この先魔導士あり、全滅に御注意下さい
「知ってる夜空だ」
直也《もう、原型が残ってねえよ、馬鹿な事言ってないで、さっさと起きろ》
「随分、男前になったじゃないか、直也」
直也《良いだろう、超ハイスペックなんだぜ》
「………………なあ、子供たちは無事なんだろ」
直也《ああ、夜明け前だからな、まだ寝てる》
「……すまなかった」
直也《聞いたよ、ガットの事だろ、お前のせいじゃないさ》
「……でも、もし、俺が」
直也《それがガットに巡って来た星だった、そういう事さ》
「それでも、考えちまうんだ………」
直也《…俺は妹を殺された、母を殺された、祖母も殺された、父も祖父も殺さ
れた、なあ、それは俺の罪なのか?》
「違う!おまえに罪なんかない、悪いのはあの外道どもだ!」
直也《そう、だからお前は、俺の代わりに奴らを地獄に叩き込んでくれた》
「……………………………………」
直也《とっくに自分で答えを出してるじゃないか》
頭では理解している。
だが、脳裏に張り付いた、血の海に沈むガットの姿を何故か直視できない。
見ようとすればする程、心が音を立てて軋むのだ。
「こんな所でうつむいてる場合じゃないのは、解ってるんだ」
直也《それは、まだ心の折り合いが、着いて無いんだよ、ガットが望んだのは
今のお前の姿なのか?》
「そうか………」
直也《お前、もし自分が死んだら、サナには、毎日思い出して、泣いて欲しい
と望むのか?》
「ああ、そりゃ駄目だわ、いつの間にか、もし俺がってかんがえてた」
直也《俺達は神なんかじゃないぞ》
「そうか、そうだな、そういや、俺、魔王だったわ」
直也《確か初めて会った時そんな事言ってた、悪魔の親戚だったっけw》
「ほんと、今思えば、随分思い上がってたよ」
直也《実は、それも含めて、提案がある》
「提案?」
直也《俺達の国を作ろう》
獣人たちを虐げない国、理不尽な貴族の居ない国、横暴な国王の居ない国
亜人たちを虐げない国、理不尽な商家の居ない国、横暴な領主の居ない国
国民を教義で縛って、権力者にとって都合の良い神を信奉しない国
国民を洗脳し、資産も財産も命までも差し出させる経典を持たない国
信者と言う名の奴隷を増やして、欲望と欲求を満たす教主の居ない国
そんな国が無いなら、作ってしまえばいい。
「何だ、そのパンが無ければ、ケーキを、みたいなノリは」
直也《聞いた限りじゃ、碌な国が無いじゃないか》
「それはそうだが、そう簡単に国を作るといってもなあ」
直也《大丈夫だ、武力が有れば何でも出来る、迷わず作ろう、作ればわかるさ》
「燃える闘魂じゃねえか、いいかげんにしろ」
直也《冗談は置いといて、別に難しく考えなくてもいいんだ》
「国づくりが、そう単純な訳は無いだろう」
直也《最初は、軍事機構と警察機構さえ、確立できればいい、青写真は出来てるし
既に一歩目はふみだした》
魔獣や盗賊から守ってやれば、人は村を作り畑を耕す。
街道の安全を守ってやれば、人は行商を始め、物品が流通する。
外の国から守ってやれば、村が集まり、町が出来る。
法を整備し、違反者を平等に処罰すれば、様々な仕組みや、組織が出来る。
直也《お前が求める国家なんて物は、ここら辺から考えればいい》
「えらく、乱暴だな」
直也《乱暴でも何でも、早くしないと、苦しむのは、弱い人々だぞ》
「しかし、資金も何も無いぞ」
直也《言っただろ、すでに青写真が有るって。それに、このままだと聖王国の
犠牲者が増える》
「分かったが、それとは別に随分と情勢に詳しいな」
直也《あ――それなんだが………》
ユリア「私がぜ~んぶ、この人に、教えたからよ~」
「な、な、な、な、なん、なん」
後ろを振り向くと、そこには、動きやすい普通の町娘の恰好をしたユリアが立って
いた。
いつの間にか、目を覚ましてしまった彼女は、こっそり馬車を抜け出すと、アルの
