死神達の舞踏会
直也《随分、派手にやられたみたいだな、アルの奴》
デクシス「あ、あれ、あの、もしかして」
直也《お帰りデクシス、久しぶりだな、どうだ、少しは強くなったか?》
デクシス「直也様?ほんとに?え、でも、なんか、その、お、とな?」
直也《ああ、新しく作ったんだ、どうだ凄いだろう》
デクシス「うん!かっこいい!」
モルナ「えっ、直也様なの?なんでここに?」
クリッカ「そうなの?」
ルナ・ミア「ふえ?なお、や、しゃま?」
リリ「あうあう」
サナ「直也様!アル様が!アル様が!」
直也《ああ、もう大丈夫だ、後は全部俺に任せとけ》
「「「「「う、うああああああああああああああん」」」」」
直也《ほら、もう泣かない泣かない》
「「「「「ぐすぐす、えぐえぐ」」」」
サナ「ぐすっ、あの直也様、こちらの方は……」
直也《ああ、紹介しよう、アルのお姉さん?のユリアだ」
ユリア「みんな可愛いわ、ユリア・ラインゴールドよ、お姉さんとよんでね」
サナ「は、はい、お、お姉さま」
直也《それと、向うの白髪がブラン、黄髪がジューヌ、俺の部下になる》
ブラン《ヨロシク・オネガイシマス・オジョウサマ》
ジューヌ《ヨロシク・オネガイシマス・オボッチャマ》
モルナ「お嬢………さま?」
デクシス「お坊ちゃま………」
此処で俺は一人足りない事に気が付いた。
直也《そういえば、ガットの姿が見えないが、馬車の中?病気か何かか?》
途端に全員の顔の表情が、みるみるうちに歪み始めた。
デクシスは唇を嚙みしめ、モルナは目を伏せた。
ルナとミアは目に涙をため、リリとクリッカは涙をこらえきれなかった。
サナが震える唇を開こうするが、声を出すまでには至らない。
飛び切り最低で、最悪の予感が頭をもたげて俺を見下ろしてくる。
そして、何故か、いきなり心が納得した。
なぜ、ガットがいない?なぜ、こんな所にいるのか?なぜ、追われているのか?
なぜ、アルが此処まで追い詰められているのか?なぜ、みんな泣きそうなのか?
ああそうか、そういう事か、お前達を害そうとする連中が居るんだな。
デクシス「ごめんなさい、俺、守れなくて、弱くて、ガットに助けられて」
直也《そうか、辛かったな、よくがんばったな》
デクシス「みんなで前だけ見るって決めたから………」
直也《…強くなったな》
だが、俺が今までに起こった事を子供達に聞いていると、大勢の騎士や兵士が橋を
渡って来た。
第三公子とアグラバール公爵家・ダーナドール公爵家の連合軍はモデムドール公爵
軍が戦場を放棄したのを、自らの陣営の威容に恐れをなしたと考えた。
逆恨みの復讐に執着する第三公子も、目に前ぶら下げられた広大な領地と齎される
はずの税、与えられるであろう爵位と地位、鉱山から献上される、金・銀・魔鉱石
と多岐にわたる鉱物資源に、農地から取り立てる年貢などに目が眩んで欲望に支配
された両公爵軍も、脇目も振らずにみずからの欲望を満たすため、大挙して橋を渡
たった。
自分達の渡った橋が、現世と黄泉を繋ぐ橋だと気づく事もなく。
そして、自らの獲物が動けなくなっているのを見た第三公子のリオンは、その歪み
爛れ切った欲望のはけ口を見つけた事に狂喜した。
己に唯一残った、拷問と虐殺による快楽が目の前にあるのだ。
あの日、刑罰を執行されたリオン公子は、下半身の一物を切り取られたのだ。
そのままペーセット伯爵家に下げ渡されたが、何故か幽閉も入牢もしなかった。
それどころか、翌々日には、少数ながら騎士を引き連れてペーセット伯爵家の軍を
追いかけた。
しかし、リオン公子が到着した時にはペーセット伯爵軍はその当主と共に壊滅して
この地上から消滅していた。
ペーセット伯爵家、ロンバーナ侯爵家、両家とも現当主が参戦していたのは、公妃
と側妃の生家として、その威と責を示す為の物だったが、二人共、あっけなく戦死
した。
やっと追いついたものの、補給を寄生するつもりだったペーセット伯爵軍は、既に
存在しなかったのだ。
食料も飼葉も無くなり、打開策を思いつかないまま、癇癪を起して同行した騎士を
罵倒していた所に、アグラバール公爵家が同行を持ちかけて来た。
リオン公子にとっては、降って湧いた幸運だし、公爵家にとっても、このまま一人
勝ち寸前のモデムドール公爵家が支配する戦場に、リオン公子を突入させる事で、
