黒魔導士ユリア
ドリス「こんな所まで逃げやがって、いい加減、あきらめてもらえませんか
ねえ、お・ば・さ・ん」
耳障りな声が届いて不愉快極まりない。
そしてその発生源は、すぐに視認できた。
鬱蒼とした森の中に立つ巨木の根本で座り込んでいるのは、跡形も無い程
斬り刻まれた黒いローブを纏った魔導士が一人と、それを取り囲んでいる
チンピラ感丸出しの六人の赤ローブだ。
だが直也が不思議に思ったのは、なぜ黒の魔導士が追い詰められているのか?
と言う事だ。
アルの話では、黒の魔導士を害せるのは、黒の魔導士だけだと言っていた。
そうなると、目に映る光景にいささか違和感を感じる。
ここは、もう少し観察させて貰おう。
ドリス「もう魔道具も残っちゃいねえでしょ、手間なんすよ、体を傷つけず
に捕まえるのって」
ユリア「断るって何十回言えば、その足りない頭は理解するのかしら?」
ドリス「あんたこそ理解したらどうなんだ?ルドラさんに逆らうだけ無駄
だって事によおぉ」
ユリア「誰があんなクズの言うなりになんてなるもんですか!」
ドリス「わっかんねえなあぁ、あの人に付いてりゃ金も権力も思いのまま
じゃねえか」
ユリア「そんな物に執着するなんて、魔導士失格よ」
ドリス「ああぁ?なんだとぉ」
ユリア「脳みそがその程度だから、30歳過ぎても未だにファミリーネーム
をもらえないのよ」
ドリス「うるせえ!そりゃあダミアノスの爺が、俺によこす前に死んじま
ったからだ!」
ユリア「師匠が生きてたってあんたなんかが貰える訳ないわ」
ドリス「ふん、ルドラさんが師の位に就けば、俺も黒のローブを貰える事
になってんだよ」
ユリア「だから戻って承認しろって?誰がするもんですか!」
ドリス「別にいいさ、連れて行けばどうにでもなる」
ユリア「…………いっそ、捕まるぐらいなら……」
タリオ「ドリスさん、もうめんどくさいんで、殺しちゃったらどうです?」
エスト「付与魔法士なんて雑魚、魔獣に喰われた事にして帰りましょうよ」
ドリス「そうもいかねえんだよ、ルドラさんから必ず生きて連れて来いっ
て言われてんだ」
ムーツ「何でこんなババアに執着するんですかね」
ドリス「昔から何度誘っても無視されたんで、死ぬ程、弄ばないと気が済ま
ないってよ」
バリー「なるほど、拷問でもして言う事利かせりゃいいって事か」
タリオ「で、最後はは実験室送りでしょう?ひで~w」
ユリア「あのクソ変態が……ずっと二番目だったくせに」
ドリス「今じゃ、第一席で、あんたが承認すれば魔導〝師”になるのさ」
ユリア「アルさえ生きててくれたら……」
ドリス「死んじまった馬鹿にどうやって助けてもらうんですか?」
「「「「ギャハハハハハ」」」」
直也《皆様、御取り込み中、大変申し訳有りませんがちょっとお話よろ
しいでしょうか?》
赤ローブ男達は、いきなり後ろから声を掛けられた事に驚いて振り返った
まま硬直した。
一人の執事と二人のメイドが立っていたが、どう見ても、人形にしか見え
ない。
おまけに、その等身大の自動人形は言葉を操ったのだ。
暫くそこに居た全員が試行停止に追いやられたのは無理なかった。
タリオ「うおぉぉぉぉぉ、なっ、なんだあぁ」
直也《これは失礼しました、わたくしナオヤと申します》
タリオ「おっおう」
直也《実は、どうしてもお聞きしたい事がございまして》
そこで、おもむろに剣を抜くと座り込んでいる女の方に向けた。
直也《この女は、あのアルセニオスのくそったれのお仲間でしょうか?》
タリオ「何だ、こっちの側だったのかい、驚かすなよぉ、ああ、そうさ」
直也《そこの女も間違いないですか?》
ユリア「……とことん、ついて無いねえ、その通りさ、もう、好きにしなよ」
直也《ノアール!ルージュ!彼女を守れ‼》
ノアール・ルージュ《《 イエス・マスター 》》
タリオ「へっ?」
ユリア「はあ?」
一瞬、それこそ瞬きをする間もなく2体のメイドロイドは、女性を守る位置に
立って戦闘態勢を取り、男達に向き直った。
その後を直也はゆっくりと、女性の前に歩を進めた。
直也《初めまして。わたくしアルの友人で直也と申します》
ユリア「へっ」
直也《右の黒いのがノアール、左の赤いのがルージュ、どちらも私の
部下ですので、ご安心ください》
ユリア「はぃ?」
直也《宜しければ、お名前を伺っても?》
ユリア「ええと、ユリア・ラインゴールドです、黒の魔導士です」
直也《ユリアさんですね、覚えました。所で、こいつらどうしますか?》
ユリア「どうって……」
直也《生ゴミは早めに処分する事を、お勧めします》
ユリア「処分って…」
このやり取りを黙って見ていられない連中が当然、存在する。
タリオ「てめえ、敵だったのか、この人形野郎!」
直也《只の人形とは違いますよ、判りやすく言えば、あなた達の言葉で
ゴーレムですか?それの進化型でアンドロイドと言います》
タリオ「どっちだって良いんだよ、そんな物!」
