表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
21/169

害虫駆除・老人達の思い


「やあ、無知で無能な生きる価値の無いゴミくずの皆さん、今晩は」


踏み込んだと同時に吹き飛んだ扉が、回転しながら呆然とする連中の真中

に突き刺さった。


       「そして、さようなら」

      「《《《氷の理::針弾》》》」


伸ばした右手から放たれた極細の氷の長針は、本人が気づかぬまま、額に

突き刺さった。

6人程が、糸が切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちた。

兵士とは思えない程、たるみ切っていた男達も、やっと自分達が、断頭台

の上に乗せられている事に気が付いた。

慌ててテーブルを倒して盾にしたが、その間、更に2人程沈んだ。


「うわああああああああああああああああああああ」

「ひいぃぃぃぃっ、魔法使いだ!」

「ちくしょう、何でこんなとこに居るんだよぉ」

「誰かなんとかしろおよ!」

「盾役のデブはどこ行った!」

「そんなもん、最初にくたばっちまったよ!」

「マトがでかいんだ、あたりまえだろ!」

「使えねえぇ」


       「《《《氷の理::円弾》》》」


高速回転する円盤状の氷が、盾になっているテーブルを徐々に削り始める。

盾を失った者が一人また一人と、血の海にしずんでゆく。

まだるっこしいが、これ以上、威力を上げると、建物が倒壊しかねない。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ」

