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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
30/169

ナール山脈要塞ホテル

 


作業を中止した蜘蛛型ゴーレムが右、蟻型ゴーレムが左に整然とならんでいる。

その真ん中を歩く執事と抱えられた美女、それにに付き従う2人のメイド。


シュールな光景ですが、ユリアさんの腰が抜けたので致し方無いでしょう。

それにこの通路、片道1200マト(1200m)もあるのだ。

明らかに、ユリアさんの足より、俺が抱えたままの方が早いのだから。


もうすぐ洞窟に着く辺りで、周囲の通路が一変する。

岩盤が剝き出しで、所どころに灯りが吊るしてある只の洞穴から、上下左右が

全て滑らかな金属仕上げになり、等間隔で光源らしき半球ドームの付いた通路

に変化した。

そして、通路を突き当ると、取っ手のない壁のような扉が自動で開き、4人?

は導かれる様にその内部に足を進めた。

そこには、当初の洞窟の面影は何一つ残っていなかった。

出現していたのは、一言でいえばレストランとラウンジだ。

たぶんアルが帰ってきたら、山ほど苦情を言われそうだが、後悔は無い。

そもそも、居住環境を向上させたんだから多少、余計な施設が有ろうと、無駄

に豪華でハイテクだろうと、途轍もなく巨大化してようとも、そんな事は小さ

な事に違いない。

だから今、建設している別階層の設備だって、問題ないはずだ。

例えそれが、軍事施設だったとしても、あくまで専守防衛なんだから文句は無

いだろう。

魔法の無いあの世界で、ほぼ無敵状態だったアルに俺は救われた。

なら逆に、科学知識の無いこの世界では俺がアルの力になると決めたのだ。

それに、これがとにかく、楽しくてたまらない。

自分の夢や妄想が現実になるなんて、向うではプラモデルやジオラマぐらいの

物で、原寸大で、なおかつ、稼働するなど、この世界でなければ不可能だ。

でも、今は復活した女性魔導士からの質問に答えるので忙しい。


ユリア「ねえ、ここは貴方が作ったの?」

 直也《ええ、私が作りました》

ユリア「あの蜘蛛や蟻のゴーレムを使って?」

 直也《そうです、あいつら器用ですから》

ユリア「いったいどうやってあの数を使役しているの?」

 直也《作業はその都度、プログラムを送って連携を取らせてます》

ユリア「プログラム?」

 直也《ああ、要するに作業指示計画書みたいなものですよ》

ユリア「そんな複雑な指示をさせてるの?」

 直也《まあ、そうね》

ユリア「仮にそれが本当だとしても、一体か二体しか動かせないでしょ」

 直也《いや、全部俺が動かしてますよ、2000体は超えてるかな》

ユリア「2000体なんて、そんな事、絶対不可能だわ、あり得ない」

 直也《いや、細分化したプログラムを作業にあわせて送信するだけだし》

ユリア「だけ、じゃないわよ、そもそも送信て何?」

 直也《うーん、つまり電波には電気と、言う物があってですねえ》

ユリア「ちょっと待って、一旦やめておくわ」

 直也《えっ、どうして》

ユリア「一つの疑問を解決する為に新たな疑問が次々に出て来て際限が無いわ」


確かに送信の説明には電波と電気が必要で、その電波の説明に電磁波と周波数

が、さらに電磁波の説明には電界と磁界が必要になる。

簡単な単語の説明をする為には、難解な説明が、その説明の為に更に高難易度

の開設が必要になる。

ああ、まるで泥沼だ。

例えば、平行や垂直など、誰でも知っている簡単なものでも、その概念を他者

に言語で伝えるのは、以外と難解なのだ。

ましてや、科学や物理の概念さえ持たないユリアさんにとっては、まるで暗号

を解読するより難解だっただろう。

何せ、ここには、アルがどっぷり浸かった俺の世界の化学・機械文明は、ほと

んど存在しない。

科学知識と経験を魔法を通して感じるなんて芸当は出来ないのだ。

だからどれ程時間がかかろうと、少しづつゆっくり理解してもらうか、きっぱり

諦めてもらうかの、二通りしか無い。


ユリア「それに、何だか頭が回らないわ」

 直也《疲れが出たんですよ、ユリアさん、今はゆっくりお休みください》

ユリア「ええ、そうさせて貰うわ、あそこの隅を借りられる?」


そう言うとユリアさんは、レストランにつながる厨房の片隅を指差した。

どうもユリアさんは、そこの床を寝床に決めたらしく、異空庫から毛布ら

しき物を取り出し始めたが、アルの知人を、それも女性を、床に寝かせる

など、俺の矜持が許さない。

伊達や酔狂でラウンジなんかを作ったわけでは無い。

