復讐・壊滅・殲滅・伯爵
朝とはいえ、まだ夜の闇が色濃く残る頃、俺はジリエの街の西門にいた。
あの日、一旦、子供達と合流して、翌日の動きを話し合ったが、自分が、
如何に浅慮であるのか、いかに子供達の感情と境遇に考えが足りなかった
のかを、思い知らされた。
俺はこの子達が死や暴力とは無縁の生活をさせる事が正しいと思い込んで
疑わなかった。
復讐などは望んでいない、人の命など奪うつもりも無い。
勝手にそう決めつけていた。
聞いてもいないのに。
俺の悪い癖だ。
その時々で過剰に感情移入しては、あっちにふらふら、こっちにふらふら、
いつまで経っても、足元が定まらない。
相手の心を慮るのが苦手で、望みもしない善意を振りかざすという愚行を
繰り返しては、後悔する。
サナとモルナは二人とも戦う事を求めて来た。
父を、母を、祖父母を、親類を、優しかった隣人を、笑いあった友人を、
何の罪科も無しに一方的に奪った者達に対する恨みは、身内の居ない、人と
の繋がりの薄い俺には、到底想像出来ない程、深かった。
サナ「今度は私もバリスタで、戦闘に加えて下さい」
モルナ「御者はガットが替ります」
サナ「昨夜の内に話し合って決めました」
「無理して戦う事なんてしなくても………」
サナ「あの連中がのうのうと生きているのが我慢できません」
モルナ「このままだと、怒りで頭がおかしくなりそうなんです」
サナ「この手で息の根を止めるまで、心が落ち着いてくれないんです」
モルナ「私達にも復讐の機会を下さい」
「…………わかった。許可する」
サナ「ありがとうございます!」
モルナ「必ずお役に立ってみせます!」
「無理はするなよ………」
サナ「本当は……この手で首をはねてやりたいんです………」
モルナ「なのも出来なかった自分が許せない、強くなりたい」
サナ「実は、デクシスが羨ましかったんです」
モルナ「私も直也様に刀を作ってもらえばよかった…」
人を殺す忌避感が無いのは、それだけ恨みが深い証明だろう。
だが、許可したからには俺も戦い方を変える必要がある。
その為にも、今までとは全く違った魔法を使うつもりだ。
俺の二つ名となった広範囲殲滅魔法は俺を中心として円形に発動するので
今回は甚だ都合が悪い。
地球で吸収した知識を魔法に組み込んだ新系統魔法なら方向が決められる。
ただ、恐らく従来の効果の何倍もの威力が出るはずだが、機会が無いため、
まだ一度も試していないのが不安材料なのだが、強行することにした。
せっかく作った魔法を試したいのは、魔導士の性だし。
サナとモルナが馬車上部から上半身を出してバリスタを構え、御者席には、
ガットが、馬達の轡をデクシスがとった後、窓は全て閉じた。
戦う準備は整った。さあ戦闘だ。
切断魔法によって支えを失った巨大な門が、地響きを立てて左右に倒れてゆき
下敷きになった門番達は、何が起きたか認識しないまま潰された。
大通りを中心街に向かうにつれ、喧噪と騒めきが聞こえ始めた。
此処まで進むには、そこそこ時間が掛かっているのに、今頃になってから
剣を持って出て来るとは、どれだけ、油断していたのやら。
「サナは右、モルナは左の家、どっちも屋上や二階の窓に敵がいたら撃て」
「「はい」」
「デクシスとガットは馬が暴れないようにしてゆっくり付いてこい」
「「了解です」」
「今から魔法をぶっ放すが、音がでかいから気を付けろよ」
目線の高さまで上げた腕を打ち込む目標に向ける。
「《《《燃焼*加熱*溶融*圧縮*圧縮*圧縮:::臨界》》》》」
俺が、地球で得た物理学の知識を応用して作り上げた進化した火炎魔法だ。
掌の上に展開した魔法陣から放たれた、薄青白く輝く小指の爪程の光の玉は、
音も無く木の壁を貫通、一拍の間をおいて大爆発を引き起こした。
建物の中央部分は爆風で跡形も無く消し飛び、辛うじて四方の柱が、僅かに
残っていただけだったが、それも今、焼け落ちた。
炎と爆風は周りの建物も半壊させ、火災はさらに広がりつつある。
周りには、建物だった物や人間だった物が飛び散っていた。
「うん、想定以上の効果だ、やはり俺の予想は正しかった!」
次弾の魔法を構築しながら次の目標を定めた。
