街道・補給部隊・冒険者
真夜中に幾分早い時間に洞窟の入り口に立って、漆黒の闇に眼を凝らした。
見渡す限りに灯りは全く見えない。
補給の馬車はこの近くには居ない様だ。
近頃は惚れ込んで買った日本のディープな店にあった旧ドイツ陸軍将校の
制服(リメイク作品)を着用しているが、戻って来たからには其れだけで
は、とてつもなく不十分だ。
俺は異空庫から濡羽色のローブを取り出し、止め金具を使い肩に着けた。
防御に関しては此れで問題ない。
ローブには左胸に一門の証の銀色の竜が、左胸には魔導士の証の杖に絡み
付く双頭の蛇が刺繍してある。
このローブには、無駄な争いを避ける効果もある。
最高位の黒色のローブを、着けた魔導士に喧嘩を売るのは、自殺と同じだ
と荒事に関わる人間なら誰でも知っているからだ。
(実は、背中に師匠が遊びで無理やり入れた、三つ首黄金竜の刺繍がある
んだ。ああそうだよ!びっくりだよ!完全にキングギドラだよ!初めて
見た時、師匠って、ほんとは日本人じゃないかって疑っちまったよ‼)
強靭化と軽量化を施した長靴で時々寄って来る蛇や鼠の小型魔獣を蹴飛ば
したり踏み潰したりしながら、鉱山への取り付け道を、南へ向かって1日半
程、飛ぶ様に歩き続けた。
翌々日の昼頃までに、見通しの良い野営用の空き地が見える高台に到着し
て、そこで睡眠を取った。
沈んだ太陽の残滓が僅かに残る頃、目を覚ました俺は野営地に2台の馬車
を確認した。
野営している人間は、ヨアンの言った通り8人で間違いないようだ。
ゆっくり高台を下りて、野営地に向かって歩いていくと、手前の4人が、
酒盛りをしているのが、わかった。
馬鹿笑いをして、騒いでいるが、そんな事で護衛が務まるのだから、呆れ
た物だが、近づくにつれ、その理屈が分かって来た。
酒盛りしていたのが、グラムの軍服を着た18歳ぐらいの兵士で、未だに俺
に気づかず騒ぎつづけている。
反して、たった今俺に気が付いて、剣を抜き、警戒し始めたのが、冒険者
らしい4人組、年は25歳前後ぐらいか。
恐らく警備や警戒は丸投げだったのだろう。
焚火の炎に照らされ、僅かに姿が見え始めた事と、冒険者が警告した事で、
やっと俺に気づいた4人が誰何してきた。
兵士A「おい、お前、我らに何の用だ?物乞いか?」
兵士B「恵んでやるから、ここで何か芸をしろ、犬のまねでもいいぞw」
兵士C「ギャハハハハハ!そりゃあいいなww」
兵士D「ああ?なんだ結構いいローブ羽織ってんじゃねえか」
兵士A「金も持ってそうだな、お前ここに全部置いていけ」
兵士D「聖戦に対する浄財だ!おとなしく差し出せば命だけは助けてやる」
兵士B「男じゃ犯す事も出来んからなw体は要らねwww」
どんな生き方をすれば、こんな腐ったガキが出来上がるんだ?。
「馬鹿に付き合ってられるか。馬車と馬を置いて帰れ、見逃してやる」
黒色のローブの意味に気づかない阿呆に、使う魔方陣がもったいない。
でも、何でこいつらは知らないんだ?。
兵士A「はあぁぁ、何、寝言いってやがる、殺すぞ‼」
兵士B「おい、冒険者共、逃げられない様に後ろに回れ」
兵士C「何、ボサッとしてやがる!早くしろ!」
兵士D「逃げられちまうだろうが!この役立たず共が!」
はい。4人とも馬鹿確定です。
死亡確率10割とは、良い成績ですね。
「そっちの冒険者たちはどうする?一度試してみるかい?」
あからさまに戦意喪失しているが、一応確認してみる。
バルガ「まさか。確かに俺たちは護衛の任務を受けましたが、ギルドに強
制され仕方なく引き受けたんです。貴方に逆らう気は有りません」
レゴス「好き好んで、こんなやつらの護衛なんかしませんよ!」
ファラ「俺ら、こいつらの為に死ぬなんてまっぴらです!」
シャラ「あ、あにき、グラムの兵士に逆らって大丈夫なのか?」
バルガ「いいかシャラ、黒の魔導士と戦うぐらいなら、ドラゴンと戦った
方がまだ生き残る可能性がある。冒険者の常識だ」
ファラ「逆らうのは、あいつらみたいな馬鹿か自殺志願者だけだ」
シャラ「あわわわわわわわ……」
バルガ「此処だと、とばっちりを食うぞ!もっと下がれ!」
