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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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殲滅の依頼・報復の懇願


「今晩は、俺は悪魔の親戚なんだが、地獄の注文者は、あなたでいいか?」


俺は宿屋から、死角になっている井戸の奥にある闇から声をかけた。

暗がりに居る俺を見る目には、あからさまな嫌悪と侮蔑の光が宿っている。

当然だが、彼女は俺を聖王国の人間とおもっている。

たとえ、あの兵士を排除しようとする存在だとしても、聖王国の人間だと

誤解している限り協力は得られない。


「信じられないかも知れないが、俺は聖王国の人間じゃあ無い」

「…………………世迷い言を…じゃあ何処の人間だというのさ」

「ガヤ大森林」

「おふざけでないよ、あそこに国なんて有るもんか」

「魔道の塔、銀龍の(ねや)

「冗談…でしょう?……」

「師は故・ダミアノス・クロスデュ-ラ」

「ほ、本物?」

「黒の魔導士が第一席」

「ああ」

「アルセニオス・ファンビューレン」

「ああ、ああ、ああああああ」


噛み締めるように、彼女の心が追いつくように、俺はゆっくりと暗がり

から、灯りの届く場所に姿を現した。

濡れ羽色のローブに銀色の刺繍が月の光に誘われるように踊る。

それは、聖王国の兵士にとって、地獄への旅に手向けられた死の舞踏だ。


給仕の女性は、まるで何かに縋るように、その場にしゃがみこんだ。

彼女の名はサーシャ、この町の冒険者ギルドの副ギルドマスターだった。

だからこそ、目の前にいる男がどれほど強大な存在なのか知っていた。

その気になれば、一人で1個旅団と対等に渡り合う力を持っている事を。


「信じてもらえたようで何よりだ」

「お願……い…します…あい……あいつらを、殺して…あの子の仇を…」


途切れる言葉を、流れる涙で紡ぐように、彼女は懇願してきた。

うつむいたまま、魂をも絞り出すように発した言葉は、静かにその場に

滲み込んでいった。

兵士達が発行した虐殺の借用書が、黒の魔導士に譲渡された瞬間だった。


「さっき殺されたのは、あなたの身内か?」

「いいえ、あの子はここのギルドに所属していた8級の冒険者だった」

「じゃあ」

「私の娘は、あいつらが町に侵攻した時に犯されて殺されたわ」

「………そうか」

「まだ、まだ、11歳だったのよ、あの子、それを、あいつら…」




その日、ジリエの町は街兵や冒険者ギルド一丸となってグラム聖王国の

攻撃を防いでいたそうだ。

バゼ大河の中流にあるクーロン大橋を突破できずにいた聖王国軍は此処に

来て、いきなり難攻不落と言われたクノッソス砦の攻略に軍を割いた。

ジリエの街はクノッソス砦の勢力下にある。

この町を落とすのはクーロン大橋を突破するよりも困難だ。

街の外壁は強固で、2~3日持ち堪えれば、クノの街から救援部隊が来る、

そう思っていたから、猛攻にも耐えられたし余裕さえあった。

特に冒険者たちは、ゴブリンの扱いには慣れていた。

いくら敵の侵攻方向にある南門が激戦でも、いくらゴブリンが大群でも、

そうそう遅れは取らなかった。

だが、そこに油断が有ったこ。


「あの日、マレーナの町の街長が来てから、事態は一変したの」


閉じられた西門に辿り着いた彼らは、大門を開けろと、叫んだ。

当然、そんな要求が通る訳もなく、門兵は断った。

馬車や荷物を捨てて、くぐり戸から入れ、と。

だが、彼らは積み荷が惜しいからと大門を開けろの一点張り。

それを陣取っていたこの町の街長が強硬に命令して開門させてしまった。


「なんでまた」

「示し合わせてたの、此処の街長とマレーナの街長は兄弟だもの」