無理矢理介入するつもりで、招きいれた。
この、頭の狂った異常性格者の公子なら、恥も外聞も、それこそ常識も禁忌も軍規
さえも、無視して、戦場に割り込むだろう。
そうなれば、戦場は混乱するだろうから最初の取り決めなど、有って無い様な物だ。
この策をアグラバール公爵は、全面的に採用した。
そしてこの策に、ダーナドール公爵家までもが乗って来たのが現状だが、こんなに
何もかも都合よく物事が進む異常さに誰一人、気が付いていない。
なぜ、伯爵家預かりのリオン公子がここにいるのか、誰も気が付いていない。
リオン公子に付いて来た騎士が2人、人目を避ける様に公都へ帰った事にも、気が
付いていない。
それらに全く気が付かぬほど、全員が、欲望の沼に頭の天辺まで浸かっていた。
だから、王家が裏で何かしら、画策している事に思い付きもしなかったのだ。
そして彼らは、ドローンも上空を通過した影も爆音も無視して、殺到してきた。
直也《おやおや、随分と偉そうな態度の奴らが大勢おでましだぞ》
モルナ「あ、あいつ………」
デクシス「あいつだ、くそ、くそ、くそ」
直也《落ち着け!デクシス!落ち着け!》
デクシス「フ――ッ、フ――ッ、フ――ッ、フ――ッ」
激昂するデクシスは今にも飛び出していきそうだ。
実際、肩を掴んでいなければ、怒りに任せて殴りかかりそうな勢いだった。
直也《モルナ!いったいどうした!あの金ぴか男は何だ!》
モルナ「ガットを殺した………」
直也《………何だって?》
モルナ「ガットを殺した、あいつがガットを殺したの」
直也《そうか、奴か》
モルナ「絶対に許さない」
直也《モルナ!デクシス!あれは、俺が始末する、ここで見てなさい》
モルナ「はい」
デクシス「は、はい」
直也《みんなも、ここでじっとしてなさい》
「「「「「「はい」」」」」」
やっと、デクシスが怒りを、抑えるのに成功したので、子供達の安全を、先に確保
する事にした。
直也《ユリア、この子達を守ってくれ》
ユリア「任せてちょうだい、指一本、触れさせたりしないわ」
直也《ジューヌはここから弓を使え、誰も近づけるな》
ユリア「矢なら私の異空庫に腐るほど有るわよ、遠慮しないで撃ちまくってね」
ジューヌ《リョウカイデス》
直也《ブランは俺と一緒に斬り込むぞ》
ブラン《イエス・マスター》
ユリア「はい、ブランちゃんの長槍よ、久しぶりに槍の舞が見たいわ」
ブラン《リョウカイ・シマシタ》
ユリア「ねえ、ちょっと敵が多過ぎない?これじゃあ逃げる奴が出るわよ」
直也《大丈夫、もうドローンは全部配置が終わっているし、グローバルホーク
も上空で待機中だ》
ユリア「グローバルホークまで使うって容赦ないわね、もしかして怒ってる?」
直也《この世界に来て一番怒ってる》
ユリア「うわ~」
直也《さあ、懺悔の時間だ》
俺がブランを従えて進むと、リオン公子は、こちらへ進むのを止めた。
それは、俺を恐れた訳でも、慎重になった訳でも無く、ただ身分の高い自分は、
相手に歩み寄っては、沽券に関わると本気で思っての事だった。
事実、リオン公子は馬上から、醜い顔を隠そうとせず、見下していた。
リオン「何だ、貴様!人形か?人形如きに用は無いんだ!そこを退け!」
直也《なんだ、うるさいガキだな、殺しに来てやったんだ有難く思え》
騎士・兵士「「「「「「「「「ひいっ」」」」」」」」」
俺が言葉を発した事で、公子以外は皆、恐怖に囚われた。
その証拠に、騎士達の目から、あの熱に浮かされたような、欲望に陶酔したような
光がどんどん失われていった。
彼らは、目の前の存在が、いつも自分達が芝居小屋で見る、魔術師が操る傀儡人形
等では無く、全く知らない未知の存在である事に気付き始めたのだ。
この世界の人形は、こんなに滑らかに動けない、操る傀儡魔術師が必ず傍にいる、
そもそも操る人形はせいぜい幼児サイズでこんなに大きくない、ましてや言葉を喋
るなど論外だ。
呆れた事に、直也の発した言葉を聞いてやっと目が覚めたらしく、じわじわと公子
から距離を取り始めた。
そして、その公子と言えば…
リオン「貴様、不敬だぞ、不敬罪だ、誰かこいつを捕えろ!早くしろ!グズが!」
直也《お前がガットを殺したのか?答えろ》
リオン「ガット?ああ、あのガキか、良い所で邪魔しやがったから殺してやった」
直也《良い所?》