後ろに忍び寄ったのだ。
当然、直也からは、まる見えだったが、わざわざ知らせるなんて、もったいない事
をする訳が無い。
イジリ倒せるときには、徹底的にイジリ倒す事に決めているのだ。
案の定、アルは、驚いた拍子に、つい、口に出してはならない事をつぶやいた。
「何でユリアさんが此処にいるんですか!それもそんな若作りな恰好で!」
―――――――――――― ゴンッ ――――――――――(拳骨)
「おごぉぉぉぉぉぉぉぉっ、いってえ――――――」
直也《あ~あ、お前、防御魔法が切れてたの、忘れてただろう》
「う~、まだズキズキする、つい口がすべ」
ユリア「あら、もう一発欲しいのかしら~」
「何でも無いです………」
直也《ガヤ大森林で攫われかけていたのを、助けたんだ》
ユリア「あのまま連れて行かれたら殺されていた。ナオは私の命の恩人なの」
「へえ、ユリアさんを、そこ迄追い詰めるなんて、何処の強者です?」
ユリア「ドリス達、赤魔導士よ」
一瞬、言葉が詰まった。
本来、赤魔導士が黒魔導士を襲うなんて事は起きない、実力が違い過ぎる。
例えユリアさんが末席で付与魔法専門だとしても、持っている魔力量が赤魔導士の
数十倍は有る。
当然、自分の身を守る魔道具も、山ほど持っている。
そうそう、遅れを取るとも思えない。
「あなたが、ドリス達如きに、追い詰められるとは、思えないんですが」
ユリア「そりゃ、三年近く追い回されたら、魔道具も無くなるわよ」
「………三年前に何が起こったんですか?」
ユリア「あんたが死んだと発表されてから一年後、ルドラが、勝手に師の位を受け
継ぐと、宣言したの」
「良く、他の人達が承認しましたね、特にコウリスさんとは、物凄く仲が悪
かったでしょ」
ユリア「ええ、最初は反対したわ、でも三日後の再会合の時には、コウリスさんが
廃人にされてたの、何かされたのは確かよ」
「わざわざ廃人にする意味が有るのか」
ユリア「ええ、あんな物みせられちゃ、マークもパウロも手のひらを返したわ」
「あんなもの?」
ユリア「コウリスさん、ただ、呼吸するだけの、醜い肉の塊になってたわ」
「防御魔法の塊である魔導士を一体どうやって」
ユリア「分からない、見当が付かないわ」
魔導士に、毒の類は効かない、物理攻撃も魔法攻撃も通らない、。
当然、精神支配の魔法も通らない。
この鉄壁の防御力があるからこそ、黒の魔導士が最強の座に着いているのだ。
たとえ、相手が同じ魔導士でも、たった三日ぐらいでは突破出来ない。
さらに、二人の実力はほぼ、互角。
常識で考えれば有り得ない。
直也《で、恐怖に駆られて、彼女はその日の内に、逃げ出したそうだ》
ユリア「そう、そして私は、ナオと運命の出会いを果たしたの!」
「はい?………………………運命が……何だって?」
ユリア「私とナオは、前世で恋人同士だったの、見て、星たちも祝福してるわ」
「………俺は一体、何を見せられているんだ?」
ユリア「もう誰も愛し合う私達を引き裂けないの」
「何が、どうなってるんだ?」
ユリア「お子ちゃまのアルには、私達の愛の絆が理解出来ないのね、かわいそう」
「なんか、スゲーむかつくんですけどねぇ」
ユリア「あらあら、心の狭い男ね~サナちゃんに嫌われるわよ~」
「おい、直也、説明しろ」
直也《あ――――その、何だ、後でゆっくり、な》
「い――――や、今、この場で、詳しく、は・な・せ」
直也《まあ、大した事や無いんだが、ユリアが俺に魅了魔法をかけてな》
「はああああああああああああああああああ?」
直也《うるさいな、子供達が起きちゃうだろが》
「起きちゃう、じゃねえよ、魅了魔法?」」
直也《それが、反転か反射か、したみたいで、逆にユリアがこんな事に………》
「しかし、どうして反転したんだ?」