宿泊施設の機能ぐらいは、当然準備してある。


 直也《ユリアさん、ベッドルームがあります、こちらにどうぞ》

ユリア「えっ、ベッドがあるの?ありがとう!」

 直也《それくらいは当然です》

ユリア「硬くて冷たい床は辛いもの」

 直也《きっと満足いただけると思いますよ》


案内したシングルルームに目を白黒させていたが、ベッドを見た途端、まるで

倒れ込むように毛布に潜り込んだ。

           ・

           ・ 

           ・

余程疲れていたのだろう、彼女が起きるのには二十時間もかかった。

つまり翌日の昼まで寝ていたのだ。

だが、疲れが取れたのか、起き出した途端に、控えていたルージュの髪を触ったり

腕のギミックをあれこれ観察に大忙しだが、俺は黙認しなかった。


 直也《ユリアさん、観察より先にお風呂に入ってください》

ユリア「そんな物よりこの子よ、ねえ、ちょっと弓を出してみてくれない?」

 直也《……ルージュ、強制連行》

ルージュ《イエス・マスター》

ユリア「いや、ちょっと待って、あともう少し、ねえ、聞いて」

 直也《聞けません》

ユリア「あ~ん」


無理やりユリアさんを浴場に連れて行き、一通り入浴について説明してから、

脱衣場に放り込み、今度はブランとノアールに監視を任せた。

何やら、歓喜の声が響き渡っているので、取敢えずは、お気に召したようだ。

そして俺は食事の準備に取り掛かった。

間違いなく、まともな食事など長い事、取れていないだろう。

なら、この要塞ホテルのレストランとしては、質・量ともに満足して貰うのは

確定事項だ。


では調理を開始しよう。

まず、食材の確認だが、調味料と穀物類はアルが置いて言った物で十分だが、

野菜は長持ちする根菜等のみ、魚は皆無だ。

肉は昨日、帰路の途中にクラブバードを三羽程射ったものが有る。

後はチーズやバター、インスタントスープの類だが、乳製品は有難い。

ともあれ、この食材の種類でも、女性向けのメニューには十分だろう。


たっぷり一時間以上掛けて入浴を楽しんだ彼女が浴場から出て来たが、恐らく

まともな食事を取っていなかっただろう彼女が何故、空腹を訴えなかったのか

気になった。

どうも興味の有る物を前にすると、外の事がどうでも良くなるそうだ。

つまり、知識欲>食欲・性欲・睡眠欲・金銭欲、と言う事で典型的な魔道士の

性格らしい。

何の事は無い、魔導士とは、オタクだ、こじらせたオタクで間違いない。

道理でアルと気が合うはずだ。

そして、食事を始めた彼女といえば…


ユリア「お、美味しい―――――!何これ!」

 直也《クリームシチューですね、こっちはパンの代用でナンと言います》

ユリア「はあぁぁぁ、いい匂いぃぃぃ」

 直也《クラブバードのももの照り焼きですね、お口に会えばいいんですが》

ユリア「甘あぁぁいぃぃぃぃぃぃぃぃ」

 直也《簡単かぼちゃパイです、おやつ用に多めに作ってあります》

ユリア「しあわせ~」

 直也《満足して頂いたようで、幸いです》

ユリア「うん、おねえさん、ここ気に入っちゃったw」

 直也《今、なんて》

ユリア「私、ここに住む事に決めたわ」

 直也《はぁ?》

ユリア「ねえ、いいでしょう?私、怖~い人達に追われて行く所がないの」

 直也《うっ、嘘くせ~》

ユリア「何よ、良いじゃない、今まで大変だったんだから」

 直也《で、本音は》

ユリア「ごはん、美味しい。お風呂、気持ちいい。ベッド、ふかふか」

 直也《正直でよろしい。アルが駄目だと言わない限り問題無いですよ》

ユリア「本当?」

 直也《ええ、助けた時からこの程度の事は、覚悟も納得もしてましたから》

ユリア「食事中、どうやって此処に居座ろうかと、そればかり考えてたわ」

 直也《えらく、ぶっちゃけましたね》

ユリア「そりゃあ、こんな食事を出されたらしょうがないじゃない」

 直也《アルも言ってたけど、そんなに違います?》

ユリア「貴方みたいな天才料理人なんて、国中探しても見つからないわ!」

 直也《それ、誤解ですから》

ユリア「誤解?」

 直也《俺、料理人じゃ無いですよ、ただの一般人》

ユリア「はぁ?こんな料理を作れて?」

 直也《俺の料理の腕なんか元の世界じゃ、10人中いいとこ8番目ぐらいかな》

ユリア「あなたの世界って食の魔境か何かなの?」

 直也《ははは、違いますよ、そもそも俺の世界には魔法が無いんですよ》

ユリア「魔法が無い?」

 直也《ええ、魔法なしに、この世界より発達した文明を作りあげました》

ユリア「一体、どうやって」