そう、これが普通の反応だ。
兵士A「もういい!役立たず共、お前ら護衛料なしだ!」
兵士B「逃げられる前に早く殺っちまおうぜ」
兵士C「そうだな、そうするか」
兵士D「よっしゃ!おりゃああああああ」
引き抜いた剣を上段から振り下ろして来たが、へっぴり腰だわ、剣速は
遅いわ、こんなんじゃ兎一匹狩れやしない。
どうやって兵士になったんだ、こいつら。
〝キィッン”
俺に振り下ろされた剣はローブに付与している、自動発動型の物理障壁
によって防がれ、途中から真っ二つに折れた。
その拍子に尻餅をついて、動けなくなった兵士の横から3人が同時に切り
かかったが、結果は同じ。
3人共、半分になった剣をもって呆然としている。
「殺意だけは一流だが、剣の品質は二流、腕は三流、頭の中身は番外の
お前らに殺せると思われたのは、とても心外だよ」
兵士A「ま、まて、僕はベノサ男爵家の長男だぞ、不敬罪になるぞ!」
兵士B「そうだ、僕たちの親はみんな貴族なんだ!男爵だぞ!」
兵士C「いっ、いっ、いっ、今なら従士として雇ってやる!」
兵士D「…ゆるさない、ゆるさない、ぜったいに、ころしてやる!」
兵士B「ばっ、馬鹿!余計なこと喋んな!」
兵士D「うるさい!僕に命令すんな!」
「《《風の理::刃》》」
僅かな青銀色の光跡が、尻餅をついた兵士の首を通り過ぎた瞬間、兵士の
頭は自分の膝の上に転がった。
「聞く価値も無い戯言にはうんざりしてるんだ」
兵士A「えっつ、嘘だ、こんな簡単に、嘘だ、嘘だ」
兵士C「うあああああああああああああああああああああああ」
兵士B「たっ、助けてく…」
「《《風の理::刃》》」×3
残った兵士の首も切り落としたら随分静かになった。
シャラ「すげえ……瞬殺だ」
ファラ「俺らが言った事がわかったか」
レゴス「こっちの攻撃は一切通らない、不意打ちも効かない」
ファラ「なのに受ける攻撃は強力無比だ、これで逆らう気になるか?」
シャラ「きっ、肝に銘じるよ」
レゴス「あれでも、たぶん実力の何十分の一だろうよ」
シャラ「ひえぇぇぇぇ」
一塊になってガクブルしている冒険者たちに声をかけた。
「なあ、色々聞きたい事が有るんだが構わないかい?」
バルガ「はい喜んで!なんでも聞いてください!」
「いや、居酒屋じゃないんだから………」
彼らに聞いたのは俺が居ない4年の間に起こった事だ。
概ね、あのヨアンと言った兵士と大差ないが、新しい事もいくつか聞けた。
4年前、グラム聖王国が人種至上の教義を掲げ、周辺諸国に宣戦布告。
最初にメルド商王国連合がアニア自治領の裏切りで滅亡、アニアはランタ
自治領を併合し、ドラム、タナス両自治領はグラム聖王国に併呑された。
その後、聖王国はサイレージ海王国と共謀しドラン王国を滅亡させ、現在
アルギス公国を攻めているが、膠着状態が続いている。
原因は総大将、トラディス公爵が無能だからと言われているが、詳しい事
は知らないらしい。
グラム聖王国は占領した都市や町を全て略奪の対象とし、獣人や亜人達を
全て奴隷としたが、かなりの数がナール大山脈に逃げ暮らしている。
農村と漁村にだけは、保護しているが、あくまで人種だけらしい。
サイレージ海王国は最初、聖王国と共にタス皇国を攻めたが、大敗。
今はアルギス公国の沿岸を好き勝手に略奪して回っているそうだ。
冒険者ギルドはアルギス公国で完全に二分化、独立性を放棄し、聖王国の
下部組織に成り下がった。
後は4年前頃から魔導士を見かけなくなった。
だから直接見た事の無い若い連中の中には魔導士がどんなに危険か知らな
い者も出始めたらしい。
あの馬鹿兵士もそのたぐいらしい。
「だいぶ情勢が理解できた、感謝する」
バルガ「とんでもない、お役に立てて良かったです」
「年上なんだから、そんなに畏まらないでくれ、あともう一つ聞き
たいんだが、何で男爵家の息子がこんな所で物資の輸送なんかし
てるんだ?聞く前につい殺しちゃったんで、わからないんだ」
バルガ「あいつらは、新しく爵位を買った連中の息子たちです」
「爵位を買う?まさか金で爵位が買えるのか?」
バルガ「はい、騎士爵から伯爵まで金で買えます。ちなみにですが騎士爵
