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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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崩壊への足音



見た事も無い勢いで燃え上がる炎が背後から迫る。

双剣と長槍を操る死神が、前方で手招きをする。

水面では水魔たちの宴が繰り広げられている。


行き場の無くなった我々は、どんどん追い込まれて、身動きが取れなくなって行

ったが、死は遠慮なく俺達に抱き着いて来た。


そして、一瞬の浮遊感と迫りくる水面に、自分が橋から落ちたのが判ったが、記憶

はそこ迄だった。


次に気が付いたのは、川岸の砂利の上だった。

どれ程流されたのか、クーロン大橋の巨大な橋げたは、影も形も見えない。

遠くに、黒煙が僅かに見えるだけだ。

更に、手も足も付いている、此処まで、水魔に襲われ無かった事の幸運に感謝だ。


後は、今俺を見下ろしている男が盗賊の類で無い事を、祈るばかりだ。


俺は前世で、いったいどれ程、善行を重ねてきたのか、一度、神に問いたい。

何故なら俺は今、モデムドール公爵家の兵士たちに、囲まれている。


見た限り、今回の討伐戦に参加した三公家の中で、まとまった戦力を、維持してい

るのは、この公爵家だけだろう。


俺が居たダーナドール公爵家は、恐らく壊滅した。

アグラバール公爵家も駄目だろう。

今の状態で俺が身を寄せるなら、モデムドール公爵家、一択だ。

間違っても、王家などに、拾われたら、命の保証はない。


 コム「お主、名前は?何処の兵じゃ」

ジェフ「名前はジェフ、ダーナドール公爵家で門番です」

ルッツ「何で門番が戦場に居る」

ジェフ「あ~、当主が居ない屋敷に門番は、もったいないから、と」

 コム「確かにダーナドール家の者じゃ、間違いない」

ルッツ「ああ、この呆れた節約と言うか、守銭奴ぶりはダーナドール家だ」

傭兵長「俺も、昔、護衛料を値切られて、根負けした事がある」

魔術師「ギルドじゃ、ダーナドール家の依頼は絶対に受けない。常識よ」

ジェフ「…………あの、いたたまれないんで、只の参加者にしてもらえませんか」

 コム「気持ちは分かるが、戦時中じゃし、さすがにのぉ」

ルッツ「気の毒だが、諦めてくれ」

ジェフ「ならせめて、その憐あわれみというか、憐憫の眼差しをやめてくださいよ」


今、解った、前世で善行を積んだんじゃ無い、今世が、余りにも情けないから、

運命が同情してくれたんだ。


 コム「立ち直れんほど、落ち込んどる所悪いんじゃが、ちと質問に答えてくれ」

ジェフ「ええ何でも答えますよ、野菜くずを出すと鞭打ちだとか、靴底が減るから

    駆け足禁止とか、服が傷むから洗濯は月2回とか、どれにします?」

 コム「………苦労しとるのぉ、なぜ、誰も辞めんかった」

ジェフ「奥様も、お嬢様方も節約の犠牲になってまして、見捨てられませんので」

ルッツ「それで、社交界に全く顔を見せないのか、気の毒に」

 コム「もう病気じゃろう、あの爺」


公爵の吝嗇家ぶりは、公国中でも有名で、見かねた公王が、幾度も苦言を呈したが

のらりくらりと躱かわされ続けた。

諦めた息子や家人達は公爵が死ぬのを待つ事にしたが、80歳近くになっても全く

くたばる気配さえ無く、とうとう跡継ぎの一人息子の方が、先に死んでしまった。

女児の孫しかいなかった公爵家は、慌てて婿養子を求めたが、当然答える貴族家

など、いない。

誰が好きこのんで、奴隷になりに来るのか。

万策尽きた公爵家は、いっそ、暗殺してしまおうか、と、考え始めた所だった。


ジェフ「まあ、もう、わずらわされる事も無いはずですから、良かったです」

 コム「やはり、死んだのか?」

ジェフ「恐らく、アグラバール公爵家もダーナドール公爵家、両軍とも当主ごと

    地上から消えました」

ルッツ「確かか?」

ジェフ「もし、生き残りが居るとしたら、俺みたいに水魔から、溺れずに見逃され

    た者だけでしょう」

ルッツ「もう少し、詳しく話せ、あの空飛ぶゴーレムはどうなった」

ジェフ「あいつらは、見た事も無い火炎魔法で攻撃してきました」


それからは、自分で見た事を一つ残らず喋った。


あの空飛ぶゴーレムによって、橋の公国側が抑えられ、撤退出来なくなった。

ゴーレムが空から何かを、ばら撒くと、後退していった。

巨大な空飛ぶゴーレムが轟音と共に現れ、その腹から、火魔法を放った。

当主たちが陣取っていた、最後尾が一瞬で炎に飲み込まれた。


