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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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野営・潜入・ジリエの町



俺たちはマレーナの町の門で、老人達の見送りを受けている。

困った事に、子供達が一緒に行こうと、老人達、特に婦人方に纏わりつい

て出発出来ない。

昨夜一晩で随分、懐いたものだ。

やはり、年を取っても、その母性は健在のようで、小さい子は特に離れ難

いのだろう。


   「一応、確認なんだが、ついて来てくれるって事は」

老婦人「ごめんなさいね、心がね、追いつかないのよ」

老婦人「一緒に行ってあげられたらいいのだけど」

   「こちらこそ、子供達が申し訳ない」

 ルナ「だめなの?」

 ミア「こないの?」

老婦人「この爺さん達の世話がとっても大変なのよ、だから無理なの」

老人A「わっ、わしらの事か?わしら…痛ッ」


うわ~、ご婦人方、慈愛に満ち溢れた表情を微塵も崩さず、爺さん達を

蹴りまくってる。

余計な事を喋るなって事だろうが、本当に痛そうだ。


ようやく子供達を納得させて、門を出たのは、朝と昼の中頃だった。

多少、時間が掛かろうと、このような事で強要はしたく無い。

恐らくこれからは、山ほどの理不尽が待っているのだから。

まあ、それとは別の話だが、爺さん達があまりに気の毒で、門の修理と

共に出した塩や胡椒をに渡す隙に、酒(ウイスキーの大瓶)をこっそり

3本ほど手渡した。

ああもう、そんなにニヤついて、没収されても知らないぞ。


後ろ髪を引かれる思いで、街道を東へ走る。

子供達は門が見えなくなっても、暫くはマレーナの町の方を見ていた。

心の奥に生まれた思慕の情が目を逸らすのさえ、嫌がった。

歳を重ねた者のみが持つ、寛容さと、安心感のある懐の深さ。

それは、力の有無などとは関係ない、経験に根ざした包容力だ。

若い俺などは、どう逆立ちしても与える事が出来ない物だ。


マレーナの町を出て1日目

 ※魔狼の襲撃4回、子供達だけで処理、合計8匹。

 ※夜間にグランドリザードの襲撃2回、合計5匹。

 ※2匹をデクシスが処理。

マレーナの町を出て2日目

 ※魔狼の襲撃6回、子供達だけで処理、合計15匹。

 ※夜間にグランドリザードの襲撃4回、合計11匹。

 ※2匹をデクシスが処理。

マレーナの町を出て3日目

 ※日中は襲撃無し。

 ※夜間にグランドリザードの襲撃、合計2匹。

 ※全てデクシスが処理。

マレーナの町を出て4日目

 ※日中は襲撃無し。

 ※夜間も襲撃無し。

マレーナの町を出て5日目

 ※ジリエの町が遠くに見える位置まで到着。距離約6ロト(6㎞)