リオン「ああ、女は犯してから、手と足を切り落とすと、いい声で鳴くんだぁ」
直也《何だこいつ》
リオン「そして、腹を裂くんだ、腸が飛び出して狂ったように絶叫を始めるんだぞ
ああ、あの悲鳴、たまらねぇ」
直也《………これが本性か》
リオン「あの狸人族の女、どんな声で鳴くのかなぁ内臓はさぞ綺麗だろうなぁ」
直也《異常者め》
リオン「ああ、今から楽しみだ、ふひ、ぐひひひひひ」
直也《この世から消えろ、――瞬歩――》
リオン「えっ、なっ、ぎゃああああああああああああああああああああ」
一瞬で公子の傍に移動した直也は、その両手と両足を斬り飛ばした。
空中をクルクル回りながら、飛んで行く両腕を残して、公子は馬から転がり落ちた。
そして、うつ伏せげ悲鳴を上げ続ける公子を直也は、蹴りおこした。
直也《お前はそこで、絶望しながら死んでゆけ》
リオン「ぐぎゃぎゃごげぎいいいいいいいいいいいいいい」
直也《言葉も忘れたか、汚物め》
首以外、動かせる体が無くなったリオン公子は、激痛に泣き叫びながら、これから
この、名も無い荒地で絶望しながら、死んでゆくのだ。
もう、気の早い死肉喰らいの魔虫が寄って来た。
大国の公子に生まれながら、
誰にも看取られる事も無く、
何の成果も名声も得る事も無く、
何の義務も責務も只の一つも果たす事も無く、
軽蔑と侮蔑、悪名と嫌悪と汚辱だけを、墓碑銘として、ここで朽ちてゆく。
直也が公子を斬り殺している間に、ブランは既にその長槍を振り回して敵陣の中に
踊り込んでいた。
高速で敵陣の中を駆け抜けるブランに恐怖した騎士が、兵士を馬で踏みつけながら
逃げ惑い、更なる犠牲者が量産される。
直也に至っては、その移動速度が速すぎて、とんでもない人数が切り倒され、その
死体が広い空間を作り出した事で、兵士達は、やっと自分達が攻撃の対象なのだと
気付かされた。
デクシス「す、すげえぇ」
ユリア「そうでしょ~、あの人凄いのよ~、でも、まだまだ序の口よ~」
サナ「そう、なんです、か?」
ユリア「ええ、そうなのよ~、ふふ」
モルナ「…………なんか、もぞもぞする」
自慢しているユリアの前方では、用意してもらった樽に、山ほど矢を詰め込んだ
ジューヌが、こちらに向かって逃げ始めた騎士や兵士を、片っ端から倒している。
モルナ「こっちも凄い」
サナ「うそ、逃げる先を予測して当ててる」
モルナ「マジで?」
これはイージス艦の主砲に使われている、未来予想位置迎撃システムを直也が弓術
に応用したもので、この世界では、新しい概念だ。
デクシス「ねえ、あいつら、橋を渡って逃げてくよ」
ユリア「大丈夫よ、ほら、橋の向う側に、ドローンが飛んでるでしょ」
デクシス「うん、いっぱい飛んでる、あっ、なんか、落っことした」
ユリア「目がいいわね、投下してドローンが逃げたら、次は、ほら、来たわよ」
南の方角、バゼ大河を遡上するように、超低空で飛んできたグローバルホーク(改)
は、ドローンが飛び去った跡に向けて、ミサイルにしか見えない物体を発射した。
そして、着弾したそのミサイルもどきは、ドローンが撒き散らした油に火を漬けた
燃え上がった炎は人の三倍もの高さになり、橋の中央に向かって広がった。
橋の幅は40マト(約40m)もあるのに、兵士達には、何処にも逃げ場が、用意されて
いなかった。
挙句の果てに、この炎に一番最初に飲み込まれたのが、一番後方で大勢の兵士に囲
まれて、じぶんは安全だと思い込んでいたアグラバール公爵家・ダーナドール公爵
家の両当主だったのだから、笑えない。
デクシス「うわ~、すげ~、なんだあれ」
サナ「これ、全部、直也様の力なの?」
ユリア「ふふん、どお?私のナオって、すっごく強くて素敵でしょ~」
サナ「………………………私の?……」
モルナ「………………………ナオ?……」
ユリア「ふんwふんwふんw~ふんふんふんw~」
逃げ惑う兵士達は、戦場を僅かな生への影を求めて走り回ったがそれは、余りにも
小さく、細く、薄かった。
せっかく刃を避けたのに、炎に巻かれて命を落とした。
やっと炎を逃れたのに、刃が胸を貫いて命を落とした。
炎に囲まれ、二つの嵐が荒れ狂う戦場には。もう生者の存在する場所はなかった。
そこに現れたのは、まるで災厄と絶望が歌い上げられる、
死神たちの舞踏会だった