直也《あくまで予想だが、俺は一人で二人で無数だろ》
「ああ、そういう事か、魅了魔法は迷子になったんだな」
直也《そう、そして、ママを見つけて泣きついたって事だ》
「だが、あれが魅了状態なのか?俺が知ってるのはもっと、こう」
直也《その事なんだが……………》
今までの魅了魔法は、単純・強力・短時間の三点セットだった。
魔法を掛けた本人に好意を持つだけの単純な魔法で、一度かかれば、自己犠牲さえ
全く意に介さない程、強力で、そして効果はたった一日しか持たず、その日の記憶
が全く残らない。
これが本来の魅了魔法だ。
だが、今のユリアと言えば……………。
直也のありとあらゆる感情の発露に反応し、自己犠牲では無く、保護されている事
に至上の喜びを感じ、効果は死ぬまでこのままじゃないかと……………。
直也《これを魅了魔法に分類して良いのか、判断に困ってる…………》
「そうだよな、このままじゃ、お前にベタ惚れのただの、おばさ☆」
―――――――― ゴンッ ――――――(拳骨)
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ」
ユリア「だ~れが、おば☆んですって~」
「そんな事言ったって実際、三十路の若づ☆☆☆」
―――――――― ガンッ ――――――(拳骨)
「ぐぎごがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ユリア「私を挑発するなんて、い~い度胸してるじゃないwww」
「いや、けっして、そんな気は……(汗)」
直也《はあ、いい加減学習しろよ、何でこうも経験値を積むのが下手なんだか》
ユリア「言ったじゃない、馬鹿だって」
直也《はぁ、実感した》
その時、騒ぎを聞きつけて、馬車からサナが下りて来た。
寝巻替わりにアルから渡された白いワイシャツを着ているが、とても13歳には見え
ない。
地球の食材が異常に高カロリーなのが原因なのか、子供達の成長が早い。
特にサナの成長は著しい。
激しく主張する胸も、スラリと伸びた足も、既に成人女性の物だ。
現に今、サナを見た黒魔導士の顔は真っ赤になっていた。
サナ「あの、叫び声が聞こえたんで、アル様に何かあったのかなと、心配で」
「い、いや、なんでもない、うん、だいじょうぶだ」
サナ「ほっ…」
ユリア「いや~愛されてるわね~」
直也《サナ、起こして悪かったな、ちょっと話し込んでただけなんだ》
サナ「そうですじか、お話だったんですね、良かった」
ユリア「そうだ、サナちゃんも聞いて、昔、アルが私の湯浴みを覗いてた話なの」
サナ「えっ」
直也《ここで、ぶっこんだ!》
「いっ、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァ」
ユリア「ウケヶヶヶヶヶヶヶヶヶヶヶヶヶ、ざまあぁ」
直也《………ユリア、ほどほど、で頼むよ》
ユリア「は~い」
朝焼けの空に、悲しい魔導士の鳴き声が響いた。
せっかく回復した体力は激減、そして精神は、致命的な損傷を受けた。
戦艦だったら、航行不能だ。
そして、羞恥心で転げまわるアルをよそに、サナが、「私なら、いつでも…」
そう、俯きながら呟いたのを、ユリアだけが聞き逃さなかった。
「所で、さっき言った、踏み出した一歩目とはなんだ」
ユリア「露骨に話題を変えにきたわよ、どうする、ナオ」
直也《ここは乗ってやらないと可哀そうだろう》
ユリア「わかったわ、アル、感謝しなさいね」
「………それで……一歩目は……何だ」
直也《なに、看板を立てて、ユリアに言葉を書いてもらっただけだ》
「いったい何て書いたんだ、看板は何処に?」
直也《看板はクーロン大橋の両側に立てた、文言は》
ユリア「この先魔導士あり、全滅に御注意下さい。よ」
「工事看板じゃねえか!」