メナク「たかがゴーレムごときが偉そうに」
エスト「操ってる魔法使いは何処にいる!答えろ!」
直也《私は自立して動いているんです、操られてなどいませんが》
ドリス「そんな訳あるか、この土人形が!」
タリオ「どこの魔法使いか知らないが、出て来ないとコイツをぶっ壊すぞ!」
メナク「魔法使いごときが魔導士に敵うと思うなよ!」
直也《人の話を聞かない人達ですね……》
タリオ「うるせえぇ!ポンコツが!」
直也《…………せっかくの執事物設定を、このクズ共が》
タリオ「あぁ?」
直也《あー!やめやめ!ユリアさん、もうこの連中殺していいですよね?》
ユリア「ど、どうぞ、どうぞ」
直也《では。とっとと、くたばれ、三流魔導士が!》
直也の体が、ほんの僅かに揺れたと思った瞬間、魔導士の首が一つ、地面に
転がった。
呆然とする魔導士達が見たのは、死体の横で既に剣を鞘に納めた直也の姿だ。
ドリス「ひっ」
直也《まずは、一匹、そうだ、ルージュも構わず撃っていいぞ》
ルージュ《 イエス・マスター 》
タリオ「《火の理::ぐぎゃあ》」
メナク「詠唱途中で斬ったのか……卑怯だぞ!」
直也《のんびり発動するのを待つ訳無いだろうに、馬鹿なの?》
ドリス「タリオ、ムーツ‼貴様、よくも」
直也《こっちばっかり気にしてて良いのかな?》
メナク「グガッ」
エスト「ギィ」
バリー「グッ」
ルージュが左腕を水平に上げると、その掌を中心点として、腕が肩口近く
まで開閉展開して銀色の長弓が現れた。
右足の側面が開き、せりあがって来た黒い矢を手にすると、矢継ぎ早に
3人の眉間を打ち抜いた。
直也《ほ~ら、よそ見なんかするから、ルージュに殺されちゃった》
ドリス「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
ドリスは自分が今置かれている状況を正しく認識出来ないでいた。
ほんの数分前までは、仲間の魔導士と共に猟犬よろしく、獲物を追い詰め
て、その喉笛に牙を突き立てる寸前だったはずだ。
それがいつの間にか屠殺場の豚に成り下がってしまった。
死が、明確な形を取って目の前に存在しているのだ。
直也《一番偉そうな奴を残したんですが、聴く事有ります?ユリアさん》
ユリア「…… 一つだけ、あんたら如きが、どうやってアルを殺したの?」
ドリス「しっ、知らねえ、罠にはめたって事しか知らねえぇ、本当だ!」
ユリア「ふざけないで!あのローブにどれだけ防御魔法陣が組み込まれて
いると思って居るのよ!どんな罠でも弾きかえすわよ!」
ドリス「本当だ!俺は聖王国の神殿に獣人共が近づかない様にしただけだ」
ユリア「それに何の意味があるのさ!」
ドリス「しっ、知らねえよぉ」
直也《ユリアさん、アルが罠に嵌ったのは本当だよ》
ユリア「あなた、知ってるの?」
直也《あいつ、王女に騙されて魔法陣で出鱈目な座標に飛ばされたんだ》
ユリア「……だから言ったのよ、あの女には気を付けろって…」
直也《目を閉じて口づけを待つあいだに魔法陣を稼働させられたって》
ユリア「あの馬鹿、それじゃあ防御魔法も役に立たないじゃない…」
直也《まあ、アルも若かったし、初恋だし、しょうがない》
ユリア「初恋でも死んだら、意味ないでしょう……」
直也《大丈夫ですよ、本人はもう割り切って今じゃ復讐する気満々だから》
ユリア「へっ?」
直也《あっ、今は子供達を預けにアルギス公国って所に行って留守ですよ》
ユリア「あの、どういう……」
直也《帰って来たんですよ》
ユリア「帰って来た?」
直也《ただ星の彼方に在るような世界でね、帰還に4年程掛かりました》
ユリア「生きてるの?あの子」
直也《ええ、無駄に元気ですよ。俺はその時一緒に付いてきたんです》
ユリア「付いて…来た?」
直也《俺はアルが飛ばされた世界の住人ですよ、まあ肉体の無い精神体
ですがね》
ユリア「理解が追いつかないわ……」
直也《無理も無いと思いますよ、こんな現実離れした事なんて》
ユリア「ええ、もう何が何だか、でも貴方が味方だって事は理解したわ」
直也《十分です、どうです?俺らの住まいに来ませんか?》
ユリア「………………そうね、行き場所も無いし、お世話になろうかしら」
直也《どうぞ、いらしてください。綺麗なお姉さんは大歓迎です》
ユリア「うん?お姉さん?ちょっと貴方、歳はいくつなの?」
直也《俺ですか?二十歳です。アルより2歳下ですね》
ユリア「はっ、はたち?私より……十…六…ブツブツ」
直也《ちなみにユリアさんのとし「 あぁ゛? 」何でも無いです》
やばい、まずった、思ったよりもずっと年上だったみたいだ。
だいたい、綺麗すぎるんだよ、日本の女優なんか、足元にも及ばないほど
美人だし、スタイルもボンッときて、シュッとなってキュッだもんなあ、
俺は、てっきりちょい上のお姉さんだと思ったんだよ、まさかお姉さんじゃ
なくて、お母さ 〝ぞわっ” うっ、〝ぞわぞわぞわっ”ひいぃぃぃぃぃ!