は小金貨1枚( 約10万円 )男爵で金貨1枚(100万円)です」
「やっす‼」
バルガ「はい。だのであの連中、元は宿屋の長男とか村長の三男とかです」
「あきれたな」
バルガ「今じゃ男爵なんてそこら中に掃いて捨てる程居ます」
「あいつら、馬鹿だ馬鹿だとは思っていたがここ迄馬鹿だったか…」
この4人の冒険者たちは旧タナス自治領出身でバルガとレゴスが金髪碧眼
の兄弟、ファラとシャラが茶髪碧眼で褐色肌の兄弟だ。
国の保護が無くなり、とにかく安全で少しでも高収入な依頼を探している
時に、ギルドから無理矢理、あのぼんぼん男爵の護衛を受けさせられてし
まったらしい。
受けなければ冒険者証を取り上げると。
「ギルドは何でそこまでしたんだ?」
ファラ「俺ら依頼をよく断ってたからギルドから煙たがられてたんです」
レゴス「兄貴は仲間内じゃあ顔なのに、正面からぶつかるから」
バルガ「あんなクソ依頼なんぞ、誰がうけるか!」
「クソ依頼とは?」
シャラ「獣人狩りです。奴隷が足りないって」
バルガ「昨日轡を並べて戦った友人に、明日はその首に縄を掛けろだと?
そんな事出来るか!」
ファラ「こんな感じでバルガの兄貴がギルドマスターを殴りかけたんです」
「で、今、こんな所でうろうろしてると?」
バルガ「あうぅぅ…」
シャラ「でも、あそこで怒れるから、兄貴は俺らのリーダーなんです」
ファラ「俺らのかわりに兄貴が怒るんですよ。敵はここだってね」
レゴス「いつも矢面に立つんです。俺たち頼ってばっかしで」
どうしてどうして人種だって捨てたもんじゃない。
俺がこれからやる事には、こんな連中が必要なんだ。
「ちょっと提案なんだが、お前たち、俺の依頼を受けないか?」
バルガ「依頼ですか、内容次第です」
「獣人や亜人達の保護」
バルガ「本気ですか?」
「何かおかしいか?」
バルガ「俺らが保護出来る人数なんて、たかが知れてますよ」
「金なら心配しなくていいぞ」
レゴス「金よりも聖王国の連中が問題です。あいつらが集めた獣人や亜人
達を見逃すはずが無い」
「2ヶ月程、逃げるか、隠れてくれたらそれで十分だ」
バルガ「2ヶ月たったら彼らはどうなるんですか?まさか囮ですか?」
「それこそ〝まさか”だよ。それぐらいの時間が有れば俺が前線を
ひっくり返すから、聖王国の連中は奴隷どころじゃ無くなるのさ」
レゴス「はあ?」
「聞こえなかったか?俺が根こそぎひっくり返す」
バルガ「……………わかりました。お引き受けします」
「よし!決まりだな。それと空の馬車は俺が貰うけど、他は自由に
してくれ。あとこれは依頼料だ。金貨で200枚(2億)ぐらいはある」
そう言って異空庫から金貨の入った袋を取り出したが、一番若い男が驚い
ていたが魔導士を見た事が無ければ、仕方ないだろう。
バルガ「金貨200枚って村でも買えそうだ」
「ドラン王国の何処かに隠れ里を作るのもありだな」
バルガ「農耕に向かない山脈の渓谷なら、見つかりにくいし」
レゴス「聖王国の手から逃れた連中もその辺りに居るんじゃないか?」
バルガ「可能性は高いな」
「確かにかなり有効な手だな。その方向で行ってくれ。あとお前達、
パーティー名は?」
バルガ「あ~実は、まだ決めてない」
レゴス「決めてないんじゃ無くて、まともなのを思いつかない、だろ」
バルガ「みんなが反対するからだろ」
「ちなみにだが結成してから何年なんだ?」
バルガ「…結成から7年、シャラが入ってから3年ぐらい、かな」
「それまで何も思いつかなかったと?本気でいってるのか?」
バルガ「面目ない…」
レゴス「そうだ!あんたが名前つけてくれないか?魔導士が付けた名前だと
いったら箔がつくし!」
バルガ「そりゃ名案だ!」
レゴス「頼ます、このままじゃあ引退するまで名無しのままだ」
「呆れたやつだな、は~~~~~っ、ん………じゃあ銀月な」
レゴス「おお~カッコイイ」
「ちなみに今までの候補はどんなだったんだ?」
レゴス「タナスの星とかバルガの仲間達とか4人の冒険者とかですね」
「………センスの欠片もねえな」
バルガ「まったくもって面目ない………」
