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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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零れた命

            

「毎回言ってるな、それ」

「今度は大丈夫。今までで一番チビだ。」

「わかった、わかった、早く上がろうぜ。何だか疲れたよ。」


二人はそれぞれロープを掴むと、そのまま坑道を上にと歩き始めた。

後ろには引きずられてもう人と判別出来そうもない塊が一つ。

このまま洞窟までひこずって行き、生きてれば勝ち。

死んでれば負け。

それが天国と地獄というセンスのかけかけらもない彼らの暇つぶしだ。

消費するのは二度と戻ることのない無垢な獣人の子供の命。

掛け金は僅か銀貨1枚(約1000円)失われた魂の数は、両手でも足りない。

それでも誰も何も言わない、何も変わらない、誰も彼もが気にも留めない。

今まで事故だ病気だ落盤だと報告すれば、何の調査も無く補充された。


どうして?

彼らが獣人だから。

どこで?

この国のあらゆる場所で。

いつから?

彼らの希望が失われてから。

それも彼ら自身の愚かさによって。


今日は一番奥の横穴に入れって言われた。

どれか分からずにいたら、髪を掴まれ暗い穴に放り込まれた。

いつもはお姉ちゃんと一緒なのに、今日は別々にされた。

離れたくなくてしがみついていたら、お姉ちゃんがなぐられた。

何回も何回も。

だから直ぐに手を離した。

私がいたらお姉ちゃん死んじゃうと思ったから…。


小さな穴は私一人でも狭くカンテラだけで暗かったけど頑張って土壁を掘った。

一生懸命掘ったけど今日も青い石は出て来なかった。

今日はもう動きたくない。

気が付くと指先や足が血で真っ赤になっていた。

新傷と古傷どっちも痛いけど大丈夫!坑道の中にはあちこちに滲みだした水溜り

があるけどこれを飲むと痛くなくなるんだ。

ついでに傷が治ってお腹いっぱいになればいいのにと思う。

泥水の味しかしないけどこれは私たちだけのひみつ、神様の贈り物だ。

だから四つん這いになって僅かな水を泥ごと嘗めとる様に口を付ける。

嘗めればそれだけ手足の痛みを感じなくなる。

体のあちこちがビリビリしてるけど気にしない。

痛いのは嫌だ…。


穴の入口で誰かが怒鳴ってるのが聞こえるけど何を言ってるのかわからない。

頭がぼーっとしてちょっとふわふわする。

色んな音がとっても遠い。

なんとなく入り口の方で呼んでるような気がして這いずって坑道から出た。


「おら ‼ 早く立て クソガキお前が最後なんだよ」


言われたとたんお腹を蹴られてゴロゴロ転がった。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

蹴られた、蹴られた、蹴られた、息ができない。

手も足も動かない、指一本動かない、涙で目もよく見えない。

その後すぐに何かがお腹からせりあがってきて吐いた。

苦しい、苦しい…

そして目の前が真っ暗闇になってあとは何にも覚えていない。


男たちは上り坂の坑道を少女をひこずったまま、開けた洞窟に着いた。

洞窟は直径がほぼ20マト(約20m)の円形で、地上との中継地点にになっている。

乱雑に置かれた道具類と採掘された鉱石の山、男たちの簡易ベットが

4組、焚火のそばには博打らしき物に興じるやや整た服装の男が二人。

その中にひと際、異質なものがあった。


檻と子供 


何かの廃材らしき物で作られた無骨で歪な頑丈なだけの檻。

その中に子供がいた。

ボサボサで伸び放題の髪。

痩せてほお骨の浮き出た顔。

痣と傷だらけの手足。

服とは名ばかりのボロ布。

そして何より絶望しっきた瞳の群れ。

七人の獣人の子供たちが居た。


「よっしゃあ、とーちゃーくー」

「はいはい。いつにもまして元気だな」

「当ったり前!今日こそは俺が勝つ」

「十一連敗中だもんなwww」

「うるせえよ!とにかく確認だ」


二人はしゃがみ込むと血だらけの少女の髪を掴んで顔を上げさせ耳を澄ました。


「…………ヶヒ…」


ほんの僅かだが、かすれた呼吸音が聞こえた。


「あーもう信じらんねえ!まーだ生きてやがる!」

「獣人は死にかけてからが一番しぶといって言ったろう」


そして檻から両手を突き出し、半狂乱になって泣き叫んでいる姉の前に

一切の加減も躊躇もなく放り投げた。


「今度こそ上手く思ったんだがなあ…ほらよ銀貨一枚」

「毎度ありwでも今回はほんとギリギリだったな」

「だろ~、よし次こそ絶対に勝ってやる」


そう宣言した男の後ろ、洞窟の真ん中にいきなり青い魔方陣があらわれた。

”ヴォン”

岩盤の上には信じられないほど濃密な文字が描かれた魔方陣が展開している。

”ヴォンヴォン”

ゆっくり回転する青い魔方陣の文字は銀色の光を放つ、。

”ヴォンヴォンヴォン”

次から次に現れる大小様々な魔方陣は見事な積層を構築していく。

ここにきて博打に興じていた一人が慌てて魔方陣の前で両ひざをつき頭を下げると

「へッ?」ッと、意味が分からず突っ立っている三人を怒鳴りつけた。


「ばかやろー‼とっとと頭をさげろ‼これは転移陣だ」

「こんなとんでもない転移陣を使えるのは大魔導士か依頼出来る王族ぐらいだ‼」

「命が欲しければ絶対逆らうな‼顔も上げるな‼」

「「ひ―」」


”ヴォンヴォンヴォンヴォンヴォン”

複雑に絡み合いながら淡く光っていた魔方陣は徐々にその回転を速めると、

一瞬強烈な青銀色に輝いた。

そして何もなかったように跡形もなく消え去った。

そして其処には見たことも無い服装をした男が一人立っていた。

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