絶体絶命
「まさか、ドローン?」
どう考えても、ドローンだ。
ドローンにしか見えない、ドローンだよな。
「おい、お前、直也か?」
ドローンが上下に動く・・・・・・これはイエスか。
「近くにいるのか?」
ドローンが左右に動く・・・・・・おそらく、これはノーだな。
「手助けできるか?」
ドローンが一回転・・・・・・どういう意味だ、イエスでもノーでも無い。
「やるだけやってみるって事か?イエスか、だがどうする?」
そう問いかけていると、ドローンがもう一機飛来した。
一体どうするつもりなのか、そもそも此のドローンに攻撃能力は搭載されてる様に
は見えない。
とても撃退できるとは、思えない。
まあ、確かに物珍しいだろうが……そう思ったが、またぞろ意識が遠くなり、
立っていられなくなった。
事態は変わらない、そう思っているのは、この死にかけ魔導士だけで周りの人間
達は大混乱に落ちた。
まず最初に反応したのは、傭兵たちだった。
特にベテランと言われる連中は、若い仲間を連れて、すぐにその場から距離を
取った。
「とっとと、離れるぞ、グズグズするな!」
「何でだよ、せっかく追い詰めたのに…」
「ど阿呆、お前には、あれが見えないのか!」
「そりゃ、なんかいるけどよぉ…」
「お前、あんな得体の知れない物を見た事があるのか!」
「い、いや、ねえけど…」
「何で浮いてる!毒は有るのか!爪は牙は何処だ!お前に倒せるのか!答えろ!」
「…わかんねぇ…」
「そんな物、相手に出来るか!相手は魔導士なんだぞ!」
「す、すまねえ」
「生き残る確率さえ、計算出来ない相手と戦うな」
「わかった」
「無駄な死を選んでくれるなょ」
「ごめん、肝にめいじるよ」
一流の傭兵団は一流になれるだけの理由が有る。
あれ程積極的に戦闘を買って出た傭兵団が、まるで手のひらを返すように距離
を取り始めたのを見て、馬車に迫っていた騎士や兵士が平常心で居られる訳が
無い。
撤退命令も後退指示も出ていないのに、じりじりと後ろに下がり始めた。
「おい、傭兵連中、下がっちまったぞ」
「やっぱり、あれ、やばいんだよ、どうするよ」
「どうするったって、何も命令がでてねえよ」
「俺らも下がろうぜ」
「でも、命令違反は重罪だぞ」
「見ろよ、向う側の連中、こっちに下がり始めたぞ」
「なんだよ、あいつらだって、逃げてんじゃねえか、俺らもにげようぜ」
「そうだよな、でも、あれ、追いかけて来ねえよな」
「怖え事言うなよ」
「とにかく、ゆっくり下がろうぜ、ゆっくり」
「お、おう、わかった」
「刺激すんなよ、襲って来るかも知れねえぞ」
「ああ、怖え」
そして混乱はモデムドール公爵の陣営でも起こっていた。
本陣で最初に浮足だったのは、雇っていた、冒険者ギルドの魔法使い達だった。
相手が魔導士だから断ったのに、金と権力で、強制招集されたのだから義務感
など、欠片も持ち合わせていなかった。
その彼女らが、傭兵団の幹部連中と共に、撤退を申し出に天幕に襲来した。
判断に困った公爵家嫡男を伴って。
コム「ええい、いったい何が起こっているんじゃ!」
ルッツ「いいから、あれを見てくれ、あれは何だ、魔獣か!」
コム「くそ、勝ちを確信して仮眠なんぞ取るんじゃ無かったわい!」
慌てて天幕を出たコムの目に映ったのは、馬車を中心にして、ゆっくり周る
見た事も無い、空飛ぶ黒い物体だった。
コム「何じゃあれは!」
ルッツ「こっちが聞きたいから呼んだんだ!」
コム「わしだって、初めてじゃわい!」
ルッツ「どうにかしてくれ!」
コム「できるか!」
かれらの常識では、羽も無く空中を飛びまわる生物に心当たりが無い。
始めてみる意志の有る飛行物体。
此処で対応を誤れば全軍が恐慌状態に陥りかねない。
コム「参ったのぉ」
ルッツ「あれは、やっぱり敵なのか?」
コム「間違いなかろぉ」
ルッツ「なぜ、そう言い切れるんだ?」
コム「見てみぃ、奴らの表情を」
ルッツ「まさか、笑ってる?……………………」
コム「そういう事じゃ」
ルッツ「増えてる…………………」
コム「なんじゃと!」
ルッツ「増えてる、増えてるんだよ!間違いなく増えてるんだよ!」
コム「冗談ではないぞ………」
ルッツ「ほら、あっちの空にも、こっちの空にも……」
間違いなく、こちらに向かって集まって来ている。
数はもう10近いと言うのに、まだ増えると言うのか、いったいこの世界の
何処に隠れていたのか。
彼らにしてみれば、それはまるで冥界からの使者が集う死神の舞踏にしか
見えなかった。
コム「まずいのぉ、兵達が恐怖に飲まれよった」
ルッツ「こんなに兵力が有るんだ、全員でかかればきっと」
コム「無理じゃ、もう誰も剣を向ける事など、出来ん」
