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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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戻らない命・紡がれる絆

今回は物語の流れから短めです。



俺達は公都を出た後、ひたすら西を、クーロン大橋を目指した。

俺達は町や宿場は素通りし街道の脇で野営しながら、バセ大河を目指した。

俺達は一人欠けてしまった家族に思いを馳せながら、ナール山脈を目指した。

俺達はすれ違う人、その誰にも関わらず、直也の待つ洞窟を目指した。


俺はアルギスの差し出す全てを拒絶する。

俺はアルギスの名を持つ者全てを拒絶する。

俺はアルギスの提示するあらゆる提案も交渉も拒絶する。


俺はこの国を絶対に信用しない。

俺はこの国を絶対に許さない


    ”この国は俺の敵だ〝



何日目かの野営に大き目の焚火を囲んでいると、俺にしがみ付かいない

と眠らなくなってしまったちびっ子達の寝息を確認してから、サラ達が

ぽつりぽつりとあの日までの事を話し始めた。


  サナ「アル様が出かけた日に、世話係だと言って男の人が来たんです」

 モルナ「私達、必要ないって、敷地に入るなって断ったんです」

  サナ「それでも何度も何度も、しつこく訪ねて来て」

 モルナ「いい加減、頭に来てデクシスが剣を抜きかけました」

  サナ「でも、いつの間にかガットと剣の稽古を始めたんです」

 モルナ「言い付けを守れって、怒ったんだけど」

デクシス「自分がお願いしたんだって、聞かなかったんだ」

 モルナ「それで、言い合いになっちゃって…」

デクシス「俺、ガットと喧嘩になって、勝手にしろって」

 モルナ「それで、みんな意地になっちゃって」

  サナ「私、どうしたらいいか、分からなくなって…何も言えなくて」


焚火の薪が重さに耐え切れず崩れ落ちて、新しい火の粉を暗い夜空に解き

放つ。

助けられなかった、死なせてしまった、何とかしたかった、なのにどうに

も出来なかった、そんな思いか、ほんの僅かなきっかけで、浮かんできて

は、心を水底に引きずり込もうとした。


  サナ「そしてあの日、朝食もまだ終わらぬ内に、男はガットとの訓練

     を始めたんですが、暫くしてガットが怪我をしたと扉を叩いた

     んです」

 モルナ「男に抱えられたガットは、額から血を流していましたし意識も

     朦朧としてました」

  サナ「だから、部屋に入れてしまったんです、騙されているとも知らずに」

 モルナ「ガットに近づいたリリに一瞬で剣を突き付けて人質したんです」

デクシス「油断した!油断したんだ!俺が!」

 モルナ「あなたのせいじゃないわ、あんなの誰も防げないわ!」

  

着替える事も装備を身に着ける事も出来ず、第三公子の待つ離宮に連れて

行かれて通された部屋は、むせ返る様な甘い匂いがしていた。

そして、そこで待っていたのは、巨大なベッドの上に寝ている裸の女と、

もう一人の女と下半身が繋がっている公子だった。

公子は女とまぐわいながら、部屋の隅で一塊になっている子供達を、なめる

ように見ていた。

女の中で果てた公子は、暫くは、満足して横になっていたが、いきなり起

き上がると、卓上に置いてあった薬を飲み下した。

それは、恐らく麻薬か精力薬の類だったのだろう、いきり立つ下半身を隠

そうともせず、その異常な性欲を向けて来た。


  サナ「あの男は、さも当然みたいに私とモルナに近づいてきて、無理

     やり服を脱がそうと襲って来たんです」

 モルナ「抵抗してたら、デクシスが男を突き飛ばしてくれたんです」

  サナ「でも、それに怒りだした男がデクシスを…」

 モルナ「少しづつ、斬りつけて、いたぶって、血だらけで、ずっと…」

デクシス「でも、ガットが助けてくれた…」

 

この時、全員の認識範囲の外に、気絶したガットは倒れて居た。

だが、この騒ぎで、気を取り戻したガットは、朦朧もうろうとした意識の中でデクシス

をいたぶる公子を敵と認識した。

いきなり公子に飛びかかると、剣を持つ右腕に渾身こんしんの力を込めて、その牙を

突き立てた。

悲鳴を上げる公子、ガットを貫く女の細剣、拾い上げた剣を構えるデクシス。

その光景が、まるで絵画のようにサナとモルナの目に焼き付いた。

そして、その記憶は度々、現れては、二人をさいなんだが、その光景は

呪いで有ると同時に、祝福でもあった。

何故ならそれは、もう会えない、一人の仲間の最後の雄姿なのだから。


  サナ「流れ出す血が止まらなくて、どんどん冷たくなって」

 モルナ「うらやましかったって、自分も強くなりたかったって………」

デクシス「俺、気づけなくて、何にもしてやれなくて………」

  サナ「でも、さいごに、ごめんなさいって………」


デクシスのせいじゃ無い、ガットの思いを汲み損なったおれの責任だ。

ガットがデクシスの稽古をよく見ていたのは知っていたのに、その思い

には、気がつかなかった。

なんとなく、ガットは文官が似合うなと、勝手に思っていた。

だから、ガットの思いが膨れ上がって行くのに気が付かなかった。



  どんなに優しく見えても、ガットだって一人の漢なのだ。


その後、直也の言葉を思い出した、リリが首から下げた防犯ブザー(仮)を

起動させてくれたおかげで、俺に居場所が伝わった。



ここに来て、三人はとうとう我慢出来ずに泣き出してしまった。

それは、もう戻る事の無い命への後悔こうかい懺悔ざんげの涙であり、救う事の出来な

かった自らへのいきどおりと憤怒ふんぬの涙だった。

それでも、サナ達は今、初めてガットの死を現実として受け入れたのだ。



翌日、朝早くに俺は、薪を大量に組上げると、その真ん中にガットの亡骸

を横たえた。

ガットのまわりは、子供達が摘んで来た花で飾られ、まるで花園に眠って

いるようだった。


「ガットはずっと、俺達の中に居る、ずっと俺達の記憶の中に居る」


燃え上がる炎が、この世界の全ての悪意から守る様に、ガットを優しく包み

込みながら、この地のしがらみから解放した。


「悔やむ事も、泣き叫ぶ事も、ましてや自分自身を責める事などガットは、

 絶対に望まない」


揺らぐ事も無く、真っ直ぐ天に登ってゆく煙が、ガットの魂を導いている。

風たちは、まるで、その祝福を見守るかの様に、そよ、とも吹かなかった。


「みんなに出来るのは、涙を拭いて、顔を上げて、前を向いて進む事だ」


雲一つない、どこまでも高く深く碧い空が、その両手を広げて、消えゆく

煙とガットの魂を、安らぎを約束された世界に送った。



      「幸せになる事が、ガットの望みだ」




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