そうこうしている内にシャラとファラの二人が空荷の馬車に、馬を繋いで
くれた。
今夜は満月、昇り始めた、おそらく地球の5倍は有るだろう銀色に輝く月の
光が降り注いでいる。
これなら馬達も道を見失う事も無いだろう。
「それじゃあこの馬車はもらって行くぞ」
彼らに背を向けて馬車に向かうと御者席に座って馬にムチをいれた。
ゆっくりと動き出した馬車に不具合は感じない。
このまま走らせても問題ないだろう。
「じゃあ依頼は頼んだぞ」
シャラ「はい!任せて下さい!」
バルガ「……………………」
レゴス「……………………」
ファラ「……………………」
【 バルガ 】
馬車が見えなくなって暫くしてからやっと息を吐きだす事が出来た。
生まれから今までで一番驚いたと同時に腰が抜けた。
レゴスとファラも同じように座り込んでいる。
元気なのは何も知らないシャラだけだ。
シャラ「みんなどうしたの!顔、真っ青だよ!」
バルガ「寂寞………………………………」
レゴス「ああ、寂寞だ……………………」
ファラ「三つ首の黄金竜……………………」
バルガ「死んだと思ってた………」
レゴス「聖王国の奴らが処刑しったて発表してたよな、たしか…」
ファラ「まさかこんな所で会うなんて………」
バルガ「とにかくみんな無事でよかった」
シャラ「なあ、何の話をしてんだよ、寂寞ってなんだよ」
レゴス「そうか、お前知らなかったんだよな」
バルガ「今から説明してやるから、良く覚えときな」
それから知っている限りの事をシャラに教えた。
この大陸で無知は直接死に繋がるからだ。
あの4人の若い兵士がいい例だ。
寂寞とは黒の魔導士の第一席、アルセニオス・ファンビューレンの二つ名で
その由来は、彼が操る広範囲殲滅魔法にある。
その魔法を発動した後には、彼以外に生きる物も、風を遮る者も無くなり、
まるで音のしない世界に、彼が只一人立っている状態を見て、タス皇国の
皇子が寂寞(せきばく:ひっそりとして寂しそうに見える事)と、呟いた
事が始まりらしい。
その実力は攻撃魔法に限れば師匠のダミアノスを遥かに凌駕すると言われ、
防御に関しては物理攻撃、魔法攻撃、双方とも着けているローブが全て防
いでしまい、戦場で絶対に敵対したくない相手の筆頭である。
もし戦場で見かけたら、何が何でも兎に角逃げろと兵士は教わるそうだ。
そしてそのローブの背で踊る黄金三頭竜は敵対者には絶望の象徴となった
まさに世界最強の男だ。
4年前、グラム聖王国の獣人差別に抗議したとして処刑されたと聞いていた
が、今、本物が此処にいたのだ。
シャラ「それニセモノってことは無いの?」
レゴス「無い。絶対に無い。」
ファラ「魔導士は魔導士を騙る者を絶対に許さない。たとえ王侯貴族だろ
うと躊躇なく殺される。何処に隠れようと、必ず殺しに現れる」
バルガ「昔、魔導士を騙って女を脅してた貴族の息子が屋敷ごと吹き飛ば
された事があった。息子は死亡、家族は大怪我、使用人まで被害が
出た。周りにまで被害が及ぶんだ、もし偽物を見つけたら、みんな
で、よってたかって袋叩きさ」
シャラ「こええぇ…」
ファラ「それも、よりによって寂寞様騙るなんて、絶対にあり得ねえ」
バルガ「だから間違い無く本物なんだよ」
シャラ「でもさあ、俺らって、その最強魔導士様から依頼を受けた上に
パーティー名まで付けて貰ったんだよな、それってもう俺たち、
その寂寞様の舎弟みたいなもんじゃない?」
バルガ「…そうかな?うん、そうだ、そうだよな!」
レゴス「すげえぇ、そんな冒険者って俺らだけだぞ!」
ファラ「寂寞様専属冒険者!滅茶苦茶かっこいいぞ!」
バルガ「もう冒険者ギルドなんか、無視だ無視!」
レゴス「早く明日からの行動方針を決めようぜ兄貴」
ファラ「寂寞様の期待を裏切るわけにはいかないからな」
シャラ「うおおお、なんか俺、興奮してきた!」
レゴス「あの最強魔導士が前線に出るんだ、間違いなく窮地に立つのは、
聖王国の連中だ」
バルガ「ドラン王国の解放だって夢じゃ無い、これから状況はどんどん変
わっていくんだ、おたおたしてる暇は無いぞ」
「「「了解」」」




