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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
33/169

公都への道・残照と澱み



クノッソス砦を出て、15日目の昼過ぎ、俺達はアルギス公国の公都を囲む

城壁の北口正門にて足止めを受けていた。

砦の兵士が先行して告知したおかげか、此処までの道のりは、ある一部の

馬鹿を殺しかけた以外は目立った支障は無かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 砦を出て五日目・ヴァトナの町 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


まず砦から出て、最初の町、ヴァトナでは熱烈な歓迎を受けた。

街長自ら先頭で、出迎える厚遇ぶりだ。

なんせ、この町を含む一帯にとっては、砦は守りの要、ガルム男爵とその

部隊は唯一の頼れる武装集団だった。

その砦と部隊が壊滅しかけた所を救ったアル達は、彼らにとっては救世主

そのものであり、いくら歓待しても足りなかった。

その為、アル達が町に辿り着いた時には、町の入り口は多くの人で溢れ返

っていた。

そして歓迎の宴が開かれたのだが、とにかくデクシスが凄かった。

何故か、この町の獣人の女の子達が群がった。

恐らく50人は居たんじゃ無いだろうか。

同じ年頃の子だけでなく、5、6歳年上の女の子までいる。

全員がデクシスの目に止まろう、好感を得ようと必死だ。


   「なあ、サナ、あれは一体何事なんだ?」

 サナ「あれはデクシスから漏れている強者の魅力に惹かれているんです」

   「強者の魅力?フェロモンみたいな物か?」

 サナ「ちょっと違います。獣人は強い雄に強烈な魅力を感じるんです」

   「確かに、ここ数日でデクシスは見違えるほど強くなったからな」

 サナ「ええ、ですからみんな、その魅力に酔ってるんです」

   「デクシスのやつ、モルナに愛想を尽かされないかな………」

 サナ「問題無いです、ほら、モルナが、めちゃくちゃ不機嫌です」

   「ほんとだ…………」


今までデクシスに余り関心を向けなかったモルナが、今じゃまるで婚約者

に集る虫を見る様な目で、町の娘たちを見ている。


モルナ「鼻の下を伸ばしたら、只じゃおかないんだから…………」

   「怖えよ、モルナが怖え……」

 サナ「幸い、デクシスは迷惑そうにしているんで、大丈夫でしょう」

   「そう願いたい…………」

 サナ「死人が出そうだったら、私が止めます」

   「だから怖いって…あれ?でもサナは何ともないのか?」

 サナ「力に大きな差が無ければ、それ程影響は受けません」

   「なるほど、そう言う事か」

 サナ「………………………………それに、私、アル様一筋だし………」

   「うん?サナ、何か言ったか?」

 サナ「いいえ、何も…」


その後、夜更け前に宴は終わった。

終わらせなければ、血の雨が降りそうだったからだが、何処に降るかは、

言わなくても判るだろう。

おまけに、夜のお相手にと、人族の女の子が俺にすり寄って来て、サナの

後ろにドラゴンが見えた時には、血の気が引いた。

あのまま誘いに乗っていたらどうなっていた事か…………。

くわばら、くわばら。

翌朝には何事も無く、惜しまれつつも、ヴァトナの町を後にした。

それから幾つもの宿場を兼ねた小さな集落を経て次の町に着いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇ 砦を出て十日目・ガルドラの町 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