「まただ、また来やがった」

「死ぬ、死んじまう、死んじまうよう、神様!」

「何で俺たちが、俺らグラムの人間だぞ、おかしい、おかしいだろ」

「だっ誰か、誰か助けてくれえぇぇ」


どんどん削られる盾代わりのテーブルが更に恐怖を煽る。


「今まで、散々、他人の命を奪う利権を行使しておいて、いざ自分が

 奪われる側になった途端に命乞いか?お前ら、なめてんのか?」


どれだけ自分達が、恥知らずで矛盾した行動を取っていたとしても、

いかに、醜い存在だとしても、何も感じない。

自分自身以外の苦痛は、認識出来ない。

彼らは、そんな存在なのだ。



「此処は聖王国の占領地だぞ、俺らの好きにして何が悪い!」

「下等な人間なんだぞ、この国の連中は」

「ここで稼いでいただけだろう」

「一体俺らに、何の恨みがあるんだよ!」


何を言っている、害虫に恨みを持つ人間など、居るはずが無いではないか。

害虫駆除に気を使うなんて時間の無駄だ。

そして、この時俺は、感情的になって、注意力が散漫になっていた。


「おい、これを見ろ、ババアを殺されてもいいのか」


右手の入り口から老婦人に短剣を突き付けた男が出て来た。


「うへへ、やった、やった、もうこっちのもんだ」

「もう手も足も出ないだろう、ば~か」

「まだまだ、犯り足りないんだよ、こちとら」

「こんな、美味しい場所、手放してたまるか」


恐らく厠か何かに行ってたのだろう、全くの無警戒だった。

失敗した。

円弾では老婦人ごと切断してしまうし、新しい魔法は発動に数秒かかる。

俺が躊躇していると、事態は思わぬ方向に転がった。


老婦人「やれるもんなら、やってみな!グラムのクソ共が!」

   「なっ、てめえ」

老婦人「殺されてもいいのかだって?いいんだよ!」

   「くそっ、暴れんな、ばばあ!」

老婦人「あたしら、もう死んでんだよ!疾うの昔に死んでんだよ!」

   「ちくしょおぉ、ばばあのくせになんて力だ!」

老婦人「ほれほれ!ばばあ一人殺せんのかい、臆病もんが!」

   「こっ、殺してやらあぁぁぁぁぁ」


―――ダンッ―――ザッ―――


男が短剣を振り上げたその一瞬で、デクシスが老婦人と男の間に割り込んだ。

さすがは、獣人の身体能力、驚異的で素晴らしい踏み込みだ。

結果、男は、目の前にいきなり現れた、獣人の少年を相手に硬直した。

歳が半分以下であろう少年に腰が引けてる兵士が、いっそ哀れだ。


―――シュッン―――


「いっ、いてええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


男の指を短剣ごと切り飛ばしたデクシスが、そのまま老婦人の手をとって右手

の入り口に飛び込んだ。

この技は居合だ、仕込んだのは直也だな。



「デクシス、よくやった‼死にさらせ、くそ共が‼」


    「《《《氷の理::剣爆》》》」


百本以上の氷の長剣が、一気に男達を襲った。

斜め上から、高速で降り注いだ氷剣は、椅子も床も、まとめて男達と共に、

バラバラに切り刻む。

男達は悲鳴をあげる間もなく、黄泉の坂を転がり落ちた。

響き渡る斬撃音と半透明の氷剣の乱舞だけが、空間を支配していたが、

暫くして、舞い上がった埃が収まると、そこには、椅子や床だった物と、

人間だった物が、血にまみれて、転がっていた。




デクシス「……………………アル様、やり過ぎだと思う……………」

    「……………………やっちまったもんはしょうがない……」

デクシス「……………………直也様には見せられないね……………」

    「……………………黙ってればわからないさ………………」

デクシス「……………………ないしょにするの?……………………」

    「……………………ないしょにしてね………………………」

デクシス「……………………うん………………………………………」



屋敷から出た俺たちを、この町で一軒しかない、小さな宿屋の前でサナが

操る馬車と老人一人が出迎えてくれた。


サナ「お疲れ様です。アル様」

  「逃げ出した連中は、居たかい?」

サナ「いいえ、誰も来ませんでした」

  「なら、これで終わりだ。さあ夕飯にしよう。手伝ってくれ」

サナ「はい」


サナは、馬車の開閉式側面を開いて、子供達と一緒に準備を始めた。


同時に、屋敷の横からは、老人達が、アルの方にやってきて、全員が地面

に膝をつきこうべを垂れた。


老人A「魔導士殿、ありがとうございました」

老人B「仇を討ってもらって、感謝いたします」

老人C「これでやっと、孫に会えますじゃ」

老婦人「ええ、ええ、こんなに心が軽いのはいつぶりかしら」

   「なあ、あんたら、考え直す気はないのかい?」

老人A「やっぱり隠せんじゃったか」

老婦人「ありがとうねぇ、優しい魔導士さん」

老人A「わしら、もう、嫌になってしもうてのぉ」

老人B「息子夫婦も孫も、目の前で殺されてしもうた」

老人C「孫たちの墓も無い。この町にさえ、もう未練はないんじゃ」

   「墓がない?なぜ?消滅魔法か、そんな高位の魔道士が来たのか」

老人A「まさか。来たのは、中隊一つ、250人ぐらいかのう」

老人B「あと、荷車を引いたゴブリンが30匹ぐらい居ったわ」

老人C「孫たちの死体は荷車で、前線に運ばれたんじゃ」

   「一体、どうして死体を前線に?」

老人C「死体は全部、ゴブリン共の食料なんじゃ」

   「なんだと?あいつら何て事しやがる!」

老人A「情けない事に、わしら、孫の亡骸さえ取り戻せなんだ」

老婦人「だからね、ここでもう、終わりにしたいのよ」

   「………わかった。無理強いはしない」

   「だが、今から俺の話を聞いてくれ」    

老人B「そりゃ、別にかまわんが」

   「まず、以前、俺は魔導士の第一席だった」


それから俺は、これからやろうとしている事、それによって起こるだろう

変化と混乱、前線の崩壊等を、かみ砕いて説明した。

そして、それは、そう先の未来では無い事を誓った。


「もう少しだけ、明日の飯を心配してみないか?」


「あのゴミ共が逃げ惑う姿や、惨めに地面を這いずる姿が見れるかもだぞ」


「哀れな敗残兵共を見物すれば、寿命が延びてしまうかも知れないがな」

   

老婦人「……………………そうね、もう少しだけ生きてみるわ」

老人A「おっ、おい」

老婦人「せっかくあの子が救ってくれた命ですもの」

老人B「………わしもそうするか」

老人C「じゃじゃ」


老婦人「そういえば、私の小さな騎士様はどこかしら」

   「デクシスなら、あそこで鍋もってるぞ」

老婦人「あらあら、では、お手伝いしましょうかね」

 サナ「アル様、唐揚げ作るんで、グランドリザードをお願いします」

   「わかった、ほい!」

老人A「おお、大物じゃな、どれ、捌いてやろう」

老人B「わしも手伝おう」

 サナ「あ、ありがとうございます」

 リリ「じいじ、ありがとうw」

老人C「薪はここに置いとくぞ」

モルナ「すいません、こんなに沢山」

 ルナ「いっぱいなの」

 ミア「たくさんなの」


「「「「「「かわいいのう(わねぇ)」」」」」


サナの作った直也直伝の唐揚げは、正に日本の家庭の味だ。

それでも、こちらの、王侯貴族の食事に勝る。

おまけに、グランドリザードの肉は、まさにトリもも肉その物で、揚物

料理にはもってこいだった。

爺さん達が、会話もしないで、ほおばっているのがその証拠だ。

そして横では、サナが婦人会に囲まれて質問攻めにあっている。

恐らく調理方法やレシピのことだろう。

美味な食事に子供たちの笑顔、それだけを見ればとても平和な光景だ。

だが、忘れないでほしい、此処にいる全員が、唐突に、一方的で理不尽な

暴力と絶望を押し付けられた事を。


 

 〝グラム聖王国に、大切な家族を、奪われ殺された者達なのだ”



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