街道の左手に見えるベッテン大山脈から広がる森の中に馬車を止め野営の

準備を始めたのは、まだ夕方にもなっていない時間だった。

野営地は森の中にポッカリと広がった、短い下草ばかりの空き地で都合の

良い事に、山脈の一部がジリエの町との間にせり出して、目隠しの役目を

果たしてくれている。

これなら、余程の大火でもなければ、歩哨に発見される事もないだろう。

子供達はここに来てようやく屈託なく笑う様になった。

やっと心の折り合いがついたようだ。

公国で子供達を預けるのは、あの老人達のように、優しい人間を探そう。

取り出した椅子に座って、そう考えていた。


夕餉までに、子供達は皆、思い思いに過ごしていたが、デクシスだけは、

剣術の鍛錬に費やした。

暫くは袈裟切を続けていたが、夕飯前になって、納刀からの抜刀の練習を

始めた。

やはり直也の仕業に間違いない。


    「居合の稽古か、直也に教わったな」

デクシス「うん、この国では、誰も知らない剣術だって言ってた」

    「この国どころか、この世界の誰も知らんよ」

デクシス「だから、奇襲に向いた居合を覚えて経験を積むんだ」

    「ん?」

デクシス「今は両手で持つ刀で手数を凌いでいく」

    「ん、ん?」

デクシス「まだ、片手で大剣は無理だから」

    「デクシス、お前、勘違いしてるぞ」

デクシス「勘違い?」

    「居合抜刀術はそんな生ぬるい剣術じゃないぞ」

デクシス「うえ?」

    「何百年も人を斬る事のみを追求して来た、本物の殺人剣だ」

デクシス「さっ、殺人け…」

    「熟練すれば、瞬きする間に首をはねとばせる。それも、いつ刀

     を抜いたか解らぬままにな」

デクシス「そんなに、凄いの?」

    「ただ力任せに振るだけの王国剣術など、足元にも及ばんだろう

     し、そもそも歴史と共に積み重ねた技術の量がまったく違う」

デクシス「じゃあ、頑張って修行したら…」

    「近接戦闘では無敵だろうな」

デクシス「俺、やる!」

    「生半可な覚悟じゃ、入口にも辿り着けないぞ」

デクシス「でも、やる」

    「そうか、なら頑張れ」


再び素振りを始めたデクシスを後に、馬車に戻ろうとしたが、ガットが、

興味深そうに広場の隅からデクシスの鍛錬を見ていた。

ガットは、どちらか言ったら戦士より文官とか官吏に向いていそうだが、

俺の決める事では無い。

おれは、子供達が、やりたい事を尊重するし、手助けなど幾らでもする。

まかり間違ってもその道の邪魔などするつもりは無い。


だが、その後、ガットから要求や要望、相談などは受る事は無かった。


子供達には、朝には戻るので、その間は馬車から出ない様に言ってある。

この馬車は直也が思い付くまま、防御を強化したおかげで、魔狼の50や

100程度では、びくともしない。

当然、野盗などでは傷一つ付けられない、安全安心の馬車型移動要塞だ。


夕闇がジリエの町に迫るのを、追いかける様に俺は町に潜入した。

この町の作りは宿場町型と言えるもので、街道の両側に建物が有り、その

周囲を外壁が取り囲んでいる為、町の門は3か所になる。

閉ざされた門を、浮遊魔法で飛び越えたが、だらけまくった門番は、全く

気が付いていなかった。

そして目に入ったのは、ほぼ同じ大きさの個性のない建物の群れだった

これには、本当に辟易した。

一体何処の建物に兵士が居るのか、貴族連中の宿舎はどこだ?

で、自力での捜査は諦めて、協力者を探す事にした。


通りに面した建物から順に見て回った。

門の近くは全部、空き家になっていたが、中心部に近づくと、今度は、

煌々と灯りのついた建物ばかりが密集している。

一部はもう昼間並に明るく、燃料の無駄遣いとしか、思えないし。

おまけに夕餉の時間らしく、騒々しい事、この上ない。

それも其の筈で兵士の数が200人近い。

6軒ほどの食堂や宿屋だと思われる建物に兵士がに分散して食事をしてい

るが給仕はどうやら町の人間を、使っているようだ。

兵士のやつらは酒でも飲んでいるのか、やたら態度が横柄だが、逆に料理

を運ぶ女性達は、無表情に死んだような目を貼り付けた顔をしている。

よく見れば、手や顔は青あざだらけで、中には、手や頭に包帯を巻いた者

までいる始末だ。

時折、思い出したように料理や酒に不満をこぼし、皿を投げつけたり罵倒

する者が後を絶たない。

兵士は女性たちを完全に奴隷として扱っているのが分る。

暫く様子を伺っているが、たまに二階に上がった兵士が、1時間もせずに、

降りて来る。


兵士A「お前、よくあんなの抱く気になるよなぁ」

兵士B「完全に壊れちまってただろう、何が楽しいんだ?」

兵士C「そうそう、よく言って温かい死体だぜ、ありゃあぁ」

兵士B「ほんと、最後の一人だってのによ、使えやしねえ」

兵士A「おまけに他の所の女はみんな死んじまったしな」

兵士C「だれがやったんだか全身、切り傷だらけで死んでたらしい」

兵士D「きぃへへ、悪いな、それ俺だ、もうどうせ誰も抱かないだろう~」

兵士B「うえ、お前何が楽しいんだ?女ってのは、突っ込むもだろ」

兵士D「何もかも諦めた無反応な女が、痛みで泣き叫ぶんだぞ~最高だ」

兵士B「お前、まさか女が壊れるまで待っていたのか?」

兵士D「普通の女に興味は無えし~壊れるたんなら何してもいいだろう?」

兵士A「わちゃぁ、マジもんの変態かよ、こいつ」

兵士D「死ぬ前なんて、特に気持ちいい~んだ」 

兵士C「死ぬ前って、お前…」

兵士D「入れたまま、首を、こう、きゅっとな~締まるぜ~」

兵士A「…………はは、まあ、すきにしてくれ」


この会話を聞いていた給仕の内、一人だけ、ただ一人だけ、怒気を孕んだ

目を、この兵士に向けたものがいた。

向けられた殺気に、まるで当たり前の様に、兵士の男は掴んでいた酒杯を

投げつけた。

だが、額を割られ、血が流れても、殺気を向けるのを止めなかった。


兵士D「けけっ、なんだババア、お前も死ぬか?」

   「…………………」

兵士A「ああもう、これ以上殺すなよ、給仕がいなくなるだろうが」

兵士B「そんときゃあ、こいつに飯作らせようぜ」

兵士C「俺はごめんだぞ、こいつの飯なんか」

兵士A「そうだ、何入れられるか分かったもんじゃねえ」

兵士D「だとよ、特別に許してやる、向うにいってろ、ババア」

   「…………」


俺はこの目を知っている。

たった5日前に見たばかりだ。


〝あたしら、もう死んでんだよ!疾うの昔に死んでんだよ!”


忘れる訳が無い。

死に場所を探して彷徨う復讐者の目だ。

彼女なら間違いなく協力者になってくれるだろう。


薄暗い裏庭にある井戸で一人、額の傷を水で洗い落している給仕の女性の

口からは呪詛の言葉が紡がれていた。


「悪魔でもいい…あいつらを地獄に…全てを奪ったあいつらを地獄に…」 


懐かしい、あの時の直也と同じ、抑えきれない怒りが零れた魂の慟哭だ。

だから迷わず声を掛けた。



「今晩は、俺は悪魔の親戚なんだが、地獄の注文者は、あなたでいいか?」




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