容認と拒絶とユリアの過去
ユリア「キャッハ―――――喰らえ!バレット!」
――ドド――ドドド――ドド――――!
――ピギ――――――――――ッ
――ドサッ‼
軽トラックよりも大きなブッシュボアが頭に数ヶ所の孔を穿たれて横倒し
になって絶命した。
ユリア「ん~気持ちいい~w最高~w」
直也《ユリアさん、ご機嫌ですね》
ユリア「もちろんよ、自分で魔獣を狩れるなんて夢みたいだわ」
直也《生き生きとしてますよ》
ユリア「何て言うか、この空間を自分が支配出来る事の征服感が凄いの」
直也《初めての感覚ですか?》
ユリア「そうなの、その通りなのよ、私の初体験なの」
直也《なんか、単語だけだとエロいですね》
ユリア「初めてだからちょっと血が出ちゃったけど、気持ちよかったわ~」
直也《ちょっ、ユリアさん言い方》
ユリア「あぁ~ん、私、初めてだったの、責任とってね、あ・な・た」
直也《な、な、な、何言ってんですか!》
ユリア「ふふ、もうてれちゃって、あんなに愛しあったじやない」
直也《血まみれの殺戮現場で言われても…》
ユリア「なら、ベッドの上で待ってるわww」
直也《…この悪のり……アルと同類だ…………》
ユリア「だって魔導士なんだもん♡」
直也からの講義を受けていたユリアは、夜、自室でこっそり隠れて改良
していた火炎魔法を試したくて、ここに来ていた。
最初は、断っていた直也だが、余りにもしつこくて、このままでは講義が
全く進まない事態に追い込まれ、とうとう承諾してしまった。
直也《こんな事なら、部屋を用意するんじゃ無かった…》
ユリア「もしかして私のあられもない寝姿が見たいの、いいわよ~」
直也《違う》
ユリア「仕方ないわよ、男の子だものw」
直也《だから違うって》
こんな調子でわがまま放題の彼女だが、確かに魔法の威力は、とんでもなく
上昇して、凶悪な物になっていた。
直也《でも、たった7日で此処まで仕上げますか》
ユリア「物理法則や元素を少し応用しただけなのに、凄い効果よ」
直也《まだ基礎中の基礎なんですけど…》
ユリア「確かに魔力消費は倍になったけど、威力は十数倍になったわ」
直也《アルの奴もそうなのかな》
ユリア「どうかしら、基本あの子の魔法、魔力任せのごり押しだから」
直也《確かに繊細さとは、全く無縁の人間かも》
ユリア「大雑把で、適当なのよ」」
直也《でも俺の教わったゴーレム用傀儡魔法陣は中々の物でしたが》
ユリア「攻撃魔法以外は、それも含めて全部私が教えてやった物よ」
直也《マジですか、でも外にも色々開発しましたよ!》
ユリア「滅茶苦茶時間が掛かったでしょう、それ」
直也《確かに、何やかやで2年程、帰還が伸びたような》
ユリア「それ、私がやったら多分、労力は半分ね」
直也《そこまで差が出るんですか?」
ユリア「基本、あの子は馬鹿なの」
直也《もう少し、こう、柔らかい表現でお願いします》
ユリア「無~理~w」
最初、ガヤ大森林に行くと騒いでいたが、あの崖の出入口しかない事を説明
した途端、撤回したので、今は鉱山の南側出入口から半日程移動したウール
河の源流がある森の中に居る。
ここは、街道からかなり離れている為、魔獣の生息数が多い。
実際、水が湧き出ている場所にはグランドリザードが20匹近い群れを形成し
ていた。
それを、一匹残らず頭への火炎魔法一発で仕留めた上に、血の匂いに釣られ
て近寄って来たブッシュボアを血祭りに上げた所だ。
ユリア「ルージュちゃん、血抜きを手伝って~」
ルージュ《イエス・レディ》
ユリア「ノアールちゃんは、回収おねがいね」
ノアール《イエス・レディ》
直也《まさか付与魔法士がこんな物を作れるとは…》
今、ノアールが血抜が終わったグランドリザードを、片っ端から、右手に
持ったバスケットボール程の球体に収納している。
ユリアが作った異空庫球と呼ばれるものらしい。
何が凄いかと言うと、表面の基盤を操作するだけで、出し入れが可能だと
言う事だ。
つまり、操作方法さえ知っていれば子供でも扱えるのだ。
素人考えでこれを量産すれば億万長者になれるのではないかと、聞いたが
とにかく材料が高価で貴重な上、制作にとんでもなく時間が掛かる事。
そして、何より、こんな能力を他人が知れば、ありとあらゆる手を使って