門番から連絡を受けた街長から、自分の館への招待を受けたが此処では、

普通の宿に泊まるからと、固辞させてもらった。

理由の一つはデクシスが馬車から出たがらないから。

余程、あの時の女の子が怖かったのか、それともモルナの嫉妬が怖いのか、

俺は3対7で後者だと思って居る。

もう一つの理由が食事が不味いから。

宿の部屋なら調味料を追加しても、新しい料理を異空庫から出しても誰の

目にもつかない。

ヴァトナの町で思い知った俺達は、食事の度に料理を過剰に制作しては、

異空庫に放りこんだ。

これで厨房を借りなくても、何とか持ちこたえられる。


 サナ「お肉は良いんです、お肉はそれなりに塩味ですから」

モルナ「問題は野菜と穀物類よね」

 サナ「ええ、これだけは、どうにも料理と認めたくないわ」

モルナ「そうそう、でも下拵えって考えは凄いわよね」

 サナ「ほんと、アル様に教えてもらってから、世界が変わったわ」

モルナ「でも、直也様も凄いじゃない、だからこの前、アル様と直也様、

    どっちが料理上手か聞いてみたの」

 サナ「…遠慮なしね、で、どうだったの?」

モルナ「断然、直也様の方が上だって」

 サナ「でも、アル様のご飯も美味しいよね?」

モルナ「それなんだけど、経験が何倍も違うって言ってた」

 サナ「じゃあ、直也様、あれで本気じゃ無かったってこと?」

モルナ「そうみたい」

 サナ「いつか…直也様に会いに行きたいわね」

モルナ「そうね、いつか、みんなで一緒に冒険者にでもなって、ご飯を食

    べに行きましょうよ」

 サナ「賛成!でもモルナ、直也様とご飯が同じ扱いになってるわよ…」

モルナ「おや?」

 サナ「全く…」


だが、この幼なさが残る二人の少女は、自分達の力量が宮廷の料理番を越

えつつあることを知らない。

ましてや、その事で、これから少なからず面倒事が寄って来る事など知る

よしも無かった。


 サナ「今日はこれで最後かな」

モルナ「アル様、これも収納をお願いします」

   「はいはい、たくさん作ったね、おや、これは?」

 サナ「えへへ、きのうの野営場所で取ってきてたんです」

   「こんなに沢山、良く見つけたね、でも確かこっちじゃ酸っぱ過ぎて

    よっぽどじゃないと食べないんじゃなかった?」

モルナ「それなんです!アル様、一つ食べてみてください」

   

