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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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混迷の紅玉宮

話の都合により、今回は短めです。



ベック「この責任をどう取るつもりか、お聞かせ願いましょうか?」

 宰相「声が大きい、落ち着かれよ、ベック公子」

 公王「言いたい事も分かるが、これは国の為なのだ、私も納得した事だ」


今、紅玉宮の執務室は第一公子の怒声が響いていた。

公子は、宰相と公王を糾弾する事を隠すつもりは、はなから無かった。

恩義を感じていたアルに、町の門を開け放つ位しか手助け出来なかった自分に腹が

立ったし、そんな状況に追い込んだ紅玉宮の連中にも腹が立った。

出来れば、思い上がった二人を殴り飛ばしたい程だった。


ベック「なら、一体、何が国益になるのか、説明してもらいましょうか」


 宰相「実際に公国に存在する貴族共の四割以上が、当主を失い、二割は、大幅に

    戦力を減らした、残る三割は王家に友好的、十分でしょう」

 公王「これで王家に逆らい、国政を迷走させていた貴族連中を排除できる」

 宰相「魔導士殿には申し訳ないが、修復不可能な関係を利用させてもらった」

 公王「不義理なのは、分かっていたが、関係改善の手が何も無かったのだ」


公子は少しの間を取って冷たくいいはなった。


ベック「それが、思い上がったあなた達のおっしゃる国益ですか」


宰相も公王もその言葉に息をのんだ。

第一公子は、公王の子供達の中で最も優秀で聡明だと、誰もが知っていた。

だから、王位継承問題は、この国では笑い話のネタでしか会話に登場しない。

その第一公子から、一切の同意も得られず、全て否定されたのだ。


 宰相「致し方なく策を弄したのです、綺麗事だけで国が成り立つとお思いか!」

ベック「そんなものは、謀略や陰謀でしか国を回せぬ無能者の言い訳だ」

 宰相「なっ」

ベック「策略とは、もし事が終わった後に公表したとしても、国民から一定の理解

    が得られる物の事だ、あなた達は胸を張って公表できるのか」

 宰相「………………………」

ベック「そもそも、なぜあの馬鹿をその場で罰しなかったんですか」


ベックは普段から、王族や貴族の立場と義務について公言してきた。

爵位が高ければ高いほど、比例して義務は重くなるのだ、と。

自分達が一体誰のお陰でその地位に居るのかよく考えろ、と。

何不自由無く暮らせるのは、民が納めてくれる税のおかげだ、と。

もし、義務を果たす気が無いのなら、成人後、身分を捨て平民として暮らせ、と。


 公王「公妃が身を挺 してかばったので仕方なく」

ベック「違うでしょ、貴方はリオンを溺愛しその命を惜しんだ」

 公王「いや、わしは…」

ベック「宰相、貴方もです、あの場で公妃を強制的に排除出来たはずだ」

 宰相「………………………」

ベック「貴方は状況を利用して策を弄する事を思いついた」

 宰相「それの、どこが悪い、全て国の為だ」

ベック「そのためなら、何をしても許されると?」

 宰相「事が済めば、わしと公王様は首を差し出すつもりだ」


やはり、そんな事かと思うと、公子の頭の中は、どんどん冷えて行った。


ベック「自分が死ぬ覚悟があれば、相手に何をしても許されると?」

 公王「そこまでは、言っておらん」

ベック「言ってるんです、どこまで傲慢なんですか」

 宰相「二人も首を差し出すと言っておるのに、何の不満が有る!」

ベック「被害者が望みもしない首を送り付けて、許せと、強要するのですか」

 宰相「い、いや……」

ベック「あの方が、首を差し出せば、許すとおしゃったんですか?」

 宰相「……銅貨一枚の価値も無いと言われた……」

ベック「自分達の命は価値が高いと思い込んでる、その選民意識が問題なんです」

 公王「だが、今更、どうしろと……」


ベック「ええ、今更です!もう手遅れなんです!」


宰相がぶら下げた餌が大きすぎて、欲深い亡者共が集まり過ぎた。

それでも、簡単に撃退してくれたら、何とかなった。

あそこまで、追い詰めなければ、何とかなった。

挙句に傷まで負わせたのだ。

間違いなく手遅れだ。


ベック「クーロン大橋の向う側に足を踏み入れれば皆殺しにする、そう示された」

 宰相「そんな……馬鹿な………」

ベック「疑うんなら、自分で見に行けばいい、告知版が立っている」

 公王「なら、わしらは、国土の四割を失ったのか………」

ベック「そうなりますね」


だが、その事実に宰相は耐えられなかった。


 宰相「いや、たかが魔導士一人では納めきれん、いずれは」

ベック「その浅はかな考えが、この危機を招いたんです、まだ分かりませんか」

 宰相「あ、浅はか、だと」

ベック「ええ、貴方のおっしゃる謀略とやらは、宮廷内の陣取り遊戯だ、実戦では

    役に立たない」

 宰相「遊戯だと!」

ベック「貴方は、モデムドール公爵家のコム・ハライと名乗る食客をご存じか?」

 宰相「…………名前だけは」

ベック「その男が、貴方を凌ぐ知恵者だと、知っていますか?」

 宰相「あり得ん」

ベック「その男が、あの方を、討ち取る寸前まで追い詰めたんです」

 宰相「馬鹿な!だが、それなら何故、その本人が生きている!」

ベック「呆れた、まだ、報告が上がって来てないんですか?」

 宰相「…………………ああ」

ベック「討ち取る寸前で、お仲間の介入があり、コム・ハライは、すぐに逃げ出し

    たそうです」

 宰相「その程度の男とわしを比べるな」

ベック「替りに襲い掛かった、アグラバール・ダーナドール両公爵家軍約3000名は

    僅か半日足らずで、数名を残して全滅しました」

 宰相「まさか………」

ベック「橋の向うは、圧倒的な戦闘力を持つ、そのお仲間に占拠されてるんです、

    だから浅慮と言ったんです」

 宰相「そんな、わしは、そんな、わしは」

ベック「ついでに、無傷のモデムドール公爵軍は急遽、自領に戻ったそうですが、

    このまま、大人しくしてくれるかどうか…」

 宰相「わしは、わしは………」


宰相は精神の均衡を失ったのか、今はもう、正しい判断は出来そうに無い。


「私も宰相も引退し、お前に王座を譲る。お前に全てを委ねる」


今まで無言だった公王がいきなり、そう宣言した。


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