囲い込もうとするだろうし、下手をすると、奴隷や監禁さえありえる。
だから、この能力を知っているのは、死んだ師匠だけで、アルでさえ知ら
されていないらしい。
だから、今までに作った物は、此れを含めて8つしか無く、他の7つは師匠
が自分の作だとして、各国の王族や各ギルドなどにとんでもない金額で販売
してくれたらしい。
ユリア「だから私、見かけによらずお金持ちなの」
直也《それは良いですが、俺に話ちゃって良いんですか?》
ユリア「あなたは、言いふらしたり、利用したりしないでしょ」
直也《それはそうですが、何でそう思うんです?》
ユリア「あんな途轍もない知識と武力を持ってる人が、わざわざそんな
子悪党みたいなことしないわよ」
直也《なんか、妙な理由で信用されたんだなあ》
ユリア「………………………………それだけじゃないけどね」
直也《何かおっしゃいました?》
ユリア「いいえ、何でも無いわ…………」
直也《何か…変ですね…………》
ユリア「魔力は空だし、お腹もすいたわ、早く帰りましょ」
それから再び来た道を辿って戻ったが、来た時の何処か浮かれた様な気持ち
を何処かに置き忘れて来たのか、会話は交わすが彼女の心は、何故か沈んで
いる様に感じられた。
その事に途中で気が付いた彼女は、無理矢理、明るく振舞っていたがそれが
余計に違和感を際立たせただけだった。
だが、特に移動に支障をきたす事もなく、夕方になる少し前には鉱山に辿り
着いた。
ユリア「ごはんwお肉wごはんwお肉wお肉wお肉wおいしいのw」
直也《はいはい、肉料理がご希望ですね、了解です》
帰り着いた早々、彼女は、なにやら謎の歌を残して風呂に直行した。
最初の二日で、彼女はここの暮らしにとても良く馴染んでいた。
次の二日で、馴染んできたと言うよりも、ドはまりしていた。
そしてそれ以降は、はまるのではなく、完全に依存している。
もう二度と元の生活には戻れないだろう、かわいそうな事をした。
そして、たっぷり1時間以上入浴を楽しんだユリアは今、用意された食事を
楽しんでいたのだが、今日はワインの消費が早い。
料理用のワインを目ざとく見つけたユリアがおねだりした物だが、赤・白
共に10本づつしか無く、下戸のアルがどれだけ異空庫に確保しているかは
不明だが、余り期待できない事は確かだ。
そして、味見した彼女から晩酌用にと、半数を要求された。
極上のワインを料理に使うなど、勿体無い事この上ないらしいく、大事に
少しづつ飲むのだそうだ。
…1本1000円以下の安ワインなんだが…………。
ユリア「ねえ、つっ立ってないで、座って相手をしてよ」
直也《ええ、それは構いませんが一体どうしたんですか?》
ユリア「今日は私の記念日なの」
直也《それは、おめでとうございます!で、何の記念日なんです?》
ユリア「両親が私を売り飛ばした記念日」
直也《えっ?》
ユリア「私の両親は金に目がくらんで私を売ったの、八歳の誕生日だった」
直也《何ですか、それ、飢饉か戦争でもあったんですか?》
ユリア「飢饉?村?とんでもない、町では結構大きなの商店だったわ」
直也《では、何でそんな事に!》
ユリア「……怒ってくれるのね、ありがとう」
実家はそこそこの商家で大店一歩手前といった評価だった。
ユリアさんの祖父が死んで、父親が継いでからは、ただの小売店は、一気
に大店と言われる程にのし上がったが、そこから暫くは停滞気味で、商売
の天才と言われた父親は打開策を探していた。
そこに声を掛てきたのが、旧メルド商王国の連合会議長の秘書官で、今の
新アニア国王となった、ヨハン・イングラム・F・アニアだった。
後になって聞いた話だと、このヨハンと言う男は、四つに分裂した商王国
の前身である、メルド王国国王の傍系で、未だに残る旧王家に対する敬意
のみによって、若くして秘書官の地位を手に入れたらしい。
ユリア「父はその金で国中に支店を出すまでに大きくなったわ」
直也《母は、母親は守ってくれなかったんですか!》
ユリア「あの人は自分以外に興味は無いの」
直也《そんな馬鹿な!》
ユリア「私が売られた当日でさえ、仕立て屋との会話に夢中で振り向き
もしなかったわ」
直也《…………なんて親だ》
彼女を見送ったのは、縋りついて泣きじゃくる小さな弟妹たちだけで、