そして、差し出されたのは、櫛にささった赤い苺だった。

向うの世界なら、苺は甘いのが、常識だが、こちらの世界の苺はすっぱい。

とにかくすっぱい、ひたすらすっぱい。

その味を想像して口にしたそれは〝りんご飴”ならぬ〝苺飴”だ。


   「おいしい!すごく美味しいじゃないか、驚いた」

 サナ「以前、似たものを、直也様が作ってたから真似したんです」

モルナ「たしか、ベッコウアメとか言ってらしゃいました」

   「そういえば向うの世界のお祭りで似た物を売ってたな」

 サナ「こっちの材料で作ってみました」

   「うん、凄いよびっくりした」

モルナ「それで、残りを預かってほしいんです」

   「いいけど、どうして?」

 サナ「理由は、ちびっこ3人組です」


リリ・ルナ・ミアの3人はこの頃、食いしん坊の悪戯っ子に変貌していた。

如何に快適とは言え、狭い馬車、なまじ整備されている為に魔獣の襲撃が

ない変化に乏しい安全な旅、十分な食事で成長し続ける体、3人が暴走を

始めるには、十分な理由だった。

野営のたびに、勝手にそこら中を駆け回るちびっ子達に目を光らせるのが、

ガットとクリッカの役目で、その5人の安全に気を配るのがデクシスの仕事

となっていた。

そして自分達の安全が保障されている事を本能的に感じ取った3人が、悪戯

と、つまみ食いに走ったのは、自然な流れだろう。


 サナ「どんなに上手に隠しても絶対に見つかります」

モルナ「まず、三日と持ちません」

   「いやいや、100本以上有るんだぞ」

 サナ「三日は希望的な物で、実際は二日が妥当な日数かと…」

   「なんてこった………でも、そういう事か、了解だ」


宿の部屋に出した簡単な調理器具を収納した頃にはもう十分夜中と言われ

る時間になった。

幸い匂いが漏れ出す事も、他の宿泊客から料理に突撃される事も無く無事

次の朝を迎えられた。


◇◇◇◇◇◇◇◇ 砦を出て十五日目・クロトンの町 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


公都の一つ手前の町は、今までの町より、二回りは大きな規模の街並みと

3倍以上の人口を抱えた、公国で4番目の規模の町だそうだ。

理由は公都へ続く街道の多くがこの町を経由している事。

その為、誰が街長になっても大きな失政を犯さないだろうと、世襲と贈賄

の温床になっている。

ここで3~4年無難に勤めれば、統治能力有りとして、国の行政機関に抜擢

されるそうだが、呆れたもんだ。

特に今の街長の名はカイル、アグラバール公爵の直径の孫で歳は20、公爵

に溺愛されて育った坊っちゃんで、執務や事務は全て部下に丸投げで遊び

惚けているボンクラだ。

待ち受けていた砦の兵士が教えてくれた。

彼が言うには、今の街長の坊っちゃんは、全く話の通じない人間らしく、

詳しい事情は何も報告していないらしい。

兵士自身はこれから公都に向かうので、街長は無視して、通り過ぎるなり

何処かに宿泊するなりしてほしいそうだ。


  「つまり悪い馬鹿が居るんだな」

兵士「そうです、馬鹿で阿呆でクズで愚鈍で愚かで間抜けな非常識男です」

  「随分重ねたな、どうやら関わらない方が賢いようだ」

兵士「そうして下さい、あの馬鹿が殺される未来しか想像できませんので」

  「ははは、大袈裟だなあ、俺だって我慢ぐらい出来るさ」

兵士「町を壊滅させないで下さい」

  「大丈夫、そんな事にはならないさ」

兵士「出来れば、あの馬鹿街長だけにしてください」

  「心配性だなあ、君は」

兵士「この際、取り巻き連中までは、譲歩しますから」

  「……………………わかった」

兵士「よろしくお願いします」


そう言って馬に飛び乗った兵士を見送ってから、ものの1時間もしない内

に、前言を撤回したくなった。


カイル「おい、そこのお前、その馬車を俺に寄こせ、金なら払ってやる」


道の向うからは、5人程の若い街兵を連れた若い金髪の男が、軽薄な表情

を顔面に貼り付けたまま、アル達の馬車の行く手を遮った。

金銀赤黒、原色だらけの無駄に装飾過多な服装に、首と手首で無駄な主張

をしてくる金のアクセサリー、腰にさした装飾だらけの剣。

まるで日本のチンピラか半グレそっくりだ。

おまけに連れてる街兵も似たり寄ったり。

まさかこいつが街長じゃないよな?違うと言ってくっれ。

ああ、判ってるさ、それが無駄な願いだって事は。


   「断る。これは売る気もないし、お前如きが買える金額でも無い」

カイル「何だと!」

   「だから断ると言ったんだ、この鳥頭、馬鹿なのか鳥頭」

カイル「貴様、俺が誰だかしらんのか!」

   「知ってるさ、馬鹿な鳥頭だろ、馬鹿鳥、お前の事だぞ馬鹿鳥」

カイル「お、おのれ、俺はこの町の街長だぞ!」

   「だから知ってるって、この馬鹿鳥、聞いてないのか馬鹿鳥、何度