「はあ?そもそも何で街長が西門にいる?」

「最初から逃げるつもりだった、馬車を用意してたから」

「さすが兄弟だな、マレーナの街長も町民を囮にして真っ先に逃げたらしい」

「あいつら、ジリエを聖王国に売り飛ばしたの」


なぜか開けられた西門をくぐって出て行ったのはジリエの街長達だった。

入れ替わりに、聖王国の騎士や兵士達が雪崩れ込んできた。

予期しなかった西側からの侵入に組織立った抵抗が出来ないまま、蹂躙され

ていった。

抵抗は散発的になり、彼女の主人だったギルドマスターもこの戦いで死んだ

そうだ。


そして日が暮れる頃には戦える人間は皆無になったったらしい。


「ストレチア伯爵とか言う男は、迷わず、町で一番大きい商会を襲ったわ」

「はなから知ってた訳か」


情報源は間違い無くジリエの街長だ。

恐らく自分の身の安全を確保する為に生贄として差し出したんだろう。


「金と女にしか興味は無いみたいでね、騎士や兵士連中も同じだった」

「神の使徒が聞いてあきれるな」

「やつら、まるで飢えた野良犬みたいに略奪と暴行を繰り返したわ」


呆れた事に伯爵や騎士達は略奪品を運搬する馬車まで同行させていた。

騎士達が馬車1台なのに対して伯爵は8台もの馬車を引き連れ、自らも

略奪に加わっていたらしい。


「それと同時にグリムドール子爵とやらが虐殺をはじめたの、男と老人

 や子供が標的だったわ」

「わざわざ何のために虐殺なんぞ」

「私達が見たのはゴブリンに貪り喰われる身内の亡骸よ…気が狂いそう

 だったし、実際、何人かはおかしくなったわ」


もそんなものを見せられて、おかしくならない訳がない。

さらに度重なる暴力が、徐々に反抗する気力も恨みも押しつぶした。

皆、無気力、無反応になる事で、辛うじて精神の均衡を保っている。


「…その子爵はどこにいる?」

「ゴブリン共を引き連れてクノッソス砦へ向かったわ」

「あんたらの恨みは、俺が奴らにたっぷり利息を付けて返してやる」

「全てお任せします、私らみんなの願いを託させて………」

「任せてもらおう。此処に地獄を再現させてやる」


それからサーシャの案内で伯爵が居座っている屋敷に忍び込んだが、

そこには、裸で首輪を付けられた3人の若い女性を、伯爵らしい男が、

ひたすら怒鳴り散らしながら、甚振っていた。


「なんだ、ありゃあ」

「彼女らは冒険者よ、伯爵は強い女を屈服させ、悲鳴を聞きながら犯す

 のが、何よりも興奮するらしいから」

「ただの変態じゃねえか、まあそのおかげで生き残ったのか」

「いいえ、殺し過ぎて、好みの女が居なくなりそうなのに気が付いただけよ」

「…………何人死んだ、いや、殺された?」

「17人…1ヶ月もしないうちに17人殺されたわ」

「……つけは払ってもらう。たっぷり利子を付けてな」


それからは、出来うる限りの取り決めを行った。

明日後日、日が昇る前に西門を破壊して突入するので、でき得る限りの

人を、夜の内に町の西側の空き家に集めてもらう事。

大通りの真ん中を、東門に向かってゆっくり進む事。

進行方向は全て殲滅の対象なので、絶対に立ち入らない事。

後ろを4頭立ての馬車が付いてくるが、地竜の襲撃でもないと、ビクとも

しないので、無視して構わない事。


「どうだ?夜中の内に避難できそうか?」

「私らごと吹き飛ばしてもらっても構わないのだけど」

「あーそれやると、うちのチビッ子たちが悲しむんで無理だ」

「チビッ子?」

「俺が保護してる獣人の子供達だ」

「…………怖いんだか、優しいんだか」

「ほっといてくれ」


そのまま館を出てそっと町を後にした。

このまま此処にいたら怒りで魔法をぶっ放しそうだったからだ。


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