「今のが左だったから今度は通りの右だな、行け!」
爆破され、燃え上がる建物からは、生き残った兵士が剣も持たずに転がり
出て来たが、あちこち傷だらけで、もう戦う気力も無さそうだ。
釣られるように、無傷の建物からは、急拵えの武装で兵士が統率も取れない
まま慌てて出て来ると、こちらを向いて固まった。
「何で魔導士に攻撃されてるんだ!」
「おまけに黒ローブだぞ、冗談じゃねえ!」
「誰か急いで伯爵を呼んでこい!このままじゃ何人死ぬかわからんぞ!」
ゆっくり進む俺と馬車に対峙するように兵士が立ち塞がるが、戦意が高い
とは、とても感じられないが。
そして、その後ろにある無駄に豪華で悪趣味な建物から、伯爵らしき男が、
数名の騎士を引き連れて出て来た。
伯爵「朝っぱらから何事だ!わしの睡眠をじゃましおって!」
騎士「どうも、魔導士から攻撃されたようでして…」
伯爵「はあ?一体どこの馬鹿魔導士だ」
騎士「それが、黒の魔導士らしく…」
伯爵「馬鹿者!魔道の塔とは話がつている、そんな事があるか!」
騎士「ですが、実際にあそこにいるのですが…」
伯爵「偽物か、かたりに決まっておろうが!」
騎士「しかし…」
伯爵「ええい、どけ!わしが直々に誰何してくれる!」
その兵士達をかき分けるように、金髪で高価な服装をした目つきの悪い
痩せぎすの男が、見栄の為だけの装備を纏った騎士を従えてでてきた。
伯爵「おい貴様!こんな事をしでかしおって、只で済むと思っているのか!」
「お~お~、勇ましいことで」
伯爵「こっ、このうつけが!わしは、ストレチア伯爵なるぞ!」
「知ってるよ、たしか夜中の案山子伯爵さんだろ?」
伯爵「なっ、きっ貴様!」
「領地の巡視中に、飛び立った小鳥の群れに驚いて腰を抜かしたんだ
ったっけ」
騎士「………ぷっ…………」
兵士「……くっ……」
伯爵「ゆっ、ゆっ、許さんぞ、貴様あぁ!」
「コウモリなら追い払えるけど、麦喰わないもんな、意味ねぇってな~」
伯爵「殺す、殺してやる!」
「久し振りに会ったのに、覚えてないのかい?薄情だねぇ」
伯爵「な、なに、が………………」
「4年ぶりかな、ロデリック・ストレチア・子・爵・ど・の」
徐々に、昇り始めた太陽が、炎の影になっていた顔を照らし出す。
やっと見え始めたその姿が伯爵を恐怖に叩き込んだ。
伯爵「まさか、そんな馬鹿な、死んだはず、こんな事はあり得ない…」
「残念wあり得ちゃったんだな、これが」
伯爵「…寂寞……?」
「正~解~w」
伯爵「ひいぃぃぃぃぃ、た、助けて」
「無理!」
伯爵「そんなあああああああああああああああああああ」
「《《《氷の理::剣爆》》》」
いきなり逃げ出そうとした伯爵を氷の剣が襲う。
「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああ」」」
両足を膝下から切り飛ばされてのたうち回る伯爵の横には、どてっぱらに
氷剣を生やした騎士と頭が半分になった兵士が転がった。
「サナは右手の兵士達を撃て、とどめは刺さなくてもいい、手数を増やせ」
「はい」
「モルナも同じだ、行動不能になればいい」
「はい」
「デクシス!血迷った奴がこっちに来たらお前が切れ」
「了解です」
「さあ、殲滅戦の始まりだ!恨みを晴らせ!《《《氷の理::剣爆》》》」
数え切れない程の氷の剣が、バリスタから放たれた金属の矢が、兵士達を
襲った。
「ぐぎゃあああ」
「いてえええええ」
「死ぬ、死んじまう」
「ひぃいいいいいいいいい」
「誰か、助けてくれぇぇええ」
「にっ、逃げろ、早く!」
「ちくしょおぉぉぉ」
たいした防具もつけずにいた兵士達は、ものの数十分の間に、ほぼ全滅
した。
特に最初の火炎魔法で兵士の半数以上が消し飛んだので、打ち漏らしも出
なかった。
幾人か死にきれなかった兵士がいるが、時間の問題だろう。
今はサナもモルナも馬車から降りて自分の戦いの後を感慨深げに見ている。
自分の選択した行動の結果は、自分自身の目でしっかりと見るべきだと俺
は考えている。
それが望んだ結果でも、望まぬ結果でもだ。
暫くして、火災も下火になった頃、避難していた女たちが集まってきた。