    も言わすな馬鹿鳥、早くどけ馬鹿鳥、死にたいのか馬鹿鳥」

カイル「ム、ガ、ギ、グ、ゲゴ、グガガ」

   「はあぁ、言葉も忘れたか、見逃してやる、早くどけ馬鹿」

カイル「馬鹿って言ったな!俺の事馬鹿って言ったな!絶対に許さないぞ!」

   「馬鹿鳥に馬鹿だと言って、何が悪いんだ馬鹿鳥」

カイル「貴様、降りて来い手打ちにしてやる!おい、おまえらも用意しろ!」

   「手打ち?俺を?お前ら如きが?いいだろう、サナ、御者を頼む」

 サナ「はい、アル様」


御者席をサナに任せて馬車を降りると、馬達を落ち着かせる様に馬体を撫

でながら、馬車の先頭に向かったが、降り立った瞬間から、遠巻きに見て

いた者達が一斉に口を開いた。


「おい、あれ魔導士じゃないのか?」

「誰か詳しい奴は居ないのか?」

「こっちじゃ、魔導士なんてめったに見ないからな」

「本当に魔導士なのか?」

「左胸を見てみろ、杖と蛇の刺繡が有るだろ、魔導士の証だ」

「おい、黒だ、黒のローブだ、えらい事になったぞ」

「黒って強いのか?」

「昔、白ローブなら見た事あるぞ」

「ばっか、魔導士の最高位だ、知らないのか?」

「白ローブってのは、見習い魔導士の事だ」

「初めて見た、でも随分若いな、まだ30前だろ」

「うん?若い黒魔導士?どっかで聞いた様な……」

「でも、あの馬鹿ぼん街長、手打ちにするって、大丈夫なのか?」

「さあ?なんせ公爵様の孫だし大丈夫だろ」

「ぶん殴られるかもしれねえぞ、期待しちゃおうかなw」

「おや、黒魔導士様は背中も派手だねえ~」

「金竜だぜ金竜、それも三つ首だ、かっこいいなあ」

「思い出した……………寂寞、間違いねえ寂寞だ、生きてたんだ……」

「なあ、寂寞ってなんだ?あんた詳しいのか?」

「寂寞ってのは、あの男の二つ名だ、国王でさえ、個人的には敵対しねえ」

「そんなに凄いのか?」

「もし敵対するならドラゴンの方がまし。有名な言葉だ」

「じゃあ、あの馬鹿ぼんは……」

「生きてりゃ、めっけもんだろうな……」

「あわわわわわわわ」


急激に騒めきだした野次馬たちを無視して、馬鹿の前にたった。


   「ほら、降りて来てやったぞ、喜べ…どこ見てやがる」

カイル「おお、綺麗な獣人連れてるな、あれも寄こせ、可愛がってやる」

   「…何だと、このクソ餓鬼…」

カイル「公爵家の俺様が美味しくいただいてやる、光栄に思え」

   「…………死ね…」

   

   「《《《氷の理::針「おっお待ちください!」》」


いきなり飛び込んで来た執事の老人に驚いて、反射的に魔法の展開を止めた。

つまり、この老人はそれ程の気迫を持って飛び込んで来たと言う事だ。

そして、俺の足元で土下座した。


老執事「申し訳ございません、全て私の責です、何とぞお許し下さい」

カイル「じ、爺…」

老執事「何とぞ、何とぞこの爺の首で、何とぞ、何とぞ、お願いします」

   「はあ、こいつの命にそんな価値はないぞ」

老執事「存じております」

カイル「爺!おまえ!」

老執事「だまれ!」

カイル「な、何だと!」

老執事「自分が断頭台に乗せられているのに気づかないなら黙りなさい」

カイル「公爵家が、ただでは…」

老執事「近衛騎士80名全員つぎ込んでも勝てません、瞬殺されます」

カイル「まさか、そんな…」

老執事「甘やかしすぎました。矯正しようにも、既に手遅れでしょう」

   「なら、見放せばいいだろう、他の者に危害は加えないぞ」

老執事「幼い頃からお仕えしてきましたし、それが私の役目ですから」

   「どうしてお前たち老人は、そう頑固なんだ」

老執事「…恐ろしいのですよ」

   「恐ろしい?」

老執事「生き方を変えるのは、今まで積み上げて来たものがまるで無価値

    になってしまいそうで、恐ろしいのですよ」

 サナ「アル様…」


振り向くとサナが泣きそうな顔をしてこっちを見ている。

マレーナの町の老人達と老執事が重なって見えたのだろう。

この子の優しさと俺の怒りを天秤に掛ければ答えなど決まっている。


   「はあ、わかったよ、爺さん立ってくれ」

老執事「…では」

   「ああ、しょうがない、全部不問にしてやるよ」

老執事「ありがとうございます。御恩情、感謝致します」

   「礼なら、あの子に言ってくれ」

老執事「勿論でございます」

   「あとはそちらで対処してくれ、二度目は無いぞ」

老執事「心得ております」


これ以上、此処に居てもろくな事は無いのは明白だ。

この町も、それは同じだろう、もう留まる気は無かった。

それからは、街を素通りして一路、公都を目指した。


そして4日後には早くも、公都に辿りついた。

一抹の不安を感じながら。


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