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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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閑話・残された者達+おまけ


【 細野 みゆき***看護師*** 】


ほぼ三年以上治療を続けていた、あの患者さんが今日、退院していった。

救急搬送されて来たのは夜中に近い時刻だったのを覚えている。

最初見た時は、絶対に助からない、そう思ったし、もし助かっても、どう

やって生きて行くのか、ただ傍観していた私は、中島(医師)先生に静かに

怒られた。


「何を勝手に絶望しているのか、医に携わる者が勝手に諦めてどうする」


懸命の救命措置は夜が明け始めるまで続いたが何とか命を繋ぎとめた。

だが予断を許さない状況には変わりはない。

家族や親戚・知人が誰も訪ねて来ない事情も聴いた。

だからなのか、私はこの患者に過度にのめり込んだ。

僅かな変化も見逃すまいと、病室の前を通るたびに様子を伺い、計器を確

認したし、休憩時間は必ず病室に居た。

本来なら、成りたての看護師に、こんな事は許される訳が無く、看護師長

あたりに注意されるのだが、この時は何故か黙認された。

それからも、幾度となく病状は乱高下し、一度は死の寸前まで悪化した。

打てる手が尽きかけた時、急に持ち直したのは、はっきり言って奇跡だ。

そして順調に回復していたある日の夜、それは起こった。


私はこの日、帰宅しようと車に乗り込んだが、エンジンが全くかからない。

当然、機械の事など全く理解できない私は、早々に諦め仮眠室の使用許可

を貰った。

なかなか眠気が来ない私は、彼の様子を見に行ったが、病室のドアを開けた、

まさにその瞬間が、彼が自らの右腕で呼吸器や透析器などの生命維持装置を

外している最中だった。


彼は自分で自分の生命維持装置を外したのだ。


叫びかけた悲鳴をねじ伏せて、バイタルサインの警報で駆け付けた

医師達の治療を手伝った。

すぐに対応した事で事なきを得たが、これはただの幸運でしかない。

体の傷が治っても、同じように心が治る訳じゃない。

頭では判っていたつもりだった。

本当につもりだけだった事を実感した。

この時、なぜ私の行動を黙認したのか、看護師長が教えてくれた。


私はなまじ能力が有る分、自分の側からしか患者さんを見ていない。

それに気が付いて欲しくて、患者さんにのめり込む私を黙認した。と


それからは、規定通りの治療に専念したが、たとえ患者さんが返事が

出来なくても、なにがしかの声を掛けて、その反応に心を向けた。

彼はそれから、驚くほどの回復を見せた。

暫くして、ぎこちなくお礼や挨拶を言われたりと会話をするようなった

がその表情や仕草から心が徐々に前向きになって行くのが嬉しかった。

だが劇的に彼が感情を表し始めたのは、あの友人だと言う同年代と思わし

き外国人の男が見舞いに来てからだ。

彼は本当に嬉しそうに長い事、話をしていたし、まれに笑い声まで聞こえ

て来る程楽しんでいた。

そして、そのアルセニオスと名乗る(どうしても日本人にしか見えない外

国人)男は、とにかく呆れる程金持ちだった。

入院費は勿論、視覚は諦めたが、義足や義指、補聴器や車椅子に至るまで

とにかく最新で最高の物を次から次に用意して、無駄遣いをするなと本人

から怒られたのにはつい、笑ってしまった。


あり得ない回復を見せた彼は今、春には早い日差しを背に病院を後にする。


実は彼の心を独占出来なくて、密かに嫉妬していたのはナイショだし、今

泣きたいのを必死で我慢しているのもナイショだ。

だから私は笑顔で日本から移住するという彼を見送った。


そしてその日、異例中の異例な人事を受け、私は看護主任になった。


【 追記 】

翌日、私の名前を冠した病院宛の寄付があの友人さんから届いたけれども、

何なのよ、五十七億って、それもディナールでもギルダーでも無く円よ円!

事務長ひっくり返ったわよ!馬鹿じゃないの!有難いけど…。



【 菅野夫妻***アルを助けた老夫婦*** 】


暫く前に湖に落っこちて、ずぶ濡れになっていた所を拾った、あの(アル)