 直也《簡単に言えば時間ですね、単純に時間を掛けたんですよ》

ユリア「一体、どれだけ掛けたのよ」

 直也《文明と言うくくりだと、八千年以上だと思う》

ユリア「そんなにかかってるの?」

 直也《この世界はその時間を魔法で短縮してるんですよ》

ユリア「どういう事?」

 直也《魔法と関係しない事はとんでもなく遅れてます。料理がいい例です》

ユリア「そんなに遅れてるの?」

 直也《俺の世界の感覚ですけど、恐らく3~4千年ぐらいかな》

ユリア「4千年……気が遠くなるわね」

 直也《おまけに、掛ける情熱がとんでもなくて…》

ユリア「…何か凄いことになってそう」

 直也《本職の料理人が作る料理は途轍も無く美味いですよ》

ユリア「逆に怖いわよ、下手したら魂まで持って行かれそう」

 直也《あながち間違ってはいないかも…》

ユリア「どういう事?」

 直也《アルが、こちらに帰還する際に気がついて、発狂してましたよ》

ユリア「…………アルは良く帰ってくる気になったわね」

 直也《最初は絶望してたけど、食料を異空庫に詰め込む事に気が付いて

    我慢したらしいですよ》

ユリア「…………なんですって」

 直也《いっいや、絶望…》

ユリア「その後よ!」

 直也《異空庫に詰め込んだらしいです》

ユリア「そうそれ、じゃあ、アルの異空庫には夢が山ほど詰まってるのね!」

 直也《山ほどかどうかは、おれには…》

ユリア「絶対にとんでもない量が入っているはずよ!」

 直也《そうなんですか?》

ユリア「あなた、あの子の異空庫の大きさを知らないの?」

 直也《大きい事以外、正確には、でも向うで更に大きくなったらしいです》

ユリア「はあああああああああああああああああああああああああああああ?」

 直也《うわっ、びっくりした、何なんですか一体》

ユリア「何なんですかじゃないわよ!あの子の異空庫って、湖丸ごと入っても

    まだ余裕があるのよ、それが更に大きくなんて!」

 直也《…湖?よりでかい?…………意味が分からない…………》

ユリア「そうなのよ、アルは存在自体が異常なの」

 直也《異常と言うか、規格外と言うか、もうなんて言ったらいいか》

ユリア「要は、変態なのよ」

 直也《変態って、定着しそうだな》

ユリア「でも、これで分かったでしょう、その変態は絶対お宝お持ってるわ」

 直也《かなり、いや、間違いなくとんでもない量を、もってるでしょうね》

ユリア「そう!だから私はここを離れる訳にはいかないのよ!」

 直也《おねだりする気満々ですね》

ユリア「いやあ~ねえ~ねだったりしないわよ~ちゃんと対価は払うわよ~」

 直也《…………ちなみに、対価って何を払うんですか?》

ユリア「ふふっ、聞きたい?」

 直也《ええ、ちょっとだけ》

ユリア「私が払う対価はねえ、アルの恥かしい過去を喋らない権利よ!」

 直也《……何ですか?その物騒な単語の羅列は……》

ユリア「たとえばぁ~アルがこっそり私の湯浴みを覗いていた事とかぁ~」

 直也《…ゲスい…なんてゲスい対価だ…》

ユリア「その夜~アルがベッドでぇ~こっそりぃ~とある運動を~」

 直也《うわあぁ、詰んでんじゃんアルのやつ、もう止めたげて》

ユリア「死にかけてた9歳のアルを看病したの、私だもの体の隅から隅まで全部

    知ってるのよ~」

 直也《アルの天敵みたいな人だな》

ユリア「失礼ね、アルがその気なら逆らう事だって出来るわよ、悶絶するけど」

 直也《天敵の方がましだった!》

ユリア「大丈夫、ちゃんと手加減するわよ、と言う事で、これからよろしくね」

 直也《ええ、こちらこそ、不自由はさせませんよ、そうだ!》

ユリア「?何かしら」

 直也《実は正確な地図を作ろうと思ってて、手伝ってもらえませんか?》

ユリア「ええ、どうせ暇だからぜんぜん構わないけど、私で役に立つ?」

 直也《もちろん、時々町や川の名前を聞くだけです》

ユリア「…………それって、あの高速移動をするの?」

 直也《いえいえ、ここに居てもらったままで大丈夫です》

ユリア「全く想像できないんだけど…………」

 直也《そうですね………見てもらった方が早いですね、ついて来て下さい》



それからフロアの一番奥に設置してある、シャフト型エレベーターで、最上階

に建設中の管制エリアに辿りついた。

そこには、山脈の上部に口を開けた平場とそこに並ぶ黒い群れがあった。


ユリア「これは何?魔獣?いえゴーレム?一体なんなのここは?」




   そこに並んでいたのは間違いなく、大型のドローンだった。


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