然じゃ」

アレクシス「だろ、爺さんなら、分かってくれると思ったんだ」

   コム「じゃが、婚姻は、進めるつもりじゃ、後ろを見てみぃ」


振り返った先には、潤んだ瞳に熱い吐息をもらしながら、顔どころか首から耳から

真っ赤にした公爵令嬢が、頬に両手を添えて、全身をくねらせていた。


アレクシス「あ、あ、あ、あんた、あんなのが好みなのか?」

エリザベス「いやん♡」

アレクシス「………………………………………いやん?」

   コム「本人が嫌がっておらんのじゃ、問題なかろぉ」   

アレクシス「………………………………………いやん?」

  ジェフ「旦那、戻って来て下さい、旦那!」

アレクシス「なあジェフ、いやん、なんて魔獣がいたかな?新種かな?」

  ジェフ「そんな魔獣いませんよ、早くこっちに戻って来てくださいよ」


ジェフは、こんな混沌とした場所に一人で取り残されるは、回避したかった。

何せ、冷静に現状を判断して指示が欲しい公爵夫人は、気絶寸前だ。

何とかアレクシスには戻って貰いたかったのだ。


アレクシス「ふう、えらい目にあった、情報過多だってんだ」

  ジェフ「はは、大目にに見てくれよ、お嬢は、死んだ父親以外の男に好意を向

      けられ事が無いんだ」

アレクシス「何でだ?確かに痩せすぎだが、そうとう美人だぞ」

  ジェフ「仮にも公爵令嬢が、祖母のドレスや、つぎはぎだらけのドレスで夜会

      や舞踏会に出たいと思うか?」

アレクシス「商家の娘でも拒否するな」

  ジェフ「物心ついてから、屋敷と馬車以外の外に出たのは、今回が初めてだ」

アレクシス「気の毒で、声もでねえよ」

  ジェフ「それでも、俺らには、明るく振る舞うんだ、それが痛々しくて……」

アレクシス「そういやあ、見捨てられないっていってたな、おまえ」

  ジェフ「だから、お嬢には幸せになって貰いたいんだ」

アレクシス「あれを見ろよ、新しい公爵様が付いてる、大丈夫だろ」


仲睦まじい二人の様子は、ダーナドール公爵家の人々にとって、ずっと待ち望んで

いた物だろう。

そして、モデムドール公爵家は、ルッツが、当主として、その権力全てをその手に

握っている。

苦言を呈する事の出来るコム・ハライもアレクシスも諸手を上げて賛成している。


 公爵夫人「わたくし達にとっては、願っても無い事ですが、王家は異議を唱えて

      来るのでは、ないでしょうか」

   コム「間違いなく、破談を要求して来るじゃろうのぉ」

  ルッツ「あいつらが何を言って来ても、俺はエリーの手を離さんぞ」

アレクシス「いつの間にか、もう愛称でよんでやがる」

   コム「お主とマルシアも似たようなもんじゃったがのぉ」

  ルッツ「そうだ!そうだ!」

アレクシス「俺らは同じ軍に居たんだ、後ろ姿は見てたぞ!」

   コム「目クソ、鼻クソじゃのう…………」

  ジェフ「それより、何で王家が横やりを入れてくるんです?」

  ルッツ「俺も知りたい」

 公爵夫人「両家とも、ドールの名を持つ貴族だからよ」

   コム「わしが説明しよう、ドールとは、100年ほど前に滅んだゴルドラ帝国

      の貴族の名じゃ」


※アル君のウィキペディア(Wikipedia)

【 ゴルドラ帝国】

87年前に滅んだ、大陸最大の版図を誇った大帝国。

帝都は現在のメルド商王国の商都アニア。

今の諸国は、エルフのタス皇国、ドワーフのグード王国、この二国以外は全てこの

ゴルドラ帝国が分裂して出来た新興国家である。

その治世は300年近くに及んだが、王家の弱体化と政治機関の腐敗により、各地の

貴族や力の有る豪商、果ては、山賊海賊までもが反乱を起こした。

この国家滅亡の混乱と新国家乱立に、その高い忠誠心により、自領の独立性を保ち

続けたのが、ドールの名を持つ貴族たちである。


(注)ゴルドラ帝国の貴族はすべてドールの名を下賜された。例えば、戦争で武功を

上げたモデム家はモデムドール、領地開墾で成果を上げたダーナ家はダーナドール

と言った具合の命名になっていた。



   コム「じゃから、どの国も自国の王家に対しての忠誠心が薄いドール系貴族

      は警戒対象なのじゃ」

 公爵夫人「特に婚姻によって関係が深まるのを嫌がるわ」

   コム「公国は、まだ建国から百年も経っておらん新興国じゃからの」

アレクシス「なんだ、アルギス公国ってのは、随分臆病な国みたいだな」

  ルッツ「ふん、俺はもう、王家の命令など聞く気は無いぞ」

   コム「それでよい、ルッツ、お主、王に成れ」

  ルッツ「王?王様って事か?」

   コム「そうじゃ、この機に周辺貴族を統合して建国する」

アレクシス「そうか、両公爵家が一つになれば、この辺で対抗できる貴族は無え」

  ルッツ「それだと、公国東部一帯は全てこちら側になるな」

   コム「隣国のエイラ王国との貿易は全てこちらの手の内じゃ、なら西は?」

  ジェフ「そうか!通れねえ!公国は通れねえ!」

   コム「そうじゃ、クーロン大橋の向うは、未知のゴーレムの勢力下じゃ」

アレクシス「それに、海路はサイレージの海賊共の縄張り、公国は袋の鼠だ!」

   コム「民間だよりの小規模貿易しか出来ない公国は、衰弱するだけじゃ」

アレクシス「よっしゃ、急いで出兵準備だ」


俄かに慌ただしくなり始めた広間は、今や興国の最前線基地と化した。


  ルッツ「エリー、結婚式は、もう少しだけ待って欲しい、母上様も宜しいか」

エリザベス「もちろん、何時迄でもお待ちします」

 公爵夫人「こちらは勿論問題有りません」

  ルッツ「そんなに、待たせるつもりは無い、そもそも俺が我慢出来ん」

エリザベス「はい♡」

 公爵夫人「あらあら」


   コム「さあ、さっそく国中に宣言じゃ」



紅玉宮には、その日も各地から様々な報告が途切れる事無くもたらされる。

今回、魔導士討伐に参加して、力の衰えた反国王派の貴族を取り潰しながら、公都

の周辺の足場を固めていたのだ、報告には吉報も有れば凶報もある。


伝令兵「報告!モデムドール公爵家、当主にルッツ・モデムドールを指名、同時に

    ダーナドール公爵家令嬢との婚約を発表、更に両公爵家は、公国の支配を

    を拒絶、新王国の設立を宣言しました」


ベック「最悪の予想の斜め上を行きやがったな」

ガッツ「どうされますか、直ぐにでも攻めますか、公王様」

ベック「ベックでいいよ、まさか建国とはな、最悪で最強の一手だ」

ガッツ「やはり、コム・ハライの策でしょうか?」

ベック「間違いなくそうだろう、そもそも一本気なルッツには、思い付かない」

ガッツ「コム・ハライ、厄介ですな」


その時、執務室の扉を打ち破りそうな勢いで開けたスレイが飛び込んで来た。


スレイ「兄貴、一大事、反乱だ!」

ベック「落ち着け、モデムドール家の反乱なら、今、伝令兵から聞いた」

スレイ「違う!モデムドールじゃない!」

ベック「なに?」



スレイ「反乱を起こしたのは、ガルム・ファンブッシュ男爵だ!」




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