それもすぐに侍女や乳母たちによって引きはがされた。
そして、無理やり引きずるように押し込まれた馬車の中で待ち受けていた
のは、背の高い色白の男が一人、粘着する真っ赤な唇に酷薄そうな吊り上
がった目、凹凸が判らない程低い鼻、ヨハン・イングラム本人だった。
そしてまるで爬虫類さながらの容姿に彼女は恐怖してそのまま気を失った。
ユリア「それから2年後、魔法が発現して師匠に引き取られたわ」
直也《なら、いったい何の為に買ったんですか?養女にするんじゃ》
ユリア「…………私ね、魔導士になってから、ずっと独り身なの」
直也《?いい男がいなかったんですか?それとも約束した人でも?》
ユリア「そんなもの居ないわ、手さえ握った事も無いもの」
直也《出会いが無かったんですね》
ユリア「…ふふ、でもね…私…処女じゃ…無いの…経験だって…豊富」
直也《なっ‼》
ユリア「可笑しいでしょ…私の体は…壊れてるの…汚れてる…の」
直也《何で…そんな……》
ユリア「もう…子供も望めない…女…じゃない…の」
彼女は微笑みながらも、その双眸からは、途切れる事無く涙があふれた。
そう、ヨハン・イングラムは幼女愛好家でおまけに異常性欲者だった。
商家のお嬢様で、その上、美少女とくれば、最高の獲物にみえたのだろう。
ユリアはその日の内に蹂躙され、それから三日と空けずに、犯され続けた。
ある日、魔法が発現して屋敷の屋根を吹き飛ばした彼女を恐れたヨハンが、
魔道の塔へ追放するまで、その地獄はつづいたらしい。
正気を保つ事が出来たのは、奇跡だった。
ユリア「殺してやりたかった、地獄に叩き落としたかった」
直也《……当然でしょう》
ユリア「でも力が無かったから諦めていた、記憶に蓋をして心の奥底に沈
めていたの。だって相手は今や国王だもの」
直也《でも、今は……》
ユリア「ずっと押さえつけていた感情が私を糾弾するの」
直也《そんな……事…》
ユリア「このままで良いのか?憎くはないのか?殺したいだろうってね」
直也《それは…確かにそうだろうな》
ユリア「私はその声に逆らう事も拒むこともしないつもり」
直也《当然だろう、俺もそうした》
ユリア「ええ、復讐する力を手に入れたわ、でもまだ足りない」
直也《俺で良ければ幾らでもお手伝いしますよ》
俺が与えた知識が、彼女の封印した過去に掛けられていた鍵を吹き飛ばし
たのだから責任の大半は俺にある。
だから、即座に協力を申し出たが、不審には思わないだろう。
彼女には俺がこの世界に来た理由も、アルと出会った経緯も全て、話して
ある。
当然、妹の事も知っている。
今更、隠す必要を感じなかったのだが、彼女には2時間も泣かれた。
だから、俺が協力する事に疑問は持たないはずだ。
ユリア「なら一つだけお願いが有るの」
直也《俺に出来ることなら》
ユリア「あなたが隠してる大量殺戮兵器の事を教えて」
直也《…………どこで気が付いたんですか?》
ユリア「あなたの世界を色々聞いてる時にその事が触れそうになると無理
に話の向きを変えたわ、それで疑問に思ったの」
直也《迂闊でした……でもこればっかりは教えられません》
ユリア「絶対に口外しない!誓うわ!だからお願い!」
直也《駄目です、核兵器と細菌兵器だけは、欠片一つ再現しません》
ユリア「必ず…あの国でしか使わないから、だから」
直也《そんな生易しい物じゃ無いんです、もしこの兵器の情報が漏れ出
したら、国じゃ無く、世界が滅びかねないんです》
ユリア「世界が……滅ぶ?」
直也《俺の居た世界は、辛うじてまだ持ちこたえていますがいずれ…》
ユリア「そんなに強力なの?…でも規模を小さくすれば」
直也《あれは人間の扱っていい物ではないのです》
ユリア「でも…………あなたの居た世界には実際に有るんでしょ」
直也《あれは危険な物なのです》
ユリア「復讐が終わったら…………私は死んで知識を残さないから」
直也《無理です…………諦めて下さい》
ユリア「やっぱり……………………諦めきれない」
直也《ユリアさん?》
ユリア「諦め…諦めきれないの―――っ!魅了‼」
いきなり彼女が展開した魔法陣が直也を包みこんだが、効果が全く感じ
られない。
「きゃあ――――――――――――――――――――――」
微動だにしなかった俺とは反対に悲鳴を上げたのはユリアだった。