さ、殺気が、殺気が、…………………………ユリアさんは、お姉さん!
ユリアさんは、お姉さん!ユリアさんは、お姉さん!ユリアさんは、……
ノアール《マスター・テキ・ニゲマス》
必死に自己暗示をかけながら、精神防御壁を構築していると、ノアールが
無機質な声でそう告げて来た。
見ると、赤ローブ男が這いずりながら、此の場から逃げ出そうとしていた
それも、上と下から色んな液体を垂らしながらだ。
そばでは、ユリアさんが、鼻をつまんだまま風下から逃げ出した。
味覚や臭覚を魔法で再現できないか、考察していたが、止めようかな。
ユリア「アルが生きてるって聞いて二度目の絶望をしてるのよ」
直也《……馬鹿ですか?》
ユリア「馬鹿なのよ」
ルージュ《ナニカ・セッキンシ・テキマス・ミギテ・ゼンポウ》
ノアール《オソラク・マジュウ・デス》
――――ズッズッズズズズズズズズ――ガザッ――ペキッベキッ
密集した藪を突き抜け、小枝をへし折りながら巨大な黒い蛇が現れた。
黒光りする鱗に赤く光る目が不気味なその頭部は、水上バイクの前部並
の大きさで、胴体は電柱よりも太い。
大きく開けた口の中は薄いピンク色で、真っ白な2本の牙から垂れる紫色
の唾液がこれが毒蛇であると印象づけた。
その巨大さに、唖然としていると、大蛇は真っ先に一番近い赤ローブ男に
襲い掛かった。
慌てて身を起こそうとした男の上半身に、短刀程もある白い牙を突き立て
ると、そのまま胸を噛みつぶした。
そして、今度はこちらを、標的に定めたらしく、絶命した男を放り出して
鎌首をこちらに向けて来た。
ユリア「…………フォレストサーペント……」
直也《これがフォレストサーペントですか、たしかランクC+でしたね》
ユリア「よく知っているわね」
直也《魔導書に記述が有りましたから。でも実物を見るのは初めてです》
ユリア「悪いけど、任せていいかしら、もう手札の魔道具が残ってないの」
直也《任されました。では、―― 瞬歩 ――》
まるで瞬間移動のように、フォレストサーペントの真横に移動して、首を
斬り落とした後、再び彼女の横に戻ってきた。
転がった頭は自分が斬られた事を自覚できないのか、大きく口を開いたが
その目からは急激に力が失せていった。
直也《はい、終了~》
ユリア「…アルも非常識だったけど、あなたも十分非常識だわ」
直也《だって、この上にはBランクやAランク、更には、SSSランク
までいるんでしょ、まだまだ足りませんよ》
ユリア「あなた、ドラゴンでも狩るつもりなの?」
直也《ええ、そうですけど》
ユリア「やっぱり、非常識じゃない」
直也《……失礼な》
ユリア「どこが……」
この後、フォレストサーペントを、魔石を取る為に輪切りにしようとした
が、激怒されてしまい、ユリアさんの異空庫に入れることになった。
なんでも、蛇系の魔獣は素材の塊らしく、フォレストサーペントの素材は、
かなり高価な部類にはいる上に、肉はかなり美味らしい。
どこの世界でも主婦はしっかりしてるんだなあ。
と、考えた途端に殺気が飛んできた。
何で考えただけで察知されるんだ?もしかして魔法か?魔法なのか?
この後、森の中を時々、素材を採取したり魔獣を倒したりしながら鉱山の
横穴、いわば裏口の有る崖下に辿り着いた。
ユリアさんと言えば、普段、手に入らない貴重な素材を大量に確保できた
のが余程、嬉しかったのか、収支ご機嫌で鼻歌まで口ずさんでいた。
この時までは。
直也《鉱山の入り口まで、俺が抱えて運びますね、人間じゃ無理なんで》
ユリア「へっ?運ぶって何?入口はどこなの?」
直也《目の前の崖の上ですよ、ではしっかり捕まっていてくださいね》
ユリア「えっ、きゃああああああああああああああああああああああああ」
そのままユリアさんを御姫様抱っこして、垂直に近い崖をジグザグに飛び
ながら、昇った。
彼女の悲鳴をBGMにして。