 コム「どれ程の火炎魔法じゃった?」

ジェフ「見上げる程、高く舞い上がった炎は、橋の両脇から溢れ出しました」

傭兵長「あっぶね~マルシアの言った通りじゃねえか…」

ルッツ「本当に助かった、魔術師殿、感謝する」

魔術師「いえ、そんな」

 コム「やはり、専門家の判断は確かじゃのぉ、わしからも礼を言う」

魔術師「えへへへ」


その後は、いつの間にか橋を渡って、独断先行してた連中が、全員、斬り殺されて

いったが、動きが余りに速すぎて、それが2人である事ぐらいしかわからない。

いつの間にか、逃げ惑う残った連中も橋の中ほどに、追い詰められた。

そして、手も上げられない程、密集した所に、押されて橋から落ちた。


 コム「のう、それは本当に人じゃったか?」

ジェフ「いや、手も足もあった?し、ただ動きが速……い……だ…け…?」

 コム「認識出来ない動きなど、人間に出来るかのぉ?」

傭兵長「そいつも、ゴーレムだと?」

ルッツ「お前達の戦ったゴーレムは違うのか?」

傭兵長「俺らが戦ったのは狼型だが、確かに速い事は速かったが…………」

 コム「人型ゴーレムは、存在するのか?」

魔術師「報告はないです。でも傀儡人形なら、あるいは」

 コム「いずれにせよ、近づく選択肢は無いのぉ」


そして、これからの事を協議したが暫くは、此処にとどまり、斥候を出して情報を

収集する事にした。

とにかく、迂闊に動けない。



傭兵長「しかし、魔導士って奴は、つくづく理不尽な存在だよなあ」

ルッツ「だが、その魔導士を、あそこまで追い詰めたんだぞ、俺達」

傭兵長「そうだよなあ、これでちったあ箔が付く」

 コム「そんな事はとっとと忘れてしまえ、馬鹿者共が!」

魔術師「ほんと、これだから、男って……私達は今でも、死の一歩手前なのよ!」

 コム「勝利を確信した盤面を、一瞬で、ひっくり返されたんじゃぞ!」

魔術師「それに、相手は空を飛べるの、この意味、解る?」

 コム「公爵軍二つを、一瞬で擂り潰す存在が、飛び回っておるんじゃぞ!」

魔術師「おまけに、私達は敵なの!慈悲も請えないし、見逃してもくれないの!」

 コム「3000人が、消滅したんじゃぞ、意味が解っておるのか、お主達は!」


     「「「すいませんでした」」」


その後、まるで夜の闇を警戒する様に探っていた斥候が、もう存在を確認できない

と、報告して来た。

ここで、やっと、彼らは公都への帰路に着いた。

この時、既に三日たっており、これがモデムドール公爵家で思わぬ問題をひきおこ

していたが、今の時点では、全く気が付いていなかったし、当然、対処も出来る訳

がなかった。


周囲を必要以上に警戒しながら公爵軍は橋のたもとに辿り着いたが、そこに見慣れ

ない大きな看板が立っていた。

そして、橋を通る公爵軍は、その異様な光景を見て、全員が恐怖した。

辺り一面に広がる白い骨、骨、骨。

所どころでは、魔虫の群れが、まだ死体を貪っている最中だった。


 コム「いやはや、凄まじいのぉ」

ルッツ「本当に全滅させられたのか………アレクシス、どうした」


隊列から離れた傭兵長、はあちこちで白骨を確認して回っていたが、その額からは

冷や汗が滴り落ちた。


傭兵長「…………はは、とんでもねえな」

 コム「どうした」

ルッツ「何か、おかしいのか?」

傭兵長「みてくれ、この骨の殆んどが、切断された後がある」

ルッツ「斬り殺されたんだから、当たり前だろう」

傭兵長「いいか、俺は切断と言ったんだ、切り傷じゃない、切断だ」

ルッツ「そうか!」

傭兵長「気が付いたかい、生身の人間の首や胴体を切断するなんて、間違いなく、

    化け物だ、絶対人間じゃない」

ルッツ「なら、化け物は最低2体いるって事じゃないか、冗談じゃないぞ……」

 コム「さらに、あの看板じゃ、どうも本気で怒らせたようじゃのう

ルッツ「まさか、国ごと敵認定されるとは」

 コム「責任は原因を作った挙句に餌をぶら下げた国に取ってもらう。公爵家は

    無関係を主張じゃ」

傭兵長「すげえ責任転嫁だな」

 コム「くだらん策を、ろうしたのは、あいつらじゃからな」

傭兵長「のっかったのは、あんた達だろうw」

 コム「記憶にないのぉ」



この時、クリサイドの町にも、ジェフと同じように数名の兵士が流れ着いた。

彼らを尋問した第一公子は、慌ててクーロンの町に戻ったが、橋の惨状と建てられ

た看板を見て、少数の兵士を伴って急遽、公都へ向かった。


モデムドール公爵軍が橋に到着する三日前の事だった。


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