傭兵長「コム殿、我らからも撤退を進言したい」
ルッツ「それは契約違反ではないのか!」
傭兵長「魔術師たちは、もう逃げ出すと決めたようですよ、軍が崩壊中と考え
れば敗戦特例に相当すると思いますが」
魔術師「私達は最初に言いましたよね、全員女性なんですから命の危険が有れ
こばちらから契約を放棄すると」
ルッツ「危険はまだ起きていない!」
魔術師「起きた途端、死んでしまいそうなのが、あそこで飛んでます!」
傭兵長「俺も同意だ」
コム「致し方あるまい、許可する」
ルッツ「コム!」
コム「最後にに教えてくれんかの、魔術師さんから見て、あれは何じゃと
思う?」
魔術師「恐らくゴーレムの一種だと思いますが、空を飛ぶなんて、見た事も
聞いた事も有りません」
傭兵長「ゴーレム?マジか、なら尚更撤退するべきだ」
ルッツ「ゴーレムと聞いた途端に撤退か」
傭兵長「俺が駆け出しの頃、所属していた傭兵団はゴーレム一匹に壊滅した」
ルッツ「でも、そのゴーレムは討伐したのだろ」
傭兵長「ああ、国が依頼した魔導士がな」
ルッツ「………………」
コム「致し方ない、我らも撤退じゃ」
伝令兵「大変です、コム様!一大事です」
コム「今度は一体なんじゃ!」
伝令兵「第三公子が橋を占拠しながら進ん出来ます!」
コム「はあぁ?」
伝令兵「王家の務めを果たし、公子としての名誉を取り戻すと………」
ルッツ「何ほざいてやがる、罪人が!」
伝令兵「後ろにアグラバール公爵家とダーナドール公爵家の戦時旗が続いて
います」
コム「あの恥知らずどもめ………それで今どうなっとる?」
伝令兵「今は押し問答をしてますが、すぐにでも強硬突破しそうな勢いで」
コム「…………よし!急いでバセ河に沿って南に撤退じゃ、騎士達は撤退
の時間を稼ぐために暫し橋を死守せい」
傭兵長「そう言う事なら、俺らも協力しよう、馬のない魔術師のお嬢ちゃん
達は先に逃げな」
魔術師「あ、ありがとう、ええと、団長さんのお名前は?」
傭兵長「傭兵団黒鷲の団長、アレクシスだ」
魔術師「5級冒険者のマルシアよ、今度会ったら一杯おごるわ」
傭兵長「おう、その為にも、生き残らないとな」
魔術師「ふふ、そうね」
コム「いちゃついとらんと、はよ行け」
傭兵長「なっ」
魔術師「ちっ、ちが…」
そんなやり取りを後に公爵軍は急遽、撤退を始めた。
あのゴーレムもどきが飛来してから、優に2時間以上も経っているのだ、いつ、
攻撃されても、おかしくない。
既にゴーレムもどきは30体を超えたが、更なる恐怖が彼らを襲った。
遠く北の空に見えていた小さな黒い塊が、みるみるうちに大きくなっていった。
間違い無く、巨大な何かかがこちらへ向かっって来る。
もう、途轍もなく嫌な予感しかしない。
ルッツ「何だあれ、ドラゴン?いやロック鳥かな………」
コム「羽ばたかないロック鳥など、見た事も聞いた事も無いのぉ」
ルッツ「………………………あれ………………………やばいくないか?」
コム「全員走れ!撤退じゃ!騎士も傭兵も逃げろ!急げ!」
ルッツ「総員撤退!全て捨てていけ!手ぶらで良い!撤退だ!」
私達は今、馬車を出て、みんなアル様のそばにいる。
ちょっと前にくぐもった悲鳴が聞こえたと思ったら、暫くしてアル様が馬車の
屋根から落ちた。
私は躊躇なく馬車から飛び出してアル様のそばに座り込んだ。
その時は馬車から出るなと言われた事など、全て忘れていた。
肩に刺さった矢を抜くと、すぐ傷口に持たされていたポーションをかけた。
傷は瞬時に塞がったが、未だに目を覚まさない。
私の膝の上でアル様が、静かな寝息をたてている。
ああ、こんなにやつれて、こんなに目に隈を作って。
ああ、私達の為にこんなになって、こんなに傷ついて。
ああ、もう敵なんてどうでもいい、弓矢も剣も槍だってどうでもいい。
ああ、私の命などどうでもいい、貴方の居ない世界などどうでもいい。
もし死ぬなら一緒がいい。
アル様、〝愛してます”
デクシス「アル様………………サナ………………………」
モルナ「ね、もういいじゃない」
デクシス「そうだな、ここでいい、ここに居よう」
モルナ「みんなそう、アル様のそばが良いのよ」
アル様の右にはルナとミアが、左にはリリとクリッカが張り付いてアル様の
髪を愛おしそうに撫で続けるサナの指をじっと見つめている。
もう、周りなんて気にしなかった、敵の動きなど気にしなかった。
みんな一緒に此処に居よう、アル様の目が覚めるまで。
モルナの手が俺の手と重なった。
そうしてどれくらい経っただろう、巨大な影と、聞いた事の無い爆音が俺達の
頭上を通り過ぎた瞬間、何かが傍に降り立った。
顔を上げると、そこには、綺麗な女の人を抱えた、三体の人形が立っていた。