が車椅子の友人と一緒に帰国の挨拶にやって来た。

アルはすぐに出発するといったが、家内が話たがっていると、強引に泊ま

らせた。

似た者同士と言うか、この友人も自分は迷惑に為ると遠慮したが、たかが

そんな事で家内のお節介を躱せるわけも無く、今はひな壇よろしく、家内

にあれこれ世話をやかれている。

このアルは本当に不思議な男だ。

十ヶ月近く一緒に居たのに、その心根が正直で優しい事を除けば、それこそ

生まれた国から生活背景、はては教育環境までも、全く想像できなかった。

かなり特殊な見も知らぬ異国、いや異世界と言ったほうがしっくりくる。

確かに、出会いからして説明のつかないことだらけだった。

橋も崖も高い木も無い湖畔でどうやったらあんな大きな水音をたてられる。

なぜ一ヶ月もたたずにあんなに流暢に日本語が喋れる。

飛行機も知らない、船は帆船しかしらない、電車も知らない、最初は車さえ

知らなかった。

試しに、遠回しに異世界を仄めかすと、二人揃って、あからさまに動揺して

いた。

簡単に誘導尋問に引っかかるのを見て、小一時間程アルに人生の先達として

説教した。

そんな事で向うの世界に行ってから大丈夫なのかと。

大丈夫と答えるアルにたった今引っかかったじゃないかと更に三十分。

それからは酒を飲みながら夜更けまで取り留めの無い話をした。

ああ、こんな楽しい酒は久し振りだ。


翌朝、庭先で二人が見えなくなるまで見送った。

「ねえ、お父さん、あの二人…」

「ああ、アルはこの世界の人間じゃ無いと思う」

「そんな事があるの?、あのまま行かせてしまっていいの?」

「あの二人は昨夜、辛そうだったか?」

「いいえ、まるで遠足前の子供みたいにはしゃいでいたわ」

「なら良いじゃないか、異世界だろうと何だろうと笑って送ってやれば」


そう言って笑っている老夫婦の手には、お守りにと渡されたポーションが

二つ握られていた。



 【 山口 直也***九頭龍様*** 】


 {{ すまなかったな、許せ }}


意識が粒子となって転移し始めたとたんに、いきなり声を掛けられた。

途轍もなく巨大な存在感を纏う黄金色の眼がこちらを見ていた。

恐ろしくは無かったが、同時に超越者に対する畏怖を感じた。

それは、自分を含む日本人の魂に刻まれった絶対の契約だと、瞬時に理解

した。

祈りによって神にまで昇華された存在は、畏怖の念を糧に人々を悪しき霊

から守護してきた事も理解した。


《九頭龍様ですよね、許せとは?》

{お主の家族を守ってやれなんだ、すまぬ}

《いえ、私こそ、お社を守れず申し訳ありません》

{しかたあるまい、継承もできぬままでは、声は届かん}

《声、ですか?》

{我らは、現世で力を行使する事は出来ん。だから神託を与えるのじゃ}

《助言みたいな物ですか?》 

{その様な物じゃ、誰それが危険だとか、今年は冷夏になるとかじゃな}

《では、伝承や伝説はどこから》

{あれは我らが与えた神託と言う作り話じゃ}

《なぜ作り話を?》

{お主達の系譜を守る為、祟り神などの話を作らせたのじゃ}

《守るための伝承を作らせる…》

{現に今までは誰も手をださなんだ。あの者達が来るまではな}

《ゴミ共ですか》

{迂闊じゃった、まさか本気で手を出すとは思わなんだ、それも

 二人共などと、おかげで神官継承も出来なんだ}

《神官継承が出来なかったから、九頭龍様の言葉が聞こえなかったと》

{そうじゃ、お主の祖父や父親は本物の神託神官じゃったからの}

《神託神官……》

{お主の家系はちと特殊でな、他の神からの声も聴く事が出来る}

《では、もう誰も神託が受けられないのですか》

{心配要らん。九州の1社、東北の1社は健在じゃ}

《元々は3社あったのか》

{いずれ、あの地には新しい社を建て、2家の血を引き込む予定じゃ}

《元の3社に戻す。そうするにばあの家族と工場は邪魔になると》

{そうじゃ、長い事、打つ手を探していた時に、たまたま飛ばされていた

 あの男を見つけて、慌てて呼び込んだのじゃ}

《ええっ、アルは九頭龍様が?》

{あれ程の力を持った者は見たことが無かった。まさしく幸運じゃった」

{それに、あのままじゃと、着くのは月の裏側じゃったしな}

《…間違いなく死にますね》

{じゃが転移後は手が出せぬ、お主に巡り会うかは賭けじゃった}

《でも勝ちましたよ、賭けに》

{ああ大勝じゃ、予想以上にとんでもない男じゃったわ、あれは}

《アルは何でも遠慮なく、根こそぎ吹き飛ばしますからね》

{町は息も絶え絶えの状態になっておるが自業自得じゃ}

《でもこれで障害物は何ひとつ残ってませんね》

{ああ、助かった}

《お気になさらずに、私も心置き無く旅立てますから》

{そうじゃな、あらためてすまんかった。向うでも達者でな}

《はい。九頭龍様もお元気で》



【おまけ】


日本の排他的経済水域のやや外側の海中

   某C国の潜水艦

「艦長!我が艦は未知の攻撃を受けています!」

「前方に巨大沈下物!右舷にも感あり!このままでは、避けきれません!」

「艦長!指示を!艦長!」

「嫌だ嫌だ嫌だ、誰か助けてよお!」

「クソっ、取り舵いっぱい!急速浮上!戦闘準備!」

「正面沈下物、接触します!」

「衝撃に備えろ!」


ゴン、ゴガゴガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ


「ひいい!沈む沈む沈む沈む!」

「副長!、前部魚雷室に浸水」

「総員退避、防水壁閉め!」

「更に感あり!前方に3!左舷に1!」

「面舵いっぱい!最大船速!」

「なおも上方に感あり!数、数は10以上!」

「嫌だ―、死にたく無い、死にたく無い、死にたく無い」

「うるさい!誰かこの艦長モドキを営倉にぶち込んでこい!」

「巨大沈下物!艦尾操舵に接触します!」


ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ


「ぎゃああああああああああああああ!」

  「「「「「うるせえ!」」」」」


その後、なんとか浮上した潜水艦乗務員は海上を全速航行するマグロ漁船

の最後尾で巨大な岩を不法投棄する男を見たとか見なかったとか……。

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